こんな現代版兄貴は…ちょっとイイ

現代版パラレル兄弟話。



勇気を付与する者

『童貞聖者』では、バリバリの女嫌いの彼ですが、現代日本にいたらそうでもないような気もせんでもない…
というわけで、 兄貴、同窓会で現実にちょっとアセるの巻 です。









そもそもマルチェロは、 同窓会 なんて行事はあまり好きではありません。




「人間に必要なのは、過ぎ去った過去ではない、未来だ!!」

と、(過去に捕われているくせに)高言している彼は、過去の存在である高校の同級生と、わざわざ金を払ってまで会って、酒など呑みたくない…と、心底そうおもっていましたので、今まで一度も“同窓会”なるイベントに参加したことはありませんでした。




ええ、今回だって、ご招待のハガキこそ貰ったものの、行く気なんてまるでなかったのです。


それが…









「うわー、マルチェロー♪相変わらずカッコいいわねー。」

「…」

自分とおない年なので、もう三十路に突入しているはずなのに、ご時世か若い元同級生の女性にやたら馴れ馴れしく話しかけられながら、渋い顔で、決して裕福ではない財布から同窓会費を出しているのは何故かと言うと。









「おや、マルチェロ。同窓会があるのかね?」

諸般の望ましからぬ事情から同居しているククールの億ションに訪ねてきた、彼が心から敬愛するオディロ教授に、同窓会のハガキを見つけられたのが運のツキでした。



「同窓会などには、顔を出しているのかね?え、していない?…高校にいい思い出がないのか、マルチェロや。」

心底心配する瞳のオディロ教授に、まさか「はい、いい思い出はないです」とも答えられなかったのが、マルチェロの敗因なのです。



飛びぬけた容貌と才知を持つ彼が、無難な“その他一人”に埋没できたはずもなく、いろんな意味で目立ちまくっていた高校生活。

しかもその途中に、母親が限りなく事件に近い交通事故死を遂げてしまい、学業の継続すら危うくなった高校生活。



いろいろと暗い思い出がつきまとう青春の場なので、そんなに振り返りたくはなかったのですが、なにせ、その学業を継続させてくれた上にその後の面倒までみて、大学に進学させてくれたオディロ教授相手に、まさかそんな事は言えません。


よって、「今まで多忙で行けませんでしだが、今回は顔を出してくることにします。いやあ、懐かしいものです。」と、割と棒読みっぽい調子で、行くと返答してしまった訳です。










「きゃー、マルチェロだー。」

「ホントだー、カッコいいー!!」

「ねーねー、今、彼女いるのー?」


「…」



いい年をして、なにを小娘のように騒ぎ立てるのだ。

マルチェロは苦々しく、黄色い声をあげる元同級生を眺めました。




なにせ、高校時代のマルチェロは、今よりデコも狭く、まさに“鄙には稀な美青年”を地で行く美形っぷりだったのです。箸が転がっても恋したい女子高生たちに、ほっておかれた訳がありません。

訳がありませんが…なにせマルチェロですから、そんな女子高生と付き合う気にすらなれず、それどころかそんな彼女達をつとめて避けていた、そんな桃色のまるでない、ハイスクールライフをおくっていたのでした。




そして、十数年。


やっぱりそういう女子衆が苦手な彼は、

やはり、来なければ良かった…

と、高校時代より格段に広くなったデコに、不快の筋をつくりながら、そう思いました。











しばらくして。


いくら美丈夫とはいえ、元はといえば高校三年間はほぼ毎日眺めていたマルチェロにようやく飽きたのか、女性陣は女性陣同士でお喋りに興じはじめ、マルチェロはようやく解放されました。





「さて…」

かつての担任にも、礼儀正しく挨拶をすませた辺りで、なんと恐ろしいことに規定時間の二時間は過ぎ去っていました。

実に恐るべきは、ウーマンパワー。



「…まあいい、帰るかな。」

一応“同窓会には出席した”ので、オディロ教授への義理は果たしたはずです。

オディロ教授は、きっと…いえ、間違いなくそんな義理を期待してはいなかったのでしょうが、マルチェロ的にはもう十分でした。



だいたい同窓会というものは、特に親しい友達がいなければ、別に楽しいものでもないのです。

なにせ高校卒業以来、特に親しくしている同級生のいない、人付き合いの無茶悪いマルチェロなのですから…












「マルチェロ、二次会があるんだが、来ないか?」

聞き覚えのある声がしました。



「二次会?」

振り向いたマルチェロは、その視界の高さに相手の顔が入らず、浅黒い皮膚をした首と顎だけが見えました。




なにせマルチェロはモデル並みの長身です。

ほとんどの人間は、彼より頭一つは低いものなのに、そんな彼が見上げねばならない同級生としたら…




「トマーゾ、いたのか?」

マルチェロの問いに、高校時代と同じような笑みを浮かべた男は、


「いたのか、はご挨拶だな。俺が視界に入らないなんて…お前くらいなもんだぞ。」

さすがにかつてより大人の男になった顔で、答えました。




「さっきから、ずっと女の子達に囲まれてたから、話掛ける機会が見つからなくてな。今から空手部のメンバーで、二次会やろうって話になったんだ。やっぱ部長のお前がいないと、締まらないからさ。」

