救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

14-2 オズワルド・レミントンが語る話









ロドリゲス、ゴンザレスのビゴール兄弟が、金塊の小山を私に示した。

「サルヴァドルの分、かね?」

解答の知れ切った問いだが、二人は頷いた。


「これでサルヴァドルさんも、めでたくヴェテラーノ(猛者)になりやした。」

「アルジェの誇り高きバリエンテ(英雄)まで、あと一歩です。」

「最近の若いのは、どれも優秀なものだ。一体、何処から稼いでくるやら。」

ついこの間、ハイレディン首領から拝領したばかりの金塊20を一月も立たぬうちに使い切ったと言っていた男が、次には金塊60を平気に上納してくる。


「最近はサルヴァドルさんは北海を根城にしていらっしゃるらしいですよ。」

ロドリゲスが言う。


「イングランド船も襲撃していなさるようですが。」

ゴンザレスがそう言って、私の顔色を窺った。


ふ。

私の口から苦笑が漏れた。


「生憎だな。私がそれを咎めなければならなかったのは、遥か昔だ。」

「ゴンザレス。」

ロドリゲスが非難の眼差しを双子に向けた。


「とは言え、今のイングランド海軍も捨てたものではない。イングランド国王ヘンリーは対イスパニアの為に海軍の増強を図り、私掠船によるイスパニア商船への襲撃を行っている。イスパニアは新大陸との航路を荒らされ、新大陸との連携も図り難い。」

「イスパニアはイングランドとの全面対決に踏み切りますか?」

「そうはなるまい。イスパニアはイングランドなどまだ本気で戦うべき敵とは見ていない。下手に主力を北海へ向けて、我々アルジェ海賊にイベリアを荒らされては敵わないと思っているだろうね。また、ヘンリーに、イスパニア無敵艦隊と正面切って戦う覚悟はない。少なくとも、まだ。」

「『まだ』ですかい?」

ゴンザレスの意図は理解できた。


「イングランド私掠艦隊オットー・スピノーラ、ですか?」

さすがロドリゲス、読みが正確だ。


「旧弊な宮廷勢力のために私掠艦隊提督に留まっているが、あの男はそのうち地中海を揺るがす男だ。非凡な剣技、卓越した艦隊戦術、揺るぎないイングランドへの忠誠心、そして、鋭い戦略眼。」

「旦那、随分と買ってらっしゃいやすね、その男を。海軍にいた時にご存じなんですかい?」

私は、遠い昔を思い出す。

「教え子だよ。海軍兵学校でのね。」


イングランド海軍。兵学校。理知的な眼差しをした銀髪の若者。


「抜群に出来の良い青年だった。『後世畏るべし』とは彼の事だと思ったものだ。」

まさか、あの彼とこんな形で関わることになるとは、あの時は思いもしなかった。

私の心中に、苦いものを過った。


「オットー・スピノーラがさらに成長し、いずれはイスパニア無敵艦隊を、ロベルトゥス・エゼキエル司令を打ち破れば。」

「あっしらは後顧の憂いなくシャルークと対決出来るって寸法ですね。」

「確かにね。」

今は、イスパニア無敵艦隊が、いや、エゼキエル司令の存在が地中海の騒乱の歯止めになっている。

だが、あの男が破れるようなことがあれば、事態は一気に動き出す。

もちろん、このアルジェも。


「次にサルヴァドルに会うことがあったら伝えてくれ給え。オットー・スピノーラという男に気をつけろとね。」

「了解でさ。」




ビゴール兄弟と入れ替わるように、トーゴが私の部屋に入って来た。


「サルヴァドルがヴェテラーノになったんだってな。そこでビゴール兄弟に聞いたよ。」

トーゴは椅子に腰を下ろす。


「いやあ、あいつも出世したもんだ。こりゃ俺たちもうかうかしてらんねえな、な?オズワルド。」

「確かにね。我々二人とも四十路を越えている。未来ある若者達に蹴散らされんとも限らないね。」

「全くだ、ジョカもサルヴァドルも、傍若無人な点じゃ似た者同士だからな。」

トーゴは、茶色の巻き毛と太鼓腹を揺すって笑った。


「で、この本の内容を聞きにきたのだろう?」

私は、トーゴが預けていった本を示す。


「仕事中なのに頼んで悪かったな。」

「何、良い気分転換になったよ。この一冊はラテン語だ。新大陸に関する報告書…の体裁だが、中身は、新大陸の物産ばかりだよ。書いたのは学者だろう。公費で自分の知的興味を満たしたようだね。」

