救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

0 出港所で働く青年アダンとその祖母が語る話









「ばあちゃん、ただ今。ほら、みやげ。欲しがってた新しいストールさ。」

「まあまあ、アダン、ありがとよ。」

「なあに、今は船乗りがよく動いてて、ウチの出港所も儲かっててさ。給金が景気良く出たから何てことはないよ。」

「まあまあこの子は、親がなくって苦労してるって言うのに、いい子に育ってねえ…」

「ばあちゃん、涙ぐむなよ。親なんて物ごころついた頃にゃ死んじまってるし、何よりおれにゃばあちゃんがいて、ちゃんと育ててくれたじゃないか。」

「そうさ、あんなことさえなけりゃねえ、今ごろは…」

「またかい、ばあちゃん。海賊がばあちゃんとおれの両親のいた村を襲って、村ごと焼き払ったって話。もう耳タコさ。」

「ああ、ああ、酷い話さ。それもこれも、あんな女なんて迎えなきゃねえ…」

「はいはい、分かった分かった聞くよ。でも飯を食いながらでいいだろ?おっ、今日は肉か、フンパツしたな、ばあちゃん。」

「そうさ、あれはまだお前が赤ん坊だった時の話さ。あんたの両親も達者で、働き者だった…」




「平和な良い村だった。みんな働き者で、人が良くってね…まったく、人が良いにも程があるさね。何であんな得体のしれない二人連れなんて村に迎えちまったんだろうね。」

「だってよばあちゃん、二人連れの、女の方は身重だったんだろう?」

「ああ、ああ。もう見た目で分かるくらいのお腹してたよ。男の方が泣きそうな顔で一晩だけでも泊めてくれなんて言うもんだから、ついつい情に絆されちまってね。使ってない納屋まで貸しちまって…まったく、人の良いことさ。」

「二人は夫婦だったのかい?」

「はは、女の方はそうだって言ってたがね。誰も信じちゃいなかったよ。男は使用人丸出しの顔してたけど、女の方が着てたのは、大分垢じみちまってるとはいえ、品のいいもんだった。きっとどこかの奥さまが下男と駆け落ちしたんだってみんな噂してたよ。はは、『どこかの奥さま』が聞いてあきれるよ。」

「で、その夫婦モンを世話してやってたんだね、おれの両親と村のやつらは。」

「ああ、ホセとか名乗った男はよく働いてね。アタシらも重宝したもんさ。特にウチの畑はよく耕してもらってねえ…元は農夫なのかもしれないね、ま、その後は何してたのか知ったことじゃないけどね。おかげでまあ人のいいことに、あんな女の出産の介添えまでしちまうことになったよ。」

「エスメラルダ…だったかな、その女の名前。」

「よく覚えてるね、アダン。ああ、あんたは賢い子だからねえ、あんなことさえなけりゃ、学校にやって、今ごろは…」

「もういいから、ばあちゃん、みんないい人だし、給金も悪くない。おれは今の仕事に満足してるよ。で、エスメラルダさんはどうなったんだ?」

「…奇麗で品のいい女だったねえ。穏やかな波みたいな黒髪をしてた。間違いなく、『奥さま』さ、はは…。産んだ子も、母親と良く似ていたよ。真っ黒な髪をしてた。もっとも、真っ直ぐでくせのないトコは母親には似てなかったけどね。それ以外はそっくりさ。旦那を名乗るホセは、出産の間中、ずっと神さまにお祈りしててね。生まれてから顔を見るなり、

『姐さんにそっくりだ、そっくりだ』

って小躍りして、エスメラルダに窘められてねえ…」

「『姐さん』って言ったのかい?」

「ああ、そうさ。…まったく、アタシたちは人がいい。そんな光景見て微笑んでたんだからね…後であんなことが起こるなんて、思いもしないでさ。」

「…で、『あんなこと』が…」

「…そうさ。…アタシはあの晩、あんたがあんまり夜泣きするもんだから、あんたを抱いて、村のはずれの森の近くまで歩いてた。いやに犬が吠える日だったさ。あんたはようやく泣きやんで眠った。アタシがそろそろ戻ろうとした時だよ…ちら、ちら、と何かが光った。アタシは旅人でも来たのかと思ったさ。たまに迷い込む時があるからね。でも違った。火はあんまりにたくさんで…アタシは盗賊の襲撃だと思って、とっさに森に隠れたんだ。」

「そしてやって来たのは…」

「『悪魔』さ。」


「森の中から、あんたを抱いて息を殺してたアタシは、松明に照らされた顔を見た。真っ赤なヒゲをした『悪魔』をさ。たぶん、その赤いヒゲの男が親玉だろうね。他にも人相の悪いのが、足音を殺して何十人も村の中に入って行った。」