「私が部長だったのは、途中までの話だ。引退時に部長だったお前がいれば十分だろう?」

相も変わらず、可愛げのない…そして大人げのない発言をするマルチェロは、さすが象牙の塔の住人です。



「まあ、そう言わずに。卒業してから音信不通だったから、みんなお前と話したがってるんだ。」

そしてトマーゾは、部活で副部長だった時の世話焼きっぷりを相も変わらず発揮して、渋るマルチェロを二次会の焼き鳥屋へ連れて行くことに成功しました。





















「へー、大学のセンセか。さっすがマルチェロ、頭良かったもんなー。」

「別に。ただの常勤講師だ。」



相も変わらず、使わなくても良い愛想は、一切使わない主義のマルチェロですが、元空手部の部員達は、そんな元部長を邪険にすることもなく、和気藹々と会話を進めます。



というか、マルチェロは「高校にはあまり良い思い出はないし、友達といえる程の人間はいなかった」と認識していますが、事実はそんなことはありません。


そりゃ大変なことはたくさんありましたが、マルチェロのような人間が苛められることもなく(もっとも、よしんば苛められたとしても、彼が大人しくそれに甘んじるとは思えませんが)部員達はこの扱いづらいワガママで尊大な部長を、それなりに“友達”として認識していたのでした。



