救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

10-1 リオーノ・アバンチュラが語る話









前略。

めでたく「脱童貞」を決意したサルヴァドルのために、オレたちは快楽の街オランまでやって来た。

もちろん、他の航海士連中はそんなコトとは露知らねえ。

戦勝記念に酒池肉林して来いって金の袋渡しながら言われてんだ、今頃はどこかでしっぽりとお楽しみ中だろうぜ。


「さぁて提督、どんな女がいい?提督と同じ黒髪かい?それとも定番の金髪?ここらにゃイタリアの金髪女がたくさん出稼ぎに来ててね、ナポリの赤みがかった金髪といやあ、北欧の天然金髪とは違ったアジがあるもんだぜ。」

「…」


「アンナみてえな赤毛は好きじゃねえのかな?赤毛の女は情熱的だぜぇ?ちょいとこじらせると怖いけどな。でもまあ、一晩限りの恋ってんなら、それも悪くないかもな。」

「…」


「あー…そうだよな、まだ女の子の好みも出来てねえんだよな?えっとだな、男ってのは結局母親と同じような女が好きになるって話だがよ、提督のオフロクってのは…」

ゴホン。

オッサンの大きな咳払いが聞こえた。

どうも、提督の母親に関した話は、触れちゃいけねえトコらしい。


「オッ…ホーレスさんだよな。提督は黒い肌がお好きかい?ここは北アフリカだからね、黒い肌した大柄の姉ちゃんだっていっぱいいるぜ。」

「…」

「ねえ提督、少しは好みを言ってもらわねえと、オレも探しようがねえんだけどさ。」

「…女がいっぱいいる…」

「…そりゃ、歓楽街ですから。」

「なんであんな胸丸出しみたいな女がいっぱいいるんだ!?」

「…そりゃ、歓楽街だからじゃないですかね?」

あんたは何をしに来たんだ?

ついつい、そう言いたくなる。


乳丸出しみてえな煽情的なカッコした姉ちゃんがいっぱい、というのは、海賊として目じり下げたり鼻の穴膨らましたりするトコであって、提督みたいに屠殺場に曳かれてく子羊みてえな顔するトコじゃねえと思うんだ。


「ほ、ホーレス…」

だから、そんな泣きそうな顔でオッサンに縋るなっての。

あんたは女を買いにここに来たんだろうがよ。


「へえへえ、そんなお顔をなさらねえで下せえよ。アッシが付いてやすから、怖くありやせんからね。」

オッサン、あんたは提督のオフクロかっ!!

ついつい言いたくなるが、そうだって頷かれても反応に困っちまうから、オレは止めとく。


「そこ行くお兄さんたち?」

また、街娼に声をかけられた。


「どの女にするのか選びかねてんなら、アタイにしときなよ。アタイの舌使いはオラン一だけど、お兄さんたち、みんないい男だから安くしとくわよ。」

街娼の視線が一巡する。


「要るならトモダチ呼ぶわよ。それとも3人仲良しなら、みんな一緒でもいいケド?トクベツ料金は払ってもらうけど…」

「みんな一緒?」

提督が街娼の眩しい乳間から目を離して、オッサンに聞く。


「ホーレス、『みんな一緒』って、何をどうするんだ?」

「やあ姐さん、いい女だから残念だが、またな。」

オッサンは提督を抱えるようにして、その街娼の視界から離れた。




とりあえず酒場に入る。

「提督…ヤル気あるんですか!?」

酒の勢いも入って、オレは半キレ気味になった。


「や、やる気はあるんだよ、やる気は…でも…女が近くにいると…」

「それじゃ全然ダメじゃねーか。近くも何も、これ以上はねえってくらい密着しないといけないんですからね?」

「…だって…」

提督が、しゅん、と落ち込むと、ここぞとばかりにオッサンが口を挟む。


「提督、ムリしなくていいんですよ。最近は新大陸から妙な病気が入って来て、港町の商売女は危険だっていいやすからね。」

「…だよな?」

だから、そこで顔を輝かせるなよ、サルヴァドル。

もう、そんなに女がダメならオレが相手してやろうかと言いかけちまったが、このオッサンの前で下手なコト口走らねえ方がいいだろうな。


「はいはい、もうお好きにしてくんな。オレはもう付き合いやせんよ。」

「ああ、好きにして来い、オレンジ頭。」

「夜は短えんだ、そうさせてもらうよ。酒池肉林するには時間が足りねえが、オレだって一晩くらい美人のいるベッドで寝たいね。」

「…付き合わせて、悪かったなリオーノ。」

サルヴァドル、そんなしゅんとした表情でそんなこと言うなよ。

かわいくなっちまうじゃねえか。


「いいんですよ、お気になさらずに。本気でヤル気あるんなら、3Pだろうが4Pだろうがいつだってお付き合いしますよ。」

「オレンジ頭、行くならとっとと行け!!」

オッサンは金袋と一緒にオレに罵声を浴びせた。


「じゃ提督、ちょっと飲んだら宿でも捜しやしょうか。」

保護者モード全開のオッサンに、オレはちょいと言ってやった。


「オッサン、オフクロすんのもいいが、たまにゃ『男』しとかねえと、すぐに使いモンにならなくなっちまうぜ。」

「大きなお世話だっ!!てか、誰がオッサンだっ!!」

オッサンからの返答は、まったく予想通りだった。





2010/8/10



もっとエロい話になるかと思いきや、まったく色気のないまま終了。
うちの若は本当に、「子ども」なのでこんなモンです。
見るのも怖いのに、もっと「仲良くしよう」とか言っちゃダメですぜ、提督。




小ネタ

   

目次









































サルヴァドル「ところでホーレス、さっきの女が言ってた『みんな一緒』ってどういうことだ?(純粋な瞳で)」

ホーレス「…」

若「女とヤる時は一対一じゃないのか?男のアレは一つしかないが、女はそんなにいっぱいあるのか?」

ホーレス「…」

若「あと、3Pとか4Pってなんだ?何語だ?どういう意味だ?」

ホーレス「若、『良い子は』そんなこと知らなくていいんでさ。」

若「オレは海賊だから、『良い子』じゃないんじゃないのか?」


実地はだめだけど、興味津々なお年頃ではあるサルヴァドルでした。
多分、アルジェで聞いたらみんな教えてくれると思うよ?

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