救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

1-2 サルヴァドル・レイスが語る話









「サルヴァドル!誰が出撃を許した!」

アイディン叔父貴の怒鳴り声は、覚悟してても、ハラワタにガツンと来る。

さすがオレたちアルジェ海賊の副首領だと、今更ながら納得する。

そういやガキん時は、この声で怒鳴られるだけで涙が浮いてきたなとか、どうでもいいことが頭に浮かぶ。


いや、オレはもうガキじゃない。

オレは腹にぐっと力を込めて叔父貴を睨み返した。


「すいやせん、あっしが手引きして…」

ホーレスが余計な口を挟む。

なんだよ、オレはガキじゃない。今回の出撃だってオレが計画して…


「てめえには聞いてねえ!!」

叔父貴がもっぺん怒鳴った。

そして叔父貴は、オレが睨むのも見ずに、ホーレスに向き直る。


「大体ホーレス、お前の仕事はこいつが悪さしねえように見張ってることだろうが!」

「すいやせん、全部アッシが悪いんでさ。」

だからホーレス、何でお前が謝るんだよ。


「おじ…」

オレが叔父貴に抗議しようとすると、ジョカが馴れ馴れしげなたしなめ顔で割って入った。


「まあまあ、副首領。早く引き上げましょうや、首領がしびれを切らしてますよ。」

叔父貴は、親父の名前にゃ弱い。


「む、そうだな。とりあえず引き上げだ。」

ジョカが、オレに意味ありげな視線を向ける。

クソ、誰が感謝なんかするか。

オレが今度はジョカを睨みつけると、


「ちゃんとついて来いよ!!」

もっぺん、叔父貴の怒鳴り声が飛んできた。


「ご心配なく、副首領。オレが付いてますよ。な、サルヴァドル?」

ジョカがいやに馴れ馴れしげに、オレの肩を叩く。

オレは振り払う。


「お前なんかが付いてなくたって、船くらい自分で動かせるっ!!」

「ああ、そうかい。じゃ、有能な船長さま、アルジェまでお迷いなく。」

どこまでもオレを小バカにした態度でそう言って、ジョカは叔父貴の後に付いて行った。




「何だよっ!!オレは初陣に勝利したんだぞっ!!」

ムカつく。

何でどいつもこいつもオレをガキんちょ扱いするんだ。


「まあまあ若、とりあえずは言うことを聞きましょうぜ、ね?」

「…」

オレが船首へ向かうと、ホーレスの

「やれやれ。」

という声が聞こえた。











「お頭が奥でお待ちです。」

アジトで、見張りの海賊たちがそう言った。

親父が奥で待ってるのは分かっちゃいるが、心と足が重くなる。


「いいですか、若。ここは素直に謝って…」

分かってるのに、いちいち言うなよ。ホーレスのおせっかいめ。


「あっ、若!待ってくださいよ。」

オレはホーレスを無視して、無理に早足に親父の所へと向かった。




「無事だったか、サルヴァドル。まったく世話焼かせやがって。」

「いたずらは程々にしていただきたいものですな。」

「しかし、困ったもんですな。このようなことをされてはほかの者に示しがつきませんぜ。」

入るなり、アルジェの四人衆の声が次々に飛んだ。


「確かに、あんな装備で記念すべき初陣に臨むとは、海賊王の息子にしては不甲斐ない。どうせなら首領の船をぶん取るくらいのことをしてほしかったが。」

いつもながらのトーゴの言葉に、オレは顔を上げる。

そうだ、トーゴの言うとおりだ。本当はオレだって親父のガレアスを、あの海上要塞を分捕って、戦艦隊あたりを撃滅したかったんだ。なのに、ホーレスが止めて…


「トーゴ、何をばかなことを!おれの言いたいのはそういうことじゃなくてだな…」


トレボールがヒステリックに声を上げかけると、オズワルドがイングランド人らしいスカした言い方で割って入る。


「今回は、相手が商船隊だったからこの程度で済んだのだ。もし、あれがシャルークやオスマンの艦隊だったら、御曹司の命はなかった、違うかな?」

しん。

オズワルドの冷静な言葉に、他のヤツらも黙りこむ。


そこで、叔父貴が叫んだ。


「とにかく!今後こんなことのないように、厳重に見張りでも付けねえとな。いいか、ホーレス。二度とサルヴァドルに勝手な真似させるんじゃねえぞ!」

クソ、このままじゃしばらく海には出してもらえないかもしれない。

このまま黙ってられるかよっ!!


