「サルヴァドルさんは強いですよ。」
オレは、繰り返す。囁くように。
ふん
同意するような、嘲笑うような、無関心なような、音。
「もちろん最強は、地中海の海賊王は、貴方ですけどね、お頭。」
オレの言葉に、お頭は何の反応も示さない。
ま、そりゃそうだろう。こんなモンは世辞でもなんでもない、ただの「事実」だ。
でも、オレは言わずにはいられない。
この人は最強だ。
だからオレは、この人に惹かれずにはいられない。
「お前の見る所、サルヴァドルは使えるんだな。」
「ええ、もちろんですお頭。あのお人なら、ゆくゆくはこのアルジェ海賊を背負って立ちます。オレが保証しますよ。」
オレは想像する。
海賊王の後継ぎに相応しい風格を持ち得たサルヴァドルの姿を。
そして、その傍らに立つのは、
他でもない、
オレだ。
「お頭、サルヴァドルさんならシャルークだって打倒せる。バリエンテでなきゃ不足だってんなら、オレがすぐにでもバリエンテにしてやりますよ。だからサルヴァドルさんを…」
「俺に指図する気か?リオーノ。」
お頭の声は大きいどころか、可聴域ギリギリでしかなかったが、オレの口を一瞬で凍りつかせた。
「…出過ぎた真似を。」
お頭は、その顔じゅうの赤髭の中に、それでも埋もれようもない鳶色の瞳でオレを無表情に見つめた。
「お頭?」
「お前は情が深いな。」
「…は?」
だが、お頭はその大きな手を一振りした。
下がれ
の意味だった。
お頭の部屋からアジトの地下道を歩きながら、オレはお頭の言葉の意味を考える。
情が深い
オレは、お頭の言葉の意味を図りかねる。
オレがサルヴァドルに入れ込みすぎてるってことか?
まあ確かに、オレはサルヴァドルに入れ込んでる。
あの王子さまこそ、未来の海賊王だって思ってる。
だが、それはお頭も望むところのはずだ。
お頭の息子はサルヴァドルだけだし、サルヴァドルはそれに相応しい力量を秘めてる。
そりゃ確かに、あの王子さまは「海賊王」の名を持つには、ちょいと可愛い過ぎるところはあるがな。
けど、だからこそ、なのかもしれない。
オレは、あの人の傍に、オレだけが居たい。
そうしたくてもたまらない…
それは、オレがお頭への気持ちと矛盾なんかしない。
オレは海賊王ハイレディン・レイスに忠誠と奉仕を誓い、サルヴァドル・レイスの傍らを占める。
サルヴァドルが海賊王に相応しい力量を示し、その地位はいずれサルヴァドルに受け継がれる。
そして、今度はオレの忠誠と献身はサルヴァドルに捧げられる。
それだけだ。
オレは、ジョカ・ダ・シルバが嫌いだ。
潮風を浴びまくってるくせに光るような金髪も、
野心に満ちた蒼灰色の瞳も、
不敵な表情を隠さない口元も、
年のくせに立ちすぎる腕も、
そんな危険な臭いを押し隠すのに十分すぎるくらい巡るアタマも、
ともかく、何もかも。
「よう、チンピラのくせに、バリエンテにアイサツも無しで素通りか、リオーノ・アバンチュラ。」
だから、どうせ会うんだろうと分かっちゃいたが、気付きたくなかった。
「ああ、これは、これは。バリエンテのダンナ!!」
オレは、バカにしてるとしか思われねえ(もちろん、バカにしてるんだが)大げさな身振りで、気付いてみせてやった。
「とんでもない!!アルジェの最年少バリエンテでいらっしゃる、ジョカ・ダ・シルバさまを無視するなんて!!このリオーノ・アバンチュラ、ついついうっかりしていただけですよ、どうぞお許し下さいませー。」
道化のように大げさに頭を下げてみせてやった。
「もうボケが始まったのか、『オッサン』?」
たかだか4つ上でしかないのに、ムカつく言い草だ。
これだからこいつはキライなんだよ、サルヴァドルの無邪気なかわいさを見習えってんだ、このクソガキ。
「あいにくですが、ね。オレはそういう所が愛されキャラでして…『特にお頭には』ね。」
「反応に『可愛げがねえ』な。新参者のクセによ。」
「なあに、オレはお頭とサルヴァドル提督にだけ愛されてりゃ、それで満足なんでね。」
「へえ、そうかい。親子で二股たあ、なかなかやりやがるな。で、サルヴァドルのサオの具合はどうだ?」
ジョカはてめえでそう言いながら、すぐに唇を歪めた。
「おっと、サルヴァドルはまだ童貞だった。聞くだけヤボだったな。」
ふん。
オレはついつい、不快の溜息が口から洩れちまう。
サルヴァドルにジョカがゲスなコト言いやがるのが、こんなにトサカに来るとは我ながら意外だ。
「で、何の用です、バリエンテのジョカ様?今、お頭のトコ行ったってムダですよ。『お頭はお疲れ』ですからね。」
ジョカの唇の歪みが、大きくなった。
「あんまりチョーシに乗んじゃねえぞ。」
「『泥棒猫が』ってか?あんたこそ、バリエンテになったからって、あんまり調子に乗らない方がいいんじゃないのかい?」
これ以上、余計なコトは言わない方がいいとアタマじゃ分かってたが、オレはついつい口を滑らせた。
「あんたは所詮、バリエンテになって終わりの男だ。歩を知りな!!」
ジョカは返答の代わりに、蒼灰色の一瞥で斬りつけてきた。
思わず、血が流れたと錯覚しちまうくらいの鋭さだった。
「てめえを剣のサビに出来ねえのが残念だ。」
ジョカが、穏やかにすら聞こえる口調で言った。
そしてオレは、これ以上こいつを挑発するのは得策でないというアタマの判断に、ようやく従う気になった。
オレは、ジョカ・ダ・シルバが嫌いだ。
こいつは確かに有能だが、少なくともサルヴァドルにとっちゃ間違いなく有害な存在だ。こいつは、サルヴァドルに大人しく従うようなタマじゃあない。
じゃあなんでまたお頭は、こいつを使うんだ?
サルヴァドルにとって代わってやろうってえ気すら起こしかねない、こいつを。
「やっぱり、オレがサルヴァドルについてなきゃな。」
そうさ、オレが付いててやるんだ、サルヴァドルには。
他の誰でもない、このリオーノ・アバンチュラが。
2011/11/26
ゲームをしているうちに、ジョカとリオーノとかもいいかもしれないと思いつつあってしまったべにいもさんなのでした。
とはいえ、絶対に和姦
にはなりそうもないのが、困りものなのですが。
リオサルか、サルリオか?(腐注意)
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最初は間違いなくリオサルだと思っていました。一緒にゲームをしていた先輩もそれしかないと言っていました。下剋上です。ラヴです。
ですが思うのです、やっぱり権力者が上
ではないかとも。
でも、ジョカとサルヴァドルなら、160%ジョカが上!!
でしょうけど。
まあどちらにせよ、ウチの若には
まだまだ早過ぎる話題
には違いなさそうです。