若紫計画未遂事件

母の日記念話。
「え?母の日って 五月の第二日曜日では?」 とか、 無粋なツッコミ禁止









前略、ゼシカは母の日に何をプレゼントしようか悩んでいました。

「なんだかんだ言ってお母さん、割と何でも持ってるしな。かといって今さら

「かたたたきけんあげるー」

って年でもないし。手作りで何かあげるにしても、あたし不器用だしなー。」


なーんてぶつぶつ言っていると、彼女のフィアンセが戻ってきました。

見た目だけ は世界一素晴らしい、ククールです。




「ただいま、ゼシカ。なあゼシカ、面白いモンもらってきたぜ?」

戻るなりククールは、 かなり大きめな砂時計 を取り出しました。




「あ、なつかしー。ソレって 特!!時の砂 じゃない?」




彼女たちがドルマゲスを追って旅をしている途中、ひょんなことから手に入れたのが、この 特!!時の砂 でした。なんでも。ほんの一瞬だけ時を戻せる本家時の砂よりさらに強力で、 更に大きく時を戻せる効果 があるという、ある意味、 多くの女性にとっては垂涎の的 のシロモノです。







もっとも、旅の途中ではそんなもの特に何の役にもたちませんでしたし、何よりゼシカはぴっちぴちの十代です。

で、なんとなくふくろのこやしになっていたのですが、先ごろ、パーティーのリーダーであるエイタスが


「いい機会だから、みんなで分けておこうか。」

と言ってトロデーン城でふくろの中のアイテムを山分けした際に、ククールがもらってきたのです。






「そうだわっ!!」

ゼシカは叫びました。



「ねえククールは、コレをお母さんへの母の日のプレゼントにしましょうよ。お母さん、マルチェロより年上なコトいっつも気にしてるもの。 コレでマルチェロより若返らせてあげたらきっと、すごく喜ぶわ。」


「さすがゼシカ、ソレってすげーいいアイディアじゃん。」




ククールはともかく、 ゼシカにしてはケーハクな思いつき でした。






時というものは、人が軽々しく扱ってはならぬもの




古の賢者も、そう警告しているのに、ねえ…



















四の五の説明するときっと奥様は拒絶されると思った二人は、 サプライズ母の日びっくりイベント にすることにしました。


何も言わずにアローザ奥様を迎え入れて、いきなりドーンといくつもりなのです。





「まあまあ、いきなりわたくしに何のご用事なのです?」

とはおっしゃいながらも、何せ 母の日 なので、だいたいの見当がおつきな奥様が、いつもよりちょっとおめかしして部屋にお入りになった瞬間でした。






「お母さーんっ!!母の日おめでとー。そして、いつもありがとーっ!!」

そして、ククールが勢いよく、 特!!時の砂 をひっくり返しました。

















もくもくもくもく




















きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

すさまじい絶叫が、アルバート邸どころか、リーザス村全てに響き渡りました。



























「一体、何事だ、騒々しいっ!!」

マルチェロが部屋に怒鳴り込むと、驚愕の表情の愚弟及び、その婚約者と、




「まあ、わたくしではありませんわ。」

妙に生真面目に落ち着きはらった表情の赤毛のかわいらしい少女(五歳程度) が部屋にいました。




「…マドモワゼル、失礼ながら当邸にお越しとは存じなかった。失敬。」

マルチェロが、おそらくは彼だって驚きながらもそう言うと、小さな少女も礼儀正しく、そして優雅に返答なさいました。



「まあこちらこそ。わたくしも急にここに来ることになっていて、とてもおどろきました。いったい、ここはどこなのでしょう?そして、しつれいですけれど、あなたのお名前は?」


