オレなんにも悪くないのにー(泣)

微妙にマイナーな日本神話を、畏れ多くも改変して台無しにしてしまおうというコンセプトの元に書かれている日本神話編第二段(ちなみに第一弾はアホモの 私は“恋”を知りたい です)

さて読者諸姉は、この元ネタはご存知…ですよね?









昔々のことです。

とある場所に、兄弟が住んでいました。





兄の名はマルチェロ。海の幸を司る彼は、海を象徴する青い服を着て、毎日漁に勤しんでいました。



弟の名はククール。山の幸を司るはずの彼は、一体なにを司ってんだかよく分からない バカみたいに真っ赤な服 を着て、毎日、山の幸を取るどころか、 女の子のナンパに精を出して いました。




ある日のことです。

女の子のナンパに飽きたククールは、 暇つぶしと好奇心 から、兄のやっている漁をしてみたくなりました。

ほら、人のやっていることは、なんだか面白そうに見えるものでしょう?

ソレですよ、ソレ。





「ねーねー兄貴ー、 世界一美麗で可愛らしい弟 からの 心からささやかなお願い。 今日一日だけでいーからさ、お互いの仕事をこーかんしようよー。」


それに対して、マルチェロは言いました。


「ほう、貴様が“仕事”なぞというものをしていたとは…初耳だな!!」

もちろん皮肉ですが、この程度の皮肉でいちいち良心に痛みを感じているようでは遊び人は務まりません。

本業以外では限りなくマメなククールは、兄の 毒舌強烈な足蹴かまいたち なぞをものともせず(何回かベホマは唱えましたが)、ついに兄から、 海の幸を司る魔法の釣り針 をゲットすることに成功しました。




「いいか貴様!!それは貸しただけだからな!!しかも一日だけだからな!!決して無くすな!!そして一日たったら、わずかの傷もない、今のままの状態で速やかに返却せよ!!そうでなかったら、 決してただではおかんからなっ!!」

「ちょうオッケー!!」

ククールは軽やかに返答すると(本当にちゃんと聞いていたかどうかはナゾです)自分の山の幸の魔法アイテムを兄に放り投げ、さっさとその場を去ってしまいました。





「…この 焚き付けの枯れ枝よりなお酷い代物 は、何だ…!?」

ちなみに、ククールの放り投げていった山の幸の魔法アイテム(ちなみに、猟のための弓です)は、ククールが余りに手入れをしていなかったため、すさまじい勢いでゴミ化していました。










さて、海に着いてさっそく釣り針を竿につけて釣りとしゃれ込んだククールですが、女の子を釣るのは得意でも、魚を釣るのは初めてな上に、 そもそも根気がなかった ので、すぐに釣りに飽きました。




「なーんだ…ぜぇんぜん、かからないじゃん。女の子ならいつも、五秒で一抱え出来んのにな…ちぇ。」


そうですね、きっと、 女の子より魚のほうが頭が良い のでしょう。





ともかく飽きたククールは、竿と海の幸を司る魔法の釣り針をそのまま放っておいて、海を通りかかる女の子をナンパし始めました。




そして一日たち。

ククールが気付いたときには、魔法の釣り針は、影も形もありませんでした。




「あっ…ヤベっ。」

ククールは一応そう思いましたが、


「ま、 世界一可愛い弟のオレ がなくしたんだから、 兄貴だって快く許してくれるさ!!」


ククールは、なんの根拠もなく そう考えました。












「メラゾーマ!!」

ククールの言葉を聞いたマルチェロが発したのは、以上のような言葉でした。(ちなみに、テンション溜めが先のモーションとして入りました。マルチェロは二回攻撃なのです。)




「な、なんだよ兄貴…なんでいきなり焼くんだよ、 オレなんにも悪くないじゃんーっ!!」



ククール的には

「だってオレ、無くすつもりなかったんだもん、仕方ないじゃん事故だよ事故」

という事だったらしいですが、 もちろんマルチェロがそんなたわ言を聞くはずもありません。



とりあえず、帰り際に拾ってきた釣り針を渡して、もう一度メラゾーマを食らったククールは、 次食らったら間違いなくウインドが真っ赤になりそうだった ので仕方なく、 有り金全部(ちなみに、得意のイカサマカードで巻き上げた代物です) をはたいて釣り針を買ってみましたが、




