野良猫と隠者

拙サイトのオリキャラながら、ククールよりよっぽど出番の多い(ソレってククマルサイトとしてどうかと思う)トマーゾは、
「結局 愛情と労りと優しさと の後、どうなっちゃったんですか?」
という、熱烈なご心配を多々いただいたので、書いてみたお話。

まさに とってつけた後日談 ですが、まあ。









オレは猫だ。名前はまだねェ。てかつく予定もねェし、多分、一生つきゃしねェだろう。

どこで生まれたんだかとんと見当なんてつきゃしねェが、ともかく気付いた時ァ、なんか薄暗ェトコでニャニャー鳴いてたのは覚えてる。

そういや親だのきょうだいだのもいた気がするが、まあ、気付いたらオレはロンリーな野良猫だった。









「待ちやがれ、このクソ猫っ!!」

血相変えて追っかけてきやがる雑貨屋のオヤジを、オレは軽いフットワークでかわしながら林に突っ込んだ。

たく、しつけーの。

てめェがこんな上手そうな肉を、かっぱらいやすそうな軒先に置いとくのが悪ィんだろうがよ。

なのに、今日に限ってしつけェの、なんの。


仕方ねェからオレは、林に駆け込んだんだ。

まあ、ほとぼりが冷めた頃に戻りゃいいやって、思ってさ。






家があった。

ここにゃしばらく住んでるが、こんなトコに家があったなんて気付きもしなかった。

まァいいや、ちょっと中でも覗いてやろう。




オレは、ちょっと開いた窓から、


するり

と中に入り込んだ。




ぽた

そしてオレは、くわえた肉を思わず落とした。




「…」

向こうも、なんか驚いた顔をした。




おい、なんか老けたな。

オレはそいつを見て思った。


ついでに、縮んでねェか?

オレは続いてそう思った。




そいつとは、初対面なのに。




「…野良猫?」

そいつは呟いて、オレが落とした肉を拾った。


畜生、オレとしたことが。

獲物をとられちまった。




「お前、雑貨屋から盗んできたのか?」

肉に押された雑貨屋の刻印を見て、そいつは言った。


うにゃあ

オレが恫喝してやると、そいつはやたらと大きな手でオレをつかまえた。




「駄目じゃないか、盗みなんかしたら。」

潰されるかと思ったが、そいつはやたらと大きな手でオレを撫でくっただけだった。




「お腹がすいているなら、ご飯をあげよう。おいで。」

そいつは、ズルズルしたローブ…修道服、っての?を翻して、台所へと入っていった。

縮んだ、気はした。

何と比べてなのか分からねェんだが。

でも、すげェデカい男だった。









ミルクをもらったオレは、なぜだか大人しくそいつに抱かれて、雑貨屋のオヤジの前に連れられて行った。

オヤジはオレの事ァすげえ目で睨んだが、そいつに頭を下げられると、とたんに物腰が低くなった。



「いやあ、貴方さまに頭を下げられたら、こっちが恐縮しちゃいますよ。」

金を払うと言ったそいつと、そんなものは頂けないというオヤジの押し問答の末、




「聖者さまがそこまでおっしゃるんなら、頂かないわけにはいかないじゃないですか。」

と、なんかむしろ泣きそうな顔で雑貨屋のオヤジが金を受け取った。




セイジャ?

オレが聞きなれない単語に顔を上げると、そいつは心から困惑した顔になった。




「止めて下さい。自分はただの隠者です。」

何をおっしゃるんです、貴方さまにどれだけここらの人間が助けられてるか。


オヤジはさんざその”セイジャ”がすげェか言ったが、そいつはただ迷惑そうな顔をしただけだった。




セイジャとか、別にそんなコトはだが、オレにゃどうでもいい。

ただ、オレはこいつが気に入った。

だから、こいつのトコを寝床にすることにした。









こいつの一日は、退屈なモンだった。


朝早く起きて、飯を食って、そして畑を耕して、たまに収穫したものを持って村まで行って、そこでミルクだのなんだの必要なものを交換して、ケガだの病気だののヤツにゃ、ホイミっての?をかけて(解毒の魔法とかも使えるんだと)なんか感謝されて、また戻って、家の雑務とかして、そして寝るんだ。

つまんねーの、スリルってモンがねェ。


オレはそんな生活がつまんねェから、たまに例のオヤジなんぞの血の気の多いヤツの店のモンかっぱらって、遊んでみたりする。

オレは、こいつに気を遣わせちゃ悪ィと思って、ちゃんと目に付かないトコでやんのに、なぜかオレが獲物を美味しく頂こうとすると、こいつに見つかるんだ。




何だよ、昔から、ドン臭ェくせに目敏ェな。




昔から?

