「ふむ、これは美味い!!」
ワシは、砂糖と牛乳を入れたショコラトルを一口飲んで、そのあまりの美味さに感嘆した。
「だろ?」
茶色の巻き毛の男は、デカい腹に似合わん子どもみたいに嬉しそうな顔で言った。
「新大陸ではピメントを入れて辛みをつけておったという先入観に囚われず、甘みをつけてみたという逆転の発想ぢゃのう、素晴らしい!!トーゴさんや、その発想力の柔軟さはまっことにすっばらしいわい!!」
「なに、俺の考えたことじゃねえよ。ウチの副首りょ…おっと、知り合いが考え付いたこった。」
「ふうむ、ではその御仁の発想力にカンパイぢゃ。」
ワシは、ショコラトルをトーゴにも注ぎ、カップを
かちり
と合わせた。
「牛乳を入れると更に味がまろやかになっていいなあ。」
「うむ。あの新大陸の本を更に調べてみたんじゃが、あちらではピメントだけでなく香料付けにバニラを入れたりもするそうぢゃ。甘い香りがすると、なお一層、心が癒されるかもしれんのう。」
「酒と違って、飲んで暴れ出す奴もいねえだろうしな。」
「ふむ。インドやセリカから運ばれてくる茶や、最近、ムスリムたちの間で流行ってきておるコーヒーのような、ノンアルコール飲料が、そのうちヨーロッパでも流行るのではないかのう。」
「成程な、で、そいつでひと儲けしようって考えはねえのかい、ジュリアーノ教授?」
「ワシは学者ぢゃよ。トーゴさん、おまいさんはどうかね?」
「成程な、そういう人生も面白そうだったな。」
トーゴはそう言うと、心から美味そうにショコラトルを飲み干した。
ワシが、この茶色の巻き毛に太鼓腹の男と出会ったのは、つい最近ぢゃ。
ワシのように、コレクターなんぞという稼業をしとると、世間一般の学者よりは色んな人間と付き合うことにもなる。
そうそう、ワシと契約しとるあの好奇心旺盛で無鉄砲なミランダ嬢ちゃんなんぞ、その最たるものぢゃ。
ぢゃが、このトーゴという男は、またそういうのとも一風違ったオーラをまとっておった。多分、ワシがもっと象牙の塔に住まっておったなら、お付き合いなどお断りしたい種類の。
ぢゃが、ワシはこの男の持っていた珍しい言語で書かれた本と、二重顎のくせにの奇妙に奇麗な目をしたところがどうにも気に入ってしまい、その本の調査を引き受けたというわけなのぢゃ。
もっともいざ付き合ってみれば、気さくぢゃし、話は面白いし、珍味大好きと、ワシとひっじょーに気の合う男ぢゃったのぢゃが。
「おっと、本題から逸れたの。で、調査の結果ぢゃ。」
ワシは、トーゴから預かった本の一冊を差し出した。
「これは、インドの書物ぢゃ。」
「へえ、オズワルドの言ってた通りか。」
「ん?お友達の学者かね?」
「いや…ま、知り合いは知り合いだ。博学なヤツだが、学者じゃねえ。話の腰を折ったな、それで?」
「インドの風土風俗について書いてある本での、例えばインド美術ぢゃが…ああ、そんな露骨に興味なさそうな顔をするでない。分かっておる、インドの料理ぢゃがのう。」
「アレキサンダー大王も行ったインドの料理か。何を食っているんだろうな。大王は象部隊に苦戦したって話を聞いた事があるが、象の肉でも食っているのか?」
「この本では、インド人たちは象は神聖なものぢゃと思っていると書いてあるから、食うなんてとんでもない事ぢゃろう。」
「そうか。まあ俺も一度だけ象は見たことがあるが、確かにあんまり美味そうじゃねえしな。」
「そもそも、インド人たちは菜食主義者が多いそうぢゃ。」
「肉を食わないのか…そうか…うーん、残念だ。」
トーゴはそう言って、デカい腹を叩いた。
「じゃあ、何を食ってるんだ?」
「ふむ、よくぞ聞いてくれた。インド人たちが食べているものを『カレー』というのぢゃ!!」
「『かれー』?聞いた事がない食べ物だな。一体、何なんだそれは。」
「香辛料をふんだんに使った、スープぢゃ!!」
「香辛料をふんだんに…」
トーゴは絶句した。
うむ、確かにそうぢゃろう。
香辛料交易は、今でもほとんどをムスリムたちに独占されておる。ぢゃからヨーロッパに渡ってくる頃には、胡椒の1袋が、同じ重さの黄金1袋と取引されるほどの高額商品になっているのぢゃ。それをふんだんに使った料理なんて、王侯貴族ぢゃて宴会でも開かねば口に出来まい。
「なかなか剛毅な話だな。だが、それでも是非食ってみたい!!」