「貴様っ!!あれはマジックアイテムだぞ!!それをこんな釣具量販店で普通に販売しているような代物で許してもらわんとするか!?それはなあ、例えるならば 伝説の剣と、銅の剣10000本を交換してもらおうとするようなもの だっ!!なんでもいいから、私の釣り針を返せ!! それ無しで私の前に姿を現しなどしたら、その時の私の顔が貴様がこの世で最後に見たものとなるものと思え!!」




「兄貴のケチー、 オレなんにも悪くないのに なんであんな意地悪言うのさ。この広い海から、あんなちっぽけな釣り針探せるワケねーじゃんな…」

まあったく反省していない ククールは、ぶつぶつ文句を言いながら浜辺を歩いていました。





すると


「あ、あの…何かお困りのようですね。」

可愛い女の子が声をかけてきました。



ええ、ククールは 心からダメな生物 でしたが、いかんせん 見た目だけは輝くように美しかった のです。




ククールの(限りなく自分に都合の良い)打ち明け話を聞いた女の子は、心からククールに同情し、


「だったら、竜宮城に行ってみたらどうでしょう。海をお治めになる竜神さまなら、釣り針を見つけてくださるかもしれませんよ?」

と、竜宮城まで行ける魔法の船を快く貸してくれました。




ええ、本当に 見た目が良いとはなんと役立つこと でしょう。
















竜宮城に到着したククールは、とりあえず門の前に生えていた木の上によじのぼり、様子を見ることにしました。


「しっかし、すっげえ宮殿だな。竜神さまってのは、よっぽど金持ちなんだな。しかも、こーゆートコにゃお約束とちゃ すげえ美人が住んでる モンだし…ここは一つ仲良くなって…グフフ…」

まったく、 何しにここまで来たつもりなのでしょうか


ですが、この世とはこんな生物に甘いものなのか、ククールの予想通り、 素晴らしく美しい赤毛の娘 が、水を汲みに来ました。




「たまには体を動かさないと太っちゃうもんねー…」

赤毛の娘は、と、 肉の付きすぎた胸部 をふりふり、ククールがよじ登っている木のすぐ下にある井戸までやって来て、水を汲みました。





「…!?」

と、彼女が水を汲んだ桶には、 輝くように美しい銀髪の青年 が映りました。




「…誰?」

木の上の美しい銀髪の青年は、 無駄にカッコよくポーズを決めて 言いました。

「やあ、美しいお嬢さん。オレは世界の恋人、全世界の美女の忠実なナイト、夜の月の放つ輝きよりなおも神秘的な銀髪…」

「パス!!」

赤毛の娘は、可愛い顔に似合わずキッツイ発言をして、その場を立ち去ろうとしました。




「ちょ…ちょっと待ってよ、ねえってば!!オレの美しい顔を見て、視線上げたじゃん、ねえ?」

「確かに最初は美形だったしちょっと気になったけど、やっぱ好みじゃない。」

「なんだよー、こんな美しい青年、ちょっと他にはいないよ?」

「だってあたし、あんたみたいにキザったらしいのは好みじゃないのよ、いいから離してよ。」



なーんてしながら、ククールはまんまと赤毛の娘に続いて宮殿の中に入り込んでしまいました。(ククールがあまりに美青年だったので、門番はついつい止め損なってしまったのです。ええ、本当に 見た目が良いとはなんと役立つこと なのでしょう。)





「ちょ…お母さーん?変な生物があたしにまとわりつくー!!」

いい加減うんざりした娘は、母親を呼びました。


「なんですか、ゼシカ。レイディたる者が、大声をだして…」



恐らく娘の母親であるらしい、 赤毛の美しい貴婦人(もちろん、彼女も胸部に雄大なる脂肪がたっぷりとついています) が娘の言葉に姿を現し、そして、ククールに不審そうな眼差しを向けました。




