「オレはぜったいに、ずぅえええったいにっ!!ジョカの好きになんかさせないからなっ!!」
オレが断固とした意志で叫ぶと、ホーレスがいつもの困り顔で、
「提督、声が聞こえやすよ。」
と言って、宿の戸を閉めた。
「聞こえたって構うもんかっ!!こうなりゃ、ジョカより先にオレがシャルークを仕留めてやる!!」
「馬鹿なこと言わねえで下せえよ、若、じゃなかった提督。黒髭の旦那のお言いつけに背くつもりですかい!!」
「何だよ!!待機命令って!!命令が出るまで待てって!!どうせ、ジョカにはシャルークを倒しに行け、オレには『お使いに行け』って命令だろ!?叔父貴の分からんちんめっ!!」
オレは悔しすぎて、床を何度も蹴りつけた。
ノックの音がした。
「サルヴァドルさん、何ごとです?」
「何だ、オルダか。」
ホーレスが、別に何ともないと言うと、オルダは微笑んだ。
「はいはい、いつものことでしたか。サルヴァドルさん、いい子ですからあんまりホーレスの旦那を困らせちゃいけませんよ。」
「オレは海賊だぞ!『いい子』であるはずがあるか!」
「はいはい、分かりましたよ、ヴェテラーノさま。じゃあ、サルヴァドルさん、ホーレスの旦那、ショコラトルを置いて行きますから、これを飲んでゆっくりお休み下さいね。いいですか、お風邪をひかないように、あったかくして寝るんですよ。」
「何なんだよ、いつまでもオレをガキ扱いしてっ!」
「はいはい、若、じゃなかった提督。せっかくオルダが置いて行ってくれたんだ、その『しょこらとる』とかいうシロモノを飲みましょうや。」
「酒か?」
オレはにおいを嗅いでみた。甘い匂いだ。
「…甘いぞ。酒じゃない。」
「へえ、確かに。」
「でも、美味いな。何で出来てるんだ?」
「なんでも、トーゴの旦那が発見だか、発明だかした飲み物だそうですぜ。新大陸で採れる、『かかお』とかいう実をすり潰して…」
「…もう、ないのか?」
「はいはい、アッシのをどうぞ。」
しょこらとる、はとても美味かった。
「いやあ、心があったかくなる味でしたね。」
「確かにな。何だか、眠くなってきたみたいだ。」
「ええ若、待機命令中ですから、お休み下せえ。命令がきたらすぐにアッシがお起こししやすよ。はいはい、ベッドの用意は整ってまさ。どうぞ…」
「…」
「提督!」
ドアが開くと同時に、笑顔のリオーノが言う。
「リオーノ・アバンチュラ、素晴らしい情報を手に入れて帰還致しました。」
リオーノは大げさに一礼した。
「なんかいいネタがあるのか?」
リオーノは、更に笑顔になる。
「もっちろん♪提督がシャルークを倒しに行けるようになる、とびっきりさ!」
「馬鹿言ってんじゃねえぞ、オレンジ頭っ!!黒髭の旦那の待機命令に背くつもりか!第一、港には見張りがいるんだ。そう簡単には外に出られん!!」
「…と、オッ…じゃなくて、ホーレスさんが心配なさると思ってね。港の見張りの交代時間を調べてきたのさ。夜中の2時から4時までは見張りも手薄になる…どうだい、提督?」
「じゃあ、その間に抜け出せば、ジョカを出し抜いてシャルークを倒しに行けるな!?」
オレは体から眠気がフッ飛ぶのを感じた。
「若!まさか、またこっそり抜け出すなんて言うんじゃ…提督!!ヤバさはあの時の比じゃないですぜ!!」
ホーレスは悲鳴のように叫んだ。
「ホーレスは心配性だな。先手を取るって言ったろ?シャルークの首さえとりゃ、親父も叔父貴も何も言わないさ。」
「そうくると思ったぜ。さっすがオレの提督だ。」
リオーノは賛同したが、ホーレスはまだ反対する。
「黒髭の旦那の待機命令に背くんですぜ!?」
2回目の悲鳴を上げるホーレスをチラと見て、リオーノはオレに言った。
「提督。この期に及んでまだお偉いさんの言いなりになるなんて、ねえよな?」
「当り前だ!」
「そうさ。結局ここで命令待ちなんて、あんたの漢が下がっちまう。オレは、あんただったら何かでかいことやってくれると思ってるんだ。」
オレは、胸がはち切れそうになった。
そうだ、オレは素直に命令に従っていくような人生は送らない。
オレは海賊になったんだ。
「人目につかないよう、2時から4時の間に出港所に行く。」
オレは、まだ何か言いたげなホーレスに命令する。
「提督、シャルークは東地中海の孤島、ニコシアの辺りを根城にしてますよ。」
「進路はニコシアだ。シャルークはオレが倒す!」
そして、オレが地中海最強の海賊になってやる!
2011/12/16
この、アジト抜け出してシャルーク倒しに行こうツアーは、ハイレディンの命令に背いてるわりに、みんな軽いノリなのが微妙です
まあ、血気盛んなサルヴァドルはともかく、リオーノも、そして若に甘すぎるホーレスがそんなに止めないのも気になります(命令違反は粛清されても文句は言えないんじゃ…)。
2時から4時の間以外に港に行ってみた
戻
次
目次
アジトに戻ってみた
見張りの海賊「もうすぐ次の作戦が始まるそうです。しばらくお待ちください。」
ホーレス「やっぱり戻る気になったんですね。」
リオーノ「提督、さっきの話は、なしですか?」
(ホッとするホーレスと、不満げなリオーノ)
時間外に行ってみた。
ゴンザレス「サルヴァドルさん、こんな所で何してるんです?待機命令中ですぜ。」
サルヴァドル「しまった、見つかったか…」
リオーノ「提督、待機命令中これだけ出歩いているのがばれたら、怪しまれますぜ。」
ホーレス「ここには深夜に来ないと誰かに見つかっちまいますぜ。夜の2時から4時から狙い目です。」
(夜の2時から4時なんて分かり切ったことを何回も教えてくれるお母さんなホーレス)
5回目に来てみた。
ロドリゲス「こちらにおいででしたか。首領がお呼びです。アジトにお戻りください。」
ホーレス「提督、これじゃ外に出られませんね。アジトへ戻りやしょう。」
リオーノ「目論見は失敗したようですな。」
(いたずらがみつかったことに安心するホーレスと、とても不満げな口調のリオーノ)
6回目まだ入ると
リオーノ「提督、あんたに話があるんだ。」
(ここで2人称が「あんた」なのが、ステキ)
7回目
リオーノ「提督、見損なったぜ。俺はあんただったら何かでかいことやってくれると思ってたんだ。それが、この期に及んでまだお偉いさんの言いなりか。結局ここで命令待ちとはな。あんたの名声、かなり下がるぜ。よほど船を襲って挽回しないと、これからだれも相手にしなくなるぜ。」
(リオーノがサルヴァドルのことをどう思っているのか、一番ストレートに出ている台詞かと思われ。わざわざ失敗してでも聞く価値のある台詞。もちろん、聞いた後はリセットしましょうね。)