救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

13-1 ギャビン・フィッシャーが語る話









サルヴァドル提督が、嬉しそうにクレイモアをいじり回しながら、リオーノ相手に語っている。

「なあリオーノ、クレイモアの使い勝手はすごくいいんだ。トーゴに貰ったシミターよりも射程が長いしな。敵をなぎ倒すのに都合がいい。こないだの襲撃の時のオレを見たろ?ああー、早く次の艦隊襲撃したいっ!!」

言ってる内容は物騒だが、口ぶりは新しい玩具を貰った子どもと変わりない。

とは言え、あのクレイモア、クレイモアとしちゃ並みの大きさだが、そんじょそこらのヤツじゃ振り回すにも難儀する重量のはずだ。

あれを振るって戦い続けられる提督は、見た目の細さに似合わず、とんでもない怪力なんだろう。

さすがサルヴァドル提督、俺の見込んだお人のだけのことはある。


が、まあ心配は多々ある。

提督が「クレイモアの試し切り」のために襲撃した艦隊の身入りは、そんなに良くなかった。

むしろ、逆に戦艦隊に目を付けられてしまったくらいのものだった。

提督なら、軽く返り討ちにしろというかもしれないが、金に目途がつかないうちに各国に目をつけられるのは得策じゃない。

そう言ったら提督は、リューベックでヤコブに出させればいいと言うかもしれないが、俺はあまりあの会社を当てにはしていない。


俺は横目で、アル・ファシの操るナオ級の船を見る。

ワルウェイク商会を名乗る、ヤコブの会社の持ち船で、船の名は「ギュミュシ」。オスマンの言葉でズバリ「銀」を表すらしい。

アル・ファシは口笛を吹きながら

「利益が出たら、次の船は『アルトゥン(黄金)』と名付けまさ。」

なんて言っていたが、あの口八丁の言うことがどこまで信用なるか分からない。

まあ、アフメットがハバナで買いこんだタバコの売却に、アレキサンドリアに向かう俺たちに同行して商売してるからには、一応、金を稼ぐ気があるみたいだが、その金は本当にリューベックの投資に使われるんだろうか?

大物の提督が、ポンと出した金塊20の見返りが、クレイモア一振りだって言うなら、提督以外の誰も納得しないだろう。

商売には素人の俺だが、心配でならない。


「ザワークラフト。」

ゲオルクの声がして、ぐいと皿が押しつけられた。


「顔色、悪い。」

「…別にまだ壊血病にはなってない。」

「…」

俺は、ゲオルクへの義理立てから、ザワークラフトを口へ放り込んだ。


「美味いな。」

これは世辞じゃない。ザワークラフトはガキの頃から食いなれてるが、その中でも指折りの美味さだった。


「マリーヒェンのだから、な。」

「マリーヒェン?お前の女か?」

俺が聞くと、ゲオルクは黙って髪を掻き上げた。

幾度かそうするのを見て、俺はゲオルクが少しばかり照れているのだと気付く。

ゲオルクは言葉数は少ないは、表情は変わらないはと、感情を読み取るのに苦労する男だが、俺の見る所、それほど感情の薄い奴でもない。


「マリーヒェンはきっといい女なんだろうな。料理の上手な女はいい女というもんだ。」

ゲオルクはしきりに髪を掻き上げた。

こいつは、得体は知れないが、そんなに悪い男でもないのかもしれない。

ただ、本当に船医なのか、本当に医術の心得があるのか、そこらへんが微妙なんだが。


「…」

ゲオルクが黙って、放心したように海を見詰めるアフメットを見る。


「ザワー…」

「あいつも別に壊血病じゃあないと思うぞ。」

ゲオルクは、ザワークラフトが万病の薬だと思ってるんじゃなかろうな?


「が、まあ、何か変だな。アレキサンドリアに行くと決まってから、あんな感じだ。」

「女。」

ゲオルクが短く言った。


「…女?」

そういえば、アフメットはアレキサンドリアにいたと言っていた。

女の一人二人置いててもおかしくはない。


「おかしくはないが、あのアフメットだぞ?あの生真面目なアフメットに…」

「…」

ゲオルクは髪を掻き上げ、視線を逸らした。


「アンソニー。」

暇を持て余した顔のアンソニーは、俺が声をかけるとすぐにやって来た。

「なんか面白い話か?ほら、最近ちっともピンと来なくてさ、ヒマなんだよ…」

「アンソニー、アフメットがアレキサンドリアに女置いてるって話があったとしたら、信じるか?」

「信じねえよ。」

アンソニーは即答した。


「ちいともピンと来ねえもん。面白くないにも程がある。あいつにそんなモンいるかよ。」

「お前の直感にピンと来ないなら、やっぱりそうなんじゃないのか、ゲオルク?」

ゲオルクは、面白くなさそうに髪を掻き上げた。

意外とこいつは、この手の話が好きなやつなのかもしれない。





2010/9/11



提督は、ジョカばっかりシュヴァイツァをもらったのが面白くなかったので、クレイモアを貰ったのが嬉しくてなりません。
そんな話に付き合って上げるのは、いつもはホーレスの役目だったのですが…




サルヴァドルの中身

   

目次









































サルヴァドルは、顔と手しか出ていないという超露出度の低い男であり、しかもひきしめ色の黒がイメージカラーなので、中身(つまりガタイ)は見た目では全然分かりません。
パッと見は細身ですが、やっぱり海賊だけあって、筋肉質なんだろうなあ、と思ってます。
とはいえ、あの足の細さ…というより、美しさは反則です。
「曲線美」という言葉は、この時代では「男性専用」(女性はスカートの都合上、足のラインなんて絶対に見えない。もし見えでもしたら、大スキャンダルになってしまう。身分が低くても同じ)なので、舞踏会にでも出たら、貴婦人方をうっとりさせられることでしょう。
ま、サルヴァドルが舞踏会に出る話を書くことがあるとは思いませんが。

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