贈りベタな騎士さまのお返し

お待たせしました、“お返し”編です。
アンケートで アローザ奥様の理想のナイト(けっこう鬼畜) が一位を占めましたので、アンケートリク話でもあります。









「マダム、ホワイトデーのお返しなのですが…」


「まあっ もう ほわいとでー でした の ね わたくし すっかり わすれて おりました わ」

そんなマルチェロの言葉に奥様は、 勝負服 (レースとリボンとピンクで、かなりものすごいコトになっているドレス。一般人が着たら 間違いなく正気を疑われる が、なにせ奥様なので とてもお似合い) で、 不自然なまでに大仰 に驚かれました。






「マダムはお忘れになるような些細なことかもしれませんが…」

フツーにスルーする マルチェロに、


「いや、奥様は一週間も前からずっと勝負服着てたんだけど?」

ククールが小さくツッコミを入れました。




ええ、奥様は今日という日の一週間も前から、ずっと、 勝負服A、勝負服B、勝負服C と、別種類の勝負服(もちろん、当日に近い方がより勝負度が高くなっています)をお召しになって、マルチェロのホワイトデーのお返しをお待ちになっていたのです。






マルチェロは続けます。

「マダムのような淑女に贈り物を頂いて、お返しせぬわけには参りません…が、なにせ私は そこの赤い生物とは違って ご婦人への贈り物など慣れぬ、聖職にあった身。私の判断で気の利いたものなどおくるべくもありませんので、ぜひ、マダムの欲しいものを伺いたく…」



「だから、オレがアドバイスしてやるっていってんのに…」

ククールが小さな声で呟きましたが、 マルチェロに恫喝の眼差しで睨まれたため 命が惜しい彼は退散することにしました。




ええ、プライドの高い彼のこと。

ククールなんぞの“忠告”など、聞くはずもありませんものね。






「いえ、そんな…お気になさらずに…なんでも嬉しいですわ。」

奥様は、ちょっぴりガッカリしながらそう淑女らしく返答しますが、マルチェロは 真剣な顔で言います。



「そうは参りません、マダム。せっかくの 貴女への贈り物 なのですから 貴女が本当に喜んでくれるもの を私に贈らせて下さい。」





貴女への贈り物っ!

貴女が本当に喜んでくれるものっ!!




奥様の胸は、マルチェロの台詞にときめきまくりました。





「え…そんな…本当に…本当にわたくしは…」

もぢもぢしながら手をまさぐる奥様は、今は亡き旦那様と過ごした、 甘いあむぅわぁいいいホワイトデー を思い出されました。






「アローザ、今年はマシュマロにしたよ。アスカンタで評判の美味しいお菓子屋から取り寄せたものなんだ。君が喜んでくれるといいけれど…」

「まあ、あなた、とても嬉しゅうございますわ。」

「君が喜んでくれて、僕もとても嬉しいよ。じゃあアローザ…また来年のバレンタインも、君が美味しい手作りチョコをくれますように。 chu!!」





ええ、奥様の最愛の旦那様は、毎年毎年、ホワイトデーのお返しに、美味しいお菓子と、 あむわぁぁぁいいキス!! を下さっていたのです。




ええ、それは長男のサーベルトが思春期ゆえに赤面し、まだ幼かったゼシカが

「おかーさんばっかチューしてずるいー、あたしもー!」

と父にキスをねだる年頃までしか続かなかった、心温まる、ついでに ぽっ としちゃう毎年のイベントでした。








(マルチェロさまがあんな風にして下さったら…)

奥様はそう思いましたが、 淑女として、口が裂けてもそんな恥ずかしいことは言えません!!




