救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

15-5 アイディン・レイスが語る話









「オズワルド。」

俺は参謀室に入ると、薄暗闇の中で瞑想するように目を閉じたままの、オズワルド・レミントンに声をかけた。


「副首領。」

オズワルドはゆっくりと首を振る。


「とうとうですか?」

瞳を開いた時には、オズワルドのアタマはとうに俺の思考を読んでいた。


「ああ。」

俺は頷く。

この切れ者の参謀バリエンテには、兄貴の言葉を説明するまでもない。


「確かに、シャルーク配下の海賊ウルグ・アリは死にました。」

「そう、後は本拠地に攻め込むだけだ。」

「そして、今度こそシャルークの息の根を止めようとお考えですか。」

「で、お前の知恵を借りに来たという訳さ。」

「確かに、シャルークは孤立したように、『見えます』な。」

そう言いながら、海図を開く。

オズワルドの指が、ニコシアを示す。


「先鋒は、誰に?」

オズワルドの問いに、俺は鼻を鳴らす。

オズワルドはそれを、俺が行けない不満と取ったらしい。

「御自身で行けないことをそれ程残念がらんでも宜しいでしょう、副首領。」


イングランド人らしいスカした薄笑いを唇に浮かべて、オズワルドは続けた。


「確かにシャルークは宿敵かもしれませんが、我々はシャルークさえ倒せば良いというものでもありません。目先には、セビリア。」

オズワルドの指が、イスパニアの首都を指さす。


「エゼキエルの無敵艦隊です。そして、」

示されたのは、ジェノヴァ。


「ジェノヴァの鮫、アンドレア・ドーリアもいます。最近、評議会に嫌われているせいか表には出てきませんが。」

「結構な事だ。あのクセの強い傭兵隊長殿が永遠に評議会とやらに嫌われ続ける事を祈ってるよ。」

「貴方でも神に祈りますか。まあ結構、ともかく、我々はシャルーク以外にも敵を抱えています。首領は勿論、副首領に何かあろうものなら、最悪、袋叩きに遭いかねない。それに…」


「長広舌はいい。別に俺が暴れられないのが不満なんじゃねえ。シャルークは若えのに任せるつもりさ。」

「では、サルヴァドルかジョカですか?確かにあの両名は腕を上げていますな。で、どちらに…」

「ジョカだ。」

コトリ、と音がした。

俺は反射的に振り向きかけたが、オズワルドがなぜサルヴァドルではないのかと続きを促す。


「サルヴァドルにはな、ハンブルグに『お使い』に行ってもらうんだとさ。」

歴然としたも誰かの気配がした。

俺は確かめようとしたが、やめた。

まあ、聞かれたって構やしねえ話だ。


「副首領の御意見、という訳ではなさそうですな。」

「無論だ。俺はサルヴァドルを押した。」

「ほう、何故に?」

「何でも何もねえ。あいつはこのアルジェ海賊の跡取りだ…」

俺は威勢良く言い出したくせに、肝心の語尾をてめえで濁しちまった。

ああ、サルヴァドルは「兄貴の息子」で、「このアルジェ海賊の跡取り」なんだ。

母親が誰であれ。


いや、あんな事があって、海賊になっちまった以上、


「サルヴァドルはてめえで、シャルークを殺さなきゃならねえんだ!!なのに兄貴ときたら…何故ジョカ!!」

オズワルドが不審の目で俺を見る。


「首領は、サルヴァドルの身を案じているのでは?何せ相手は東地中海の主、『ニコシアの竜王』です。サルヴァドルにもしもの事があったら、と。」

「ふん、兄貴がそんな息子にベタ甘い男だったらな。」

兄貴は、海賊王ハイレディン・レイスは身内にすら甘い男じゃねえ。それは、弟である俺が一番良く知っている。


「とはいえ、ジョカには少々、甘いようですな。」

オズワルドは、薄い笑みを浮かべてそう言ったが、俺の表情を見るや、その笑いを消した。




兄貴がそんな甘い男かよ。

俺は口の中で何度も繰り返した。





2011/12/15



この話では、ゲームでは出番のない人たちにたくさん出番を作ってやろうともくろんでいます。
だからオズワルドなのです。




ゲームでこんな会話あったっけ?

   

目次









































ゲームでは、今回の会話はハイレディンとアイディンの間で交わされています。

以下引用


サルヴァドルがアジトに戻ると、見張りがいない。

「あれ?珍しいな、見張りがいないなんて。」


地下通路を潜っていくと、偶然、ハイレディンとアイディンが密談中。


アイディン「次はいよいよか?兄貴。」


サルヴァドル、何の会話か分からず「?」


ハイレディン「ああ、準備にまだ時間がかかるがな。邪魔者はいなくなった。後は本拠地に攻め込むだけだ。今度こそシャルークの息の根を止める。」

アイディン「で、先鋒はどうする?特にサルヴァドルとジョカは最近、腕を上げているぜ。」

ハイレディン「サルヴァドルにはほかにやってもらうことがある。」


サルヴァドル、ようやく合点がいく。


ハイレディン「ハンブルグに例の物を届けてもらわねばならん。シャルーク戦にはジョカを使う。」

サルヴァドル「…」


サルヴァドル、ダッシュで去る。


という展開です。

ですが、べにいもは「丁度アジトに戻ったら、丁度見張りがいなくて、丁度大事な話をしていた」という、このご都合主義すぎる展開があまり好きではないのと、この話では出来るだけ、ハイレディンを間接的に描写していきたいと思っているので、いっそハイレディンとではなく、別人、つまり参謀のオズワルドとの会話にしました。これならまあ、サルヴァドルが行きあっちゃう可能性も高いかな、と。


しかし、ゲームでもサルヴァドルに「お使い」を命じて、戦いには参加させないというハイレディンの発言の趣旨が分かりません。
お使いから戻ってきてからでも、十分、戦いには間に合うじゃん?
ていうか、「お使い」を引き受ける分岐を選んでも、結局、シャルーク戦には加われるし。
なんか、ハイレディンはサルヴァドルをシャルークと戦わせたくなかったか、会わせたくなかったか、サルヴァドルに嫌がらせをしたかったか、したんじゃないかとひっそりと思っています。

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