救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

10-6 アル・ファシが語る話









戦勝記念に酒池肉林して来いって金の袋渡しながら言われたら、陸の上ですることなんて決まってる。


飲む

打つ

買う

だ。


もっともオレは酒がダメだし…もちろん、オレが敬虔なムスリムだからであって、酒を受け付けねえ体質だからじゃねえぜ?けっして。

打つ、も悪くはねえが、こいつは船の上でも出来るしな。


「じゃあ女だろう。」

歓楽の街オランの良い所は、どこの国の女だって懐次第で仲良くできるって所だ。


「アフメット、どんな女にする?」

オレは歩きながらアフメットに聞く。そういやこいつがどんな女が好みとか、そんな話をした記憶がねェ。

クソ真面目な男だから、常に商売の話考えてやがるし。


「…あのアル・ファシさん、その『女』って、いわゆる『娼婦』のことでしょうか?そんな女性とは関われません。」

「なんだ、素人女がいいのか?そうさな、まだ明るいからマーケットに行きゃ露天の女房たちが…」

「え?それは人妻じゃないですか!?そんなことは出来ません!!」

「生娘がいいのか、ワガママな男だな。しかし、この快楽の街にそんな女いるかな…みんな穴開け済みじゃ…ま、可愛い後輩の頼みだ。このアル・ファシさまの眼力で…」

「そんな、私、まだ結婚は出来ませんから。」

アフメットは大まじめな顔でそう言った。


「…」

オレは一息ついてから言い直す。


「アフメット、今『結婚』って言ったな?」

「はい。」

アフメットは本当に大真面目な顔で答えた。

「私はまだ結婚は出来ません。妻を貰っても食べさせられない半人前ですから。」


オレはもう一息つく。

「アフメット、お前、女はまだ知らねェのか?」

「当り前ですよ、結婚経験ないんですから。」

「…そうか。」

「早く結婚したいとは思ってます。だから、早く一人前にならないと。」

アフメットはどこまでも大真面目な顔だった。




アッラーもご照覧あれ。

一人で女買いに行くほど、オレは友情心薄くねェです。

だから小奇麗な料理屋で飯を食いながら、オレはアフメットの昔語りを聞くことにした。


「私の父は交易商人でした。そして母は、奴隷です。」

「ああ。」

オレはアフメットの赤みがかった毛を見て頷く。

オレみてえな生粋のトルコ系は黒髪黒眼だ。

だが、この世にゃ金髪の東欧女好きがスルタンを始めとしてたくさんいやがるもんで、東欧系の女はいくらでも奴隷としての価値がある。

アフメットのオフクロもそうなんだろう、きっと。


「父には男の子がたくさんいましたし、私だけが奴隷腹だということで、それほど良い扱いはされませんでした。あ、でも虐待されたという程ではないんです。それなりの教育は受けました。でも、父が亡くなった時に私には財産と呼べるようなものはほとんど残されませんでした。遺言で奴隷から解放されたとはいえ、母と二人でアレキサンドリアに放り出されたも同然だったのです。」

