救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

12-7 アフメット・グラニエが語る話









ユトランド沿いに南下し、フュイ島が見えてきました。

リューベックまであとわずか、なのですが、私の心には不安があります。

アル・ファシさんは、大丈夫でしょうか?


リューベックで銀が出るという話に、信じられないことに!金塊20もの大金を投資したサルヴァドル提督のために、アル・ファシさんは話を持ちかけたヤコブと一緒にリューベックに渡りました。

半年で利益を出せるなんて大言壮語したヤコブはともかく、それに付き合わされたアル・ファシさんは、本当に大丈夫なのでしょうか?

みんな、アル・ファシさんを詐欺師だの取り込み詐欺だのと好き勝手言いますが、アル・ファシさんは本当は、誠実で心優しく面倒見の良い人です。

でも、アッラーの御心が万が一、アル・ファシさんに届かなければ、アル・ファシさんはどうなってしまうんでしょう?

絶望したアル・ファシさんがリューベックから逃亡なんてしていたら…

そう思うと、心配で心配でたまりません。

アッラー、アル・ファシさんをお守りください。




「さあて、と。アル・ファシとヤコブはどこにいるかな?」

サルヴァドル提督が気安い口調で、港の男に声をかけます。

ですが、ホーレス副長を始めとして、他の航海士たちは心持ち、沈痛そうな顔をしているように見えるのは、私の気のせいでしょうか。


「ヤコブ?ヤコブ・ワルウェイクのことなら…」

港の男はそう言うと、リューベックの街の地図で場所を示しました。


「とりあえず、ヤコブはここにゃいるみたいだな。」

ホーレス副長はそう言うと、アンソニーとギャビンに港に残るように命じました。


「オッサンは心配性だねえ。さすがにオレたちにみつかって逃げるような真似は、あの二人だってしないだろうに。」

リオーノが言います。


「なんか、『会社』ってのを構えてるらしいぞ。」

提督は軽く言うと、教えてもらった場所へスタスタと歩き出しました。




「『ワルウェイク商会』って書いてあるね。」

思ったよりきちんとした建物の中に入ると、緊張した面持ちで帳簿をつけていたヤコブとアル・ファシさんが同時に顔を上げ、同時に驚いた顔になりました。


「提督!!」

その瞬間、ホーレス副長とリオーノが一瞬身構えたように見えましたが、アル・ファシさんたちはもちろん、逃げ出したりなんかしません。


「利益は出たか?」

提督は、二人がつけていた帳簿の傍に歩み寄りました。


「銀は産出されました。」

ヤコブが言います。

ホーレス副長は、とても驚いたような顔になりました。


「当り前だろ、お前が出ると言ったから投資したんだ。」

提督は興味なさそうな顔でそう言うと、


「で、オレの投資は?」

と改めて聞きました。


ヤコブとアル・ファシさんは、そこから代わる代わる投資されたお金の使い道と、産出された銀の市場への流通について語りましたが、提督には興味がなかったようです。


「まあ、まとめて言いますと、銀は産出されたんですが、まだ利益を産むには至っていないってことです。」

アル・ファシさんが言うと、ホーレス副長が怒った顔になりました。


「わわ、ダンナ!!ホーレスのダンナ、ちょい待ち。半年って言ったじゃないですか、半年って。まだ期限まで時間がありやすよ。ちゃんと半年で結果を出せるように計算してありやすって!!ちょろまかしたりもしてやせんって!!」

