救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

12-9 ゲオルク・シュパイヤーが語る話









「ゲオルクのバカっ!!あんたなんか二度と帰って来なくていいんだからねっ!!」

マリーヒェンの叫び声に続いて、乱暴にドアを閉める音がした。


「…」

俺は考える。

戻って、何か気の利いたことを言って、別れのキスでもすべきだろうか。


「…」

俺は考えて、止める。

どうせ俺の口から気の利いた言葉なん出てきやしないだろうし、奇蹟的に出てきたにせよマリーヒェンがそれを素直に受け取るとはもっと思えない。

ましてや、マリーヒェンから殊勝な別れの言葉が期待できる時なんて、地獄が凍りつくこの世の果てまでこないに違いない。


「…」

俺は、マリーヒェンが漬けてくれたザワークラフトが入れられた小樽を担ぎ、港へと向かった。




故郷にいられなくなったのは、俺のせいだ。

俺は、俺の出自から自由になりたかった。

そして、一番俺を自由にしてくれるのは、何のしがらみもない海の上だと考えたのだ。

そして俺は、マリーヒェンに罵られながら今日のように港に向かい、船に乗った。

何回もそうした。

マリーヒェンはいつも、そのうち海の上でくたばっちまうと言ったが、俺は約束通り、毎回マリーヒェンの所に戻っていったんだ。

この間の航海までは。


俺は、ありとあらゆる前職を思いついては使っていたが、最近、気にいっているのは「医者」だった。

目的は違うとはいえ、どのみちやってたことは似たようなことで、特に乱暴で、腕だの足だのがダメになっては、斧で叩き斬るような真似は得意だ。

俺は「外科が得意な船医」として、あの時もあの船に乗っていた。

そして俺は、秘密を暴かれた。


あの時の船員達の態度の激変は忘れない。

蔑まれる事には慣れていたが、それでも。

船員たちはその場で俺を海に叩きこもうとした、神の怒りを買うという理由でだ。

だが、俺が腕をぶった斬って化膿止めを施してやった男が止めに入り、俺は海に叩きこまれる代わりに、新大陸の海岸に、わずかな水と食料、そして銃とナイフ一つで置き去りにされた。

生きてコッドに辿りつけたのは、俺に怒りを感じる筈だった神のおかげか、はたまた俺たち一族が流してきた血を愛した悪魔の仕業か、俺は知らない。

そして、俺を生きてマリーヒェンの元に連れ戻してくれたあの黒髪の提督が、どっちに属する男なのかも、まだ俺は知らない。




「ラ・レアル?ああ、入ってるぜ。」

出港所の男の言葉に従い、俺は船を目指す。

ドックで修理を指示する男に声をかけた。


「ゲオルク。」

驚いた顔のギャビンに、俺は満足したが、すぐ後ろから声がかかる。


「何を驚くんだ、ギャビン。」

若々しく溌剌とした声。


振り向くと、提督がいた。

「ようこそ、オレの船へ。」

提督は、オレがどんなつもりかなんてまだ何も語っていないのに、そう言った。


「提督?ゲオルクが船に乗るつもりかなんて、まだ何にも…」

「乗るつもりさ。」

俺の代わりに、提督が言った。


「そうなのか、ゲオルク?」

驚いた顔のギャビンと、当然だという顔の提督。


俺は、今更だと、返答を省いた。


「約束の、ザワークラフト。」

俺は小樽を持ち上げた。


「美味い。」

何せ、マリーヒェンが神と悪魔を罵りながら作った逸品だからな。





2010/9/11



現時点でのサルヴァドル艦隊メンバー(加入順)

サルヴァドル・レイス…提督。アルジェの海賊王子。女恐怖症だけど当人は「女嫌いだ」と言い張る。とりあえず女性経験はないらしい。今のところはゲレロ(戦士)。金銭感覚が皆無でワガママでやんちゃ…だが、みんななぜかついて来る。きっとカリスマ持ちだと思われる。リオーノ曰く「未完の大器」。