なんだよ、昔からって。




オレ、こいつの昔のコトなんて、知らねェっての。









なんでこいつ、こんなヘンピなトコに住んでンだろ?

村の奴らの話を聞くが、そいつらもよく知らねェらしい。


昔はとても偉い方だったらしい。

たりめェだ、こいつはエラいんだぜ、なにせ、オレの…




オレの、何だ?




戦士さまとか騎士さまだったらしいよ、ほら、あのお背いの高さに、胸板の厚さをごらんよ。


なンだよ、昔はもっとデカかったし、ゴツかったっての。




オレはいろいろ思うが、なんでそう思うか分からねェ。









オレはそのうち気付いた。

こいつの家にゃ、ヨソんちと同じく女神の像があるが、こいつは決してそれに額ずきゃしねェ。

きれいに掃除してる。

供え物だってしてる。

でも、他のヤツみてェに、祈らねェ。

置いてあるだけ、だ。




そして今日もこいつは、女神像をたんねんに掃除する。

オレはそれを見る。

じっと見てやると、こいつは言った。


「なんだ、女神にお祈りしたいのか?」

したい訳あるかよ、と言ってやると、こいつは笑った。


「はは、確かに無理だな…俺と同じだ。俺も無理だ。もう…俺は女神には祈れない。長い間、女神に祈る生活をしてきたのに、俺はもう…」

なんか哀しそうな顔をした。

俺は、こいつが悲しそうな顔をするのを見たくなかった。

見たくなかったから、飛びついてやった。


「なんだ、もうお腹がすいたのか。育ち盛りだな。」

こいつはオレを撫でくると、オレのメシを取りに立ち上がった。









こいつは、ホント、娯楽の少ねェ生活してやがる。

見てて可哀想だから、気が向いたらオレが遊んでやる。

するとこいつは喜んでオレを撫でくる。

こいつに撫でくられるのが、オレは好きだ。




オレが来てくれて嬉しいだろ。

オレは言ってやる。


「お前がここに来てくれて嬉しいよ。」

ほら、そう思ってる。


「望んでしている事だが、でも、一人はやっぱり寂しいからな。」

寂しいんだったら、村の中ででも住みゃいいじゃねェか。歓迎されてるンだしよ。


「…死ぬまでは生きていようと思ったが、なかなか、死ぬまでとは長いものだな。」

オレはこいつを見上げる。




そりゃ、死ぬまでは生きてるに決まってンだろ?

何言ってんだ、こいつ。




こいつはオレを撫でると、女神の像を振り向く。

「小さい頃は、女神が全て正しいと思っていた。悪いことをしたら、即座に天罰が下り黒コゲになるんだと思っていた。でも、いざ悪いことをしてみると、雷なぞは降って来ない。ただただ、自らの心が責めてくるだけだ。」

なんだお前、悪いことしたのか。

で、何したんだ?言ってみ?

女神が怒ったって、オレが許してやるよ。


オレは告白を促すために、肩に飛び乗る。

昔ほどじゃねェが分厚い肩だ。

重い武器だって、今でも振り回せるに違いねェ肩なのに。




「…俺は、どうしてこうなんだろうな。」

こいつは言う。


「いつもいつも、したい事とは違う方向に行くんだ。」

おう、何がしたいんだ。


「女神の御名の下に、弱きものの為に祈りたかった。頭は悪いが腕っ節は強かったから、それで弱き者を守りたかった。俺はそのために剣を握ったのに。俺は、俺の剣を、俺の腕を、ただ弱き者を虐げることに使ってしまった。」

…言い方がむつかしくてアレだけどよ、別に気にすることねェんじゃねェの?したかったコトと結果が違っちまうコトは、よくあるコトさ。


「愚かなのは仕方がないが、せめて守りたかった。自らが信じたものに忠誠を、友には信義を。そして、自らには信念を。」

こいつは、続けた。


「それが駄目でも、せめて、誰かに哀れまれるだけの存在には、堕ちたくなかった…」




咳き込んだ。

オレじゃねェ、こいつが。




ひどく苦しそうな咳だった。

おいおい、大丈夫か?