けれど奥様は心の片隅で

(ゼシカかメイドの誰ぞが、マルチェロさまにそんな話をしていてくれないかしら)

と、虫のいいことをお考えでした。




「なんでも、と仰られても困ります。見当がつかなくてお伺いしている訳ですから、 たとえ世界とでもなにか仰って下さらないと…」


ですが奥様はマルチェロに、




「マダム、私に差し上げられるのは、 真心を込めた接吻くらいしか…

なーんてキャラに合わないにも程がある台詞をまんまと言われた時のコトをドキドキと想像していたので、まったく上の空でした。




「え!?ええ… ではそれで…」

なので奥様は、つい、そう応答してしまわれました。











「…世界ですか…」

「はい…え!?」

ようやく正気に返られた奥様が見たものは、 マルチェロのいつもより更に深い眉間の皺 でした。






「難しい事を仰る…」

「え?あの、わたくし、一体なにを…」

奥様は 勝負服のおリボンがゆらゆらするくらいオロオロなさいますが、



「分かりました。 他ならぬあなたのお頼みです。 世界を貴女にお贈りしましょう!!」




「ええええッ!?」

気付いたらドエライ事になっていました。




さしもの奥様も、軽い冗談かと思ってマルチェロの緑の瞳を覗き込みますが、 すごい勢いで本気の色 である事が確認できただけでした。





ええ、マルチェロくらい、冗談から遠い男はいませんしね。





「さて、大変だ。確かに当座の資金はポルトリンクからの運営金と貿易収入で賄えるとして、問題は兵力だな。まあ、とりあえずは傭兵で賄うか。隊長その他は、聖堂騎士の残党をかき集めて、私が自ら訓練を施せば…ああ、アスカンタを攻め落すには海軍力が必要だな。ポルトリンクで軍艦を建造させるには…」



「あの…マルチェロさま?」

みるみる世界征服計画が実行に移されていくのに恐怖を抱いた奥様が恐る恐る声をかけられると、


「申しわけありませんがマダム、これからは少々多忙になりますので、これにて失礼させて頂きます。ああ、マダム、本当に申し訳ないのですが、 さすがに今年のホワイトデーには間に合いそうにない のですが、 お許しいただけますかな?」




「え、ええ… ごゆっくり…」

奥様は、そうお答えになるしか出来ませんでした。



























と、ある丘の上。




「マダム、ご覧下さい。 貴女がここからご覧になる景色は、全て貴女のものです。」

「え、ええ…」

マダムは、眼下に広がる景色を見て、ようやっとそう呟かれました。




(わたくしってば…エラい事を口走ってしまったのではないかしら?)

そう思うと、なにせ敬虔な奥様の事、自然と表情が固くなります。




「マダム…お顔の色が優れませんが…」

奥様ははしたなくも、




「誰のせいですかっ!?」

と一瞬ツッコミたくなりましたが、目の前にある 眉目秀麗な真剣な顔 相手に、何も言えなくなってしまいました。








「ああ、分かっております…」

デコの広い美丈夫 は、ひとり頷くと続けました。


「まだ東の大陸しか手に入っていないのでは不満だ と、そうおっしゃりたいのですね?」



全然違いますわ、マルチェロさま



奥様はそう仰りたかったのですが、マルチェロは口を挟むスキすら与えず、 いきなり奥様の手をとりました。




「ま…マルチェロさま…(ポッ)

壮大な涜神罪を犯しつつある にも関わらず、それはそれとして赤面なさる乙女な奥様に、マルチェロは 青い青い大海原 を示して言いました。







「今しばらくお待ちください、マダム。この海も、この先に広がる大陸も、今に全て制覇いたしましょう。ええ、 この世界の全てを、貴女に贈ります!」


そしてマルチェロは、真剣な瞳で奥様の瞳を覗き込みました。







デコは広いけれども それ以外は眉目秀麗な美丈夫からの 世の全ての女性が願ってやまない言葉を贈られた 奥様は、

未だ嘗て、ホワイトデーのお返しに世界を贈ると約束して、しかもそれを実行に移した愚かな男なんていただろうか?

とは心の片隅で思わないでもなかったものの、それはそれとして、



マルチェロさまが下さるのでしたら、世界だって受け取ってもいいかもしれませんわね


と、呑気な事をお考えになるのでした。




終わり




2007/3/12




マルチェロはどこまで本気なんでしょうね?

奥様の乙女ハートと、マルチェロの天ボケのために、どれだけの無辜の民が苦しんでいる…とか、そういう事は考えてはいけません。
ええ、 愛は全てに優先しますからッ!!

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