「失礼ですが、どちらさまで?」

ククールは、 おっ、年増だけどすげえ美人 と思ったので、 テンション溜め&魅惑の眼差し&スマイル

「ククールです♪」

と自己紹介しました。





「お母さん、こいつ絶対ストーカーよ!!はやく警備員呼んでよ!!」


「…何を言うのです、ゼシカ。この方がストーカーなどのようなものであるはずがありません。」

「…どーして分かるのよ。」

「こんな美しい方が悪い方であるはずはありません!!」

「…お母さん…」


赤毛の美人は 人を外見で判断する方 であったようです。


ともかく彼女は、優美に一礼するとククールに挨拶しました。




「ようこそ、この竜宮城へいらっしゃいました、お客人。わたくしはこの竜宮城の主、竜神のアローザと申します。こちらは娘のゼシカ。さ、まずはもてなしを受けて頂けますか?」

「もっちろんですっ!!」




かくして、 見た目の良さでまたも得した ククールは、マダム・アローザの指示により開かれた大宴会で、 タイやヒラメの舞い踊り を見物しながら、ご馳走を山ほどモリモリ食いまくり、心から自堕落な生活を送りました。






「ところでお客さま、わざわざこの竜宮城までいらっしゃったのは、どのような理由でしょうか?」

「え?あー…そういやそうだった、すっかり忘れてた。」

何しにここまで来たのかすっかり忘れ去っていた ククールは、ここでようやく本来の目的を思い出しました。



かくしてククールは(限りなく自分に都合の良い)打ち明け話をし、聡明ではいらっしゃるものの世間知らずな竜神アローザさまは、心からククールに同情なさいました。


「まあ、なんとお気の毒なこと。」

「でしょでしょ? オレなんにも悪くないのに 酷い兄貴なんですよー。」

「…あんたそれ、絶対脚色入ってるでしょ?」


賢明なゼシカ姫はツッコミを入れましたが、龍神アローザさまはお聞きにならず、さっそく命令を下して、海中の魚を集めました。



「この中で、魔法の釣り針を呑み込んだ者はいませんか?」


すると、その中の一匹の魚が(ちなみに名はヤンガスと言います)

「そういやアッシ、こないだから喉がチクチクするんでガスよ。」

と言いましたので、調べさせると、




魔法の海の幸の釣り針を手に入れた(ぱんぱんぱんぱんぱーん)





「さ、これをお持ちになって、お兄さまにお返しになって下さいな。」

なんと心配りのある方か、お手ずから釣り針を洗って下さった竜神アローザさまに、ククールはどれだけ図々しいのか、重ねて言いました。



「いや、オレ思うんスけど、 ここまで苦労して兄貴の釣り針を探してやった のに、なにせあの兄貴の事だから、まったく感謝しないと思うんスよ?やっぱほら、ここはいい機会だから、ここは一つ、 兄貴をギャフンと言わせて やった方がいいと思うワケで…ほら、そうでもしないと、あの人ってば感謝ってモノを知らない人だから、 ここは一つ、弟として心を鬼にして…」


「いいからあんた、さっさと返して来なさいよ。」


賢明なゼシカ姫はそう言ったのですが、 聡明ながら世間知らずな 竜神アローザさまは、ククールの発言をまともに信じ込んでしまわれたようでした。




「分かりました、ではわたくしの竜神としての力で、この釣り針に呪いをかけて、少しも獲物を取れないようにしましょう。更に、お兄さまが怒って攻撃をしかけてきたら、わたくしの名をお呼びなさい。 超強力な津波あなたのお兄さまをすこしばかり懲らしめてあげましょう。」




ヤリィ!!