オレが覗き込むと、こいつは言った。




「はは、すまん。風邪でもひいたらしい。」

うつしたら可哀想だから、他所で寝なさい。

オレをガキみてェにそう言って、こいつは横になった。




なンだよ、丈夫なだけが取り得だっつって、風邪の一つもひいたコトなかったじゃねェか。

あンだけ激務で、まともに寝なくて、しかも食ってるのが豆のスープでも。




どうしちまったンだよ、お前。









それから、こいつはずっと咳をし続けた。

「心配はいらないよ、ただの風邪だ。」

でもよ、ずっとだぜ?




気の利くエラいオレは、薬を持っていってやることにした。


「このクソ猫ーっ!!!」

雑貨屋のオヤジがまた血相変えやがる。

たく、オレが飲むんじゃねェよ。




オレは薬の袋をくわえたまま、林の中をつっ走った。




おいっ!!!!

オレはこいつに駆け寄る。


椅子から立ち上がり損ねたのか、地べたにうずくまったまんま。




おい、薬だぞ。

オレが薬を見せてやると、こいつは弱々しく微笑んだ。




「お前はほんとに…ほんとにいつまでも手癖の悪い…」

なんだよ、オレの善意を。

てか、いいからはやく飲めよ。

「なあに、大したことはない。大したことはないから、落ち着いたら返しに行こうな。」

こいつは薬の袋をつかもうとするが、手に力が入らないらしい。


何度か試みて、そしてこいつは更に弱々しく笑った。




「…お前が返してきなさい。俺が本当にすいませんと謝っていたと言って…」

言えるかよ、猫なんだから。




「…ようやくかな。」

こいつは、言った。

何がだよ


「我が恥多き人生にも、ようやく、終止符が打たれるか…」

「おい、何、今にも死にそうなコト言ってんだよ、トマーゾっ!!!!」




トマーゾの目が、大きく見開かれた。

しばらく、そのままで固まったようにオレを見る。




そうだ、こいつの名はトマーゾだ。

ようやく思い出した。




思い出したってコトは、オレは元からこいつを知っていて










オレの脳裏に、女の声が聞こえた。

この世ならざる、女の声。

一度は、オレだって仕えた女の、声が、した。









「エステバン…っ!」

振り絞るような声がした。




思い出した。

オレの名はとうについてた。









「はは…ははは…」

力ない、笑い声。


「本当に俺は鈍いな。まったく、お前そのものだったじゃないか。手癖が悪くて、ワガママで、気まぐれで、でも、妙に人懐こくて…お前そのものだったのに、何で気付かなかったんだろう…」

そして、オレの差し伸べた手を




手?
あれ、オレは猫で…


まァいいや、細けェコトは。




トマーゾは、いやに力強く握った。




「エステバンっ!!」

そしてオレを、眩暈がするほど強く抱きしめた。




「エステバン…」

「…そんな何度も呼ばなくたって、聞こえてるよ。」

「…死ぬ前に、迎えが来ると言うじゃないか。しかも既に死んだ中で、”一番会いたい人”が。俺は、三人、可能性を考えてた。」

「…誰だ?」


「一人目は、俺の実母だ。ただ、俺は彼女の顔を知らない。せっかく来てくれたはいいが

『どちらさまですか』

と言われたら、向こうも気まずいだろう。」


「…二人目は?」

「…マルチェロ団長だよ。」

「…」


「ただ…なんだな、なんの音沙汰もないし、ただの俺の気のせいかもしれないが…あの人はまだ、生きてる気がするんだよ。」

「そりゃそうだ、なにせあの方だぜ?死神の手なんぞにかかるようなお人かよ。」

「はは、そうだな。そういう人だ、あの人は…」


「三人目、は?」




聞く必要なんてなかった。

「エステバン、エステバン、会いたかったよ、エステバン。」

骨がミシミシ言う。




もうオレは、猫じゃねェってのに。




でも、骨が砕けたとしても、多分、オレは本望だ。




「エステバン、もう一度会って言いたかった。すまない、本当にすまない、エステバンっ!!俺は、俺は…」

オレの顔に、温い液体が滴った。




オレだって、言ってやりたかったんだ。

言ってやりたかったんだよ。

畜生、言いたいことなんて、こっちのがたくさんあるってンだ!!




