救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

16-2 ウォルフ博士が語る話









「ふうむ、これも違う!!」

吾輩は、試した火薬を払いのけた。

長く続いた戦争の副産物と言うべきか、我がドイツの土地は、兵器には事欠かぬ土地となった。

そしてこのハンブルグは、近年、陸海どちらの戦闘でも必需品となりつつある火器の生産でも名を為しつつある。


「だが、それでもまだオスマンには追い付かん!」

吾輩は、自らの目で確かめた重カノン砲の威力を眼裏に映し出す。


「カノン砲と同等の攻撃力!!しかし、カノン砲より遥かに遠隔に達するあの射程力!!おのれ、オスマンめ!スレイマンめっ!吾輩とて、重カノン砲に理論は追いついているのだっ!!」


「提督、重カノンとか言ってるぞ、ここじゃないのかい?」

「オスマンめとかスレイマンめとか言ってるから、シャルークに味方しそうにもないぞ、良かったな。」


「後は、あの射程を可能にするだけの火薬があれば良いのだ!!」


「あのー、ウォルフ博士さん?」


「うぬぬ…東方、東方には、きっと良い火薬がっ!!」


「リオーノ、聞いてないみたいだぞ。おい、そこのオッサン!!」


吾輩は、吾輩に向けられたらしいその単語に聞き捨てないものを感じた。


「失敬な、吾輩はまだまだ諸君らにそう言われる程の年ではない。」

「反応があのオッサンと同じだな…いやいや、貴方のことじゃなく、別の奴の話さ。貴方がウォルフ博士かい?大砲の研究で名の知れた、戦術家の。」

吾輩は、人の研究室に勝手に上がり込んできた侵入者を眺めた。

先ほど聞き捨てならない単語を発したのは、黒髪の少年だ。あんな無礼な単語を発したとは思えない、高貴で端正な顔立ちをしている。どこぞの貴公子だろうか。その割には、腰に佩いた剣に莫大な殺気を感じるのだが。

そして、このランツクネヒトばりに派手な格好をした、オレンジ色の髪をした青年。


「君が探しているのは、どうやら吾輩のようだな。何だね?」

だが、物盗りなどでもなさそうだと吾輩は判断した。




「あんたに頼みがある。今までにない、強力な大砲を造ってほしいんだ。」

黒髪の少年は、開口一番、そう言った。


「て、提督。いくら何でもいきなりすぎやしないか?」

「何でだ?オレたちはそのためにこの男を探しにきたんじゃないか。」

「いやまあ、そうなんですけど…」

吾輩は再び、黒髪とオレンジの髪の両名を眺める。

黒髪の少年は「提督」と呼ばれた。しかしまあ、この若さで?やはり貴族の若君か何かなのだろうか?


「いやね、ウォルフ博士。話がいきなり過ぎて驚いたかもしれないけどね。実はオレたちは…」

「君も新型の依頼だな。」

黒髪の少年は、怪訝な面持になった。


「ほかに手に入れたヤツがいるのか?どいつだ?シャルークじゃないだろうな!?」

「提督!」

オレンジの髪の青年が小さく注意を入れたが、吾輩にはシャルークという単語が耳に障った。


「いいや、オスマンなぞに吾輩が関わるものか!吾輩が依頼を受けているのは、アルジェの海賊王だ!!」

言ってしまってから、やや後悔する。

これは内密の話だったな。

いやなに、あの海賊王がそんな些細なことを気にするものか。


「…」

「…」

黒髪とオレンジの髪の両名は、黙って顔を見合わせた。


「あー、その、何だ。そういやさっき、火薬がどうとか言ってたよな、博士?」

「そうだ、そうなのだ火薬なのだ、火薬がないのだよ、諸君!!君の望むような大砲を造るには、質の高い火薬が必要なのだが、火薬が足りんのだ!!そうだ!!吾輩の研究が難航しているのは、ただ火薬だけが…」

「それはどこに行けば手に入るんだ?」

「東方だよ、東方!!いいかね、そもそも火薬というものは、遠くセリカで発明され、忌まわしきタタールどもを通じてこのヨーロッパに伝わったのだ。」


「リオーノ、東方だとさ。東方ってどこだ?」

「さあて…中近東、インド、遠くはジパングから、もっと東に行くと、エデンの園にも着くってね。」


「同じく、カタイではその火薬を用いた兵器が発明された。これが大砲だ!これもまた東方から伝わり、コンスタンティノープルを陥落させたことからも判然とするように…」


「ともかく火薬を探せばいいんだな。」

「しかし提督、東方と言っても広いぜ?」

「でも、火薬がないと大砲が出来ないじゃないか!」

「ま、そうだね。こういう時は情報収集だ。セウタに行こうぜ、提督。」




気付くと、吾輩の研究室には吾輩だけしかいなかった。


「…何故に皆、あの素晴らしい大砲の話を聞かんのか…」

吾輩には理解出来ん。これ程聞くに値する話など他にある筈がないと言うに。


「『疾風怒涛の嵐亭』に行くか。」

あの店は上質のブランデーを出す上に、熱心に人の話を聞く良い酒場女がいる。

クラウディアに、偉大な大砲の話と、ついでに今日の出来事でも話してやるか。


「ハンス!吾輩は外出する!」

吾輩は、召使を呼びつけた。





2011/12/16



今回の語り手:ウォルフ博士
…ハンブルグにいる砲術技能教授者。外伝では、大砲を研究している戦術家。茶色のボサボサした髪(PC版イラより)に、青い軍服系の服を着ているため、元軍人のようにも見える。魅力にもよるが、基本相場金塊6で砲術を教えてくれる。2では砲術はまったく習得する必要のない技能だったが、外伝では、サルヴァドルは大砲技能が絶対必要のくせに習得していなので、彼との接触はイベント外でも必須。
2では「命は大切にしなよ!」なんて口調の、博士の割に海の男らしい人だったが、外伝では一気に渋い系口調になった。その割に、誘拐されて救出されるというヒロイン属性満載なイベントもある、不思議な人。

なので、この話ではやや兵器ヲタくさい微妙におかしな人にしました。
いや、学者というものは変わったものなのですよ。ジュリアーノ教授然り。

更に言うと、博士なんて称号持ってる割に、ハイレディンともけっこう深い交友があったりする。ますます分からん。
クラウディアと面識があるなんて描写は、もちろんゲームではまったくありません。がまあ、同じ街の人なんで。

サルヴァドルに砲術技能がないのはなぜ?

   

目次









































海賊のくせに、サルヴァドルは砲術技能(大砲を撃つための技能)を所持していません。ちなみに2では、戦闘をしなきゃいけない人は、レベル1のど素人ジョアン・フェレロを除いて、みんな砲術を持っています…要らないのに!!(2では大砲を撃たなきゃいけない必然性は0です)

ちなみにアルジェ海賊で技能なしは、トレボールとゴス…お前ら、4人衆のくせに、海賊ナメてんな?リオーノですら所持してるというのに!

まあきっと、当時の海戦はまだまだ白兵戦中心だったということを表しているんでしょう。それと、サルヴァドルはシナリオ上でウォルフ博士に関わらなきゃ いけないからか、な?

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