ホーレス・デスタルデ…副長。サルヴァドルに甘いにも程がある「お母さん」。でも老練かつ人望厚い海賊。今の時点でもやっぱり、サルヴァドルよりよっぽど艦隊の運営に適している。

アフメット・グラニエ…サルヴァドルの金銭感覚のなさに泣かされっぱなしの2代目主計長。アレキサンドリア出身。アル・ファシのおかげで会計技能を取得したらしい。朴訥で生真面目で敬虔なムスリム。トルコ人の父と東欧系奴隷の母との間の子で、親孝行。

アンソニー・ジェンソン…首席航海士。通称「直感のアンソニー」で、悪い事態の予知が得意。アテネでサルヴァドルに飲み負けて加入。元イングランド海軍下級士官。口癖は「ピンと来たぜ」。イケメンだし一芸に秀でている割に、けっこう地味な存在。

ギャビン・フィッシャー…元、腕利きの船大工。後海賊。サルヴァドルに打ち負かされて加入した。船に賭けてはプロなため、一家言持ち。

リオーノ・アバンチュラ…アルジェ海賊。ハイレディンから「サルヴァドルの補佐役」という名目で送り込まれた、半スパイ。明るくお喋り好きで女好きな伊達男の皮を被っている。サルヴァドルに何を求めているのか今のところ不明。

今回の語り手:ゲオルク・シュパイヤー

…2ではゴアに、外伝ではハンブルグにいる航海士。黒髪痩身の青年顔。測量持ち。義理がないのがなんか怖い。戦闘レベル4のくせに、剣技が83もある…わりに、勇気はそんなに高くない。統率に至っては泣きそうなほど低いため、こいつに船長を任せると食料が減るか、コンディションが減るかの二択を迫られる。同じ港のギャビンとは大違いだ。

この話では「自称」船医。船医なのは
壊血病にはザワークラフトが効く→ザワークラフトといえばドイツだ→よし、ゲルマン系のゲオルクを船医にしよう
という連想。しかし知識58なのが怖い…(壊血病の発生には船長の知識が関係してるような気がする。てか、医学知識のない船医って……ガクブル)

けっこう使えない気がするのに使っちゃうのは、「顔」が好みだから。
ミスチルの桜井さんに似てると思うので、ウチでは「桜井さん」で通っている。


ワルウェイク商会…サルヴァドルがポン投資した金塊20を元にリューベックに作られた会社。銀鉱山を掘り起こすのに成功したため、未来は明るい…という評判

ヤコプ・ワルウェイク…元資産家の息子。銀鉱山への投資に失敗して憤死した父の後を継いで、投資する金を獲得するために海賊に転身…するも、サルヴァドルにいいカモにされて全財産を失う…も、なんと、当のサルヴァドルから投資を引き出して銀鉱山開発を成功させた不屈の男。海賊としてはどうしようもないが、航海士としても商売人としても有能。ふわふわしてそうな金髪に、右目が青系、左目が茶系のオッドアイ。

アル・ファシ…元詐欺師。元サルヴァドル艦隊会計長。今はワルウェイク商会に出向中(サルヴァドル艦隊は会社か)。アドリブ勝負の舌先三寸男。アフメットを除くありとあらゆる人間に詐欺師呼ばわりされているが、この話に登場してからは特に不義理なことはしていない。叩きのめされたホーレスには頭が上がらない。自称:敬虔なムスリム。オスマン人。意外と情に脆い所有り。




似てる人

   

目次









































ゲオルクはミスチルの桜井さんに似てると思いますが、ロンドンにいるローレンス・エドワーズは加藤茶に似てると思います。
もっと言うと「かとちゃんペ」の顔に似てると思います。見るたびにカトチャと思います。

ピサのジャン・ラムジオも誰かに似てると思うのですが、誰だか思い出せません。

オスマンのダニエル・ミールザは、ディズニーに出てくる悪人顔だという意見には、激しく賛成です。

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