でもよ、声にならねェモン、仕方ねェじゃねえか…









「俺は善を貫けず、”悪”すら貫けなかった。俺の人生に恥は多く、後悔も多い。いや、そればかりだと言ってもいい。でも…こうしてもう一度、お前に会えたことで、俺はもう満足だ。」

「…」




オレは思い出した。

さっきの”女の声”で、オレは思い出したのだ。


どうしてオレは名も無き野良猫だったのか、とか。

オレの役目はなんだ、とか。




「俺はもはや女神に祈る気は無くしたが、女神が死した俺に裁きを下すなら、甘んじて受けよう。いや、生者の法廷が俺を裁かなかったのだ、俺は女神に裁かれねばならないのだ。」




超重いコト言ってるくせに、トマーゾの顔は今まで見たこともねェくれェ明るかった。




「トマーゾ、オレの堕ちたのは、どこまでも続く暗黒の穴だぜ?」

確かにロクなコトをした覚えはねェが、まさか生きながら堕ちるとは思ってもみなかった。




「お前と一緒なら、どこへだって行くよ。」

「トマーゾ…」









涙腺弱くなんかねェんだが、オレは絶対、泣くだろう。









オレは手を差し伸べた。

オレの役目を果たすために。










トマーゾの手は昔と変わらずやっぱり大きくて。

オレが猫でなくてもやっぱり大きくて。




オレは、ガキになったみてェだった。





























今度こそ、と額に血管を浮かべ、勢い良く小屋に入り込んだ雑貨屋の主人が見たものは、


手付かずの薬の袋と

何かに手を差し伸べた格好で動かない”聖者さま”と

差し伸ばされた先で、同じく小さく丸まったまま動かない、野良猫と




だった。





2009/2/25




トマーゾがこんだけエステバンに愛情表現示したのは、初めてではなかろうか?
と思って読み返してみましたが、初めてでした。

今振り返れば、あのエストマ連作(ゴルド直前の数字シリーズ)を書いたのは、もう一年近く前なんだなあ。
ホント、涙を浮かべながらキーボードを叩いてましたよ。

いつもはエステバンばっかりトマーゾに「好き好きー」とやってますが、やっぱりトマーゾもエステバンが大好きです。


さて、白梅さまにオエビに連載していただいていたイラストを掲載したので、ようやく ホントにホントのオチ を書かねばならないかなと思いまして、書きます。




見ないほうがいいと思うんですけど、まあ、見たかったら見てください。














































「エステバン、この道はどこまで続くんだ?」

俺は問う。


俺の手を強く強くつかんで、俺をいざなう我が友に。




「…もうすぐ着くさ。」

エステバンの歩調がおかしい。


ひどく早足になるかと思えば、しばらく物憂げな表情になって、そして今度はひどくゆっくりになる。




俺は、周囲を見回す。




あの世


俺も聖職者の端くれだったから、「あの世」については幾度と無く人に語ってきた。

が、語ると聞くとはまた違う。

仕方が無い、死んだ人間は再び生き返ってこの光景を語ることは出来ないのだから。




死した俺は、再び引き返すことの出来ない道を、エステバンに牽かれて歩く。

続くのはただ、道また道。




死者は審判を受け、女神のお膝元か、然らずんば常闇の地獄か、どちらかに行くと聞いていた。

だが、俺はまだ裁きを受けていない。

俺が進むのは、ただ一本の道。




「なあエステバン、俺の裁きはいつなんだ?」

「…」

「もう何年も歩き続けている気がするよ。」

「死人に時間なんて関係あるかよ。どォせこの後、長い長い時間があンじゃねェか。」

「…そうだな。」

俺は思わずおかしくなって笑った。

なのに、エステバンは哀しそうに俺を見上げる。




やはり、俺の堕ちる先は地獄なのか。

