救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

1-5 トーゴ・グリマーニが語る話









「ついにサルヴァドルも海賊になっちまったか…」

酒場でラムをちびりちびりやりながら、俺はしみじみと呟く。


「海賊王の息子が海賊になって、なんでしみじみすんだよ、トーゴ?」

ジョカがそう言って、ラムを一気に呷る。


「まったく、酒はもっと味わって飲めよ、ジョカ。」

「ラムなんてお上品に飲めるかよ。俺たちゃ海賊だぜ?」

ジョカはそう言って、テーブルの上にラムの空瓶を次々並べていく。


「…お前も、大きくなったな。」

俺が言うと、ジョカは呆れたような顔になる。


「やめてくれよ、俺はもう17だぜ。」

「サルヴァドルと同じか…」

ジョカの顔に、不満そうな色が浮かぶ。


「ま、年は一緒だな。でも、あいつとは経験が違うぜ。俺はもう2年も前から海に出てるし、今じゃ戦艦隊だって相手に出来る。って言うか、あさってには一緒にイタリア戦艦隊を叩き潰しに行くじゃねえか、なァ、トーゴ?」

「確かに、サルヴァドルと同い年とは思えねえな。お前は背も俺よりデカくなっちまったし、肩幅だって広い。」

俺は、俺より目線が高くなっちまったジョカの、日焼けした顔と、そして日焼けしても光るような金髪を眺める。

挑発的な蒼灰色の目は、こいつと出会った時と同じだ。


「ついでに、美男子になったな。」

「へっ、今更気づいたかよ。」

通った鼻筋に、短く刈った金髪、そしてこの瞳の醸し出す危険な匂いに弱い、海の男好きな女も多いだろう。


「そうか、サルヴァドルと同い年か…」

俺の言葉に、ジョカは不満そうな顔をした。


「サルヴァドルのことばかりだな。そんなにあいつが心配か、トーゴ?」

「そりゃあな。俺はあいつが赤ん坊の頃から知ってる。おしめだって換えたことがあるくらいだ。」

「は。でもトーゴ、お頭の前で、サルヴァドルを海に出すのに賛成した方なんだろ?」

「早く海賊になりたがってたことは百も承知だったからな。が、いざそうなっちまうと、何か心配でな。海じゃ、自分だけが頼りだからよ。あいつで大丈夫かと…」

「ふん、サルヴァドルにはホーレスがいるさ。あの過保護なお守役が、よ。」

「まったく、ホーレスもなあ…どこまでもサルヴァドルを甘やかすから困ったもんだ。」

「だからあいつはいつまでもガキんちょなのさ。この世じゃ『自分だけが頼りだ』ってこと、身に染みりゃあいい。」

俺は、ジョカがサルヴァドルについて語る時に、どうも険のある言い方になるって、とうに気付いてる。

賢いこいつのことだ、ハイレディン首領や、アイディン副首領の前じゃ口には出さねえが。


「ま…気持ちは分かるがな。」

まだ17とはいえ、ジョカみてえな人生送ってきたら、サルヴァドルに対して複雑な気持ちを持ってしまう気持ちも分からんでもない。

分からんでもないが、サルヴァドルだって…な。


「まあジョカ、海に出たら男は成長するさ。サルヴァドルだって、そのうち立派な海賊になる。」

俺の言葉に、ジョカはまた一瓶のラムを空けた。


「だと、よろしいのですが、ねっ、と。おいオヤジ、勘定だ。」

ジョカは立ち上がった。


「もう上がりか?」

「女買いに行くのさ。」

「ここんトコ毎日だろ、若いとは言え、お盛んだな。」

「酒と女は海賊の主食みてェなモンさ。おっとオヤジ、トーゴの分も持っていきな。トーゴ、今日はオゴるぜ。」

ジョカは景気良く、金貨をバラ撒いた。


「ったく、景気がいい。」

「お頭から前金貰ったからな。海賊が金貯めてどうするよ。」


「女遊びは結構だが、気をつけろよ。最近色街じゃ、妙な病気がはやってるって言うぜ。」

「病気なんて俺にゃ伝染りゃしねえよ。何より、太く短く生きてこそ、海賊だろ?」

ジョカは、均整のとれた体を翻した。


「じゃあな、トーゴ。また明後日。」

軽く手を上げて、酒場から大股で出て行く。

酒場のオヤジが俺に歩み寄った。


「ジョカさん、最近儲かってるみたいですねえ。」

「ああ、アルジェ海賊じゃ、期待のホープだからな。あの若さであそこまでのスゴ腕、そうはいない。」


「赤髭の旦那も期待されてるって聞きましたよ。」

「だ…な。」


「何せ、15の年から船貰ったのはジョカさんくらいのモンだって言うじゃありませんか。」

「…」

確かに、あの冷徹非情のお頭には珍しく、ジョカには相当目をかけている。

息子であるサルヴァドルより、よっぽどだ。

