恋人としては最後のクリスマス









クリスマスパーティーが終わって、あたしはほっと一息をつく。


働き者のお母さんと、同じく働き者なメイドさんたちに後始末は任せて(もちろん、普段はちゃんと働いてるからね)あたしは少しラフなカッコに戻って、ククールの隣に座る。

けっこうおっきなパーティーだったから、さすがの彼も疲れたんだろう。シャレ者のククールも、動きやすそうなカッコに着替えて、ソファーによっかかってた。




「疲れた?」

「ん、疲れた疲れた。いやあ、暗黒魔城での戦闘くらいには疲れたね。」

なんて言いつつ、あたしに手を回すことは忘れない。


あたしもにっこり笑って、ククールにちょっと手をかけた。



「ま、“最後のクリスマス”だから、仕方ないね、ちょいとぐらい疲れても、さ。楽しまなきゃ。」

さらっと言い捨てたククールに、あたしは体を起こす。


だって、聞き捨てならないじゃない、“最後”なんて。




「…なにが“最後”なの?」

あたしの質問に、ククールはものすごく、さらっと、答える。




「オレと君との、恋人として、最後の、クリスマス。」


「どーゆー意味よっ!?」

あたしは、自分でもびっくりするくらい大きな声で、ククールを問い詰めた。



「今日のパーティーはなんのパーティーだか分かってたでしょっ!?あたしとあんたの、婚約披露を兼ねたクリスマスパーティーなのに…あんた、あたしにプロポーズしてくれたじゃない…なんで今更“最後”なんてゆーのよ!?」

あたしは、ちょっと涙目になっちゃうくらいに怒ったのに、ククールはその、いっそムカついちゃうくらいキレイな顔に、余裕いっぱいな笑みを浮かべて言った。




「だって来年のクリスマスはさ…オレってば君の“元カレ”になってんじゃん。なんせ…」

そして、その青い瞳であたしの目をじっと見つめた。




「オレは君の恋人じゃなくて、“ダンナ”になっちまってんだから、さ。」



「…」

あたしは、笑い出すククールを、スネた表情のまんま、睨んでやった。




「そんなに怒るなよー、ゼシカ。昔のエラいオッサンだって、言ってんだぜ。『結婚は人生の墓場である』『どんな恋でも一瞬で覚ますよい方法がある、それは結婚することだ』『結婚したまえ、もしそれが良い結婚なら君は幸せになれるし、そうでなければ君は、哲学者になれる』…」

「もういいわよ!!どーせ結婚したら、あたしは可愛くない“オバサン”になるって思ってんでしょ!?なによ…ナンパ男のくせに

『結婚しても、おじいさんおばあさんになっても、君とオレは永遠の恋人同士でいようぜ』

くらい言えない訳!?」



あたしがスネついでに言うと、ククールは答えた。


「だってゼシカってさ、オレがそーゆー“愛の囁き”な事言うといっつも、歯が浮く、って怒るじゃん。」

「場所を弁えればいいのっ!!場所を弁えればっ!!」

あたしが叫ぶように言うと、ククールは本当に可笑しそうに笑って、そして言った。




「はいはい、ゼシカお嬢様。ちゃんと弁えてやり直しますから、お付き合い頂けますか?」

「仕方ないわね、ちょっとだけよ!」

可愛くない返答をしたのに、ククールはちょっとスカした、でも魅力的な笑みを浮かべて、言った。



「オレの最愛のフィアンセ、ゼシカ。オレと君はもうすぐ結婚するけれど、結婚しても、オレがじいさんになっても、ずっとオレと恋人同士でいてくれますか?」

「あたしの最愛のフィアンセ、ククール。あたしと結婚しても、あたしがオバサンとか、おばあさんになっても、ちゃんとカッコいいまま、あたしの事、一番大事にしてくれたならね。」

「前から思ってたけど…ゼシカってさあ、ワガママだよな。」

「うるさいわね、女の子ってのは、ワガママがチャームポイントなの!!いいから、本当にそうしてくれる?」

「へえへえ、分かりやしたでガスよ、ゼシカさま。」

「だったら…誓いのキスして!」

「結婚式前なのに?」

「いいじゃない、いつ誓ったって。」

我ながら、今日のあたしってホントワガママだと思う。

飲みすぎたかしら…




「ま、オレも“ワガママな人”はタイプだけどね。」

けどククールは、そんな軽口を叩きながらも、あたしの肩に手をかけた。



あたしが、そっと、目を閉じると、ククールがあたしの耳に囁いた。


「キスの時に、なんで目を閉じるか、知ってる?」

「照れくさいから?」

ククールは、かぶりをふったような動作をして、あたしに答えた。



「目で見える上っ面に騙されずに、唇から伝わる心のぬくもりだけが分かるようにするために、目を閉じるんだ…」

そして、続けた。


「オレが今みてーな絶世の美青年でなく、ヨボヨボのじいさんになっても、オレのキスはぜってぇ変わらないと、女神さまと君に誓うよ。」


「あたしが今みたいに、キュートでセクシーな美少女じゃなくなっても、キスの時にあんたの瞳の裏側に写るのは、今のまんまの魅力的なあたしだって、信じるからね。」




あたしはククールを、ぎゅっと抱きしめ返した。




「メリークリスマス。」

「メリークリスマス…」





2006/12/25



桜里さまのサイトBETTORで配布されていたクリスマスイラに
「駄文つけていーい?」
とククっぽく可愛くお尋ねしたら、オディロ院長のように
「好きになさい」
とお答え下さったので、つけてみた駄文です。桜里さま、ほんとうに可愛いゼシカで大感激です。特にリボンと唇が、キュートポイントだと思います。


とりあえず最後に、愛し合う異母弟と、その未来の花嫁に、義理のお兄さまよりの贈る言葉。

「キスの時に、どうして瞳を閉じるか知っているか?瞳には、心の真実が写るもの。偽りの愛を囁いても、その偽りを悟られぬがために、また、その偽りからあえて目を背けるために、人は瞳を閉じるのだ。
汝、恋という名の欺瞞に酔う知れ者よ、目を開けよ!!」


なーんて言ってるから、お兄さまはクリスマスに一人なんじゃないかと思いますが…

ラストに不吉なオマケをつけてすみません。桜里さま、本当にありがとうございました。

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