「そして…」

「そう、『悪魔』たちはアタシとあんたの村を焼き払った。」

「…ばあちゃん、どうしてそいつらはおれたちの村を焼いたんだ?たいして金があるわけでもなけりゃ、収穫の時期でもないそんな時に。」

「アダン、何度も言ってるだろう。『悪魔』は、あの赤い悪魔どもは、女房を取り返しにきたのさ。あのエスメラルダって女、どっかの奥さまみたいだった女は、あの悪魔の逃げた女房だったのさ。」

「ばあちゃん、何で分かるのさ。そのエスメラルダさんが言った訳でもなし。」

「はは、当り前さ。あの悪魔どもは、村を何も残さずに焼き払うと…そうさ、何も奪わなかった、ただ焼き払ったんだ。あんたの両親も、アタシの家も、畑も、ホセって男も、エスメラルダも。アタシはあんたを抱きしめながら、泣きながら、震えながら、ただ祈ってた。そう、あんたがまた泣きださないようにって。そしたら終わりだからね。そしたら、赤ん坊の泣き声が聞こえて…アタシはビクッとした。でも、アダン、あんたは泣いてなかった。」

「泣いてたのは…」

「…『悪魔』どもが引き揚げてきた。赤ん坊の泣き声はだんだん大きくなった。アタシは震えながら、赤い悪魔が松明に照らされるのを見たのさ。手に、赤ん坊を抱えてた。あの黒髪の赤ん坊さ。エスメラルダが生んだ、あの。」

「おれも赤ん坊で、そいつも赤ん坊ってことは、そいつも今、17なんだな。」

「ああ、もう17年も経つのかい、月日の過ぎるのは早いもんだね。でも、今でもあの赤い悪魔の顔ははっきりと覚えてるよ。墓に入ったって忘れられないね。悪魔だよ、間違いなく悪魔だよ、あの顔は。赤いヒゲをした、赤い悪魔だよ、おお、神さま!!」


「大丈夫かい、ばあちゃん。ほら、心配すんなよ、あれから17年も経ってるし、住んでる場所もぜんぜん違うし、何よりそいつはばあちゃんの顔を見ちゃいないんだろ?もう平気さ、その『悪魔』とは二度と関わることはないさ。」

「ああ全く、畜生が。あの悪魔も、ホセも、そしてエスメラルダも、アタシからあんた以外の全てを奪いやがったんだ。全く、呪わしいのはあの黒髪の赤ん坊も同じさ。名前なんて付けてやらなきゃ良かったよ。」


「ん?ばあちゃんが名付けたのかい?」

「アタシが取り上げてやったら、エスメラルダもホセも喜んでねえ。アタシに名付け親になってくれって頼んだのさ。」

「その話は初めて聞いた。何て付けたんだい?」


「ははは、思いだすといっそ笑えちまうよ。エスメラルダは言ったのさ。

『この子はわたしの希望です、わたしの救いです。』

って。だからアタシは、

『サルヴァドル』

ってつけたのさ。」


「サルヴァドル…『救世主』か。」


「まったくとんだ救世主さまだよ。結局、あの赤ん坊のせいで、アタシたちは皆殺しに遭ったって言うのにさ。」

「…『悪魔』に連れて行かれたサルヴァドルは、結局どうなったんだろうな。」

「さあね。『悪魔』の息子はそのうち悪魔になるだけさ。」

「…だとしたら、気の毒な話だな。」

「まったく、あんたも人がいい子だね、アダン。親の仇も同然じゃないか。さ、もう食事は済んだのかい?片付けるよ。…そうさね、あの子が希望なり、救世主になってくれるんなら、『悪魔』の親父をブチ殺してくれりゃいいのさ。それでこそアタシらの『救世主』サマってもんさね。」





2010/2/20



というわけで、唐突に始まりましたのは、今、べにいもが再ハマりをカマした 大航海時代外伝 のお話です。これ、1998年のゲームなんですよね、
「何今更そんな昔のゲームなんだよー」
と自分でも思いますが、ハマっちゃったモンは仕方がないのです。発売当初も狂ったようにプレイしていて、
「小説読みてー」
と思っていたのですが…気づいたらもうファンサイトもほとんどないし、仕方がないので自分で書くことにしちゃいました。

けっこう本気でかく(つもり)なので、もし「実はべにいもさんの書く文章が好きなんです♪」というとても奇特な方がいらっしゃいましたら、末長くお付き合いください。




ネタバレプレイ日記(感想)



目次









































このゲーム、開始早々に強制イベントをしばらく見なければなりません。(5分くらい)
で、
「え?このゲームは大航海時代で、自分は海賊王の息子をブレイキャラに選んだはずなのに、この知らない男の人とか女の人は誰?」
という疑問と戦わなければなりません。前作の2をプレイしていたらまだ、途中で出て来る赤髭の人とか黒髭の人とのつながりが分かるでしょうが、そうでないとさっぱりのまま話が進みます。

ま、その強制イベントのラストに赤ん坊の泣き声が入ります。プレイしていたら妹に
「DQ5してるのかと思った」
とツッコまれました。

…確かに、DQ5も冒頭、泣き声だよね。あれは産声だけど。

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