こんな現代版兄貴は…ちょっとイイ

現代版パラレル兄弟話。



軟体動物設置通過の怪

メインのお話では、大学講師のお兄さまですが、そんな彼だって、受験に四苦八苦した時期だってある筈。

というわけで、 頑張れ受験生企画「高校生兄貴、大学受験」の巻 です。









きーんこーんかーんこーん


「では、開始して下さい。」



試験官の声と同時に、マルチェロは解答用紙と問題用紙を開き、きちんと削った鉛筆を手にします。



(「『一言に奢侈の名を附して喝破する』ことが、なぜ『汝らは文明の沢に占ふの価値なしと叱責する』に等しいことになるのか、説明せよ」か…ふふん、中江兆民の擬古文ごとき余裕だ…)

うっかり邪悪に見えるくらいの笑みを浮かべ、高速ながらも端正な字で解答欄を埋めてゆくマルチェロの手にしたその鉛筆には、端正な美青年である彼には思いっきり不似合いな、キュートなタコさんの鉛筆キャップがはまっていました。




もちろん、マルチェロの趣味では有りません。

彼の心底敬愛する、オディロ教授からの陣中見舞い品でした。








「マルチェロや。お前は出来が良いから今更こんなものはいらんかもしれんが、それでもワシからの心ばかりの合格グッズじゃ。お前と、この大学の研究室で会える日を、楽しみにしておるぞ。」

そんな言葉と共に教授がくれたのは、天満宮の合格お守りと、タコさんキャップつきの鉛筆五本セット(同じ柄のペンケース付き)でした。







(英語の出来も、数学の出来も、手応えがあった。まして私は文学部、国語はもらったも同然だ。…オディロ教授、不肖マルチェロは、どうあってもこの大学に合格して、貴方の教えを受けますっ!!)


性別、年齢を問わず悩殺されそうな、熱烈な緑の瞳に見つめられ、そもそも赤い鉛筆キャップのタコさんも、心なしかさらに顔を赤らめたような気もします。








さて、マルチェロは順調に解答を進め、そして最後の古文に行き着いた頃でした。




(…しかし、何故、この鉛筆が“合格グッズ”なのだ?)

マルチェロはふと手を止めて、タコさんキャップのはまった鉛筆を、深い色の瞳で凝視しました。




(天満宮の御守りは分かる…天神様は学問の守護神だからな。だが、この鉛筆には、一体どんな真意が…)

マルチェロは、手にした鉛筆をためつすがめつして眺めました。





(ふむ…普通は鉛筆というものは、転がりにくくするために六角形であるが、これは五角形なのだな。何故だ?製造過程の都合上、五角形にすることは、無駄に手間がかかるだけではないか…)







マルチェロはしばし深く考え、そして、


ピンっ

と閃きました。





(おおッ!!もしかして「五角」と「合格」を掛けているのかっ!?)

ダジャレに死ぬほど疎いマルチェロにしては、鋭い閃きです。御守りの道真公のご加護かもしれません。



(成程っ!!さすが文学部教授、掛詞の要領で私に謎かけをなさったとは…)

多分それは“ダジャレ”であると思われますが、マルチェロはそうは思わなかったようです。





ともかく、謎が解けてややさっぱりしたマルチェロは解答の続きに戻ろうとしましたが、




(…だとすると、このタコのキャップにも、秘められた真意が存在するのか?)

彼の、凝り性な性格が頭をもたげました。




(しかし…タコの形状に、なにか縁起の良さが関係するのだろうか…)

マルチェロは、彼の良すぎる記憶力で、脳内を検索しました。




(蛸…頭足類八腕目の軟体動物の総称。体は頭・腕・足の三部から成り、各腕には吸盤がある…)

百科事典のように出てくるのが、また彼の恐ろしい所です。




(うーむ…吸盤で合格に吸い付けということか?)

違いますが、彼にしてはいいセンスした解釈です。天神さまの御守りは、相当効き目があるようです。




(それとも、墨を吐く事に何か関連があるのか?いや、煙幕をつくることと合格、または受験との間に、相関関係があるとも思えんが…)

マルチェロは再び、タコさんキャップを凝視します。



(鉢巻を巻いている…もしや、こちらが眼目かっ!?)

だんだん注目点がズレていくマルチェロです。











(もしかすると、日本語で考えたのが間違いだろうか。)

長考の末、マルチェロは大分、正解に近付きました。




(タコは英語でoctpus…)

そう、そこです!!




(確か、ラテン語で八を表すのが、頭部の“oct”だった気がするが…)

だから、どうしてそこで、無駄に博学さをひけらかして、核心から遠ざかるんですかっ!?







おそらく、菅家をズッコけさせた筈のマルチェロの思考は留まるところを知らず、蛸を十ヶ国語くらいで表記させながら、マルチェロはひたすら考え続けました。













マルチェロは素に戻り、時計を仰ぎました。




「…っ!!??」

マルチェロは思わず叫びそうになりました。

なにせ、時間はもう、ほとんど残されてはいなかったからです。




あわてて倍速で鉛筆を動かすマルチェロの顔は、タコさんキャップとは正反対に、青ざめていたそうです。


















オディロ教授宅。


「おおマルチェロや、試験はどうだったかね?え…ええっ?そんな、ぜんぜんダメだったって…一体なにが起こったのだね?」




そして




オディロ教授は電話を置いた瞬間、マルチェロに合格グッズを贈ったことを、心の底から後悔したのでした。





























が、まあ。

合格発表の日には無事、マルチェロの受験番号は掲示板に記載されていたという事ですよ。





これもまあ、“置くとパス(合格)”な、タコさんキャップのご利益…なんでしょうか、ね?


2007/2/20


最近はコンビニにも“受験生向けグッズ”が満ち溢れています。
今回のオクトパス(置くとパス)とか、キットカットならぬ「きっと勝ット」とか…

見るたびに「オディロさまが喜びそうだな」と思いますが、じゃあ、見るのがお兄様だったら…まあ、彼なら

「下らん」
と一笑に付して終わりでしょうね。そうでなかったら

「ゲン担ぎなど、実力のない者の痴れ事に過ぎんッ!!」
と一喝されて終わり…ともかく、彼とこの手の代物は、とことんまで相性が悪いようです。

ちなみに、本文中でマルチェロが解いている入試問題は実在します。さて、現代版マルチェロはどこの大学の何年度入学制なのでしょうか?分かった方には、豪華景品を…って、分かる人、いるのか? inserted by FC2 system