「ほう、物産?」

トーゴが興味のある瞳で本を見詰める。


「新大陸で発見された、野菜、果物…そう言えば、君は美食家だったね。」

私は、トーゴの大きく突き出た腹部を見た。


「そんな偉そうなシロモノじゃねえ。俺はたんに美味いモンを食うのが好きなだけさ。」

「まあ、君の喜びそうな話も書いてある。例えば、新大陸から『カカオ』という植物が西アフリカに移植されているが、そのカカオは、種をすりつぶして飲むと滋養強壮に効くらしい。」

「ほう、そいつは面白そうだ。他には何か美味そうなものはないのか?」

「そう、期待に満ちた眼で見られても困る。確かに新大陸の物産の調理法も書いてあるが、私は学者ではないし、全文解説までは承らんよ。」

トーゴは露骨にがっかりした表情になった。いい年をした、しかもアルジェ四人衆ともあろう男が、そんな料理一つで顔色を変えなくとも、とは思う。


「…まあ、あんたも忙しいんだ、そこは仕方ねえな。で、他の本は何なんだい?」

「不明だ。」

「不明?」

「私に分かる言語ではないということだよ。欧州の言葉ではないし、トルコ語やアラビア語でもない。だが挿絵に香料の図や、インドの寺院らしきものがあるところを見ると、インドか東南アジア辺りの本ではないかという気もする。これはあくまでも推測なのだが、この文字は、インドの文字ではないかと…」

「ほう、インドの食いものか、そりゃ興味有るな。」

「…食べ物の本かどうかは保証しかねるよ、トーゴ。」

「なあに、新大陸の美味いモンが載ってる本を持ってる奴なら、インドの美味いモンにだって興味があるはずさ。」

「繰り返すが、トーゴ。あの本は新大陸の物産についての本であって、別に美食大全などでは…」

「しかし残念だ。せっかくの本なのに、読めねえとあっちゃなあ。」

トーゴは、肉の厚い顎に手を当てた。


「オズワルド、どこかに読める奴はいねえのかい?」

「どこかの大学の教授になら、インドを専門にしている者もいるだろうが、我々のような海賊の依頼を受けてくれるとも思えんね。余程の変わり者でなければ…」

そこで私は、「余程の変わり者」を思い出した。


「そういえば、ナポリにだね…」





2011/9/26



トーゴがどんどん食いしんぼうになってる気がします。
そのうちエプロン(特注サイズ)をして、厨房に立つ日も遠くない…かな?




プレイアドバイス「狙いを定めよう」

   

目次









































サルヴァドルに限らず、海賊シナリオではどこの国を狙うかハッキリ決めてから襲撃していかないと後でエラい目に遭います。

個人的には、襲撃する国は3か国までにしておくことをお勧めします。(国は全てで6か国あるので、半分まで)
それ以上、敵対心を上げてしまうと、投資が出来る午前4時までに港に入れなくなってしまいますので。(常に逮捕の危険に怯えなければならなくなる…てか、副官の台詞がいちいちうっとおしい)

オススメ敵対国

ジョアン…オスマン(どのみちイベントで戦闘する)

カタリーナ…イスパニア(どのみちイベント、てか追手と戦闘するし、どのみち敵対心100だし)、オスマン(どのみちイベントで戦闘する)

オットー…イスパニア(どのみち…)

サルヴァドル…別にどこでもいいけど。儲けるならポルトガル、イスパニア。どのみちイベントで戦うのでオスマン、イギリス。どうせ同盟港に投資しなきゃならないので敵対心あがると考えるならオランダ。近場ならイタリア。

海賊のカタリーナやサルヴァドルはともかく、ジョアンやオットーはイタリアを主な獲物にするのはオススメしません。海賊名声を上げていると、「ー戦艦隊を襲撃してこい」という勅命を受ける事が多いですが、その対象によくイタリアがなるからです。イタリアは ものすごく弱い ので(特に2)、イタリアを獲物にしているとすぐにイタリア同盟港が首都のみになり、航路が無くなって艦隊が出て来なくなり、
「イタリア戦艦隊襲撃しろったって、艦隊出て来ないよう(泣)」
と困るからです。

べにいもはジョアンで、イタリア同盟港に投資しに行こうとする商船隊を沈めまくって(ポルトガル船も沈めた)、間接的にイタリア支援したことがありますが、それでもイタリアは弱いまんまでしたね(笑)

あ、外伝はともかく2なら、イベント戦闘をこなすだけで次のイベントに必要な海賊名声はたまる気がします。(特にカタリーナ)

ついでに言うと、海賊だけを襲撃していたら国の敵対心は上がらないため、イベント戦闘で上がってしまう分以外はどこの国の敵対心もほとんどゼロに近い…というクリアも不可能ではないです。

めんどいけどね。

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