マルチェロは、彼女の顔にとても見覚えがある気がしたのでしょう。まだ硬直するゼシカの顔を見た上で、それでも礼儀としては完璧な仕方で、言いました。



「これは失礼、いくらお小さいとはいえ、レイディに問われるまで、名も名乗らないとは。私はアンジェロと申します。」

マルチェロが礼儀正しく、リーザス村での偽名を名乗ると、少女も


にこ

と、 礼儀正しくも可愛らしく微笑んで おっしゃいました。



「わたくし、アローザともうしますの。」

































「まったく、思慮が浅いにも程があるっ!!!」

めらめらと燃える異母弟の横で マルチェロは苦々しげにいいました。



「だって…まさかこんなコトになるとは思わなかったんだもの。せいぜい若返っても、10かそこらだと思って…」






ご想像の通り、あの小さな少女は 若返りすぎたアローザ奥様 でした。




肉体が若返ったと同時に、記憶まで五歳当時までお戻りになってしまったらしい奥様は、若返りのショックなのか魔法の作用なのかはわかりませんが、とりあえず


親戚のうちに一人で遊びにきた という認識のようです。




まあ、誘拐うんぬんと大騒ぎされるより、はるかに無難な展開というべきでしょう。







「戻す方法はないのかしら。」

自分で事態を引き起こしておきながら、ゼシカは問います。


「こんな事態、聞いたこともないっ!!」

修道院中の本をすべて暗記していると評判だった マルチェロが苦々しげに返します。



「…」

珍しく、返す言葉もないゼシカでありました。









さて、とりあえず村の人達には、 あの少女はアルバート家の遠い親戚で、急に遊びに来ることになった、ちなみに奥様は風邪をこじらせてお休みになっている ということにして、小さなアローザ奥様との生活が始まりました。




「アンジェロさま、あのお花はとてもきれいですわね。」

「御取りしましょうか、マドモワゼル。」

マルチェロの言葉に、小さな奥様はかぶりをふられます。


「いいえ、せっかくきれいに咲いているお花をとっては、かわいそうですわ。」

「マドモワゼルは、御心優しいですな。」




ちなみに、小さな奥様はマルチェロがすっかり気に入ったらしく、マルチェロは仕事そっちのけでチビ奥様のエスコートを勤めることになってしまいました。

まあ、おからだが相当お小さい以外は、会話はそんなに変わりませんが。




「あのね、アンジェロさま。わたくしがもっと大きくなったらおよめに行くはずの村も、こんな風にきれいなところなのですって。」

「そうですか…」


ここがその“お嫁に行くはずの村”なのですが

とは、さすがにマルチェロも言いませんでした。


そして、聡明でいらっしゃるとはいえ、五歳児の奥様も、さすがにそこらへんは気付かないようです。




「こんな風にきれいなところにおすまいの方でしたら、わたくしのおっとになられる方も、きっとすてきな方ですわよね?」

精一杯、上を向いて真剣にお問いになる奥様に、マルチェロも 優しく微笑んで 返します。




「ええ、もちろんでしょう、マドモワゼル。 貴女のように可愛らしい方が嫁がれる方 なのですから。」


さすがマルチェロ、 相手が五歳児でも情け容赦のないカリスマっぷり です。



チビ奥様は、 五歳児の「怖いもの知らず」の特権 を生かし、 超・可愛らしい笑顔 でこう返されます。



「その方がアンジェロさまみたいにすてきな方なら、ほんとうにうれしいですわ。」




互いに見つめあう二人



これが妙齢の男女なら、 即キスシチュ なのですが、生憎と奥様は小さいとはいえレイディでしたし、 マルチェロはロリコンでもなんでもない ので、何も起こりませんでした。














「はー…ホントこのまま、お母さん、元に戻らないのかしら。」

溜息をついて、ゼシカは言いました。



「ま、戻らなかったとしても、それはソレでいいんじゃねー?別に死んだワケじゃなし。生きてる限りいつか元の年になるさ。」

アホみたいにポジティブシンキング なククール。



「だってねククール。お母さんを“子育て”していかなきゃなんないのよ?」

「だーいじょうぶだって、兄貴がいるもん。それに地がいいから、立派なレイディになるさ。」

「そりゃそーだろうけどさ、その後はどうするのよ?」

「その後?カンタンカンタン、 兄貴のお嫁さん にすりゃいいんだよ。」

「はあ?」

「だってさ、事情は知ってるし、チビ奥様だってなついてるじゃん。そりゃ今は五歳児と三十男だけど、 あと十年だったら、十五の美少女と四十のナイスミドル だぜ? ある意味萌えるシチュじゃねー」

「アンタねえ…」

ゼシカはあきれましたが、ククールは本気のようでした。



「自分の手で育てた 理想の女 だぜ?…父親とも兄とも慕う、 バリいい男 が、ある日、 男に変身 する…

『やめて、何をなさるの、アンジェロさま!?』

涙を浮かべて拒む15歳の美少女なチビ奥様に、兄貴は優しい、 でも有無を言わせぬ手で抱きすくめ て、言うんだ。

『人はいつまでも子供ではいられないのだよ、マドモワゼル…』

ベッドに押し伏されて、涙目になるチビ奥さまに、兄貴は KISS しながら言うんだっ!!

