救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

11-5 フランコ・サヌードが語る話









カリブの青い空に、信号が上がった。


「提督、敵船より信号。解読しますか?」

私が言うと、カタリーナは、いや、泣く子も黙る女海賊カタリーナ・エランツォは頷いた。


「『覚えておけとは言わない。次会った時は忘れさせない。我が名はサルヴァドル。』」

無神経な口笛が響いた。

こんな時にこんなことをする奴は一人しかいない、


「一捻りきいた面白え捨て台詞だな。俺は気に入ったぜ。」

アンドレア・ギージだ。


「ふふん、ま、合格点ね。覚える気になったわ、『サルヴァドル』か。」

「どうするね、提督。小粋な捨て台詞に免じて、追いかけて再戦してやるかい?」

「やめとくわ。海賊を相手にしてる暇はないの。」

カタリーナは赤毛をひとふりした。

カリブの青い空に映える燃える赤毛。

彼女は相変わらず美しい。

そう、海賊になっても。


「提督。新大陸の港はあらかた巡りましたが、ルチアについての情報は皆目不明です。今後の進路はいかがしますか?」

提督の表情は曇る。


「…仕方ないわね。プレット・ペローは地獄に叩き落としてやったけど、あの畜生の船にルチアはいなかった。地中海にも北海にも、ルチアの情報を知る者はいなかった。新大陸だって期待はしてなかったわ…」

兄のミカエル准将、そしてその補佐であり、提督の婚約者であったエルナン・オブレゴン。

その両名を惨殺したのが、ポルトガルのフェレロ家だと信じ、復讐のために提督はイスパニア海軍から海賊に身を落とした。そして、私も。

紆余曲折の挙句、フェレロ家当主レオン公爵の息子ジョアンの行方を知るために、リスボンの酒場娘ルチアを知らなかったとはいえ誘拐することになってしまった提督は、事実を知り、我々をまんまと騙した海賊プレット・ペローを地獄に叩き落とした。だが、当のルチアの行方は杳として知れない。

我々は世界を駆け巡ってルチアの行方を探したが、やはりペローが言い残した通り、彼女は「神の国」に召されてしまったのだろう。


「アフリカは探してねえよ。」

ギージが言う。


「そうね、今度はアフリカに行ってみましょう。」

「だな。あそこらかポルトガルの航路でもある。ついでにポルトガル船も山ほど沈められるぜ。」

「ええ、新大陸じゃ稼げないものね。」


この新大陸は、我がイスパニアのイザベル女王陛下がクリストバル・コロンに命じて探検させられた。そしてその後のトリデシャス条約により、この新大陸の利権は我がイスパニアに委ねられている。

私はカタリーナと共に海賊にはなったが、それでも心では誇り高きイスパニア軍人であることに変わりはない。そしてそれは提督も一緒である以上、イスパニア商船を襲うような真似は断じて行ったことがない。

まあ反逆者である以上、戦艦に攻撃されたら反撃せざるを得ないが。


「しっかしよ、提督。稼ぐで思いだしたが、さっきの海賊は何しに新大陸くんだりまでやって来たかね?そりゃ確かにこの新大陸は宝の山だが、イスパニアの監視も厳しいぜ?何せ、無敵艦隊司令官は、エゼキエル御大だ。」

「さあね。そんなことも考えられない無謀な男なのかもしれないわ、あのサルヴァドルっていうのは。」

「ですが、途中で気になる話も聞きました。この新大陸にオスマンの艦隊も来たという噂を。」

「俺も聞いたぜ。そういや東地中海の『ニコシアの竜王』マホメッド・シャルークがオスマンに接近してるって話だったな。」

「『海賊王』ハイレディン・レイスとシャルークはもともと反目しているでしょう?オスマンと組んで地中海を制覇でもするつもりなのかしら?」

「オスマン帝国が新大陸まで狙っているということなら、とんでもない話ですね。」

「それでなくとも、あの赤髭の本拠地アルジェとセビリヤは目と鼻の先だってのによ。」

「まあ、そのお陰で、我々は無敵艦隊に総出で追撃させることなくいる訳ですが。無敵艦隊が総出になったら、アルジェ海賊にセビリヤを襲撃されかねませんからね。」

私はそこで一つの噂を思い出した。


「しかしですね、さしものエゼキエル司令の目も、やはりこの新大陸までは行き届きにくいようですよ。」

「エゼキエル司令でも?」

カタリーナの目を不審の色を帯びる。

カタリーナはエゼキエル司令には娘のように可愛がられていた。彼女もエゼキエル司令のことは敬愛と畏敬の念がない混ざった感情を今でも失ってはいない。だから、司令の力に疑問符をつけるような物言いは、彼女には不快なのだ。


