「そんな訳で、僕に金投資して下さいっ!!」
ヤコブ・ワルウェイクがそう言って、勢いよく手を突いて土下座すると、アル・ファシが顔色を変えた。
「おいおいヤコブ、話が違わねェか?オレが聞いたのは、リューベックの銀鉱山で銀を産出出来るって話であってな…」
「そうですっ!!あそこはもう少しだけ金があったら銀が出るんですよっ!!銀が出たら大儲けでしょ!?間違いなく儲かる話なんですって!!」
「オレたちは海賊だぜ?銀が出るようになるから、北海航路は狙い目って儲け話じゃねェのかよ?」
アル・ファシとヤコブが言い争う。
ラチが開きそうにないから、オレは困惑顔したアフメットに聞く。
「アフメット、話が混乱してきたから、かいつまんで説明し直してくれ。」
「はい提督。アル・ファシさんは、食堂で食い逃げが見つかって叩きのめされていたヤコブ・ワルウェイクを心優しくも助けてあげたんです。そしたらヤコブは恩返しに、リューベックの銀鉱山は実はもうすぐ銀を産出するから狙い目だという情報を提供したんです。もちろんアル・ファシさんはすぐに提督に報告しなければと、証人のヤコブをここに連れてきた訳ですが…」
「で、なんでそこで『投資』とかいう単語が出てくるんだ?」
オレが聞くと、ヤコブが必死の形相で叫ぶ。
「ああっもうっ!!銀鉱山開発には金がいるんですっ!!僕の父は銀鉱山開発に財産つぎ込んた上に借金を重ねて故郷を追われ、最後の最後にリューベックで有望な鉱山を発見したもののそこで力尽きたんだっ!!あそこは銀が出るんだよーっ!!あと少し、あと少しの投資があればいいのにー!!」
ヤコブはそこで泣きだしちまった。
「で、海賊で残りの資金稼ごうと、北海には情報の届きにくい地中海に出稼ぎに来てオレたちと遭ったってことな。」
「しっかしバカだねえ。地中海はヤバい海賊のショバだって知らなかったとは。」
みんな口々にヤコブをばかにした。
確かにな、弱いくせに海賊で稼ごうと思ったのがばかだ。
「仕方ねえ野郎ですね、提督。でもまあ、身ぐるみ剥がしたアッシらに投資申し込むとは、よっぽど切羽詰まってるんでしょうが。」
「ホーレス、で『投資』ってなんだ?」
「ああ、金をね、有望なものに払うんでさ。今回でしたらリューベックですね。すると払った金で鉱山掘ったりするわけでさ。そうして銀がホントに出てくりゃ、投資した額に応じて儲けが返ってくるって寸法でさ。」
「へえ。」
「もっとも、こりゃいつもそう上手くいくとも限りやせんぜ。投資したはいいが何も出てこねえ、期待したほどじゃねえなんてこたザラですし、最悪、投資の話が全部デタラメで、その金持ってトンズラこきやがるヤツもいたり…」
「ヤコブ、じゃ、金を投資してやる。」
みんな、なんでか一斉に黙った。
「…」
金が欲しい欲しいと言ってたヤコブですら、何も言わずにオレの顔を見る。
「何だ?金が欲しいんだろ。いくら要るんだ?」
「…そりゃ、多ければ多いほど嬉しいですけど…」
なんで金が欲しいって言ってたのに「けど」なんだ?
よく分からないな。
「ふうん、多ければ多いほどいいのか。アル・ファシ。」
「…へえ?」
「お頭に貰った金塊20、まだほとんど手つかずだよな。」
「…へえ。」
「ヤコブ、じゃその金塊20をくれてやる…じゃなかった『投資』してやる。」
みんな、なんでかさっきより重苦しく黙った。
あんまりみんなが黙り続けてるのが不思議だ。
オレ、何かへんなこと言ったのか?
「ホーレス、オレ…」
「若ーっ!!」
悲鳴のようなホーレスの声に続いて、みんな一斉に叫び出した。
みんながひとしきり叫ぶのを待って(たまにはホーレスや航海士のやつらの話くらい聞いてやらないとな)、オレは言った。
「何でだ?船はあるし、修理もしたし、水に食料もとりあえず満載したろ?今べつに金は使わないじゃないか。」
「何かあったらどうする気なんですかい!?」
「そんなの、どこかの船を襲えばいいだけだろ、海賊なんだから。」
「若、上納金はどこから払う気ですかい?」
「それも船を襲えばいいじゃないか、海賊なんだから。」
ホーレスはオレの言葉を聞くと、顔を空に向けた。
「ああ、若ってばなんでこんなに『若旦那気質』なんだか…誰が育てたんだ畜生…俺だよ…いや、若にはみみっちくなって欲しくねえって思って俺は何にも不自由をおかけせずに…ちょっと甘すぎたか…金のありがたみを…」
なんでブツブツ言ってるんだ、ホーレスは。
「分かんないな。投資した金は増えて戻って来るんだろ?」
「…理論上は。」
アフメットが小さい声で答えた。
りろんじょう?