俺はエステバンの表情から、そう推測した。




地獄に堕ちたいかと問われたら、すぐには肯定は出来ない。

だが、女神が俺を裁くなら、俺はかの方のお側にはいけない身だ。

俺の罪は、人の世界での裁きの後、自ら課した”孤独”の罰くらいでは贖えない。




「…オレ、辛いよ。」

エステバンがぽつりと口にした。

地獄に俺を案内するのが辛いのだろう。

我がままで、本当に困った奴だったが、でもエステバンは根は善良なんだ。


「またお前と一緒にいられるなら、地獄の責め苦も甘んじて受けるよ。」

俺は慰めになるか分からない言葉を返したが、エステバンはもう一度繰り返した。




「オレ、辛いよ、トマーゾ。」

そして、ひどくゆっくりとした歩調になって、また俺の手を強く強く握った。




子どもがするように、強く握った。










小さな広場のような場所にたどり着いた。

しかし、何も無い




「女神の役目をオレは終えたっ!!」

エステバンは虚空に向かって叫んだ。


「オレはトマーゾを裁きの場まで連れてきたっ!!後は…後は、裁きに委ねるっ!!」

辛そうなエステバン。


「ありがとう、エステバン。お前も大変だったな。でも、そんなに俺のこと…」

「お前の心配なんかしてねェよっ!!」

エステバンは叫ぶと、突如として、涙をこぼした。




何も無い。

裁きの場に相応しい何も…




ほのかな輝きが生じた。


薄碧色に光る扉。




そして、闇色に滲む扉。




「?」

状況が呑み込めずに立ちすくむ俺。


「トマーゾ…」

「エステバン?」

「早く行けっ!!」

俺はエステバンに、薄碧色に光る扉に突き飛ばされた。


「なんのこと…」

「お前が行くのは、そっちだ。」

「そっちって…」

エステバンは子どものように顔をくしゃくしゃにして、そして駄々をこねるように叫んだ。




「そっちはあのクソったれ女神のトコだっ!!」

「…え?」

そしてエステバンは、、闇色に滲む扉を掴む。


「オレはこっちだ…」

「…」

鈍い俺は、状況を少ししてからようやく把握した。




「エステバンっ!!」

俺は彼に駆け寄ろうとするが、どこから現れたのか透明な壁が俺の行く手を阻む。


「エステバン、エステバンっ!!」

俺は慢心の力を込めてその壁を打ち破ろうとするが、壁はただ音を立てるだけ。


俺は涙で顔を歪めるエステバンの顔を見るだけで、彼に近寄ることが出来ない。




「何故だ?何故なんだ!?どうして俺とお前で行き先が違うんだ!?俺は何もしていない…いや、悪事以外、何もしてないっ!!俺もそっちだろう?なあ、エステバンっ!!!」

「お前はそっちなんだよっォ!!!!!」

とうとう、エステバンは泣き伏した。


「オレの役目はコレなんだ…お前が誰だか思い出した瞬間に、オレは思い出した。あのクソ女神がオレに課した役目ってのをよっ!!」

「女神の…役目…」

「地獄でもどこにでも行ってやるっ!!オレがしてきたコトを思や上等さ。でも…オレ、オレ、やだよ…」

エステバンは転がって泣き叫ぶ。


「トマーゾ…トマーゾ…トマーゾォ…オレ、お前と別れたくねェよォっ!!!」

俺は駆け寄りたい。

エステバンの元へ駆け寄りたい。


「エステバンっ!!!!」

だが、どうやら時間切れのようだった。




闇色に滲む扉が、エステバンを溶かし込んだ。









「…」

俺は力なく薄碧色に光る扉に触れる。


無慈悲なほどに優しく、俺は迎え入れられる。




「女神よ…これが貴女のお慈悲ですか?」

俺は詰問する。

かつて無いほど近くにまします女神は、人智には図りがたいほどの”慈悲”の笑みを浮かべて仰るのだ。




死した身に下す裁きは、甘んじて受けるのでしょう、トマーゾ









俺への裁きは、孤独。

inserted by FC2 system