こんな現代版兄貴は…ちょっとイイ

現代版パラレル兄弟話。
お題では完結したのですが、割と好評だったのと、DQ世界で兄を初詣などさせようものなら
「貴様、異端を信仰するかあっ!!」
と一喝されそうだったので正月スペシャルは現代版にしてみました。あの十二話より後のお話。




「正月とおこたと兄弟とじい様と真っ赤なスポーツカー」

《設定》

お兄さまのお名前はマルチェロ(都内某マンモス私大文学部常勤講師)。

弟さまのお名前はククール(一応、そこの学生。一応、学部は経営学部)。


ごく普通の兄弟の二人(弟はしかし、歌舞伎町で源氏名アンジェロで通用する、カリスマホストでもあります)、

ごく普通の家(弟が“優しいお客にプレゼントされた”億ション)で、

ごく普通の同居(火事でアパートを焼け出されてしまった兄を、弟がムリヤリ引きずり込んだ)をしました。


しかし、ただ一つ、普通でなかったのは…


弟さまは、お兄さまに“恋”をしていたのです♪









カタカタカタカタ




「なー、兄貴ー。腹減ったよう。」

「人は生きている限り腹は減るものだ。」

「なんか食いたいよう。」

「お節の残りも、年越しそばの残りも、雑煮の残りもあるだろう。好きに温めて食え。」

「兄貴…オレは兄貴のコト、心から愛してるから、兄貴の手料理だって、心から愛してるよ…けどさ、けどさー、もう正月料理は飽きたー!!」

「やかましい、正月三が日は正月料理をくうものだ。それが伝統というものだ。」

「なにさー、兄貴は言ったじゃん。『正月三が日は休むもの』ってゆったじゃーん!!なのに何さ兄貴ってば、めっちゃパソ叩いてシゴトしてんじゃん!!でんとーはどうしたよ、でんとーは!!」

「やかましい!!正月五日に緊急提出の入試問題なのだ!!私とて、正月早々、仕事などしたくないわっ!!くそう…教授め…なぁにが糖尿病の悪化だ…入院中でも、問題くらいつくれるわ…」


