こんな現代版兄貴は…ちょっとイイ

現代版パラレル兄弟話。



兄弟ケンカ

元拍手話。
この兄弟の共通点は、見た目と反比例して“おこちゃま”なトコだと思います。

けど、兄弟というのは、喧嘩をしながら人間関係を学んでいくものでありまして…









「オディロ教授、お邪魔致します。」

「オディロのじいちゃーん、歓楽街の美天使のアンジェロちゃんが来たよー。」


どこから見ても、ある意味カタギ(平凡な市井の住人)には見えない二人が、2LDKのマンションのドアを開けました。




「おうおう、いらっしゃい、マルチェロ、ククール。よく来てくれたね。」

出てきたのは、黒にゃんこ柄のやたらとキュートなエプロンを身につけた、とても小柄な老人です。

ひげで埋まったような顔には、小さいけれどもキラキラして、とても優しそうな目が輝いています。




「オディロ教授、つまらないものですが。」

マルチェロが差し出したのは、ケーキの箱。



「あのね、あのねー、オレが選んだの、オレ!!オレの職場(ホストクラブ)の近くでオープンしたスイーツ店が、すげー美味いってお客のおねーさんに教えてもらって…」

自己アピールの激しい、銀髪の青年を無視して、しかし強く押しのけ、マルチェロは言います。



「毎度毎度、気の利かないもので申しわけありません。」

「いやいや、お前こそ毎回気を使わなくてもいいのだよ。それに、ワシは甘いものは大好物でね。」

「でしょでしょ?」

「ククールが選んでくれたといのなら、喜んで頂くよ。さ、二人ともお上がり。」




中に入ると、先ほどからすでに香っていたイーストのいい香りが、更に強くなりました。


「じいちゃん、パン買ってきたの?」

「おお、いい鼻をしているね、ククールや。でも、買ってきたのではなく…」

「ご自身でお作りになられたのですか?教授。」


そういえば、オーブンからいい香りがしています。



「そうだよ、マルチェロや。なにせワシはパン屋の息子じゃったからの。たまに思い出して、作りたくなるのじゃ。じゃが、なにせこんな年寄りの一人暮らしじゃから、作っても食べるアテがなくてのう。食事は済ませて…」

「ありがたく頂きますっ!!」

マルチェロが、彼のキャラではないくらい嬉しそうに断言しました。




キャラ違うくらい嬉しそうに、にこにこと笑いながら、オディロ教授手作りパンを食し、そしてにこにこと教授と談笑する兄の姿を見ながら、ククールは微妙に渋い顔でした。


パンが不味い訳ではありません。本来ならば貧乏な学生の身でありながら、カリスマホストな彼は、お客のおごりで美味しいものを食べつけているので舌も肥えていますが、そんな彼の舌をもってしても十分美味しい手作りパンです。素人の技とは思えません。







問題はそんなところにあるのではありません。




(なんで兄貴、そんなに笑顔なんだよっ!!)

ククールは叫びだしたい気持ちを、

ぐっ

とこらえています。



正直、健全な青年が親を訪ねるよりはるかに頻繁にオディロ教授を訪ねる兄に毎回ひっついて来ているのは、オディロ教授が好きだからと言うより(もちろん好きですが)



大好きな兄が、自分の見てないところで、自分ではない人といちゃいちゃしているのが耐え難い


からなのです。




もちろん、オディロ教授はどっからどう見ても、兄とそれ以上の“生臭い”関係になるはずもない、超清純派のキュートなおじいさんで、兄はその教授に学費を出してもらって、しかも恩師で、更に就職先まで世話してもらっていると言う、恩人中の恩人だから…という事は分かっています。

分かっていますが…



(オレは兄貴の実の弟なのに。)

ジェラシーがメラメラします。



(オレの方が美形なのに)