「ところでトマーゾ、お前は今、一体なにをしているのだ?」

焼き鳥でビールを飲みながら、マルチェロは問いました。


「お、やっぱこの話題きたな。なんだと思う、マルチェロ部長。ヒント、公務員。」

「公務員?」


マルチェロは、その形の良い眉を顰めました。




空手部時代から、その大柄すぎる体躯がマルチェロとは別の意味で目立ちまくっていたトマーゾです。

副部長として、試合でもなかなかの戦績を残していた彼は、確か三年の時には体大からの推薦入学の話すら出ていました。

だとすると…



「…自衛官か?」

マルチェロにしては平凡な回答でしたが、確かにあの体躯を生かせそうな公務員といえば、“闘う公務員”自衛官あたりが妥当と、みなが思うでしょう。





「ほらー、やっぱ部長すら、そう思うって!!」

言われてトマーゾは、ちょっと苦笑いしました。



「なんだ、違うのか?だとすると…」

「…公立幼稚園の、保育師だよ。」

「…保育師っ!?」


思いっきり驚いたマルチェロに、空手部メンバーが大爆笑しました。




「部長が驚いたよ、成功セーコー!!」

「…人をネタにするなよ。」

トマーゾは苦笑しましたが、それでもネタにするのは慣れているらしく、ビールを空けると口を開きました。



「今じゃ、幼稚園の先生だって、女性ばかりじゃないんだぞ?」

「ああ、まあ名称すら改正されたからな…しかし…保育師か…」

マルチェロは、ビール瓶が小さくみえる彼の大きな手や、どう考えても吊るしでは入手できないであろう特大のスーツを纏った、広い背中をしげしげと眺めました。


多分、勤務先の幼稚園のご近所では知らぬ者がいない程、目立ちまくっていることでしょう。






まあ、大学教員にしては美形過ぎる彼は、まるきり人の事をいう資格はありませんが。












「しかもさ、副部長って何気にケッコンしてんだぜ?」

「…え!?」

マルチェロは、先ほどよりは冷静に驚くと、グラスを持つその左手の薬指に、確かに指輪がはまっていることを認めました。




「元空手部で結婚してンの、トマーゾ副部長だけだよな。」

「しかも子どもが二人…いや三人目、生まれたんだっけ?」

「…」

トマーゾは、そこでグラスを置きました。




「…ああ…」

心なし…でもなんでもなく、顔に翳りがあります。


「え…その…娘か奥さんに、なんかあった…のか?」


トマーゾは、


ふるふる

と首を振りました。




「じゃあ…」

空手部面子は、聞いてはいけないのかな、と思いつつ、酒の勢いもあって、恐る恐る問いただします。





「嫁さんも、上の娘も、生まれたのも元気だよ…」


「なんだ、だったらいいじゃんか。親子五人…」

「いや、五人じゃなくて…七人、なんだ。」






一同は、しばらく沈黙し、そして同時に叫びました。





「七人ーっ!!??」





「七人て…お前と奥さんで二人で…まさか、奥さんの両親が同居とか…」

「いや、そうでなく、文字通り“親子七人”になったんだ…」




トマーゾは、酔いの勢いもあって、半泣きで言いました。




「生まれたのが、三つ子だったんだ…」

「…それはそれは…」




トマーゾが語るには、こういう事でした。


子どもは既に二人いましたが、女の子が続いていたこともあり、やっぱり男の子も欲しいと三人目をつくる決意をしてしばらく。

めでたく妊娠した奥さんと、出生前診断に出かけたところ、産婦人科医に


「双子ですね。」

とあっさり宣告されたとのこと。





「医者には

『どうします?』

って聞かれたけど、まさか今更

『だったらいいです』

とは言えないだろ…」


「…確かに…」




預金通帳と睨めっこし、実家に行って相談し、清水の舞台から飛び降りるつもりで四人の子どもを育てる決意をして、早、臨月。





「立て続けに二人の産声が聞こえて…俺が立ち上がったところで、医者が出てきて…

『お父さん、しばらくお待ちくださいね。もう一人の赤ちゃんがまだですから。』

って…もう一人って、もう二人出てきたんじゃないのかって聞いたら

『どうやら、影にもう一人赤ちゃんがいたようでして…まあ、出生前診断ですから、生まれてみたらこんなこともありますよ』

って…」




トマーゾは、うなだれると続けました。




「俺、俺、まだ三十なのに…五人の子の父親なんて…育てられるのかな…」




どうやら、同窓会に現実逃避に来ていたらしい彼に、空手部メンバーは口々に優しい言葉をかけました。


「いや…ほら…今は少子化社会だから、副部長みたいな家庭はむしろ有り難いことであって…」

「そうスよ、国家に貢献していると思えば、その…」

「トマーゾ副部長も、奥さんも、保育師だから公務員なわけで、ちゃんと産休も育休もとれるじゃないか。ほら、な!?」

「えっとぉ…今は確か、第二子からは出産補助金とか、お祝い金がけっこう出るとか言うし…」


慰めにならない慰めを口々にかける空手部面子を尻目に、マルチェロは全然別のことを考えていました。






(私と同い年のトマーゾは、もう妻子を立派に養っているのか!?)

微妙にピントのズレた感想ですが、まあその通りです。平均出生率が1.2とかいってるご時世に、子どもが五人ですから、世間相場の四倍は国家に貢献しているわけです。さすが公僕は違います。



(なのに私は、ククールのようなGNPの上昇に一切関与しないような生物と同居するばかりで、納税と教育以外の場面で、まるで役に立てておらん…)

なにせマルチェロの属する学者の世界というものは、平均結婚年齢がバカ高い上に、子どもナシの夫婦がゴロゴロしています(仕事が忙しすぎて、出産・育児をしている暇がないからです)オマケに彼の弟は、人口の再生産に負の方向に働く気満々なホスト。