お正月早々、仲良しな兄弟は、新年早々、そんな和やかな会話を交わしていました。



「あーにき♪」

ククールは立ち上がると、キーボードを叩く兄の背後から抱きつきます。


「だったら、大学の講師なんてやめちまえよ。」

「ええい、邪魔だ!!…仕事を辞めて、どうするというのだ?」

ククールを肩で撥ね退けようとするマルチェロですが、ククールは離れません。


「も・ち・ろ・ん♪オレのトコに“永久就職”♪一生大事にするぜ、ハニー☆」

「死ね。」

短い拒絶の言葉と共に、マルチェロの鋭い手刀がククールの顔面に向かって繰り出されました。

ククールも、運動神経をフル活用して、ちゃんと避けます。



「なにさー、家もあって、収入もあって、しかも絶世の美青年だぜ?何が不満なのさー」

ぶーぶー、いい年をして小学生のように脹れるククールを完全に無視して、マルチェロは入試問題の作成に勤しみます。




「兄貴ー、シゴトばっかしてっともっと髪が薄くなっちまうぜー?飯でも食いに行こうよ、飯ー。オレがオゴってやっからさー。なー、兄貴ってばー…兄貴ってばー!!」

「…」




かたかたかたかたかた


ふてくされるククール。





みゃーみゃーみゃー


部屋の隅の電話機が、黒にゃんこ声で、着信を告げました。




「…はーい、どなたー?」

やや不機嫌な声で電話に出ると、



「おお、久しいのう、ククール…」

「オディロのじいちゃん!?」

「貸せッ!!」

ククールが避ける暇も有らばこそ、神速で電話機を奪い取ったマルチェロは、




「あけましておめでとうございます、オディロ教授♪」

ククールに向けたコトがないような、とびっきりの笑顔と、とびっきりの愛想のいい声で、電話対応しました。




「おうおう、あけましておめでとう。閉めてさようなら…マルチェロ。元気にやっとるか?」

「はい♪おかげさまで。」



「なにさー、そのオレに対する態度とはエラい違いな声はなにさー。」

ククールは文句を言いますが、マルチェロの耳にすら入りません。



「いやいや、お前のことだから正月から忙しいとは思うのじゃが…」

「何を仰います、正月三が日など暇なものです♪」



「うそつきー、兄貴のうそつきー!!忙しいって、オレの事かまってくんないんじゃんー!」

ククールは、自分に目もくれない兄に、再びくっつきます。



「そうかそうか、ならば、ワシの家にちょいと遊びに来んかのう?いやなに、年寄りの正月は寂しいモンでのう、お前の顔が…」

「はいはいはーい!!オレも行く、オレも行く!!絶世の美青年なククールも、オディロのじいちゃんち行くー!!」

「ええい、邪魔だククール。電話での会話に割り込むな!…オディロ教授、もちろん“私が”伺わせて頂き…」

「やだやだやだー!!兄貴と仲良く一緒に行くー!!」

「やかましい!!」



電話口で仲良く喧嘩する兄弟の声を聞き、オディロ教授は言いました。



「マルチェロや、ククールも連れて一緒においで。」

「…オディロ教授がそう仰るのでしたら…」

「わーい♪オディロのじいちゃん、オレの新車見せてやるからな。」

「それは楽しみじゃのう。なら、ワシもご馳走せねばのう。お前は相変わらず肉が好きかね?」

「うんっ♪」

「マルチェロや、今年もお前は律儀にお節を作ったのかね?なら、この年寄にも少し分けておくれ。」

「…お口汚しではありますが、教授がそう仰るなら…」

「では待っているよ、マルチェロ、ククール。」















二人がククールの運転する車で辿りつくと、オディロ教授は迎えに出てくれました。



「あけましておめでとうございます、オディロ教授。」

「オディロのじいちゃん、おけおめー。見てみてー、オレの新車ー♪」

「おうおう、カッコいいスポーツカーじゃのう。」

「でしょでしょー、セブンだぜー?しかもオレのイメージカラーな赤っ!!160KMとかヨユーで出せるんだ、すげーだろ? 」

「すごいのう。」

「…教授、ククールの経済効率無視な燃費の悪い車の話など後で構いません、はやく中にお戻りください。お体に障ります。」

「なにさー、兄貴ってばオレのロマンをー。オトコには、金よりロマンが大事じゃんー」


ククールは駄々を捏ねましたが、マルチェロはそ知らぬ顔で、教授をエスコートして中に入ってしまいました。





「ではオディロ院長、粗末なものですが、お節など…」

「ありがとう、マルチェロ。なんせ一人暮らしじゃから、買うのもアレでのう。かと言って、食わんのもどうかと思うし…」

「いえいえ、どうせ趣味で作ったような代物です。私一人の口にしか入らぬよりは…」

「オレも食ったよ?」

「院長のお口に、わずかながらでもお入れくだされば…」

「ありがたいコトじゃのう。…で、ワシが招いておいてなんなのじゃが、特にこれといってもてなしもなくてのう。とりあえず…お歳暮に貰った日本酒と、駅前に出来たケンタッキーで買ってきたパーティーセットと、さっき慌てて揚げた天ぷらしかないが、カンベンしてくれ。」