「待ってくれ!どうして海に出ちゃいけないんだ。ジョカなんか、もう艦隊まで組んでるじゃないか。オレはあいつと歳だって変わらない。船も乗りこなせる、腕にも自信がある。黙って船を使ったのは悪かったけど、海賊が海賊らしいことをして、何がいけないんだ!」

オレが訴えると、アイディン叔父貴が、親父の脇から大股で来て、オレの胸倉を掴んだ。


「てめえ、まだそんなことを…」

叔父貴の眼光は本気で鋭いが、オレもここは負けちゃいられない。

ブルっちまいそうな心臓を必死で押さえて、オレも叔父貴を睨み返した。




「ならばサルヴァドル、お前に船を一隻くれてやろう。」

親父の声がした。


「じゃあ…」

オレが聞き返す前に、叔父貴がオレの胸倉を掴んだ手を離して叫ぶ。


「いいのか兄貴?こいつはまだ、見たとおりのひよっこだ。船をやるのは、アルジェでもうしばらく鍛えてからのほうがいいんじゃねえか?」

叔父貴の反論に覆いかぶさるように、トレボールも口を挟む。


「お頭!あっしも反対ですぜ。今、こいつに外をうろちょろされたんじゃ、危なっかしくてしょうがねえ。」

「私も同感です。サルヴァドルを今、戦線にあげるのは酷ですな。サルヴァドルを海に出すのは、シャルークと決着をつけてからではなかったのですか?」

オズワルドも叔父貴とトレボールに賛成し、雰囲気がそっちへ傾きかけたところで、親父がまた口を開いた。


「俺の決定に不満があるのか?」

しん

親父の声は低いだけで大きくはなかったが、その場を一瞬で黙らせた。




「いえ…お頭がそう言うならあっしは何も…」

トレボールが一瞬で親父に尾を振る。


ゴスは黙ったまま、ゆっくりと頷く。オズワルドは、命令ならば、と少し不服そうに頷いた。


「はっはっは、結局、サルヴァドルのワガママが通ったなっ!」

トーゴが太鼓腹をゆすりながらオレの隣にやって来た。


「というわけだ、サルヴァドル。よかったな、しっかりやれよ。」

トーゴは嬉しそうにオレの背中を力いっぱい、二度、三度、ばしばしと叩くと、いの一番に部屋を出て行った。


「やったぜ、ホーレス!!これでオレも自由に海へ出られるぜ!」

オレは、さっきから心配そうに状況を見守ってたホーレスに言った。


「よかったですね、若。」

ホーレスも、ほっとした顔でオレに言う。

そうだ、これでオレも一人前の海賊だ。

そうだな、まずいの一番に…


「ただし条件がある。」

親父の低い声が、オレの湧き立った心に冷や水を浴びせた。


「条件?何だよ、親父。」

「お前もそこまで言うのなら、自分の力でのし上がれ。一人前の海賊としてそれなりの成果をあげるまではここに戻ることは許さん。」

ホーレスがまた、心配顔になった。


「あの、お頭。でしたらアッシは…」

親父はホーレスを一睨みした。


「副官にホーレスをつけてやる。船は造船所だ。早々に支度をしてここを出ていけ。いいな。」

「はいっ!!喜んで若を補佐しやすっ!!」

ホーレスは嬉しそうに、オレの手を握り、何度も揺さぶった。





2010/2/20



ゲーム台詞を積み重ねていったら一話分になった。



今回の語り手:サルヴァドル・レイス
…この話の主人公。アルジェの海賊王「赤髭」ハイレディン・レイスの息子。17歳。さらさらの黒髪(セミロングくらいはある。てかもっとあるかもしれない)を一つくくりにしている、非常に美少年。父を越える地中海一の海賊になることを目指しており、同年のジョカ・ダ・シルバを一方的にライバル視している。クールで自信家の反面、女性とまともに話せない…というより、女性とまともに向かいあえない。属性(このゲームでは登場キャラに「善」「中立」「悪」の性格づけがある)は「悪」。
以上が公式設定。個人的見解としては、クールというより、大人ぶりたいガキんちょ。自信家というよりワガママ。特にホーレスオカンにはワガママばかり言っている。だからなのか、ゲーム中でも実年齢よりガキんちょ扱いされることが多い気がする。あと、天ボケかつ、後半ではツンデレ度が上がる。




ネタバレプレイ日記(感想)

   

目次









































ここらへんはイベントなので自動的に進むから、あんまり。
でも改めてゲーム台詞を打ち込んでみて気づいたこと。

トーゴさんはいい人。
トレボールはかなり小物臭いが漂っている。
オズワルドはさすがイングランド人、スカしている。
そしてゴス、ほんと喋らんね(まあ、寡黙な大男設定だからなんだけど)

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