救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

12-5 クラウディアが語る話









私の目の前で、ずっと黙って飲んでいる黒い肌の大きな船乗り。

喋りもしてないのにどうして分かるって?

分かる、船乗りはにおいが違う。

海のにおいがするから、すぐに分かる。


船乗り相手の商売だから、船乗りはお得意さま。

でも本当のところは、船乗りは嫌い。


「お客さん、船乗りさん?」

分かり切ったことで声をかけたのはどうしてなのか分からない。

私は喋るのが得意ではないし、お客さんにも黙って飲んでいてほしい性だのに。


「ああ。」

黒い肌の男は頷き、ようやく顔を上げた。

鍛え上げた太い腕に相応しい、強面の顔。邪魔にならないよう短く刈り込んだ癖の強い髪。

ジョッキを握る手には剣ダコ。


「姉さん、ここは長いのかい?」

外見を裏切らない太い声。

ただの船乗りじゃ、なかったよう。


「そこまで長くもないわ。」

「そうかい。」

男はジョッキから一口飲むと、店内を見回した。


「いい店だな。落ち着いてる。」

「ありがとう。『疾風怒涛の嵐亭』という名に反して、静かに飲めるのが売りの店なのよ。」

「船乗りにゃ、ちょいと縁起の悪い店名だな。」

男は少し笑った。

笑うと、雰囲気が柔らかくなった。


男は、しばらく黙ってジョッキを傾けた。

私は黙ってそれを見ていた。

私は黙っているのが好き。

私は黙っている男を見るのも好き。


「年を取るとな、人から見るとつまらんことでも、心に刺さったりする。」

私は頷く。


「精魂込めて育ててきたのに、いつの間にか、俺の手を離れちまうようになったのかと思うと、辛くてな。」

私は頷く。

「分かるわ、いつまでも手元にいて欲しいものね。」


「姉さん、子どもがいるのかい?」

「ええ。」

頷いてしまってから、私は少し後悔する。

子持ちだって言うことは、言わないつもりだった。


「そうか、きっとあんたは優しい母親なんだろう。」

男の言葉が、少しだけ痛い。


「そんなこと、ないわ。」

「それこそ、そんな事はないさ。」

男は続ける。

「あんたの持つ雰囲気は、人を落ち着かせるよ。一緒にいると安心できる。子どもなら、猶更だろう。」

男はそう言って、優しく、しかし寂しそうに微笑んだ。

そう笑うと、厳つい外見が目に入らなくなってしまうようだった。


「実の母親がいたら良かったんだろうな。そしたらまた全く違ったんだろう。今更言っても仕方のねえことだが。」

「それこそ、そんな事はないと思う。」

私は言って、そして、男は顔を再び上げた。


「子どものことを思って、そんな顔が出来る人が育てているんだから。」

男は、返答を喉に詰まらせたような困った顔になった。


「失礼だったらごめんなさい。奥さんは?」

男は苦笑する。


「俺は独り身だ。今、いや、今までずっとな。」

「あなたのお子さんの話だと思ったのだけれど。」

私が言うと、男は「あなたの」という部分を小さく復唱した。


「…そうだな、俺は若の事を『俺の子だ』と思い過ぎてるのかもしれん。いや、なに、こっちの話だ。母親を奪われた、父親は遠すぎる、可哀想な子がいるんだよ。」

「その子を、あなたが育てているのね。」

「…」

男は苦い微笑みを浮かべた。


「ずっと子どもだと思っていたいんだよ、つまり、俺は。俺がいないと駄目だと思いたいんだよ。」

「全ての親は、そう思っているんじゃない?」

私は、いつの間にか空になっていた男のジョッキに酒を足しながら、我が子のことを思った。


あの子もいつか大きくなって、私の手を離れて、こうやって私を嘆かせたりするんだろうか。

するんだろう、きっと。


私はしばらく、沈黙を楽しんだ。

私にしては喋りすぎた。

私と同じ酒場の女には、ひっきりなしに喋るのを売りにしてる人もいるけれど、私には無理。

だから私は、沈黙を楽しんでくれる人が好き。


男がジョッキを空けた。

もう一杯注ごうとする私の手を遮って、男は言った。


「やっぱり、いい店だ。」

「ありがとう。」

「そして、あんたはいい女だ。」

私は男の瞳を覗いた。

こんな商売だから、声をかけてくる男も多いけれど、そういう目ではなかった。