「うむ、おまいさんも剛毅な男ぢゃな。安心したまえ、ワシも剛毅な男ぢゃ。学者というものは真実を追究するための投資は惜しまんものぢゃ。胡椒なんぞ船単位で買ってやるわい!!」
「学者ってのはそんなに儲かる仕事なのかい?胡椒を船単位なんてよ。」
「もちろん、こっちでは買わんわい。あんなバカみたいな値段、とんでもない。」
「こっちでは?」
「おお。おまいさんも船乗りぢゃから、ポルトガルがアフリカ航路を開拓してインドに交易圏を広げておるのは知っておるぢゃろ?胡椒なんぞ、原産地ぢゃタダみたいな値段なのぢゃ。途中にマージンが大きくかかるから高いだけぢゃ。ぢゃから、現地で直接買い付けてきてもらうのぢゃよ。」
「だが、あんたはポルトガル人じゃないだろう?」
「ふふん、ワシはコレクターぢゃでな。冒険家を雇っておるんぢゃ。あの子に買い付けに行ってもらうわい。」
「冒険家か。ポルトガル宰相レオン・フェレロから始まって、最近増えてるな。そういや、ジェノヴァのピエトロとかいう冒険者が今、名を上げてるらしいが、あんたが雇ってるのはそいつかい?」
ふうむ、ピエトロ・コンティーは他国人にも存外有名ぢゃのう。そりゃ、あのミランダ嬢ちゃんも憧れるわけぢゃわい。
「いやいや。ピエトロはそのフェレロ公爵家に雇われとるそうぢゃ。ワシの契約しとるのは、ミランダっちゅう若い娘ぢゃ。」
「若い娘!?いくら冒険家が流行ってるとはいえ、また物騒な話だな。海は危険だぜ。」
「腕は良い子ぢゃよ。もっとも、危険なのはもっともぢゃ。嵐、凪、壊血病、水夫の反乱…」
「そして、海賊。」
ワシは、トーゴの正体が何かということを追究しそうになったが、そこはやめておいた。
ワシが追い求めるべきは真理であって、ひと様のプライバシーではないからぢゃ。
「その嬢ちゃんの乗ってる船はなんだい?」
「リベッチオ号というラティーナぢゃよ。」
ワシは、付け加えた。
「おまいさんも船乗りなら、見つけたら声くらいかけてやっておくれ。」
「ああ、若い娘が船長のラティーナな、分かった。」
教会の鐘が鳴った。
「おっと、思わず長居しちまったな。じゃ、俺はこれでお邪魔するぜ。」
「いつでも来てくれ給え。歓迎するわい。そん時には、他の本の解読も進んどるかもしれん。かなり興味深そうな本ぢゃからの。」
「そうなのか?」
「うむ、一冊はセリカの宝物に関しての本で、もう一冊は南方大陸に関しての記録のようなのぢゃよ。」
「セリカはいいが、『南方大陸』?」
「そうぢゃ。今まで発見された大陸は、北方に偏りすぎぢゃで、南方にも大きな大陸が必ずあるはずぢゃという学説から…」
「ああ、もういい、もういい。その南方大陸とやらで何か美味そうなものが食えそうならまた教えてくれ。」
「うーむ、愉快な生物は山ほどいそうぢゃから、そのうちのどれかは食べても美味いかもしれん。」
「そいつは楽しみだ。」
ワシは、トーゴから預かった本を開く。
「せっかくの南方大陸なのにのう…」
ノアの洪水でも生き残った、天地創造時の名残もあるという南方大陸。その話が載ってるんだとしたら…
「おっと、すっかり忘れとった。新大陸の遺跡についての依頼もあった。おおー、芸術的インスピレーションをかきたてるインド美術の依頼も…」
ワシは、テーブルの上にほったらかしておいた手紙を次々開いてみる。
ううむ、ワシくらい高名なコレクターになってしまうと、次々依頼が来て大変ぢゃ。
「これぢゃあ、インドの香辛料の買い付けは後回しぢゃのう…」
トーゴが残念がることぢゃろう。
まあ、仕方あるまい。
生きてりゃ、学者としての良心と責務にかけて、ちゃんとワシが食わしてやるわい。
「うむ、そういえばミランダがそろそろ戻って来るつもりだと言っていたのう。」
ワシは、ショコラトルを温める。
滋養強壮に効き、癒し効果もあるこの飲み物は、あの元気な嬢ちゃんよりは、いっつもあの子に振り回されとるトニオ坊やの方に飲ませてやりたい。
ついでに、このショコラトルがいかに美味い飲み物か、各港に広めてもらおうかのう。
2011/10/3
スーパー捏造過去。
ジュリアーノ教授はいろんな人と仲良し?になれる人徳高い方なので、トーゴとだって仲良くなってくれるはずです。
で、結局トーゴはカレーを食べられたかということは…まあ、ゲームをした方ならご存知ですよね?
