「私の行動がみなさんに多大なご迷惑をおかけすることになり…すみません。」
宿の一室で、オレたちみんなに囲まれたアフメットは、そう言って頭を下げた。
「いや、オレこそ勝手に勘違いして…いや、あんまり、その…」
アンソニーが言いづらそうに言葉を濁す。
「いやー、しっかし面白いオチでさあね、提督?みんなでさんざ大騒ぎしといて、蓋を空けてみりゃ謎の美女の正体は、アフメットの『母親』と来たもんだ。」
アル・ファシがちゃかす。
「いや、でもアレは勘違いするさ!」
リオーノが珍しく、ちょっと怒った顔でそう言った。
「ね、提督?」
「そうか?」
オレが言うと、リオーノはがっかりした顔で、まあ提督に聞いたのが間違いでしたと呟いた。
「確かに、似てないな。」
「そうですか?」
アフメットが聞き返すと、アフメットの母親を見た全員が頷いた。
「…まあ、今更隠しても仕方のないことですね。いや、隠すつもりもなかったんですけど…」
アフメットはそう言って、母親が東欧出身の奴隷であること、父親が死んでほとんど着の身着のまま追い出されたこと、食いぶちを稼げるようになるために会計技能を身につけたくてオレの船に乗ったこと、その間、母親は知り合いの家に預けていたが、その当の知り合いが死んでしまっていたことを手みじかに語った。
「お金を渡しておけばなんとかなると思った、私が甘かったんです。このまま母を一人にはしておけません…」
アフメットの視線がオレに向き、逸らされる。
他のやつらの視線もオレに向く。
「船を降りるって言うのか、アフメット。」
「…この船を降りるのは辛いです。私、提督たちがとても好きですから。でも…」
「アフメットが船を降りたら、誰が会計をするんだ?」
「そりゃアル・ファシだろ。」
「しかし、アル・ファシには利益が出るまで、ワルウェイク商会の仕事をしてもらわなきゃならないだろう?」
「アル・ファシを二つに分けたらいいんじゃないか?」
オレは軽い冗談のつもりだったのに、誰も笑ってくれなかった。
面白くなかったかな?
「さてアル・ファシ、二つにちょん切られたくなかったら、いい知恵を出すんだ。」
「なんでいつもオレばっかりに無茶ぶりされるんすか!ダンナ?みんな、敬虔なムスリムを少しはいたわりやしょうぜ!?」
アル・ファシが叫ぶと、リオーノが言う。
「つまりは、アフメットのお袋さんを安心して預けられる先がありゃいいってコトだろ?リューベックに連れていくってのはどうだい?」
「母はヨーロッパには一度も行ったことがないんです。あんな、モスクもない所に住んだら気が滅入ってしまいます!」
アフメットは叫んでから、わがままを言ってすみませんと頭を下げた。
「いや、言うとおりだ。俺たちゃ船乗りだから港から港に環境が変わるなんて慣れっこだが、普通の女にはそうじゃない。だとすると、この東地中海のどこかって事になるが…」
ホーレスの視線が、アル・ファシに向いた。
「で、オレに頼られるんですね。分かりゃしたよ…」
アル・ファシは、しばらくぐるりと頭を巡らせた。
「います。」
アル・ファシは断定した。
「さすがアル・ファシさんっ!!」
アフメットが即座に反応し、全力で頭を下げた。
「おいおい、頭を下げるには早過ぎるだろ?第一、元詐欺師のお前に、そんな女預けられるほど信頼できる知り合いがいるのか?」
アンソニーの言葉に、アフメットが即座に反論した。
「何を言うんですかアンソニー!!アル・ファシさんが信頼できると言うなら、私も母も信頼します!!ねっ、アル・ファシさん?」
「…」
アル・ファシは、一瞬だけ困惑顔を見せたが、すぐに笑顔になって、勿論と言った。
「でも…」
みんなまだ何か言いたそうだが、これ以上話を長引かせても仕方ないだろう。
「もう口を閉じろ。アル・ファシが言うことをアフメットが信頼するって言うなら、それでいいだろう。」
「いいんですかい、提督?」
「アル・ファシは、アフメットを裏切りはしないだろ、な?」
アフメットが嬉しそうに微笑んだ。
アル・ファシは微妙な顔になった。
「それに、それでアル・ファシがアフメットを裏切るような真似をしたら…」
オレはクレイモアを叩いた。
「オレが殺す。」
オレが言うと、一瞬、辺りが静まり返った。
「それでいいな、アフメット。」
「もちろんですっ!!」
アフメットが満面の笑みを浮かべる。
「アル・ファシさんがそんなことをする筈がありませんけど。」
「さすが若、じゃなかった提督!ご立派な仰りようでさ。ご心配なく。いざその時になったら、提督の手を汚すまでもなく、アッシが奇麗に始末くらい付けまさ。」
「オレが信頼できねえ前提で話を進めねェで下せェよ、ホーレスのダンナ!!オレは全知のアッラーもご照覧あれ!!誠実さの塊みてェな男でさっ!!」
そしてしばらく、ホーレスとアル・ファシとアフメットが言葉の応酬をしている間、他の奴らは、
「しかしまあ、ワルウェイク商会で利益上がんなきゃ産まれたことを後悔させられたり、今回のこともあったり…」
「何回死ぬつもりだろうな、アル・ファシ。」
なんて、好き勝手言っていた。
2011/9/12
彼女と思ったら妹でしたオチ、のやや変形版。
お姉さんとかじゃあんまり面白くないので、母親まで年齢をトバしてみました。
ウチのアフメットは20そこそこなので、若い母親なら30代半ば。十分「彼女かも」はイケるでしょう…イケる人はね?
しかしみんな、困りごとをアル・ファシに投げすぎだと思います。
赤毛
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目次
西欧での赤毛のイメージは、マイナス面が多いそうです。キリストを裏切ったユダは赤毛。人類最初の殺人を犯したカインも赤毛。と裏切り者イメージの強い髪の色だとか。
さらには
赤毛は気性が荒くて扱いにくい
炎のよう
衝動的
ワイルド
情熱的
非常に意地っ張り
というイメージを持たれると。うん、カタリーナはそうだよね、確かに。
もっとスゴいのになると
ベッドでも情熱的で強欲で変態セックス好き
そうなのか、ハイレディン!?
と、思わずお頭にツッコミを入れたくなります。
そういや、リオーノもオレンジ頭だからカテゴライズ赤毛。
ま、ホーレスにバレないようにおやんなさいね。
ちなみに、黒髪は真摯で情が深いらしいです。確かに叔父貴はそうですね。サルヴァドルは…?