心音
たまらなく、
エストマでベッドシーンが書きたい衝動
に取り憑かれたので、大人しく衝動に身を任せてみることにしました。
「トマーゾ、ヤらせろよー。」
それは、エステバンにとってはいつもの軽口。
トマーゾはその言葉にいつも眉を顰め、そして、子どもを叱るように答えるのだ。
「いくら自室とは言え、冗談にしても質が悪いぞ。」
トマーゾは聖堂騎士副団長で、エステバンはその副官。
本来ならば、そのような軽口は自室ですら叩くべきでないのだが、エステバンはまるで頓着していなかった。
上官と副官ということで、同室に設定された部屋では、することさえなければ、エステバンはいつも、パルミド仕込の際どい冗談を言っては、育ちの良いトマーゾを困惑させたり、赤面させたりしていた。
だから、その時の言葉も、いつもと同じ…
「いいよ。」
返答だけが、いつもと違った。
エステバンは、微妙に面食らった。
そのような返答が返ってくることは、予想外だったのだ。
もう三十になるというのに、純にも程があるトマーゾは、毎度毎度の際どい冗談に、毎度毎度、律儀に困惑したり、赤面したりしてくれていたのに。
しかし、うろたえた表情を見られるのは、沽券に関わる。
一体なんの”沽券”なのか、エステバンはともかくもそう思った。
「なンだよ、トマーゾ。冗談だと思ってるだろ?」
その答えは、
「思ってないよ。」
しかし、動揺した様子は見られない。
微笑みすら、浮かべている。
「なら、本気でヤっぜ?」
「ああ。」
トマーゾはあっさりと頷き、服すら脱ぎ始めた。
「おいおい、何脱いでんだよ。」
「ん?こういう時は脱ぐものだろ?」
「…服を脱がせンのは、男の楽しみなンだよ。」
エステバンはそう言って制した。
もっとも、この聖堂騎士の制服を脱がせるのが、本当に楽しみになるかは、言った自分ですら疑問だったが。
「そうか。」
トマーゾはあっさりと手を止めると、ベッドに横たわった。
「…」
「どうした?エステバン、始めないのか?」
「…」
さて、どうしよう。
エステバンは思う。
これは、エステバンの冗談の質の悪さに業を煮やしたトマーゾの反撃に違いない。
違いないので、一番良いのは
「ごめんなさい、もう言いません。」
と、謝ることだ。
分かってはいるが、根っからのあまのじゃくの彼は、口先だけでもトマーゾに謝罪するのは業腹だった。
そして、こうなったら、”本当に最後までヤる”のが、いっそ清々しいと分かってはいた。
分かってはいたが…
「うるせェな、先にオレが脱いじまうよ。」
とりあえず、対処方法を先延ばしするために、エステバンは聖堂騎士の制服を脱ぐ。
ゆっくりと
「なんだ、ずいぶんと念入りに脱ぐんだな。いつもは脱ぎ散らかして、そのままだっていうのに。」
トマーゾから、言葉が飛ぶ。
なんだか、いつもより嫌味に感じる。
「うるせェな、お前が先にベッドにいるんじゃ、オレが脱ぎ散らかしたって、誰も片付けちゃくれねェじゃねェか!!」
自分で言いながら、エステバンはその言い訳の不味さにムカムカした。
「…」
しかも、そういう時に限って、トマーゾは何も返してこない。
とうとう、脱ぐものが何もなくなってしまった。
そもそも礼儀作法に無縁の育ち方をしているエステバンは、堅苦しい聖堂騎士の制服は今でも苦手で、いっそすっ裸の方がサバサバすると、常日頃から言っている。
言ってはいるが、なんだか今日は、いつもより居心地が悪い。
とりあえず、ベッドに上がりこむ。
「本当に、冗談じゃねェからな。」
「分かってる…」
そういう唇に、唇を当てる。
それは、ほんの一瞬だった。
ほとんど、接吻ともいえないほどの触れ合い。
これなら、エステバンが聖堂騎士の誓願を立てた際に、マルチェロから受けた誓約の接吻の方が、余程長かった。
「なんだ、エステバン、お前、キスは嫌いなのか?」
トマーゾも感じたらしく、彼にしては珍しく、嘲弄するような響きもある。
エステバンがそう感じただけかもしれないが。
「うるせェな、ヤる前にキスなんて、オレの流儀じゃねェんだよ!!」
エステバンが焦るのは、いつもは自分が握っているはずの主導権を、今回は握れていないというのが理由だ。
それでも、なんとかトマーゾを焦り出させるために、エステバンはトマーゾの服をはだけさせる。
トマーゾの分厚い胸筋は、すぐに露になったが、トマーゾはやはり表情を変えず。
エステバンは、途方に暮れた。
愛撫に挑もうと、エステバンはその上に覆いかぶさったが、身長の差から、何だか自分でも、母親に抱きついているようだ、と思うような体勢になった。
とくん
エステバンの耳に、そんな音が聞こえた。
注意深く、耳を澄ます。
トマーゾの心音だった。
エステバンはもう、努力は放棄して、抱きつくようにして、トマーゾの心音を聞くことに専念した。
とくん
とくん
規則正しい、穏やかな心音は、ただ続く。
「懲りたか?」
声がした。
「…オレが本気じゃねェって、知ってたくせに。」
スネたように返してみせる。
「本気でないなら、あんなことはもう言うな。」
憎まれ口を返そうとしたが、うまいこと言葉が出てこなかった。
「でも、今日はこのまんまでいるからな。」
スネながら甘える子どものような、言葉。
ため息がした。
「重いんだけどな、かなり。」
「うるせェな、オレはスマートだし、お前は力持ちじゃねェか、ガマンしろっ!!」
ようやく、カンを取り戻したような言い草。
「はいはい、分かったわかった。もう言わないと約束するなら、一晩くらいなら我慢するよ。」
「分かりましたー、もう言いませんー。」
誠意がまるで籠っていない言葉だが、トマーゾは頷いてくれた。
だからエステバンは安心して、トマーゾの心音を聞くことに専念出来たのだった。
2008/7/13
前のチャットで、多分やみさまから微妙にフられたネタ(やみさま、今更ながらサンクスです)。
にゃんこは意外と、こーゆー事態に弱かったら可愛いなあ、と(30と27の世間相場から言ったらどちらもゴツい男のことだと、リアルに想像してはなりませぬ。)。
しかし、なにせ裏街道歩いてきて、”そのテのケーケン”もある彼のこと、
「いいよ。」
と言われて、躊躇皆無で襲い掛かられたら、トマーゾはどうするつもりだったんだろ?
まあ、本気で殴り合ったらトマーゾが勝つんですけどね。
「いいって言われたから、和姦だと思ったのに、殴られた。」
と、マルチェロあたりに訴えに行ったら…マルチェロはどう裁きをつけるのか、気になります。