今回の語り手:ジュリアーノ教授
…ナポリの外れに住む、名高き「変人」コレクター。外伝主人公の一人であるミランダのスポンサーとなり(ミランダ以外に契約してくれる冒険者がいなかったものと思われる)、毎度毎度ミランダに
「そんなのどうやって探せばいいのよー!!」
という依頼を持ちかけてくれる。
行動に言動は奇妙奇天烈だが、モルデス教授曰く、「真理を探す情熱にかけては誰にも負けない」らしい。確かに、学者としては博学かつ熱心である。
加えて、自分の研究に役に立つなら、誰とでも偏見なく関わってくれる。それが、冒険者志望の世間知らずの小娘であろうが、仲間から追われた反逆者の海賊だろうが…
また、変人だが倫理観は健全である。
コレクターとしては非常に気前が良い。良いが、良すぎて、どこからこの金が出ているのかとても気になる。依頼者がどうとか言う所を見ると、仲介手数料で生活しているような気もするが、明らかに自分の趣味でしかないものを依頼してくることも多いので、やっぱり親の遺産がたっぷりあるのかも。
顔のインパクトが強すぎて年齢不詳。モルデス教授と大学が一緒のところを見ると、意外と若いのかもしれない(ま、当時の大学生は年齢バラバラだけど)
ちなみに、Uでは測量技能を教えてくれる人だった。Uの時は、顔のインパクトが強いだけの普通の人だったが、外伝では顔のインパクトに性格を合わせて、キョーレツな人になった。
以上が公式設定(かなり私見入ってるけど)
ミランダ編のとてもめんどくさいカレーイベントは、「彼はこのレシピをどこから手に入れたんだろう」と思いながらこなしていたので、今回、自分なりに理由をつけてみた。トーゴさんともっと関わっていたら、
「中華料理を作ろう」
とか
「これが刺身というジパングの料理じゃー」
とか言って、凄惨な魚のブツ切りを披露してくれていたかもしれない。(そしてアルジェのみんなが被害を受けそうだ)
そしてトーゴさんが「俺は、海賊から足を洗って料理人になった方がいいかもしれない」とか言い始めて、ジョカが泣いたかもしれない。
そんな外伝も、ちょっと見てみたかったかもしれない。
この人を出したい
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目次
ロベルトゥス・エゼキエル…言わずと知れたイスパニア無敵艦隊司令。オットー編のラスボス。ラスボスと名の付くものの希少性が高いUの、しかも威厳と強さを兼ね備えた、もっともラスボスらしいラスボス。色んな意味でしぶーいおぢさまで、べにいもも大好き♪
ただ問題は、彼を出そうとすると、イスパニアとの国際関係とか、いろいろとめんどくさいものを書き込まなければならないのと、出すからには重要なポジションで出さなければならないので、ハイレディンかサルヴァドルあたりと戦ってもらわねばならないということ。うわ…使いづらい。でも出したい。
アンドレア・ドーリア…イタリア戦艦隊。史実ではハイレディンと死闘を繰り広げた、ジェノヴァの軍閥で、ひと癖もふた癖もある梟雄。こんなにスゴい人なのに、Uでも外伝でも、1ミリグラムもストーリーに関わって来ない、なんで?
個人的には、サルヴァドルシナリオには大きく関わって欲しかった。だからどこかで出したい…けど、このゲームのドーリアはレベル高い割に弱いんだよな。とくに剣技。
付け加えると、アコスタ・バルバリゴ(レパントの海戦の立役者の一人。塩野七生の『レパントの海戦』の主人公)もどっかで出したい。
ピリー・レイス…言わずと知れた、大冒険家。航海レベル60、戦闘レベル50という、「仲間にしたら自慢できる男」の一人(ちなみにべにいもはしたことがない)。彼は出したいなあ…ただ、何処で出すかだ。
アルベロ・スキラッチ…言わずと一部では知れた大凶男。運ゼロという素敵な能力値に加え、若いのに後退しまくった頭部がチャームポイント。能力値も、酷くはないがイマイチ使えないうえに、彼を連れて歩くと提督の運が100でも嵐に襲われる。
いじりキャラとしてこれほど使える人もいない…が、どこで出すかが問題だ。
サルヴァドル艦隊の航海士にするかな?
エステバン・オルテガ…イスパニア航海士。よく商船隊を率いている会計技能持ち。ナイスミドル!!という、べにいものハートをがっちりつかんで離さないおぢさま(ってほど年ではない)
拙サイトのDQの方をご覧の方はご存じと思われる、「聖堂騎士エステバン」は、彼から取った。どうしてDQ人名を大航海時代から取ったかというと(名前は各国人名表から主として取っているが、姓はゲームから取ってる場合が多い。拙サイトスキルの高い方は「ああ、アレか」と納得して下さい)、「オルテガ」のせいなのだよ(もちろん、「勇者の父にして勇者のオルテガ」のこと)
顔と能力値くらいしかない上に、スキラッチほど極端な能力値もないため、キャラとしての個性を出しにくい。
けど出したい。なぜなら顔が…(しつこい)