救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

11-4 ホーレス・デスタルデが語る話









新大陸までの船路は、思ったほどの困難はなかった。

リオーノの言った通り、アルギン島から南西に進む進路は暴風雨とは無縁だった。


「へえ、ここが新大陸か。やっぱり地中海とは違うな。」

若は大はしゃぎだ。まったく、若は遠足にでも来たおつもりじゃねえでしょうね。


「提督、ホーレス副長、俺は船の修理に行って来るっス。」

「私は砂糖を売って来ます。初期資金を確保しないと、戦闘以前の問題ですから。」

ギャビンとアフメットがそれぞれ出かける。

あいつらも大分としっかりしてきたもんだ。


「ホーレス、酒場に行くぞ。カタリーナのこと、聞いてみないとな。」

「へえ。」




「この辺りに、カタリーナって海賊はいないか?」

若が聞くと、酒場の親父は首を振った。


「海賊でその名前は聞いたことがないねぇ。ここにはいないんじゃないかな。」

「なんだ、新大陸でブイブイ言わせてるんじゃないのか、ヤツは。」

俺は酒を追加すると、酒場の親父に聞いた。


「じゃあな親父、他に何か面白いネタはねえかい?俺たちゃ地中海から来たばかりでね。」

「面白いネタ?」

親父が口ごもったんで、俺はさらに2、3杯、酒を追加した。


「そういや最近、地中海からよくここらに人が来るのさ。」

親父は、わずかに周囲を窺うような顔をする。


「そりゃ、来るだろうさ。ここらはイスパニアのシマだろう?」

「…なんとかって条約で、ここらはイスパニアの領土だろ?だが、あいつらが喋ってたのはポルトガル語だった。」

「ほう。」

「それだけじゃないな、ターバンを巻いた黒い髪の奴らも大挙して来たこともあったっていうぜ。」

「オスマンか?」

若はその言葉に反応する。

そういや、こないだ撃滅したオスマン艦隊も新大陸が向かってきてたって話だ。


「ポルトガルといい、オスマンといい、ここに何の用なんだ?」

「さあ知らないね。知らないが、どうも奴らが来るようになってから、人が神隠しに遭うようになったって物騒な話だ。。困るんだよなぁ、特にこういう商売はさ。加えて海賊かい、勘弁してくれよ。」

親父は手を上げた。




「結局、カタリーナのことは分かりやせんでしたね。」

「ああ、でもまたオスマン艦隊の話だ。あいつらはここでわざわざ何をしてたんだろうな?」

「さあ…」

任務は終了してるとはいえ、どうもひっかかる。

だが、判断材料も少なすぎる。


「提督ー!」

俺と若が頭を悩ませていると、オレンジ頭の明るい声がした。


「おっとどうしたいオッサン、眉間にしわ寄せて。」

「誰がオッサン…」

「ま、そんなコトはどうでもいいのさ。提督、いい情報だぜ。カタリーナの出現場所だ。」

「どこだ!?」

「この新大陸の南部でも、カリブ海に面した辺りだ。」

「よしっ行くぞ!!」

提督はすぐに席を蹴った。


「一体どこから手に入れた…」

俺は聞きかけて、リオーノの首筋にべったりと押された赤い唇の痕でそれを推測した。




陸添いに北上して幾日か。

「いましたぜ、提督。」

望遠鏡を覗いていたリオーノが叫んだ。


「カタリーナか。」

若が叫んで、手をかざす。


「あの艦隊の組み方、間違いなく手練れの海賊だ。全員、戦闘準備っ!!」


俺たちは敵さんの視界から姿を隠すように進んでいた、はずだ。


砲撃音が俺たちの耳をつんざいだ。


「なんだ!何があった!」

若は崩し掛けた体勢をすぐに立て直し、叫ぶ。


「痛っ…こりゃ直撃くらったな。おそらくカタリーナ艦隊からだ。」

「カタリーナ艦隊だって!?オレたちに気付いてたって言うのか?」

俺は砲弾が直撃した個所を見て、血の気がひいた。


「…提督、舵がききやせん!」

敵にしちゃあ天晴れな砲術だ。

舵だけを叩き壊しやがった。


「体勢立て直せ!!舵がなくたって直進は出来る。敵艦隊ど真ん中に突っ込んで斬り込んでやるっ!!」

我が息巻いたのを、リオーノが宥めた。


「見なよ提督。敵さん、オレたちを振り切っちまった。それとも、舵がきかない状態でカリブ海に突っ込むかい?」

「…」

カリブの青い空に、信号が上がった。


「提督、信号を解読しやすぜ。

『我、貴殿トノ交戦ノ意志ナシ 幸運ヲ祈ル』

以上でさ。」

「…」

若は沈黙した。

自暴自棄になって追いかけろなんて仰らねえかと冷や冷やした。


「…仕方がない。」

提督は頭を一振りした。


「ギャビン、舵の応急修理急げ。さっきの港に退却だ。」

若の判断は冷静だった。

確かにな。ここで熱くなったって勝ち目はねえ。

これだけ小粋なことを仕出かしてくれるだけの実力に支えられた自信があるってことだからな。


「鮮やかなもんだね、提督。」

リオーノが提督を挑発するように言った。

どうするつもりだこのオレンジ頭め、俺は思ったが、提督はもう一度首を振る。


「仕方がない、今のオレとは格が違う。」

リオーノはニヤリと笑う。


「提督にしちゃ弱気だね。」

「弱気?勘違いするな、『今のオレとは』と言っただけだ。」

提督の濃紺の瞳が荒い青色を帯びた。


「リオーノ、信号をこちらも上げてやれ!!文言は…」





2010/8/18



若だって成長はしてます。
でも、若は若なのです。




ひさびさプレイ日記

   

目次









































ジョカやレベッカにウルグ・アリを取られると、このカタリーナイベントが挿入されます。(ちなみに勝つと別の所でオットーさんと会えます)
「我、貴殿トノ交戦ノ意志ナシ 幸運ヲ祈ル」
の使い方が小粋なのでとても好きなイベントなのですが、残念なのは カタリーナと戦えない ことです。
そりゃさ、サルヴァドルが勝っちゃ不味いし、負けたらゲームオーバーなのも分かるけどさ、 でも戦いたかったなー

しかし、舵だけを叩き壊すってのは当時の大砲の性能で考えたら恐るべき技量です。
白兵戦主体のイスパニア海軍で教えてもらえるとは思えないので、きっと、海賊になってから創意工夫したんですね。

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