「新大陸はイスパニアから遠く、そして広いです。特に内地の者たちの中には目に余る所業を行う者もいるとか。」

カタリーナは形の良い眉を顰める。


「同国人として残念な話ですが、『コンキスタドール(征服者)』という語が、好意的に語られることはほとんどない、そうです。」

「そんな所業を見かけたら、いくら同国人でも容赦はしないんだけど。」

「まったくだぜ。そんな奴らは海賊以下のゴミ野郎だ。」

沈痛な提督に、ギージがハッパをかけた。


「俺もコンキスタドールの噂は聞いたがな、どいつもこいつもロクデナシの小物のコンコンチキ野郎ばっかだ。いっそ、どこぞのとんでもねえ器の極悪人がやって来て、まとめてブチ殺して、支配しちまった方が平和になるってもんだぜ。」

「ギージ、新大陸は我がイスパニアのカルロス陛下の領土だぞ。」

「ま、言葉のアヤよ、アヤ。」

ギージは涼しい顔で私の反論を封じた。


「ま、仕方ありませんや。俺たちは海賊であって、聖騎士じゃねえんですからね。人助けは本業じゃねえ。とりあえずは本業に精を出しましょうぜ。」

「そうね、ポルトガル船を襲撃したらジョアンの行方も分かるかもしれないわ。サヌード、ギージ、アフリカへ向かうわよ。」

「承知。」

「へえ。」




俺は進路を確定させ、振り向いてなお青いカリブの太陽を見詰めた。


さらば、カリブの青い空よ。

せめて我々がまた来るまで、人々に明るい光を贈り続けてくれ。





2010/8/22



今回の語り手:フランコ・サヌード
…大航海時代2の主人公の一人カタリーナの専用航海士。元イスパニア海軍中尉でカタリーナの同僚。2歳上でしかないが、口髭と落ち着いた物腰のせいでものすごく年上に見える。けど実は若い。あとけっこう美男子だと思う。
カタリーナの兄ミカエルの元部下。兄の復讐のためにガレオン船を奪って逃亡しようとするカタリーナの人質にされかけるが、そこで観念?して、カタリーナの仲間になる。その後は的確なツッコミ、ならぬ助言と、広く寛大な心でもってカタリーナを支え、常に彼女の側にいる。
カタリーナに向ける感情はゲーム上では不明。
ストーリー上では良い事ずくめの人だがゲーム上では、海軍士官とは思えないほど航海術が低く(船を牽引させるとイライラするくらい遅い)、直感が低いため嵐も予感してくれない。別に実用価値はないパラメータだけど知識もめちゃ低いと、ネットでは
「使えねえ」
の非難の嵐ゴーゴーの人。
いいんだよ、別に。

以上が公式設定。友人がサヌード大好きッコで
「カタリーナにはサヌードとくっついて欲しい!!」
としつこく言っていた。確かに、常に一歩下がって付いて来てくれる、控えめだが芯は強く献身的な理想的な婿である。
カタリーナの両親がまだ健在かは不明だが、良家のお嬢の分際で海軍士官なんぞになった挙句、海賊になっちゃった娘の婿にするなら、彼しかいないと思う。(「ふつつかな娘ですが」と全力で頭を下げてもらえるだろう)
ただ問題は、互いの間に恋愛感情があるか否か。
サヌードはきっとカタリーナが好きに違いないが(私見。ただし同意してくれる人は多いはず)、カタリーナはサヌードのことを、恋愛対象とは見ていないと思われる。




だから外伝と2の時間軸はどーなってんだべさ!!(ネタバレ)

   

目次









































カタリーナイベント時は、オスマン艦隊の動き、ビゴール兄弟や、新大陸の酒場の親父の台詞回しからすると、「伝説の国」騒動の真っ最中に違いないと思われます。だからカタリーナが
「あなたの相手をしている暇はないわ。」
と言ってくれるわけです(確かに、自分の兄と婚約者の仇を討たなきゃならんわ、自分をつけ狙うイスパニア艦隊はワラワラいるわの状況じゃ、海賊の1匹や2匹、どうでもいいわな)。
うん、サルヴァドル編だけだったらそれでいいんだ。
問題は、ミランダ編だと、このずうっと後(ゲーム時間で2年程度?)に、ピエトロがマッサワにいるんだよなー!?

サルヴァドル編も、ウルグ・アリに勝つと、ちょうど今頃、ピエトロが聖者の杖を捜していることになるので、つじつまが合わなくなります(ミランダ編の時間はこっちに合わせてあるのかもしれない)。
でも、ウルグ・アリに勝つと、オットーさんと2回目の遭遇の時点でオットーのイギリス(この言い方もアレだけど)艦隊が「欧州最強」と呼ばれているから、それまでにはエゼキエル司令戦は終わってるはずだし…

うおーっ!!どういうつもりやねんー!!

ってわけで、この話ではゲーム中の「2の時間軸」はマイ並べ替えを行います。

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