『私が貴女を大人にしてあげるよ、アローザ…』












正義の十字が、邪悪を切り裂きました。














「まったく、人をケダモノのように…」

マルチェロは言いますが、ゼシカは心配顔のまま言います。


「でもねマルチェロ、自分のせいなのはわかってるけど、お母さんの将来は本気で心配なのよ。ほら、お母さんって 良家の奥様 以外の職業があり得ない人でしょ?でも、もしこのまま大きくなったら…」


「私が何とかするっ!!」

妙に力いっぱい、マルチェロは断言しました。




「それって…」

ゼシカは問い返しましたが、マルチェロはそれ以上、何も言いませんでした。




「…それだったらあたし、10年後にアンタのコト、

『お父さん』

って呼んでもいいわ。」


「痴れ事を…」

マルチェロは返しましたが、 なんだかちょっと照れたような口調 でした。





ゼシカはなんだか希望がでてきたような気がして、 十字にブチ抜かれた壁 から、美しい夜空を見上げました。


























「おはようございます、良いお天気ですわね、マルチェロさま。」

「…」


何の前フリもなく 翌日、起きてこられた奥様は、 いつもの奥様にお戻り でした。




「まあマルチェロさま、そんなにまじまじと見つめられては困りますわ。わたくしの顔に何かついていますか?」

「いえ…その、長い間寝込まれていたのに、御元気そうで何よりです、マダム。」

「あら、わたくし、そんなに長い間寝付いていましたのね。でも本当に、長い長い夢を見ていたような気がしますわ。」

「…そうですか。」




奥様はもちろん、 どうしてマルチェロがこんなに微妙な表情をしているか なんてご存じありません。



「なんだか、病み上がりなのに非常に食欲がわきましたわ。」

妙に元気な奥様に


「朝食が出来上がっております。」

マルチェロは、いつものようにそう言いました。











もちろん、みんな驚きましたが、 なにせ百戦錬磨の一同 です。すぐに慣れました(そして、屋敷の人たちは純朴なので、マルチェロの理論整然としたつじつま合わせに、一瞬で納得してくれました。)








食事が終わり、いつものように執務室に戻るマルチェロを見送り、思い出したように奥様はゼシカにおっしゃいました。




「そうそう、長い長い夢を見ている間に思い出したことがあります。」

「なに、お母さん?」

「わたくしが昔…そう、あれは5歳くらいの時分だったでしょうか…一人で遠くの親戚の家に遊びに行った時がありました。」

「…」


「そのお屋敷に、 とてもステキな方 がいらしましてね、今から思うとわたくし、 その方に初恋をしていた にかもしれません。ええ、30くらいだったでしょうか… なんだかマルチェロさまにとてもよく似ていらした気 が、今思い出すとしたのです…ふふ、おかしいですね。」



お母さん、ソレって似てるんじゃなくて、マルチェロ当人

と、母に告げるべきか、または母には告げずに、




マルチェロ、お母さんの初恋の人はアンタよ

と告げるべきか、または…









「ま、お母さんには結果的に ステキな思い出 はプレゼントは出来たわけよね。」

「え、何か言いましたか、ゼシカ?」

「ううん、別に。」




ゼシカは、すべてを自分の胸の中にしまいこんでおくことにしました。




終わり




2008/5/25




母の日から遅れすぎた一品。
マルチェロもだんだん、積極的になってきている気がしますが、コレは番外編です。本編とは多分、カンケーないというトコロでヨロシク。

途中に挿入しました 悶絶寸前の可愛らしいツインテールの淑女 は、メノさまから頂いた5さいのアローザ奥様です。
…まさに小さなレイディ!!

見た瞬間、思わず攫いたくなりました。でも大丈夫、小さなレイディには、 ステキに強い騎士さま が、片時も離れずにガードしていますから。
メノさま、ご自分のサイトもお忙しいでしょうに、べにいものワガママを聞いてくださって、ほんとうにありがとうございます。
そして、10年後の二人も、微妙にお待ちしております。


アローザと元法王さま 一覧へ

inserted by FC2 system