ククールは邪悪に微笑みましたが、アローザさまはお気づきになりませんでした。(ゼシカ姫はしっかり気付きましたが)











さて、地上に戻ったククールはさっそくその呪いのかかった釣り針をマルチェロに返しました。

もちろん、竜神のかけた呪いは強力で、マルチェロは少しも獲物を取れなくなってしまいました。




かくして、 非常に正当な理由でブチ切れた マルチェロは、 その知的で広いデコに青筋の五本もブチ立て て、憎い弟を絞め殺すべく攻撃を仕掛けてきたのです。









「ふっふっふっふっふっふっふっふっふっふっ、ふが十で豆腐っ!!」

「…何?」


マルチェロにとっては意外なことに、弟は 師父譲りのつまんない洒落をかますくらい余裕綽綽 でした。



「兄貴…降伏するなら今のうちだぜ?」

「何を世迷言を!!」


マルチェロが斬りかかろうと(ちなみにマルチェロは漁師でしたが、剣の扱いもお手の物でした)すると、ククールは叫びました。



「竜神サマ、オレのハニーゼシカ!!ヨロシクぅっ!!」


「だぁれがハニーよっ!!」

マルチェロの目に、ククールが紅蓮の炎に包まれる光景とほぼ同時に、 超強大な津波 が自分に襲い掛かってくる光景が映りました。











ざぶどぶぅんっ!!










「はっはっはっはっはっはっはっはっはっは、はが十で鳩ぽっぽっ!!」

ククールはつまんない駄洒落を言いながら、焼かれたのは焼かれたのでダメージを受けたらしくベホイミを唱え、それでもエラそうに言い放ちました。



「いい気味だ兄貴めっ!!いっつもいっつも なんにも悪くないのに オレを苛めて!!大津波の中で溺れて苦しみのたうつが良いさっ!!んでもって、たっぷり反省したら、心から

『ごめんなさい、ククールさま!!もう二度と貴方を苛めませんから許してください!!』

って土下座したら許してやるっ!!」



なんと図々しい台詞でしょう。

ですが、そう言い放つククールの 勝ち誇った顔 は、さすが美形だけあって、 あたかも正義であるかのように見え ました。






「わははははははは… どうわっ!!」



美形らしからぬ声を出して、ククールは足首をつかまれて海中に引きずり込まれました。




「ぐほっ…ぐぼぼぼ…苦しい…ぐるじいっ!!」

窒息寸前で水面に顔を出したククールは、やっぱり後ろから羽交い絞めにされました。



もちろんそこには

「調子にのるのもいい加減にしろよ、貴様っ!!」

阿修羅のような形相の 兄がありましとさ。





「た、助けて…竜神サマ助けてっ!!オレ、オレ、兄貴に虐殺されるぅー!!」

水に漬けられて窒息させられかけたククールは、必死で助けを呼びました。



すると、その声を聞き遂げたのか、


すうっ

と波は引き、そしてそこには、竜神アローザさまと、ゼシカ姫の姿がありました。








「り、竜神サマー、そしてゼシカー!!」

図々しくもドサクサに紛れて ゼシカ姫の雄大な胸部に抱きつい て、ムチを食らったククールなどは無視して、竜神アローザさまは、恐るべきものを見るような眼差しで、マルチェロを見ました。




「まさか…あの大津波をまともに食らって、それでもこれだけ動ける方がいるとは…」

「…貴女が…竜神…か?」

もちろんマルチェロだってダメージは受けていましたが、それでも昂然と、彼は頭を上げました。








ずぎゅうううううううんっ!!

竜神アローザさまの胸に、弾丸が打ち込まれました。




ええ、何せ今のマルチェロは、まさに文字通り 水も滴るいい男 でしたから。












「うわ、コッチもイヤミそうな男だわ。ねーお母さん、この兄弟に関わんのやめて、もう城に帰ろうよ。弟はもちろんだけど、この兄の方も、 絶対、最良でもイヤミマン、最悪なら極悪人よ?」


「何を言うのです、ゼシカ。この方がそんな悪人のはずはありません…なぜなら、 神のごとき凛々しい殿方 ではありませんか?」


竜神アローザさまは 人を外見で判断する方 でありましたが、それはそれとして マルチェロの方がより好みにドンピシャリ であったようでした。(それに、マルチェロに自覚はありませんでしたが、彼はマダムキラーなのです)