「あんたはしばらくこの店にいるか?是非、贔屓にしたい。」

「ええ、こちらこそぜひ。」

「姉さん、あんたもジョッキを。」

男は私の手に持たせたジョッキに、酒を注ぎ込み、自分のジョッキにも満たした。


「ごめんなさい、名乗るのが遅れたわ。私はクラウディア。」

「俺はホーレスだ。」

男はやはり、黒い肌をした巨漢で、強面で、太い声をしていたけれど。

剣を使いなれた指をしていて、「まっとうな」船乗りではないのだろうけれど。

それでも今の私には、男の柔らかい雰囲気ばかりが見えるようになっていた。


「お近づきの印ね、乾杯。」

「乾杯。」

そして私とホーレスは、ゆっくり酒を飲みほした。





2010/8/26



多分クラウディアは、ホーレスの言う「可哀想な子」を、まだ小さい子だと思っています。

まあ、確かに中身は小さいですが。

そういやホーレスの外見をほとんど描写していないので、今回ちとしてみました。思いっきりお母さん属性なホーレスですが、イラストを見る限りでは、初見だと避けて通りたくなるくらいイカツい怖い人ですよね。なんで、「見た目は怖いけど、喋ったら当たりが柔らかい」という人なんじゃないかと思って、そうしてみました。


今回の語り手:クラウディア
…ハンブルグの酒場娘。銀髪に青系の目(PC版イラより)、民族衣装のような帽子を被っている。名前からして多分ゲルマン系。性格が無口で親切。好きなものは誠意(よって、 どんなに貢いでも絶対にチューしてくれない)。

ストーリーに関わらない酒場娘。じゃあなんで登場したかというと、 べにいもが大好きだから!!
ハンブルグやアントワープの港は工業投資をして価値が1000になるとシップやバーグが造れるためよく投資に寄港しますが、べにいもはもっぱらハンブルグに寄ります。なぜって、エレヌより断然クラウディアが好みだから♪(しかし、どちらも好きなものが「誠意」なのは、投資のために寄る人が多かろうという配慮なのだろうか?)
彼女の「やっぱり優しい人が好きだな」には、かなり胸キュンします。




好みの酒場娘

   

目次









































性格:やっぱり冷淡より温厚。多弁より無口。
誠意が好きな娘は好きだけど、何を贈ってもチューしてくれないのが難点。

顔の好み

ラディア(イスタンブール)…ご存じ、アル・ヴェザスの彼女。PS版では結婚した模様。黒髪と切れ長の目がたまらん。

ジアナ(ベネツィア)…借金取立ばかりしていると、やたらとよく会う彼女。癒し系…なのに、実は多弁で冷淡。うわっ!!でも好き。

ミュリネー(アテナ)…絨毯⇔美術品交易してると異様に馴染みになる人。超癒し系で、お母さんになって欲しい。

ネリー(アレキサンドリア)…知る人ぞ知る、光栄のゲームパラダイス酒場娘ランキングで見事1位に輝いた人。分かる、現実にいそう。そして彼女にしたい。

アンナ(セウタ)…2ではそんなに好きじゃない。顔も、多弁で冷淡な性格も。外伝になって好きになった人。PC版EDの彼女がとても好き。

ハトラ(ソファラ)…地中海から離れた所にいる酒場娘にはなかなか会えない、けどあの俯き加減が好き。

サライ(メッカ)…お酒は禁止されてるイスラームの、しかも聖都にまんまといる酒場娘。異教徒から高価な服飾品を巻き上げる多弁で冷淡な彼女ですが、とても好きです、顔が

ルキア(マラッカ)…黒髪ショートカット萌え♪(実はショートじゃないかもしれないけど)ボーイッシュなイメージなのに、宝石好きで冷淡な彼女という、ちょい魔性ぶりが好きです。


番外編

サファ(?)…すごい好み。そりゃサリムも一目ぼれするよ。そして、やっぱり?とは兄弟なんだな、と思う。似てます、雰囲気が。

カルロータ(リスボン)…ルチアより好み。たぶんまだ30代、の割にちょい老けてる気も。でもサヌードの「美人だが年増」はまだしも「ババア」は言い過ぎだよ、ギージ!!(そこで「若造、出て失せろ!」とタンカ切る彼女がとても好きです。レオンに見せてやりたい。)

パウラたん♪…エルネスト編は、彼女のためだけにプレイします。全てひっくるめて大好きです。君の微笑みのためなら、故郷なんて捨てても惜しくないです。

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