勘違い対抗心まで擡げてきます。





「おお、マルチェロや。クリームがついているよ。」

「あ…これは粗相を…」

いつもの兄なら、絶対に、それこそ死んでもしないようなうっかりをするのも、オディロ教授に心を許しまくっているからだと思うと、ククールはムカついて仕方ありません。

そんなにムカつくなら来なければいいのですが、来なければ来ないで、兄がオディロ教授とどれだけ“いちゃいちゃ”していたか“妄想”してしまって、余計ムカつくのです。




まったく、仕方のない人です。












「そら、とってあげよう。」

オディロ教授は、なんの衒いもなくクリームを指で取ると、さらになんの衒いも無くそれを


ぱくり

と口に入れました。




オディロ教授にもちろん、なんの下心がある訳ではありません。

彼くらいの年になると、マルチェロのような30男も5歳児も、図体のデカさ以外は同じようなものですから。

彼がボランティアで行っている紙芝居の行き先の幼稚園児相手にだって、彼は同じことをしたでしょう。


その程度の事なのですが…




みしみしみし

ククールの手にしたカップが、そんな穏やかならぬ音を立てました。



「申しわけありません、オディロ教授。」

“ちょっと恥ずかしそうエロバリトン”が、オディロ教授に向けられます。



(畜生!!今の一連の動作、ネットのオークションにかけたら、いくらになると思ってるんだっ!!)

よく分からない怒りで、手にしたカップが、みしみしよりも更にヤバい音を立て始めました。




(10000Gは下らねーぞっ!!!)




なんの根拠がある話でも有りませんが、確かに


「ハリウッドスター並みのにナイスバディな、超絶エロセクシー大学講師のお兄さんのほっぺについたクリームを指でとって、それを口で舐めた上に、そのお兄さんに『申しわけありません』と恥ずかしそうに謝られる」権

をオークションにかけたら、なかなかすごい値がつくであろうことは、多分間違いがないでしょう。






一体誰がかけるのか、知りませんが。

















「あまり長居をしても申しわけありませんし、そろそろお暇することにいたします。」

その一言で、ククールの拷問のような時間はようやく終りました。



「おお、そうかね。もうそんな時間か。」

ちょっぴり残念そうにオディロ教授は言うと、




「実は、土産というのもなんなのじゃが…」

と、言って袋を差し出しました。





ぴんくといえろーの紙で手作業包装されている、そんじょそこらの女子中学生が


「すごーい、めちゃうまーい」

と感激しそうなラッピングテクです。

かたっぽにはマルチェロ、かたっぽにはククールと、ネームタグがついています。




「ありがとうございます。」

「中身、なに?」

触ると、柔らかい感触がします。




「それは、開けてのお楽しみじゃ。帰りにお開け。」

オディロ教授はそう言って、


ぱちん

とウインクしました。









帰りの車内。

ククールご自慢の真っ赤なセブン(マルチェロは「アホ丸出しの色だな」と酷評しますが)の助手席に、きちんとシートベルトをつけて座っている兄は、


「オディロ教授は、何を下さったのかなー♪」

彼のキャラではない、歌うような節回しでラッピングを開きました。






「おっ…スゲー…」

先に声を発したのは、マルチェロではなく、ククールです。





やや丸顔ではありますが、ブラックチョコレートできちんと描かれた髪の毛に、緑色のゼリーでつけられた瞳と…




それは紛うことなき、マルチェロの顔をした菓子パンでした。





「オディロのじいちゃん、器用ー。マジでパン屋やりゃいいのに。」

あまりに感激して、ついつい“恋敵”であるのに賛美してしまうククールです。



そして、赤信号で止まるや否や開けた、自分用の包みの中には、もろちん、ククールの顔をした可愛いパンが入っていました。





「な、兄貴。見てみて、オレの顔…」

それはそれとして嬉しかったので、兄に見せようとしたククールが見たものは、




「オディロ教授…」

嬉しさで顔を高潮させた顔、という、激しく希少価値の高い兄の表情でありました。












二人が住むマンションに帰っても、マルチェロのニコニコ顔は消えません。


そもそも仕事が忙しいというのに、彼は仕事机の上にパンをのっけて、にこにこしながらパソコンを叩きます。

その表情はあたかも、アンパンマンあんぱんを買ってもらった五歳児のごとき純真な笑顔でありました。




「…」

当然、ククールは面白くありません。




なにせそれが、夜まで続いたのですから…










「…パンがないっ!!」

珍しく、慌てて叫ぶ兄の声がしました。




そして、大股でククールの元へ向かう足音。




「ククールっ!!」

呼ばれたククールは、黙って顔を上げました。




もくもくもくもく

それでも黙々と動かす口元には、チョコレートペンで描いたっぽいパンの一片が…






「貴様っ!!」

マルチェロが胸倉を掴むのと、最後の一片がククールの喉へと吸い込まれていくのが、ほとんど同時でした。




「どういうつもりだっ!!!」

「…」

ぷいっ

と顔を背けるククール。


そして直後に、すさまじい罵声の応酬がはじまりました。




一応、状況を説明しておきますが、マルチェロはもう三十路。ククールも学部の三回生です

そして、ケンカの原因は、


「オディロ教授がせっかく手作りしてくれたパンを、貴様、勝手に食ったろう。」

ということ。




ここで、大学内でのマルチェロ先生の評判をリポートしてみましょう。


上司A「マルチェロくんかね。ああ、仕事も出来るし、論文もいい。逸材だね。ただ、愛想がないのがちょっとね。こう、人間味というものを感じさせないと、文学というものの真味は…」

