救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

13-6 アル・ヴェザスが語る話









「綿織物の積み込みは済んだぞ。出航は明朝だよな、アル?」

サリムの言葉に、オレは頷く。


「綿織物をチュニスで売って、麻でも買ってリスボンで売る。」

「ジョアンはいるかな?」

「いたら挨拶くらいしたいが、まー、いないだろ。」

「リスボンで岩塩を買うのか?」

「いや、武器を買う。スレイマン大帝はマッサワの辺りの異教徒討伐に兵を出すらしいからな。儲け時だ。」

「ミント茶をどうぞ、アルさん。」

酒場娘のネリーがオレとサリムに茶を差し出した。


「ありがとう、ネリー。」

「でも、また戦争なんですね。」

ネリーが少し哀しそうな顔をする。

そこでオレも思う。

オレが売った武器で、そいつらが殺し合いをするんだってこと。


「そうだよ、サファさんに身の危険が迫ったら…」

サリムが心配そうな顔をする。

オレはどちらも打ち消した。


「なあに、サファのいるバスラとマッサワはずいぶんと遠いさ。何の影響もありゃしない。それに、武器はオレが売らなくたって、どうせ誰かが売る…」

「お気をつけて。」

ネリーは心配そうな笑顔でそう言うと、オレたちの席を離れたが、すぐに戻ってきて囁いた。


「アルさん、あなたのお友達だという方がいらしてますけど?」

「友だち?」

オレが返答をする前に、そいつはズカズカと客を押しのけ、


「ヴェザスのダンナ、お久しゅう。お元気そうでなによりですぜ。」

と底抜けに明るい口調であいさつした。


「…アル・ファシ。」

「覚えていて下さって光栄ですぜ。いやあ、サリムのダンナもお元気そうで。今日もダンディで素晴らしい。いやあ、このアレキサンドリアの酒場もいい店ですね。何より、あのネリーって娘がいい。一緒にいるといやされるって言うか、そんな店をひいきにするダンナのご趣味の良さを…」

「投資ならしないぞ。」

放っておくといつまでも喋り続けた挙句、気付いたらこいつのペースに引き込まれちまうんで、オレはさっさと遮った。


「やだなァ、ダンナ方。さてはオレがリューベックの銀鉱山でダンナを騙くらかしたとお思いなんですね?とんでもない!!銀は出やしたよ。オレの言葉が信じられないってんなら、いつでもリューベックにお出でませ。いや、今すぐ金出せって言われたって金は出ねえが、ほら、そこはダンナが一番良くご存じでしょ?投資ってのは、ちょいと気長にいかないと本当の利益が出ない。これは、女を口説くのと一緒で、ダンナのような色男とには今更…」

「投資の回収については、期限になってからゆっくりとする。で、他に用事がないならとっとと失せろよ。」

オレが言うと、アル・ファシは神妙な顔をした。


「いやいや、ありやすよ。ダンナの心の平安のためのお話がね。」

「お前はいつからウラマー(イスラムの宗教指導者)になったんだ?」

サリムが耐えきれずにツッコミを入れたが、アル・ファシは涼しい顔だ。


「ダンナ方が敬虔なムスリムだってことはオレもよく知っていやすよ。そして、ムスリムの五行をしっかり行おうとしていなさることもね。アッラーに讃えあれ!!アッラーは弱きものに慈悲を垂れることを嘉し給う…」