そして、ジョカもその期待に応えているように見える。


「…心配だ、な。」

「は?」

オヤジが不思議そうな顔になる。


「いやいや、ジョカの話じゃない、海賊として旗揚げしたサルヴァドルの話さ。」

「本当ですねえ、サルヴァドルさんも立派な海賊になってくれるといいんですけどねえ。何せ、このアルジェ海賊の跡取り息子だ。」

「…やれやれ。」

「…は?」

俺が首を振ると、オヤジがまた不思議そうな顔をした。


「どうも年を取ると、余計なこと考えちまって、いかんな。」

俺が首を振ると、オヤジは心得たという顔をした。


「そういう時は美味いもん食いながら酒飲むのが一番でさ。肉が焼けたトコですよ、トーゴの旦那。」

俺の鼻に、美味そうなにおいが飛び込んできた。


「こりゃあ…たまらんな。」

「でしょう?ジョカさんからお代金は頂いてますし、何よりトーゴの旦那がお相手だ、好きなだけ飲み食いしてって下さいよ。」

「また、この腹がデカくなっちまう。」

俺は、若い頃の何倍かに膨れ上がった太鼓腹を撫でた。


「いいか、俺だって若い頃にゃジョカくれえ細身の美男子で…」

「はいはい、トーゴの旦那に一番に肉をお届けしな。」

「ま、いいか。節制から自由でいるのも、海賊らしいこった。」

俺は肉にかぶりつき、極上のラム酒を舐めた。

確かに、極楽だ。

海賊なんて因果な人生選んで、41まで生きてきた男にしちゃ極上だ。


「17か…若いなあ…」

ジョカ、そしてサルヴァドル。

二人の17歳の海賊のことを考える。

これからのアルジェ海賊を支えていくはずの、若い二人のことを。




「若い若いって、俺も年食ったもんさな。」

そう思うと、笑えた。





2010/2/27



今回の語り手:トーゴ・グリマーニ
…アルジェ海賊四人衆の一人、41歳。「偉大なるバリエンテ」トーゴ。下膨れで二重顎、多分、体型もそれに準じて太鼓腹。なのにくりんとして可愛らしい茶色の巻き毛と、きれいな目の持ち主。ざっくりと大らかな人柄で、首領ハイレディンの息子であるサルヴァドルにも遠慮なく口をきく。対外的には強面(まあ海賊だから)だが、身内には心優しく、海賊デビューしたサルヴァドルにシミター(半月刀)をくれたり、気さくだが腹黒オーラ全開のジョカにも慕われていたりする。船乗りとしても海賊としても優秀。
以上が公式設定。個人的見解としては、海賊だけあって個性的な人たちの中での調整役(交渉技能持ちだし)で、場の空気を和ませるのが得意だと思われる。かなり要所要所でツボを押さえたトークをしてくれる人、多分、女性からもモテると思われるほめ上手。ある大航海時代外伝のファンサイトでは、「二重顎だろうが太鼓腹だろうが、カッコ良い人はカッコ良い」と言われていた。うん、その通り。でもきっと若い頃は美形だったんだ(顔立ち自体は整っていると思う。中年太りしたんだね、多分)…と勝手に思っておく。

ちなみに、大航海時代は、コロンブスが西インド諸島で「発見」した(とされる)梅毒が世界に伝播した時代でもあります。コロンブスの西インド諸島到達が1492年、日本での梅毒症例の初確認が1512年と、鉄砲より、キリスト教より、伝播が速いっ!!(20年で世界を一周しています)
…人間の「性」という根源的な物に対する弱さを意図せずして表してますね。

というわけで、コロンブスの出身地であるイタリア半島に上陸した梅毒は、フランス軍によってフランスにお持ち帰りされ、そちらでも多くの犠牲者を出しています。もちろん、一番危険なのは港々を飛び回り、女関係に派手な船乗りであります。

ジョカ、人ごとじゃあないぞ?




ネタバレプレイ日記(感想)

   

目次









































ここまでがOPイベントで、こっからようやくプレイヤーが自由にゲームを楽しめます。
ですが、海に出る前にうろちょろすると、いろんな台詞が聞けて楽しいです。が、時には楽しくない台詞もいくつか。

船の準備をしたり、いろんなことをしていると気付いたら翌日になっていることもあります(このゲームは建物の中に入ると時間が過ぎる)
で、翌朝に海賊アジトに入ると、ジョカがお出迎えしてくれて、こんなことを言います。

「よう、お早いお帰りだな。もう音を上げたか?」

ものっすごいムカつきます。
特に「お早い」「お帰り」と、ムダに丁寧語を繋げてるあたりが、チョームカつくーっ!!

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