ですが、さすがレイディだけあって、アローザさまは厳しいお顔でマルチェロにお近付きになると、仰いました。




「マルチェロさま、と仰いましたね。わたくしは海を統べる竜神、アローザと申します。」

マルチェロはもちろん紳士でしたので、ズブ濡れではありましたが、マダムに丁寧に跪いて、 アローザさまの御手にキスなどして 挨拶しました。


「長い間ご加護を受けていましたが、お目にかかるのはお初ですね、マダム。私、海の幸を司るマルチェロと申します。」


あんな異常事態があった直後にも関わらず、 動揺の欠片も見えない低い艶の有るバリトン に、アローザさまはよりクラクラなさいました。




「こちらこそ…しかしマルチェロさま、あなたはお見受けする限り、とても立派な方に見えます。ですのに、どうして弟御を虐待などなさるのです?」

「虐待?なんの話ですかな?」



かくして、竜神さまはマルチェロから、 正確な事の次第 をあらいざらいお聞きになりました。













「…わたくしを騙したのですね?」

竜神アローザさまは、 怒りでそのお顔を、その髪と同じ色に染めなさって ククールに詰め寄りました。



「だ、騙してないもん…ちょっと大げさに話しただけだもん…ね、竜神サマ…ねー、ゼシカー!! オレなんにも悪くないよねー!?」


ゼシカは返答の代わりに、その親指を、 首の前で、


すっ

と一直線に引き
ました。





「お待ち下さい、マダム。」

マルチェロが間に入りました。



「あ、兄貴ー!!やっぱ兄貴はオレの兄貴だね。 大事な弟を庇って…」



「マダム… 貴女の御手を汚す必要はございません…」





そしてマルチェロは、



ニヤリ

とても邪悪に微笑み ました。




















「大変ご迷惑をおかけしてしまいました…真に申し訳ございません。」

「いえいえマダム、全てあの 赤銀の生物 が悪いのです、貴女に一滴の罪すらもございましょうか。」


「いえ、そうは参りません。我等、竜神の一族は、恩には報い、過ちには償いを為すもの。そうでなければ、申し訳がたちません。…そうです、このゼシカはそろそろ嫁入り先を探さねばならない年頃なのです、先ほどは 何を血迷ったのか あの赤い生き物を婿にしようとも思いましたが、やはり、貴方さまの方がうってつけです。マルチェロさま、どうかゼシカの婿になって、竜宮城の主になって下さいませんか?」


唐突なプロポーズに、マルチェロも驚きましたが、何より驚いたのはゼシカ姫です。



「ちょっと待ってよ、お母さん!!勝手にそんなコト決めないで!!だいたい このデコはあたしの趣味範囲外 なのよっ!!」


「…」

マルチェロはゼシカ姫の言葉に、一瞬、 その秀でた額に怒りマークを浮かべ ましたが、すぐさま顔を取り繕いました。



「マダム、真に結構な仰りようですが、そこまで嫌がられるものを無理にとは…」

「これゼシカ!…それにわたくし、そろそろ竜宮城の統治に疲れてしまいました。ですから、マルチェロさまのような頼りがいの有る有能な方にお任せして…」



マルチェロはしばし思案顔になりましたが、しばらくして口を開きました。



「マダム…」

「はい、何でしょう?」

「失礼ですが、貴女の御夫君は?」

「まあ、わたくしはもう長い間寡婦ですわ。しかも頼みの息子にも先立たれてしまって、竜宮の統治はわたくしがするしかない身なのです。」

「では…失礼な申し出でしたらお許しを。マダム、 どうかマダム御自身が、私の求愛を受け入れて 下さいませんでしょうか?」


「えええええっ!?」

竜神アローザさまは、驚くばかりの大声で(ええ、でもさすがに淑女らしい大声ではいらっしゃいましたが)叫びました。

そして

「そ、そ…そんなっ…わたくしはもう、かなりいい年で、貴方より大分と年上でしてよ、マルチェロさま…?」

そりゃあそうでしょう、そもそも竜とは、何千年も生きる種族ですから。


ともかくアローザさまは、 ものすごく脈の有る拒絶 をなさいました。




マルチェロは、


ずい

とアローザさまに近寄ると、その碧の瞳で、 アローザさまの瞳をじっと見つめ ました。




「そ、そんな…そんなに見詰められると、わたくし…」



もぢもぢもぢもぢもぢもぢ…



「ちょ…お母さん…」

ゼシカ姫は、大事な母親が、 美丈夫とはいえデコい生物(悪) に陥落させられそうになっているのを見て、止めようとしましたが、しばらくして思い直しました。




「でも、そうするとお母さんてば、やっぱりあたしをこいつと結婚させようとするに違いないわ。それだけは絶対いや!!でも、さっきの赤銀の生物と結婚するのもヤだし、かと言って、あたしが竜宮城の跡継ぎにさせられるのも御免だわ…こう考えると、 いえデコい生物(悪) とはいえ、こいつに押し付けちゃうのがいいのかもしれない…少なくともやり手そうだし。それに、お母さんも 一目惚れ しちゃったみたいだし…」



