救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

15-1 ギャビン・フィッシャーが語る話









「ギャビンさん、アンソニーさんが呼んでます。」

ドックの大工に声をかけられて、俺ははっとする。

首にかけたタオルで顔を拭うと、タールで顔が真っ黒だったことが分かった。


「お前も、本当に船が好きだな。」

気付けば、アンソニーはすぐ横にいて、笑いながら新しいタオルを渡してくれていた。


ここは、リューベック。今の俺たちのアジトみたいな街だ。

元はチンケな港町だったが、ウチのサルヴァドル提督の投資と、不屈の根性の持ち主のヤコブ、ついでにアル・ファシの手腕も相まって、銀が産出された今となっては、ちょっとしたここらの中心都市になった。

提督が投資した見返りの金は、結局この街にまんまと再投資されてる。

ホーレス副長は、アル・ファシに丸めこまれたと渋い顔だが、そのお陰でこの街の造船所も随分と大きくなり、設備も整った。

つまり、俺にとっては天国のような環境になったという訳だ。


「大好きだ。」

俺はもう一度顔を拭う。

顔は真っ黒でも、俺はこうやって船をいじっているのが好きだ。


「俺は思うよ。こんな造船所の親父になって、自分の好きな船を設計から全部自分で造れたらなってな。」

アンソニーは笑った。


「そいつはいい夢だと思うぜ。海賊稼業に成り下がったって考えずに、一攫千金出来る仕事に就けたって考えりゃいい。サルヴァドル提督は海賊船長にしちゃ随分と上出来なお人だ。何年かのオツトメの間生き延びて、ぜひとも夢を叶えてくれよ。」

「確かにな。この首が頭についてるのがめっけものだ。お礼奉公はきちんと済ますさ。その間は…色んな港の、色んな船や技術を見たい。」

海賊稼業をしながら、だが。


「船のメンテナンスは済んだのか?」

アンソニーは、ラ・レアルのガナドール号に視線をやった。


「俺の腕を甘く見るなよ。メンテナンスどころか、追加装甲まで取り付けた。耐久度も上がったし、これなら多少の砲撃ならビクともしない。」

「そいつはスゲえ。じゃ、その威力を見に行くことになりそうだぜ。」

「提督のお呼びか?」

「ああ。」

なら、また艦隊襲撃だろう。戦闘が大好きかと問われると素直には頷きかねるが、それでも、自分の船の性能を試せるというのは心踊るものだ。




ワルウェイク商会の居間では、アル・ファシとアフメットが、大真面目な顔をして討論していた。

二人の間には、何やら黒い液体。酒じゃなさそうだ。


「アル・ファシさん、カカオを食べても良いとは、アッラーは一言も仰っていません。である以上、このショコラトルという液体を飲むことは、コーランに反しませんか?」

「だがなアフメット、逆に言えば、アッラーはショコラトルを飲むなとは一言も、我らが偉大なる預言者には仰っていない訳だ。である以上、飲んだって構やしねえだろ?」

「ですが、飲んでも良いとはどこにも書いていないのでしょう?」

異教徒の戒律には興味無い。

だが、俺より先にアンソニーがその討論に割って入った。


「何でもいいから、提督はどこだ?言われるままに、ギャビンを呼んできたんだが。」

「あっちで、ホーレスのダンナ相手にダダをこね…じゃなくて、大事なお話中だ。」

アル・ファシはそう言って、大げさに手を上げて見せる。


「アッラー、愚かにして卑小なるこのオレには理解できません。なんでウチの提督は、リューベックからのアガリだけで食うどころか、上納金だって払えるってのに、わざわざ危険な海賊稼業をしたがるんでしょうかね?」

「同感です。偉大なるアッラー、アル・ファシさんより更に頭の回らない私には更に分かりません。生計を立てる手段がないから艦隊を襲撃するというなら分かりますが、商売で食べていけるなら、それではいけないのでしょうか?正直、みなさんのように腕の立つ航海士がいるんですから、その人たちに船を任せて貿易した方が、安全で儲かると思うのですが。」


バタン!!

「いいかっ!!オレは絶対に戦うんだからなっ!!戦って奪い取るのが海賊だ!!どこの世界のアルジェ海賊が、交易のアガリでバリエンテになるって言うんだっ!!」

大きな音と、派手な怒声。

もう俺たちはそんな提督と、はいはいと頷く副長の顔には慣れっこになっていた。


「で、どこ出撃します?」

アンソニーが慣れた口調で聞いた。


「提督、ならそろそろアジトに顔出さないかい?」

リオーノが言った。


「おや…お頭は、オレに帰って来るなと…」

「あれは提督が駆けだしだったからですよ。提督はもう立派な海賊、堂々と出入りすればいいのさ。な、ヴェテラーノ(猛者)さま?」

「そうだな。オレもヴェテラーノだもんなっ!!」

相変わらず、リオーノは提督あしらいが上手なものだ。


「ギャビン、オレのガナドールの修理は済んだな?行きがけの駄賃に艦隊を沈めてから、アルジェに出発だ。出航準備!!」

「はいはい。」

ホーレス副長は再びそう言ってから、アル・ファシに目をやった。


「行ってらっしゃいまし、提督、ダンナ方。リューベックとワルウェイク商会のことはお任せあれ。」

アル・ファシは、ひらひらと手をふった。


さて、また波乱含みの大航海が始まるようだぞ。





2011/10/23



「儲かりまっか」「ぼちぼちでんな」があいさつ代わりになってそうな、ワルウェイク商会です。
でも、会社経営で満足できない、困ったサルヴァドルなのでした。




大航海時代2&外伝における交易

   

目次









































儲かります。
正直、このゲームの交易はいろいろとファンタジー(現実離れしているという意味)なので、一旦、船さえそろえてしまえば、海賊稼業なんて目じゃないくらい儲かります。
ガレオンで海賊するより、そのガレオンでイスタンブールとアテネをうろうろする方が、何十倍儲かる事か…
鉄甲船で一騎打ちして艦隊をまき上げるより、その鉄甲船で東アフリカと長崎を往復する方が、何百倍儲かる事か…

ただ、面白くないけどね、ゲームとして。

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