せんせえ、王さまって何ですか? その二




ホント、兄って法王になって何がしたかったんだろうね?
綺麗なおねーちゃんを侍らせて、宴会三昧…ではないとは思いますが。













お星さまは、本当にきれいです。




ククールは、星明りに照らされて、 いっそ神々しくさえ見える トロデ王に言いました。


「トロデ王…兄貴を あの兄貴をっ!! 論破しちまうなんて、あんたスゲエよ、本気ですげえって。オレ、これから リスペクトするキングは? って聞かれたら、ためらわずに キング・トロデっス!! って答えるよ!!」


「カッカッカ…つか、今までリスペクトしとらんかったんかいっ!?」
一応、お約束のツッコミをいれてから、トロデ王はしみじみと言いました。



「いや、あのゴルドでの演説を遠くから聞いてのう、いつか言ってやりたいなと思っておった事なんじゃよ、アレは。」

「じゃあね、トロデ王は、王さまとしての夢ってなんだと思うの?」


「…」
トロデ王は、ゼシカを見上げて言いました。


「…陳腐だと笑わんか?」

「笑わないわよ。」

「いい年こいてと、笑わないと誓うか?」
「誓うったら!!女神さまにかけて、あたし、絶対笑わない!!」



トロデ王は、息を吸い込みました。
「人が、誰かを愛し、未来を信じられる国を作ることじゃっ!!」



そして、 とてもキュートな照れ顔 で、もう一度ゼシカを見上げました。



「四十過ぎのオッサンの夢として、キツいと思うか?」

ゼシカは、にっこりと笑いました。

「ううん、すごくステキな夢だと思うわ。」





トロデ王は、照れながらも続けます。

「でもな、奇麗事でもな、ワシはやっぱり、こう願わない者は王たる資格はないと思うんじゃよ…そりゃ、世の中、奇麗事ばっかではないが、王として理想は持たねばの。」


「だからー、ステキな夢だってばぁー」

「…誰かを愛する事を知れば、その人の幸せを願うじゃろう。じゃから、なんぞ悪いことをしようとした時に歯止めになるじゃろう。」

「…」
ククールは、黙って話を聞きます。


「未来に希望が持てれば、そうそう破滅的な事をするまい。人が人の道を踏み外すのは、未来に絶望した時じゃからの。」



「もういいって、トロデ王。分かってるよ、兄貴がずっと孤独でいた事も、オディロ院長の事や、法王庁のあれやこれやで、いろいろ絶望してあんな事しでかした事も分かってるよ。…でさ、ぶっちゃけた話…トロデ王は兄貴をどう判断したワケ?やっぱ捕まえる?」


「…そうじゃ、と言ったら、おぬしはどうする?」




「戦うよ、あんたとも、エイタスとも…」

「ククール…」

「だってオレは兄貴に死んでほしくないから。だから、ゴルドで命を助けたんだ。兄貴は今は… そりゃ今でも電波な悪人だけど!! 特に悪い事はしてねえよ!」



ポルトリンクでのあれやこれやは、ククール的にはちいとも悪事ではありません。




「うーむ、でも認識は“悪人”なんじゃろ?じゃったら、また悪事を始めたらどうする気じゃ?」



オレは兄貴に言ったよ。

『何度でも止めてやる』

って。だから…兄貴がまた悪事を再開するってんなら…」


ククールは、静かに言いました。

「オレが殺す。」












ふう
トロデ王はため息をつきました。


「ククールよ、おぬし本気で兄が大好きなんじゃのう。」




「…二人っきりの兄弟だもんな。…そりゃあさ、オレ、ゼシカと幸せな家庭を築きたいと思ってるし、そしたら家族も増えるだろうけど、それでも、 “兄弟”っていう家族は、やっぱ兄貴しかいねえんだよ。」



ククールは、嘆願するような目になりました。
「なあ、トロデ王。兄貴を捕まえないでくれよ。兄貴は頭もいいし、剣の腕も立つし、気力も体力も激しく充実してるし、掃除洗濯料理とぜんぶ上手だし…ともかくなんでも出来る人だから、いろいろ世の中に貢献出来る人だよ。そりゃちょっと、 イヤミで天ボケで電波で 極悪人だけど!! それはもう いっそ兄貴のチャームポイント みたいなもんだから…」



