せんせえ、王さまって何ですか? その一




今、2chでマルチェロとククールはそれぞれどっち似かという話題で盛り上がっていました。
もしかしたら、うちの兄が自分をイケメン認識していないのは、彼が父親似だからかもと、ふと思いました。













トロデ王は、ぜいぜいと息をつきました。
さすがにマルチェロはもう茶を入れてはくれなかったので、ゼシカがお茶を継ぎ足してあげましたが、すごい勢いで出がらしでした。
もっとも、入れたゼシカも入れられたトロデ王も、そんな事を気にする精神状態にはありませんでしたが。



「ワシが見た目でどんだけ悩もうが、ワシはトロデーンの王じゃし、ワシの代わりに王になってくれる者もおらんのじゃ。悩んでいても仕方なかろう?じゃから、ワシは王として…」










「王とはなんだ、トロデ王。」
ククールが危惧しまくった台詞がついにマルチェロの口から発されましたが、それは予想したような糾弾口調ではありませんでした。






「王家に生まれ、王になるべくして王となった貴方にとって、王とはなんだ?」




トロデ王は、ちょっと小首を傾げましたが、ハッキリとした口調で返答しました。
「ワシの運命にして アンデンティティー じゃよ。」


そして、ちょっと虚空を見つめて何かを思い返すようにしてから、言葉を続けました。




「ぶっちゃけ、ワシは生まれつき王になるという以外の選択肢はなかったからのう。これは運命というしかなかろう。そーゆーモンじゃとおもっとった。逆に言えば、 “トロデーン国王”という以外のワシも有得なかったのじゃ。じゃからワシは、城に封印されとった杖をドルマゲスから守ろうとしたし、守りきれんかったのはワシの責任じゃと思ったし、ドルマゲスを倒して城の皆を救うべく旅にも出たのじゃ。 王が、民のために働くのは当然じゃろう?そのために、民は王に仕えてくれておるんじゃからの。」




「…オレ、家臣扱いされてたけど、トロデ王に働いてもらった記憶ねーんだけど。」
「あたしもよ、そういえば。」





兄は、トロデ王と視線を合わせました。

「トロデ王、民の為の王 と、貴方は言う。だとしたら…サザンビークとの婚姻を破談にしたのは、どういう了見からだ? 王家と王家の婚姻を、式当日に破談にするなど、 王として、正気の沙汰とも思えんがな。」





ゼシカとククールは、アンタがゆーかね、“法王さま”っ!? と、心の中でツッコミました。






トロデ王は、やはりハッキリと答えました。

「ワシは王であると同時に、父親でもある!娘をみすみす不幸には出来んわい!!」


「だが王ならば…民の為に存在するならば、婚姻を破談にした結果、両国の戦争にまでなる可能性を考えなかったのかな? 王ならば、私情より民を優先させるべきではないのか?」

「…マルチェロよ、ワシは人の親としてこれだけは自信を持って言えるぞい。 わが子の幸せも願えん王に、民の幸せなんぞ願えんわい!!」

トロデ王は語ります。



「人はそうそう壮大な愛など持てんわい、女神さまじゃないんじゃから。 自分が好きで、自分の家族が好きで、自分の町が好きで、自分の国が好きで、 そして、自分の住む世界が好きで …そうやって愛情範囲を広げていくのじゃ。じゃがの、ワシはあの結婚式のとき…悩んだよ。トロデーンのために、 あのチャゴスめに ミーティアを嫁にやるべきかと…悩んで、悩んで、悩んで…そうして結論を出したんじゃ。」



「娘を国民よりも優先させた訳ですな。なんとも素晴らしい国王なことで。」
兄は冷たく言い放ちますが、ゼシカが口を挟みました。





「なによ!?結局、サザンビークと戦争にはならなかったじゃない!?」

「結果論に過ぎん。」


「違うわよ!!あたし知ってる、あの後、トロデ王が戦争にならないように一生懸命かけずり回ってたって。そう、トロデ王はあの後、トロデーンのみんなが戦争に巻き込まれないように、 一生懸命、クラウビウス王を恐喝してたんだから!!」

「…恐喝?」








ええ、確かにそうでした。
あのEDの場面で、確かにアルゴンハートを前に 父親としては 息子を叱り付けていたクラウビウス王ですが、 国王としては やはり、国のメンツ というものがありますので、戦争でもしかけてやろうかなー と思っていたのでした。


ですからトロデ王はあの後、 いち冒険者として知りえた、国家機密 (次期国王資格試験にチャゴスがズルをしたという事)をネタに

軍を出したら、この事を全世界にバラしてチャゴスが跡を継げなくしちゃうからね?

と、優しくクラウビウス王を 説得 したのでした。



勿論、 良き父親であり国王 のクラウビウス王が、出兵を思いとどまったのは、言うまでもありません。










微妙に不審気な顔になったマルチェロに、トロデ王はわざとらしく咳をしてから続けました。

「んー(コホン)…ま、娘の幸せの為に、不利益を忍ぶのは、父親として当然のことじゃわい。 それに、国民の安全の為に奔走するのも、国王としての務めじゃわい。」


「…それが恐喝か。」
兄がぼそっと呟きましたが、トロデ王は聞かなかったことにしました。









「ま、ともかくのう。 結果オーライじゃ。結果、ミーティアはエイタスと幸せに新婚しとるし、トロデーンも平和じゃ。 父親として、国王として、ワシは激しく幸せじゃ。 背が低くても、イケメンでなくても、ワシはとっても幸せじゃっ!!」




微妙に話を引きずっているトロデ王です。




「…」
マルチェロは、何も言いません。
トロデ王は、今度はマルチェロに問いました。







「マルチェロよ、それではワシも問おう。 おぬしにとって、王とはなんじゃ!? 法王にまでなったからには、なんぞ目的があったのじゃろう?王とはなんじゃ? おぬしは王になって、何をしたかったのじゃ? 私情より、民を優先させるべき。おぬしはそう言った。立派な心がけじゃ。ワシには出来んかったよ。じゃあ、おぬしはどうじゃ?おぬしは、頭もいいし、剣の腕も立つ。有り得んくらいの体力と精神力もあれば、 カオまでいい!!


「トロデ王、話引きずりすぎ。」



トロデ王は、ククールをちらっと見てから、マルチェロに言いました。





「おぬしはそれで、誰を幸せに出来た!?」




そして、ククールの顔がなんとも複雑になるのを確かめてから、もう一度叫びました。




「王になって、誰を幸せに出来たのじゃっ!?」








激しい大音量でした。















こんこん
「…どうぞ…」

かちゃ
「なんの騒ぎですか?陛…でなく、トロデさま。」
アローザ奥様でした。









「…」
「…」
「…」
三人が三人とも黙り込む中、トロデ王は一人、悠々とクッキーを食べると奥様に言いました。


「いやあ、少々昔話で盛り上がりすぎてしまってのう…奥方のお休みを邪魔して申しわけない。」




「いえ、でも…」
奥様は、激しく沈鬱な顔で黙り込むマルチェロに視線をやって、ますます困惑した表情になりました。




「うむ…星が綺麗な夜じゃのう、ゼシカ、ククール。」
トロデ王はわざとらしく窓の外を見ると、

「星でも見に、ちょいと外へ出んか?」






「うん…」
「あ…ああ…」
二人は、その言葉に従いました。




2006/8/30






トロデ王、語りすぎ(笑)




せんせえ、王さまって何ですか? その二へ

アローザと元法王さま 一覧へ








inserted by FC2 system