オレは腹にリキ入れて警戒する。

こういう天性のバチ当たり野郎が神を語りだしたからには、大金を巻き上げようとしてやがるに違いないんだ。


「俺もアルも、儲けた分はモスクでしっかり寄付してるさ。俺たちの稼業はアッラーのお恵みなしにはやってらんないものなのはよぉく分かってる。」

「そうっ!!アッラーのお恵み無しには、ダンナ方の富とて虚しいものだ。だが、この世にはアッラーのお恵み薄い気の毒な子どもたちがいる…」

「…ああ。」

サリムはそう言って、オレの顔を見た。


「確かにオレは両親と妹に生き別れた孤児だ。別に隠しちゃいないからお前が知っててもおかしかないが…」

「ヴェザスのダンナくらいのお方なら、孤児であっても一財産築くことができる。だが、そうでない子たちはどうですかね?」

「…」

サリムが、アル・ファシの意図が読めないって顔をした。


「イスタンブールで知らぬ人がいないダンナが、そのうちでっかい喜捨をして、スゴいもんを造るだろうってのは、みんなが期待してることですぜ。」

「アルに孤児院でも造れって言うのか?」

「その通りっ!!」

アル・ファシは、わずかににやりと笑ったが、すぐに神妙な顔に戻った。


「オレの何をお疑いか知りやせんがね。哀れな子どもたちに天井と温かい衣服と腹いっぱいの食事を与えてやりたいという気持ちに、なんの悪意がありやしょう。子どもたちに、実の親ではないにせよ、世話をしてくれる女たちを与えてやりたいっていう気持ちに、なんの裏がありやしょう。ねえ?」

「…」

オレは何か反論してやろうとしたが、どうにも言葉が出てこなかった。

オレが孤児だったからって理由もあるし、オレの妹のサファだって、オフクロに死なれてから苦労したんだろうって思うと、そんな子どもたちを二度と出したくない気持ちもある。


「何をお悩みですかい?ああ、ヴェザスのダンナは金は出せても、一体、誰が子どもたちの世話をするのかとお思いなんですね?ご心配なく、オレが善良なご婦人を知ってやす。宿に待たせてありやすんで、ささ、こちらへ。ネリーさん、お勘定お願いしやすよ。」

「はーい。」




しまったやられた。

また、こいつにまんまとハメられちまった気がする。





2011/9/12



アル・ファシの口先三寸炸裂。どこまで予定の行為でどこからがアドリブなのかは、アッラーのみぞ知るってヤツです。

アル・ヴェザス
…2の主人公の一人。交易商人。家族と生き別れ、イスタンブールの貧民として暮らしていたが、親友のジャハーン・サリムの父の船が難破したことをきっかけに、難破船を修理して、自力で取得した会計技能と交渉技能と舌先三寸を武器に交易業に乗り出す。黒髪黒い目のオスマン人。エルネストとオットー以外の全ての主人公に関わる。中級〜上級者向けだが、大航海時代で一番面白いのは交易なため、ハマると止められない。実は2で全ての技能を取得できる唯一の男でもある(外伝だと、根性と時間さえあれば、ミランダでもサルヴァドルでも全ての技能取得は可能)
ゲーム開始時は、友人と船と野望以外なにも持たなかった彼だが、EDでは、恋人も家族も財産も名誉も生き甲斐も全てを手に入れるという、アメリカンオスマン・ドリームを実現する。
もっとも爽快感のあるシナリオだと思う。

私見だが、抜け目はないが、金を貯めても偉くなっても、人としての大切なものは失わない素晴らしい男である。ラディアは本当にいい男を捕まえたと思う。
サルヴァドルシナリオでは、ウルグに勝たないと会えないうえに、少ししか出て来ないが、アルが大好きなので、この話では出すことにした。




アルシナリオの楽しみ方

   

目次









































アルシナリオは、もちろん交易シナリオとしても楽しめるが、ネコのおかげで(ちょっとレベルを上げると地図作成技能が取得できるので)冒険者としても楽しめ、気合いと根性さえあれば海賊としても楽しめる。
彼を育てて、ハイレディンに一騎打ちで勝つのは相当爽快だと思う。
べにいもは金塊1000個ためようイベントを海賊でクリアしようとし、アイディンにまでは勝ったが、ハイレディンには勝てなかった(ちなみに戦闘レベルがいくつだった忘れたが、剣技は70台後半くらいまでは上がっていたと思う)。
たぶん、あと金塊500くらいためる時間があれば、ハイレディンにも勝てたはず。
こんなに苦労しないといけないハイレディンはやっぱり強い。ジョアンあたりだと、ちょっと海賊経験積むだけでほいほい勝てるのに。

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