想いが言葉の限界を超えて、何言ってんだか分からなくなっているククールを、トロデ王は優しく見つめました。






「ククールよ、兄好きもたいがいにしないと、ゼシカが泣くぞ?のう、ゼシカよ。」

ゼシカはにっこり笑って言いました。
「大丈夫♪泣くくらいなら、 燃やすから。」

そして彼女は、にっこり笑顔のまま メラゾーマを出して 見せました。

月明かりの中、更にメラゾーマの輝きにも照らされたその姿は、 ククールの心胆を寒からしめるに充分 でした。




「…だってさ、仕方ねーじゃん。オレ、兄貴もゼシカもおんなしくらい好きなんだもん…」




ぶちぶち言うククールを尻目に、ゼシカはトロデ王に言いました。




「でも、あたしからもお願いするわ。あのどこでもイヤミを捕まえないで。あいつは、ウチの恩人でもあるし、なによりあいつが死んだら、ククールが悲しむわ。」

「ゼシカ…」

「あたし、『兄貴が死んだ、兄貴が死んだ』って、ブツブツ一生呟き続ける生物 を夫にする気ないから。」

トロデ王は、確かにそうなりそうじゃのう、と激しく思いました。




「うーむ、まあ良かろう。マルチェロはワシにあんまり反論してこんかった。おそらく、ゴルド前のあやつなら 十日十晩でもワシと激論を戦わせた じゃろう…」

「そういやそうだな。兄貴、ムキになる人だから。」

「きっと、心中いろいろと思うところがあるのじゃろう。一つにはそれが 悔恨の念 じゃと信じて、そして二つには おぬしらのあやつへの思いやりがあやつの心を溶かす 事を信じて…ワシもマルチェロがもう悪事を為さんと信じよう。」





「トロデ王ー!!」×2

トロデ王は、ククールとゼシカの二人に抱きつかれ、 ゼシカの乳でうっかり窒息 しそうになるという、嬉しいんだか苦しいんだかよく分からない目に遭いました。





「うう…ゲホゲホ… ある意味オトコして本懐かもしれん死に方 をするトコじゃった…」

「ゴメン…」

「がしかし、もうすぐおじいちゃんになる身で、この死に方はごめんじゃわい。」

「ホントごめんなさい…ね、トロデ王?さっき、五十一人連続でフラれたって言ってたけどね…ミーティアのお母さんとは…」



トロデ王の顔が、みるみる赤くなりました。
ええ、 中学生の女の子が好きな人について聞かれた ような赤面っぷりです。



「えへへ…ま、それはいいではないか。」

「えー!?聞きたい聞きたいー!!」

「恥ずかしいわい!」

「教えて教えてー!!」




ゼシカに激しくせがまれて、トロデ王は『仕方ないのう』…といいながらも、とっても嬉しそうに、ミーティアの母親、つまり亡くなった彼の最愛の妻について語りました。
そして、最後に付け加えました。





「ま、そりゃワシは五十一人連続でフラれたりとか、そもそも女性にはモテんかったとか、もっとおっとこまえに生まれたかったとか、いろいろあったがの…

『あなたが、大好きよ♪』

と彼女が言ってくれたから、もうそれでええんじゃ。彼女が好きになってくれた、それでもうどうでも良くなったんじゃ。 ワシは愛されておる!! それがワシの国王としての自信にもなったんじゃ。 恋じゃ恋!!恋はええぞうっ!!」




いろいろ思い出したのか、星明かりの下、くるくると 誘う踊り を踊り始めたトロデ王と、誘われて踊ってしまったゼシカを尻目に、ククールは




そっか、恋か… 兄貴も恋をすりゃ、少しはニンゲンらしくなるかもな…

と思っていました。


ええ
なんせ彼の知っている限りにおいて、兄は三十過ぎた今まで 女性と付き合った経験は皆無 なハズです。




でも
と、ククールは思いました。


兄貴と恋














サイッキョーに似合わねー!!!!




2006/8/31






国家論(笑)
国家の目的はなにか?まあ、「人が未来に絶望しないようにすること」でしょう。人は「この先、なんかいい事がある」と思えるうちは、そうそう破滅的な事はしでかさないものだと思います。 DQ世界では国家に王は必須みたいですが、その目的に合いさえすれば、王なんて…と、兄だけでなくみんなが思うようになったら、DQ世界は根底から変るんでしょうね。ただ、それが理想的な国家かどうかは、現代世界を見る限りは微妙なモンですが。
もし出来ることなら、兄をこの世界に連れてきて、「生まれではなく、金が全てを支配する世界」についての感想を聞いてみたいものです。
このシリーズはホモではないつもりですが、ククールの兄好きはちょっとヤバいかもと思わないでもないです。まあ、童貞聖者シリーズやアホモにくらべりゃ何百倍もマシですが。
…ようやく、恋愛っぽくなる…かな?




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