彼なりの配慮

元拍手話
メノさまの55000hitリク「ククールに『好意』を向けるマルチェロ」に応えたお話?









マルチェロは風邪をひきました。


「おやおやマルチェロ、それは大変だ。ゆっくりと休んでいなければならないよ。」

オディロ院長はとても心配してくれました。


「たしか、風邪には蓮根がいいと聞いている。でも、生憎とウチでは蓮根は栽培していないからねえ。」

オディロ院長は、そして思い出しました。


「そうそう、ククールがお邪魔している修道院は蓮根を栽培していた。ちょっと行って、貰ってこよう。」


そこで、マルチェロはがばりと跳ね起きました。


「オディロ院長のお手を煩わせる訳には参りませんっ!!不肖マルチェロ、風邪をひいていたとしても使い走りの一つなど朝飯前です。」

力いっぱい言い放つマルチェロに、オディロ院長は

「でも、お前が風邪をひいているから蓮根を貰いに行くのであって、お前を働かせたら意味がないと思うのだけれどね。」

とはついぞ言い出せず、


「では、きちんとククールからもらってくるのだよ。ククールも心配するだろうから、たまには兄孝行させてあげなさい。」

とだけ言って、マルチェロをお使いに出しました。






というわけでお使いに来たマルチェロですが、当の修道院にククールの姿はありませんでした。

なんでも、ちょっと外出しているそうです。


「何だと、あのゴクツブシめっ!!私が何のためにこの忙しい最中に、奴に蓮根を貰いに来てやったと思っているのだっ!!」

マルチェロの力いっぱいの罵声を聞いた修道士は、だったら蓮根は差し上げるから持って帰ったらと言いましたが、

「オディロ院長は

『ククールから貰って来い』

とおっしゃった!!私は何が何でも奴から蓮根を貰うまでは帰らんっ!!」

との鉄の意志に、引き下がらざるを得なくなりました。


ですが、気の短いマルチェロの堪忍袋が十五度は内部破裂するほど待っても、ククールは帰って来ません。





どうやら、聖堂騎士の名を高らしめる…とかいうイベントで、他流試合に道場に出かけているようです。


「聖堂騎士の名だとっ!?奴ごときが生意気なっ!!」

待つのが嫌いなマルチェロは、自ら乗り込んで行く事にしました。









どばたあっ!!

派手な音を立てて、いくら模造刀とはいえ強烈な一撃を受けた騎士が叩き飛びました。


「28人っ!!」

マルチェロの、剣のような裂帛の声が道場の空気を切り裂きます。


「次っ!!」

マルチェロは(風邪をひいているはずなのですが)よく通る声で叫びました。

でも、その鬼神のような強さに恐れを為して、もう誰も挑戦してこようとはしませんでした。


「さすが…聖堂騎士団長、お強いというか、なんと言うか…」

道場主の、恐れ半分、迷惑半分の挨拶は礼儀正しくも軽く聞き流し、途中から完全に出番を奪われたククールを引きずるようにしてマルチェロは帰途に着きました。












「あの…ところで兄貴。なんでオレをわざわざ探しに来たの?」

ククールが恐る恐る問うと、

「蓮根を貰いに来たからだっ!!」

叱責のような返答が来ました。


「私が風邪をひいたところ、オディロ院長が風邪に良いという蓮根を”貴様から”貰って来いと仰った。だから、いつまでもグズグズとウスノロの貴様からわざわざ蓮根を貰うべく、こんなところまで来てやったのだ、感謝しろっ!!」

まったく、人さまから物を貰う態度ではありませんが、ククールはいつも虐待及び無視をされていたので


「兄貴がわざわざオレに兄貴孝行させてくれるなんて(じーん)」

と素直に感激しました。






修道院に戻って、ククールが蓮根を差し出すと、マルチェロはひったくるようにして受け取ると、礼も言わずに、もちろんククールなんて振り返りもせずに、マイエラへと力強く戻っていきました。


ククールは、慣れた光景ではありましたが、それでも思いました。


兄貴、本当に病人なの?













マルチェロがマイエラへ戻ると、オディロ院長が心配そうに出迎えてくれました。

「おおマルチェロや、あまりに遅かったから、風邪が悪化したのではないかと心配していたよ。」

「大事ございません、院長。」

そしてマルチェロは、蓮根をオディロ院長に差し出しました。


「おおマルチェロや、ちゃんとククールから貰ってきたかね?」

「はい院長”ちゃんとククールから”受け取りました。」

マルチェロの返事に、オディロ院長は満足そうに頷きました。


「さすがククール、良い子だね。これを食べて良くなったら、きちんとククールにお礼を言うのだよ。」

「はい。」


そして、オディロ院長が手ずから料理してくれた蓮根料理を食べたマルチェロは、翌日には完璧に完治していました。








「ククールの思いやりがこもっていたから良く効いたのだねえ。」

オディロ院長は、そう言いましたが、それが本当かは分かりません。




ともかく、ククールの元には


「オディロ院長が仰るので、貴様に礼を言ってやる。這い蹲って感謝しろ。」

という尊大極まるお手紙が翌日早々に届いたことだけは、本当です。





終わり




2008/10/26




元話を知っている人がいるとは思えないので、解説。

この話の出典は『法華百座聞書抄』「薬草喩品 蓮根利生ノコト」です。

つったって、まったく説明になっていないとおもうのでもう少し。
この本は直談資料と言いまして、「法華経」というお経の内容を、フツーの人に分かりやすく説く唱導という活動に用いられた、平たく言うとお坊さんのネタ本です。

法華経はありがたいんだぜっ!! ということを説くのが目的なので、 マルチェロですら目を丸くしそうなとんでもなくありがたいお話 がたくさん入っている直談資料の中でも、この話の原典は更にブッとんでいます。


元のお話

お釈迦様の弟子が風邪をひいたので、お釈迦様の言いつけ通り、竜宮城の竜王まで蓮根を取りに行きます。
ですが、竜王は留守。弟子はそこで、お釈迦様仕込みの超能力能力 で、 大量の竜を召喚 して、竜宮城を占拠します。
驚いたのは竜王り部下たち。あわてて竜王を呼びに行き、べっくらこいた竜王はすぐさま帰ってきます。
で、お釈迦様の弟子は言いました。
「風邪ひいたので蓮根くれ」
竜王は
「それだけの力があるなら、勝手に持って帰ればいいでしょうが」
至極もっともな反論 をしますが、弟子は言います。
「そんなことをしたら、お釈迦様に怒られちゃうじゃないか。でも、待つのもかったるかったので、ああしてみた。」

ちゃんちゃん

なんか、 それだけの神通力があるなら、風邪くらいそれで治せよ と思うのですが、 あえてそうしないあたりが有難い ようです。


この原典と比べると、マルチェロの行動なんて可愛いものですよね?
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