後期課程生B「マルチェロ先生スか?いやあ…マジ怖いっスよ。こないだの博士論文検討会の時なんて、あの人からの指摘に、毎回切り刻まれた気がしましたもん。僕、あの晩、恐怖で一睡も出来ませんっした。次の検討会が今から怖くて仕方ないっス。」

ゼミ生C「マルチェロ先生ですか?はい、ゼミでお世話になってます。指導は厳しいですが、本当に熱心な方です。え?男性としてはどうかって?…いやあ…それは確かにかっこいいんですけど、何て言うか、家族とか恋人とか、そういう事からは遠い、無機質な感じがする人ですよね。わたしは今の彼氏で十分です。」

学部生D「マルチェロせんせえ?えー、めっちゃカッコいいよね?だからー、パン教の授業出てみたんだけど、何いってんのかぜぇんぜん、わかんなかったー♪あはは、あの人カノジョとかいんのかな?なんかカノジョ相手にブンガクロンとかしてそーだよねー。マッジメー!!バカな話してたら怒鳴られそー。」






「兄貴はいっつも、オレの気持ちなんて全然分かってねえんだよっ!!」

その言葉と同時に、ククールは拳をたたきつけました。


「やかましい、愚弟っ!!貴様の気持ちなぞ、分かりたくも無いわっ!!」

ついでにカウンターで入る兄の拳。




ついに兄弟喧嘩は、殴り合いにまで発展してしまったようでした。












「これはどうしたことだね!?」

オディロ教授の、珍しく大きな声に、二人は殴り合いでボコボコになった顔を向けました。



「…」

マルチェロは黙ります。



「…じいちゃんには、カンケーねえもん。」

ククールもそれだけ言って、黙ります。




オディロ教授は、手にした封筒をテーブルの上に置くと、二人の間にその小柄な体を割り込ませました。




「渡すと言っていた文献を渡すのを忘れていたので、訪ねてみれば…もう大人になった兄弟が、こんなになるまで喧嘩しておるとは…さっきまでは仲良く一緒にワシの家を訪ねに来ていたと言うのに、一体その後何が起こったのかね?」




部屋の中は、エラい事になっていました。

なにせ、標準サイズより大きな二人の成人男子が、本気で殴りあったのです。


電話機はすっ飛ぶは、テーブルの上のものは叩き落ちるは、果ては冷蔵庫まで倒れていました。

これはオディロ教授でなくとも、驚くのは当然でしょう。





「ね、マルチェロや。何があったのか話してみなさい。ワシで何とかできることなら、力になるよ。」

「…」

最愛のオディロ教授の言葉にも、マルチェロは黙り込むばかりで答えません。


「ククールや…」

「…」

ククールも、やっぱりなにも答えません。




当然です。

いくらこの兄弟だって、いざ頭を冷やせば、自分たちがどれだけアホらしい理由で大喧嘩していたか、気付いたのですから。




「ワシにでも話せないようなことがあったのかね!?」

ですが、もちろんオディロ教授はそんなこととはつゆとも知りません。

よっぽど大変な事態が持ち上がったのではないかと、心から心配し、






そして、夜は更けてゆきました。











で、翌日。


「あ、もしもしオーナー?アンジェロですけど、すいません、三日くらい休みます。え?困る?だって…顔腫れちゃって…いや、殴られたって、別に客の亭主に殴られたとかじゃなくてさ…」

お店に電話するククールと、





「では、講義を始める。」

顔の湿布の理由を聞かれまいとするように、気迫バリバリで授業をするマルチェロの姿がありましたとさ。


2007/11/3


改めて読み返してみましたが、本当にアホ丸出しな喧嘩だと思います。
しかし、ゲーム上のゴルドでのような殺し合いよりは何千万倍もマシですね、だって二人の間には“愛”があるものっ!!!!

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