「いえそんなお構いなく。」

「オレ、脂っこいもの好きー♪」





かくして、兄弟とオディロ教授は、教授宅のおこたに入って、お節とケンタッキーのパーティーセットと天ぷらをつまみながら、一杯やることになりました。




「…そうじゃのう、二人とももう小さな子どもではないのじゃのう…」

美味しそうにチキンを貪るククールと、蓮根の天ぷらをぽりぽりかじるマルチェロを見ながら、オディロ教授は言います。


「んー、オレも兄貴も、絶世の美丈夫だけど確かに。」

「すいません、無駄に育ちすぎまして…」


そもそもオディロ教授一人用のこたつは、許容量を遥かにこえた容積で、かなりキチキチでした。




「まあ、もう酒の飲める年じゃから、当然じゃのう…ほれ、マルチェロ。も一杯。」

「恐縮です。」

「じいちゃん、オレもー。」

「おお、ククールも日本酒は好きか。ほれほれ、どんどんお飲み。」

「コタツはキツいけど、いいじゃん、キツキツのこたつー。めっちゃ“家族”って気がするよな。」

「そうかそうか…残念ながら、ワシだけ仲間はずれじゃのう。」

「何を仰います、オディロ教授。教授は私の父も同然の方…こたつで足が触れ合うのも、むしろ喜ばしいというもの。」

「兄貴ー、オレは、オレはー?実の弟のオレはー?」

「邪魔だ。」

オディロ教授の前ではありますが、お酒が入っていることもあって、いつもの毒舌が復活しているマルチェロです。


「なんだよ、オレの足が長いから仕方ねーじゃん!つーか、ンな事言ったら、兄貴だってそーじゃん。」

「これこれ、兄弟喧嘩はおよし。」

「違うもん、オレ喧嘩してないもん、兄貴がいぢめるんだもん。オレ、こんなにカワイイのにー。」

「おおよしよし、そうじゃそうじゃ、お前はカワイイのう。」

オディロ教授はククールの頭を撫でようとしましたが、頭の位置が高くて手が届かなかったので、かなり頑張って手をつっぱりました。


「へへへー。」

嬉しそうに撫でられるククールを、マルチェロは不愉快そうに見て、言います。

「いくつだ、貴様。」

「羨ましいんだろ、兄貴。」




オディロ教授は、幼稚園児レベルの口論を始める兄弟を、それでも温かく見守っていました。




「喧嘩出来るほど仲良くなって、良かったのう…」

そして、ぽつりと呟きました。



「…家族というものはのう、喧嘩して、喧嘩して、そして分かり合っていくものじゃ。」

「…」

「仲良くなるまでは、喧嘩出来るように、一緒にいる必要がある…そうして一旦仲良くなれれば、後は離れていても平気じゃろうがの。」

「…」

「一緒に住むようになって、良かったのう。」




マルチェロは、きつきつのこたつの中に入れた足を、所在無さ気にもじもじさせました。


「へへ…オレが一緒に住もうってゆったんだもんね…それに、オレは一緒に住んでても、住んでなくても、兄貴の事がずっと大スキだもんね。」

「…やかましい。」

「なにさ、兄貴。オレの事が嫌い?大嫌い?」

「…」

「これ、マルチェロ。正月早々、不吉な事を言おうとするでない。」

「はい…」

「好きだよね、オレの事、すごく好きだよねっ?」

「そこまで言っていない…嫌いではない、ただそれだけだっ!」


ククールとオディロ教授は、顔を見合わせました。



「相変わらず、素直でない子じゃのう。」

「いやいや、そこが兄貴のカワイイポイントだから。」

「こんな意地っ張りな子じゃが、よろしく頼むぞい。」

「モチロン♪兄貴はオレが幸せにするから♪」

「人を勝手にやり取りしないでくださいっ!!」



マルチェロは、ぐい、とぐい飲みを空けました。


だから、彼の顔が、彼のチャーミングなオデコも含めて赤くなっていたのは、お酒のせい、らしいです。















メーターが140KMに達した所で、マルチェロは言いました。


「わざわざあれだけの距離に、何ゆえ高速に乗るのだ。」

「だって、これってスポーツカーだから、40KMなんて公道速度で走ったら、エンジン痛めちまうし。いやあ、さすが正月の高速は空いてるんなー、ソーカイソーカイ。」

「…しかも今気付いたが、貴様、飲酒運転ではないか!?」

「やっだなあ、兄貴。ちゃんとじいちゃんちで一眠りしたからヘーキヘーキ♪」

「バカ、止めろ!!事故を起こすのは構わんが、死ぬなら貴様一人で死ね!!」

「高速で止めたら兄貴帰れないじゃん…あ、分った。じゃあ車止めて、もう一眠りしよう♪ここの高速降りたらラブホがあるから、そこで兄貴と一汗かいて、そんでぐっすり……痛いっ!!」

「やはり酔っているではないかッ!!さっさと高速を降りろ!電車で帰る!!」

「なんだよー、せっかく正月なんだから、姫初めしようよー。ねー、兄貴ってばー…痛っ!!」


マルチェロの一撃に、ククールのハンドルさばきが狂いました。


「うわっ!危ないぞ、ククール!」

「兄貴のせいじゃーん!」

「訳の分らない事を言い出す、貴様が悪い!!」

「オレの事、愛してるんだったら、セックスしたっていいじゃーん!!」

「誰が貴様を愛しているなどと言った!!」

「好きってゆったじゃーん!」

「嫌いではない、としか私は言ってない!!」




小学生並みの口論をする二人を乗せた真っ赤なセブンは、ただひたすら高速を疾駆します。


うっかり事故を起こしても、周りを巻き込む心配は少ない…そんなお正月の、ささやかな幸せの一コマでした。


2007/1/1


ククールがどんどんおバカに…(笑)とりあえずマルチェロが絡むと、ククールはバカになるようです。困ったもんだ。

オディロ様宅でのご馳走は…いろいろ迷いました。だいたい、DQ世界では肉好きっコなククですが、現代みたいな飽食の世の中では、あそこまで肉好きではない気もしました(美容を気にするホストだし)が、まあなんせ男の子だし、何よりオディロ様にしたら、マルチェロもククールもいつまでも小学生みたいなモンだろうので、ケンタッキーのパーティーセット(チキンとビスケットとサラダ)にしました。ちなみにべにいもは男の子ではありませんが、アレが出されると、お呼ばれされた気になれてとても嬉しい、安上がりな生物です。

そして、もう一つ迷ったのが“オディロ様は料理が出来るのか?”
どうやら独身生活が長いみたいなので、自炊くらい出来てもいいだろう…だいたい彼が料理できなかったら、きっと兄が通い妻してしまうに違いない!!それでは、ククールとの壮烈なバトルが始まってしまうっ!!
という訳で、“一人暮らしに困らない程度には料理が出来る”事にしました。

そして、この世界では料理が出来ないらしいククール…DQ世界では出来るのに。これも、“奴は器用だから、やる気になれば出来るんだけど、なんせコンビニとか発達してる世界だから、料理する必要がないので、出来ない”という理由で料理できないことにしてみました。

なんつーか…現代版の弟は、DQ世界で冷たくされている鬱憤を晴らすかのように、兄にラブアタックしてますな。

そして最後に、オディロ様。車で帰ることが分っている人に、お酒を勧めてはいけません!! inserted by FC2 system