年末の奥様とマルチェロとあとお子さまがもう一人
元拍手話。
IFもしも…
ナニがIFなんでしょうね?
「まあっ!!」
奥様は珍しく、レイディに少々相応しくないとも言えないお声をお出しになりました。
「いかがなされた、マダム。」
マルチェロの問いに、マダムは年賀はがきの、わりと分厚い束をお出しになりながら、おっしゃいました。
「年賀状…これだけ、出し忘れておりましたわ。」
その瞬間、マルチェロの眉間が
きゅっ
と不快気に歪められました。
「…マダムらしからぬ御失策だ。」
彼の弟のククールがやらかしたことなら、即座に灰と化さしめるようなことでしたが、マルチェロの口調は穏やかでした。
ですが、言葉の裏に隠された厭味は、やっぱり隠しようもありません。
「ああ、里の方で去年喪中でしたものですから…」
そういうことはよくありますが、マダムらしからぬ言い訳です。
「そのようなお言葉も、やはり貴女らしくない。年賀状は25日までに出さねばならぬもの。今から間に合うとお思いかね?」
やっぱり厭味のにじみ出る口調に、さすがのマダムも
ムッ
となさったようでした。
「確かにわたくしの不手際ですけれども、そのような仰られ方は心外ですわ、マルチェロさま。そもそも、最初にチェックされた時に、マルチェロさまが仰って下されば…」
「ほう、私の失策だと仰るか?こちらこそ、心外ですな。」
とまあ、世の常の夫婦なら何年かに一度はしているような会話を、小さいけれど利発な瞳が見守っていました。
「…というわけで、いそいで出さなきゃならないから、グテイお兄さん、ねんがじょうのイラスト描いてください。」
小さなレイディの、依頼状持参の申し出に、ククールはちょっとした苦笑を浮かべて言いました。
「いや、絵描きは好きだからいいんだけどさ…兄貴も、そしてアローザ奥様も、相変わらずだなあ…」
ククールの言葉に、小さなレイディは不思議そうに問います。
「どうしてですか?」
「いやさ、いつまで
『マダム』
『マルチェロさま』
って呼び合ってるんだか…しかもバリ敬語だし。」
「なにかおかしいですか、グテイお兄さん?」
小さなレイディは更に不思議そうに問います。
「いやね、フツーは世の常の“夫婦”は、もっと名前とかでフランクかつカジュアルに接するもので…しかも、君みたいに、もう可愛い小さなレイディな子までいるのに…」
小さなレイディは、更に不思議そうな顔をしたので、ククールはそれ以上言いませんでした。
「オッケー。小さいとはいえ、レイディの頼みは断らない。ダッシュで描くから待っててくれ。兄貴が宛名を書くなら、マジ一瞬で終わるだろ。だからさ…」
「なんですか、グテイお兄さん。」
「その“グテイお兄さん”つーのはやめてくんない?」
「どうしてですか?グテイお兄さんは、ゼシカおねえさまのだんなさまだから、お兄さんですよ?」
「いや、ソッチはいいんだ。父方で言ったら叔父さんになるけど、オレまだぴっちぴっちの美青年だから。そうじゃなくて、“グテイ”の方。オレの名は“ククール”であって…」
「でも、お父さまはいつも“グテイ”と言っていますよ。それに、このいらいのお手紙にも、ちゃんとあてなに“愚弟”って…」
「…」
小さなレイディが差し出した、年賀状イラストの依頼状には確かに、ぞんざいで尊大きわまる文面の冒頭に、
愚弟へ
と書いてありましたと、さ。
終わり
2009/1/1
本当に年末の数日だけ置いていた小物。
こんなケンカが出来るのも、二人の仲がこなれてきた証拠です。
…本編では、いつこうなれるのかまったく、先行き不透明ですけれどね。
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