「その…(モヂモヂモヂ)娘が賛成するかどうか分かりませんわ、マルチェロさま?」

「では、ゼシカ姫にお聞きしよう。如何ですかな、姫?」



「お母さん…サーベルト兄さんは言ったわ。

『自分の信じる道を進め』

って…だからお母さん、 自分の心に素直になって!!」


ゼシカ姫は、 とてもいい笑顔 で、そう返答しました。

















そして。

災い転じて見事逆玉に乗った マルチェロは、 如何なくその才能を発揮 し、竜宮勢力を飛躍的に拡大させました。




え?マダムとの仲はどうだったって?

そりゃあ、仲睦まじいものでしたよ、 だってマルチェロのすることですもの。












え?

ククールはどうなったかって?




なんとか息の有ったククールは、

「やっぱりオレの適職は猟師なんかじゃないよな!!」

と、非常にポジティブに考え、 スーパースターに転職 しました。




そして、やいやい言う兄のマルチェロがいない事をいいことに、 思う存分スポットライトを浴び思う存分女の子に取り囲まれて、 心から大満足な人生を送り ましたとさ。





ちなみに、彼の最期の台詞はこうです。




「いやあ、こんなに楽しい人生が送れるなんて、 やっぱオレはぜぇんぜん悪くなかった んだなあ。当たり前か、だってオレ 世界一、いや、宇宙一の美形 だもんなー!!!!」




終わり




2007/12/31




元神話を知らない人がいるかもしれないので、一応書いておきます、「海幸彦と山幸彦」のお話です。

もちろん山幸彦が今の今上陛下のご先祖な所から分かるように、元神話で勝利するのは山幸彦なのですが、この度、『古事記』を読み返してみた所 どう考えても山幸彦の方が悪人 だったので、抗議の意味も込めてこんな話にしてみました。

最も、冒頭部分その他はかなり元神話に忠実です。ちなみに元神話では、敗北した海幸彦は弟に土下座して
「これからは貴方の専属のダンサーになって、今回溺れさせられた様子を踊り継ぎます」
というかなり屈辱的な誓約をするのです。(ウチの兄なら、弟にこんなコトをするくらいなら間違いなくそのまま溺れ死ぬことを選ぶでしょう)
で、弟が敗北した今回の話では、弟をスーパースターにしてみました。いや、ククールならすぐさまスーパースターになれると思いますよ?間違いなく遊び人スキルは高そうですし、ミラクルムーンまで使える人ですから、踊りだってバッチリっぽいです。
毎回酷い目にあってるアホシリーズの愚弟ですが、今回は年の瀬ということもあり、珍しくハッピーエンドにしてみました。




さて、ここで新年までの宿題です。

元神話では、山幸彦と竜宮城の姫(今回はククールとゼシカの役)の二人は結婚し、子どもが生まれそうになります。
で、その時に姫が
「わたしは子どもを生むときに、“元の姿”に戻ります。ですから、絶対に見ないで下さい。」
と言って、産室に入ります。お約束どおり山幸は覗いてしまうと、中では12mはあろうかという巨大な鮫がお産にのたうっていました(ほら、海の世界の人ですから)
正体を見られた姫は怒り、結局、里に帰ってしまうのですが…

さて、ここでクエスチョン!!

今回の話でくっついたのはマルチェロとアローザ奥様ですが、さて、この二人が同じシチュに置かれて、アローザ奥様がマルチェロに
「見ないで下さい」
と言ったら、マルチェロはどうするでしょうかっ!?

見る?見ない?
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