アル・ファシさんは、帳簿を示します。


「何なら確認してくだせえよ。使途不明金は金貨一枚だって出してやしねえからっ!!」

「って言われても、オレは商売はからっきしだしねえ。」

リオーノは言うと、私に帳簿を手渡します。


「アフメット、お前がアル・ファシに恩を感じてるのは知ってるが、誤魔化したら容赦はせんぞ。」

「やめて下せえよダンナ、アフメットはウソなんてつきませんぜ。顔に出ちまう。」

確かにそうですね、私はウソがつけないたちのようです。

それに、嘘をつく必要もありませんでした。


「投資は生かされています。今見た限りでですが、半年後に利益が出始めるというのは、恐らく本当のことでしょう。」

「ほおらな、ダンナ。」

アル・ファシさんが得意げな顔になります。


「でも、本当にすごいです、アル・ファシさん。これだけの短期間で利益が出せるようにするなんて。でも…」

私が疑問を口にしようとすると、アル・ファシさんがヤコブに目配せしました。


「まだ投資された金はお返しできませんが、提督に贈り物です。」

ヤコブは部屋の奥に入ると、布でまいたものとても大きなものを持って出てきました。


「オレに?」

提督は受け取ります。ずっしりと重いそうですが。


布を解くと、簡素な鞘にはめられた大剣が現れました。

鍔の先端は複数の輪飾りがつけられ、軽い金属の音がします。


「…」

提督は濃紺の瞳を驚きの色に染め、黙って鞘から剣身を引き抜きました。


「クレイモアかい?」

リオーノが言いました。


「クレイモア?」

私が聞くとリオーノは、スコットランドハイランダーが用いる切れ味鋭い大剣だと簡単に説明してくれました。


「…オレに?」

喜びでいっぱいの提督の瞳がヤコブに向くと同時に、私はアル・ファシさんに手をひかれて奥の部屋へと入っていました。




「ふう。提督にプレゼント用意しといて良かったぜ。これでしばらくは利益分与に言及されねえで済むだろ。」

「提督、大喜びでしたね。」

私は、シュヴァイツァが貰えなかったと不満そうだった提督を思い出しました。シュヴァイツァがどれだけの名剣か分かりませんが、あのクレイモアだってそれに劣らぬ良い剣なのでしょう。


アル・ファシさんは、私を見てニヤリと笑います。

「ま、とりあえず聞いて驚け。」

「はい、驚いてます。」

私が言うと、アル・ファシさんは苦笑します。


「いや、まだ言ってねェから。」

「え?この短期間で見知らぬ土地での投資を成功させつつあるんですよ?十分驚きです。さすがアル・ファシさんです。」

「うん、まあな。オレも我ながらスゴいと思う。人間、追い込まれるとなかなかやれるもんだな。じゃ、なくてだな。」

「はい、あの帳簿にあった、多額の投資のことですね?」

帳簿につけてあったのは、サルヴァドル提督からの初期投資だけでなく、かなりまとまった額の別の金額もありました。


「誰からなんですか?」

「そうだよ、その金のことだよ、聞いて驚け。」

「はい、驚く気は満々です。」

「…その、お前は素直でいいんだけどな。なんと言うか、その、もう少し意地張られた方が驚かせ甲斐があるって言うか…まあいいか。」

アル・ファシさんは口の中で少しブツブツと言いましたが、気を取り直して、驚くべき人名を口にしました。





2010/9/5



サルヴァドル、うまいこと誤魔化されるの巻。
金塊20万枚を投資して、今のところリターンは金貨15000(のクレイモア)だけです。まあ、サルヴァドルにとっちゃそれで満足かもしれませんが。

で、ヤコブとアル・ファシのこの(とても怪しげな)会社に投資したのは…待て、次号!!




クレイモア

   

目次









































八木教広の漫画じゃないよ

claymore…両手持ちの大剣。ゲームでは蛮刀(相手を叩き潰す剣)。ブリストルかダブリンで夜中に金貨15000で買える。攻撃力はA(25)。
攻撃力30から☆扱いで一気に高額になるが、25でも十分強い。コストパフォーマンスはA武器の方が良い。特に、「斬る」には「強打」が効果的な外伝では、ある意味一番お世話になる武器(2だと「突く」が効果的なため、フラムベルクの方が使える)

ゲーム上の説明では「巨大な剣」とあり、語源も「大きな剣」だが、当時のヨーロッパ標準のツヴァイハンダー(両手剣)の中では小ぶり。切れ味も鋭いところから考えると、曲刀扱いでも良かった気がする。長さは1〜1.9m。重量は2〜4.5kg。一番デカいやつだと、サルヴァドルよりデカい(ホーレスくらいの大きさがあると思われる)。これを振り回すんなら、屋内は無理だよな。

ちなみに、船乗り用の剣として有名なカトラス(サルヴァドルが一番最初に使ってたアレ)は50〜60pの、1.2〜1.4kg。確かにこっちのが振り回しやすい。

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