「ああ、なるほどね。」

そりゃ、オレの口車に易々と乗るわけだよな。そもそも選択肢がなかったってわけかい。


「多少の読み書きができるだけでこれといった技能もない私です。職業と言えば、父が行っていた交易しか思いつかなかったんです。」

「よく分かった、そりゃ会計技能を身につけるのに熱心なわけだ。」

アフメットは恥ずかしそうにうつむいた。


「早く、自立できるだけの技能を身につけたいんです。そして家庭を持ちたい。そして何より、母を早く安心させてあげたいんです。母にとっては私は一人息子ですから。」

「…お前は出来た男だよ。」

オレは皮肉でなくそう思った。


「そんなことはありません。私は愚かで鈍感な人間です。」

「なあに、真面目でひたむきだよ。海賊にしとくのは勿体ねェくらいさ。ああ、もうお前は十分独り立ち出来るよ。」

アフメットは微笑んだ。


「アル・ファシさんにそう言ってもらえてうれしいです。」

ガラじゃねェけどな。

人を褒めるなんてガラじゃねェけど、こいつはもう十分に会計技能は習得したと思う。

そりゃ、まだまだ成長の余地はあるがな。


「あのなァ、アフメット…」

ヤキが回っちまったな。

ガラにもなくオレが人生訓なんぞ垂れようとした時だ。




「てめえっ!!食い逃げしようたぁ良い度胸だっ!!」

叫び声と、イスがひっくり返る派手な音。


「食い逃げとは卑劣な。」

アフメットが大真面目にコメントする。


「あーあ、亭主にホウキで殴られても反撃も出来ねえでやんの。よっぽど弱ってんな、仕方ねえ食い逃げヤローだぜ。踏み倒すんならちゃんと逃げおおせろよ。」

「は、何か言いました?」

「いーや。」

もっとも、借金の取り立てから逃げられなかったのが縁でオレは今こうしてここにいるわけだから、あんまり大口も叩けねえな。

まあともかく、オレは食い逃げヤローが亭主に叩きのめされるのを肴にハーブ茶でもすするつもりだった。

叩きのめされながらも、弱々しく顔を上げる食い逃げヤロー。




ガタン

「アル・ファシさん?」

オレは立ち上がると、食い逃げヤローの傍まで寄る。


「…」

食い逃げヤローは左右色違いの弱弱しい目でオレを見上げた。

間違いねェ。


「なあ、ご亭主。」

オレは何かいいかけるそいつをふんづけながら亭主に言う。


「あんたもムスリムだな?オレもそうなんだよ、そうさ、敬虔なムスリムさ。でだ、敬虔なムスリムは善行を欠かしちゃならねェだろ?その食い逃げヤローを見てると、むらむらとアッラーの慈悲を実践したくなっちまってね。あ?こいつは異教徒だ?まァいいじゃねェか、これをきっかけにこいつが正しくアッラーの御許に身を捧げるきっかけになるかもしれねェんだからよ。そこまで言うんなら?さっすがご亭主、敬虔なムスリムだね。アッラーに讃えあれ。あんたにアッラーのご加護あれ。で、こいつはいくら食い逃げしたんだ?は?いや、いっくらなんでもそんなに食えやしないだろ?え?迷惑代?ほら、ご亭主。善行為そうって時に、迷惑代ってのはいただけねえな。ここは一つ実費で…」

まったく、オレがてめえの金にゃならねえもののためにアゴが痛くなるまで舌動かすなんてよ。

ホントにこのアル・ファシさまもヤキ回りまくりだぜ。


ともかく、叩きのめされて弱りまくったそいつを、オレとアフメットは手近な宿に連れ込んだ。




「さあて、あんたの命乞いして助けるの、2回目だぜ。」

アフメットは、そいつの顔見ると感心したようにオレに言う。


「よく気付きましたね、アル・ファシさん。」

「こんな目したヤツはざらにゃいねェからな。」

そいつは顔を上げて、そのオッドアイでオレを見た。


「縁も所縁もねェ上に、異教徒なあんたを2回も助けてやったんだ。改宗するか、さもなかったら美味い儲け話でもよこしな。ヤコブ・ワルウェイク。」





2010/8/18



というわけで、新展開です。




オスマン人は金髪がお好き

   

目次









































オスマン帝国は、トルコ系の民族が造った国家ではありますが、代々のスルタンのハレム(後宮)には金髪の宮女たちがたくさんいたそうです。何故なら、 彼らは金髪白人が好きだったから!!
よって、オスマン帝国領土下の東欧から美女たちを攫ったりして、えりすぐりの美女たちをハレムに納めていたとか。
なので、帝国も後半になっていくと、歴代スルタンはほとんどヨーロッパ系の外見を得るに至ったそうです。(なんせ母親が東欧系なんで)
このゲームに登場するスレイマン大帝も、寵妃、というより皇后にまでしたロクセラローナは東欧系です(何せ名前が「ロシアの女」って意味ですから)

よって民間でも金髪の奴隷はたくさんおり、アフメットのようなハーフもたくさんいたわけであります。

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