「リオーノ、みんなの言ってることが分かんないぞ。」
「ははははははは…提督は大物すぎていけねえや。」
リオーノは苦笑しながら言う。
「アル・ファシっ!!責任取れ、責任っ!!」
ギャビンが本気で怒鳴りつける。
「オレのせいじゃねェよっ!!オレはヤコブ連れてきただけだろっ!?」
「こんな話を提督に聞かせるきっかけ作ったお前が悪いっ!!」
アンソニーにも責められて、アル・ファシは顔色を変える。
だんだん収拾がつかなくなってきた。
「黙れっ!!」
オレは叫んだ。
「オレは投資すると決めたんだ、オレが提督だ、反論は不要。」
「…」
みんな、互いに気不味い視線を交わしながらも黙った。
「ヤコブ。リューベックで下ろしてやる。金もくれてやる。で、利益が出るのはいつだ?」
「…」
ヤコブは舌をしきりに舐めた。
「は、半年で。」
「半年ー!?」
アル・ファシが引きつった小さな悲鳴を上げた。
「そ、それはまた無謀な計画を…」
アフメットも小さく呟いた。
「…アッシは若には勝てやせんよ。」
ホーレスも小さく呟くと、今度はオレに向かって言った。
「提督、もうアッシは反論なんかいたしやせん。アッシの生きるも死ぬも提督の思いのままです。ましてや金なんか、提督が海に投げ捨てたいとおっしゃるんなら、いつでもそうしやしょう。」
「ホーレス、オレは別に金を海に捨てやしないぞ?オレは『投資』をだな…」
「その代わりっ!!」
ホーレスは大声を出す。
「アル・ファシをヤコブの野郎につけて下せえ。」
「オレーっ!?」
アル・ファシが飛びあがる。
「ヤコブの野郎も海賊に囲まれてここまで言うんならそれなりの勝算はあるんでしょ。で、アル・ファシの野郎にゃ今回の責任を取ってもらいやしょう。」
「ダンナっ!!オレは無実だーっ!!」
アル・ファシは叫ぶが、ホーレスは無視する。
「アル・ファシ、ヤコブ・ワルウェイク。提督の仰ったように、期限は半年。それまでに銀鉱山にそれなりの目算をつけること。メドが付けられなかったり、ましてやトンズラなんてこいた日にゃ…」
ホーレスは、これ見よがしに手を鳴らした。
「どこ逃げたって無駄だ。地の果てまで追いかけて、海賊ってモンがどんだけのものか、たっぷり味わわせてから地獄に送ってやる。」
二人が、声にならない悲鳴を上げた。
「あーあ。まったく、見てて飽きない提督と艦隊だね、ホント。でもよオッサン、アル・ファシをヤコブにつけちまったら、ウチの会計長は空席だぜ?」
「誰がオッサンだ!!このオレンジ頭っ!!」
アル・ファシが、開き直ったようにサバサバとした顔で、怒りかけたホーレスを遮る。
「まあこれも、偉大なるアッラーの定め給うた運命でさあね。インシャラー。ただし、オレの全力は尽くしやすよ。で、会計長なんだがね、アフメットを後任に指名します。」
「私ですか!?」
驚くアフメットに、アル・ファシは言う。
「こいつももう十分独り立ち出来るだけの修練は積みやした。あとは実践でさ。いつまでもオレに頼るより、実地で揉まれた方がいい。」
「そうか、分かった。じゃあアフメット、今からお前が会計長だ。」
「どうして提督も即答なんですか!!」
アフメットの言葉は悲鳴に近い。
「だって、この期に及んでアル・ファシもウソはつかないだろ。見込まれたんなら、やってみればいいさ。ただし、ものの役に立たないとオレが思ったらクビだからな。」
「オレは投資運営失敗したら地獄行きだが、お前はクビ程度で済むんだ、気楽にやれよ、アフメット。」
アル・ファシはヤケ半分の顔で、アフメットの肩を叩いた。
2010/8/18
新展開ですってば。
若は大物です。
なにせ海賊王ハイレディン・レイスの息子ですから、みみっちい節約だのには無縁ですとも。
周囲にいる人は怖いでしょうけど。
サルヴァドルの性格設定
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目次
SSの取説によるとサルヴァドルは「クールな自信家」らしいですが、ゲーム中の行動はそうとうやんちゃでワガママです。なので、べにいもサルヴァドルもそれに合わせて性格設定してます。
自分の中では、
項羽(項劉記)+坊や哲(『哲也ー雀聖と呼ばれた男』)+ラインハルト(『銀英伝』)を3で割った感じ、でしょうか。
オレ様気質でワガママなのは項羽とラインハルト。どんな世話でも焼いてくれる人が側にいるのはラインハルト(キルヒアイスは途中で死んじゃうけどね。)。色んな意味で女に興味がない(てか苦手)なのは哲とラインハルト。クールに見せかけて熱い上に、強さに異様なまでに拘るのは三人共通。でも、ものすごく太っ腹なのは誰似でもないかもしれない(項羽は意外と物惜しみをし、哲ちゃんは感性庶民だし、ラインハルトは銀河帝国皇帝のわりに貧乏性だ)
あ、肝心なことを言い忘れてた。
みんな受!!(だと思う)