なのでマルチェロは、今の今まで、結婚やら子育てやらの必要性をほとんど感じずに来たわけです。



ですが、今の今、マルチェロは“世間並み”の風にまともに吹かれ、何かに開眼しました。








「トマーゾっ!!!」

マルチェロはいきなり、やかましい焼き鳥屋に響き渡るような朗々たる声を発しました。




「…なんだ?」

半泣きどころか、さめざめ泣きモードに入っていたトマーゾも、虚をつかれて、呆然と顔を上げます。





「お前が、お前の奥さんと出会ったのは、どこだっ!?」

話題が話題なのに、まるで被告を問い詰める検事のような峻烈な口調です。

というか、話題と空気読まないにも程がある質問です。




「え…あ…いや…公務員採用試験の会場だけど…」

ですが、なにせ高校の頃から空気読まない&人の話を聞かないマルチェロでしたから、ある意味空手部員は慣れたものでした。


いえ、卒業してから十数年ぶりなのに、そこまで慣れた反応を返せる辺り、彼等はきっと、生涯の友となれるだけの素質を十分に持っていたのでしょう。

それだけの人々を一からげに「友といえる程の人間はいない」と認識していたマルチェロの、人間関係大事にしなさっぷりは相当のものですが




それはさておき。






「では、馴れ初めその他を、簡潔に述べてみたまえ、トマーゾ。」

「は、はあ…しかしマルチェロ、お前が人の馴れ初めに興味を持つなんて、変われば変わる…」

「簡潔に、と私は言った筈だ!!」

どこまでも偉そうなマルチェロです。




「マルチェロ部長って、コレで社会でやっていけてんのかな…」

「いや、でも学者って変わってるって言うから…」

「こんなタイプでも大丈夫なのか?コエーな、アカデミズムの世界ってのはよ…」


ひそひそと小声で話されていますが、マルチェロは聞いていません。

この、一つの事への集中力の高さが、彼の爆裂した諸能力の基であり、また、特異な人格の基でもあるのです。





「いや、そんな話すほど変わった事はないよ。俺が市役所に保育師採用試験の面接に行ったときに、ガチガチに緊張してる女の子がいてさ。可哀相に思ったから

『そんなに緊張しなくても、自然に面接を受ければいいんだよ。』

って声をかけたんだ。そしたらその子が、すごく嬉しそうな顔で俺を見て…しばらくして採用試験に受かって、配属先に行ったら…驚いたことに、その子も受かってて、しかもおなじ配属先だったんだ。で、

『奇遇だな。』

『あの時はありがとう』

とか、そういう話になって…まあ、付き合って、割とすみやかに結婚することになったという、まあ、そんな話…」



「職場恋愛というものだなっ!?」

なぜか詰問口調のマルチェロです。


「あ、ああ…まあそうかも。」

「職場恋愛のメリットはなんだ!?」

「え?メリット!?…まあ、同じ仕事だから、互いの仕事の大変さが分かりやすいってトコかな。アドバイスとか出来るし、してもらえるし…」

「成る程な、そのメリットは大きいかもしれん。」

マルチェロは一人で自己完結すると、頷きました。










「私はシングルであることの利点のみを見て、今の今まで独身を貫いていたが、ここらで一つ、家庭というものを持つということについても真剣に検討してみた方がいいかもしれんな。視野の固定は、学問に従事するものとして致命的な思考の硬化をもたらす。そうだ、職場か…」

かくして、自己完結した上で、ひとりでなにやら大長考に入ってしまったマルチェロの姿は、モデル並みの容姿とあいまって、焼き鳥屋には不似合いこの上ないオブジェのように見えました。













「この人が部長で、いくら若かったとは言え、副部長として支えてたお前ってエラいよな、トマーゾ。」

「え…そんなこと…は、あるかな、やっぱり。」

「ほら、いくら女の子は扱いづらいっつったって、マルチェロ部長ほどじゃないよ。だから、お前なら大丈夫、立派な父親として、立派に五人の子どもを育てられるさ。」

「そうかな…なんか俺、ちょっとだけ自信がわいてきたよ。そうだな、いくらヒネたり、変わったりしたとしても、俺と嫁さんの子どもなら、マルチェロ部長ほどにはならない…そんな気がするし。」

「そうだって!!何ほどのこたないよ。それに奥さんもめちゃいい女じゃん。きっとなんとかなるって!!さ、みんな、トマーゾの明るい未来にカンパーイっ!!!」






かくして、同窓会に姿を表すことで、一人の子沢山の不運な父親に勇気と希望を与えたとも露知らず、マルチェロは一人、長考を続けたのでした。




2007/8/13


ついに現代版パラレルにまで、捏造キャラが進出したよ(笑)
『童貞聖者』でも『王を殺せ!』でも、不幸で童貞な彼なので、現代版パラレルくらいでは人並みに幸せにかつ非童貞にしてあげたい…と思ったのですが、なぜか不運の影が漂うのは何故なんだろう?
まあ「不運」≠「不幸」なので、奥さんと娘達と一緒に、強く生きていって欲しいと思います。彼なら大丈夫です、多分。あ、トマちゃんの奥様のお名前は、アンジェリカさんとおっしゃいます。「なんでやねん!?」って方は、『童貞聖者』シリーズを隅から隅までご覧下さい。ついでに、「双子だと思ったら、三つ子だった」というネタは、身近に起こった実話です。笑い事じゃないけど、笑うしかないよね、コレって。

という訳で、現代版の兄貴は“ゲーム世界に比べたらまだ普通の神経”をしているので、いいトシをして彼女の一人もいないことに焦りを感じちゃったりする訳です。ほら、
「こいつにだけは負けないだろう」
って思ってる相手に負けたら、やっぱショックじゃん?
という訳で、兄貴にもようやく“恋愛せねば”という、ややピントの狂った目標が出来たわけですが…
それはまた次回のお話。 inserted by FC2 system