救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

16-4 アル・ファシが語る話









「高性能火薬は、セリカにある、か…」

ホーレスのダンナが、太い腕を組んで呟く。


「セリカに行ったことがあるヤツはいるか?」

サルヴァドル提督が聞くが、ンなもんいるはずもない。

大ボラ吹きのジェノヴァ人「百万の」ポーロや、こないだ世界一周してきたとか言ってやがるイスパニアの故マガリャネス(アッラーの御心及ばねえ異教徒だから、きっと今ごろは地獄でのたうってることだろうが)でもねェ限り、セリカを実際に目にしたヤツはそうはいねェ。

特にウチの艦隊は、地中海から遠出したコトのねェヤツらが揃ってるんで、一番セリカに近づいたヤツで、喜望峰に達したってェ、アンソニー止まりだった。


「提督、とやかく言っても始まらない。ここはセリカに行って高性能火薬を取って来れるヤツを雇うのが一番だぜ。」

「リオーノ、そんなヤツらがいるのか?」

「ああ。最近は『冒険家』ってヤツらが多くてね。地の果てだろうが海の果てだろうが、果ては地獄の底にだってお宝を探し求めて飛び出しちまう冒険野郎どもが溢れかえってるのさ。そんなヤツらの中から腕利きを雇やいい。」

「へいへい、冒険家への報酬なら、このワルウェイク商会にお任せあれ。」

オレは帳簿つける手を止めずにそう言った。

まあ安くはねェ金額だろうが、前金以外は成功報酬だ。オレは脳内で、いくらくらいが相場かと計算を始めた。


「でもリオーノ、腕利きと言ったってどうやって探すんだ?オレには冒険家の知り合いなんていないぞ。あ、そういえば前、オスマン艦隊の時に会ったロペスとかいう学者がいた。あいつなんかどうだ?」

「ダメダメ、提督。あのロペスとかいう男は、アムステルダムのメルカトール地図工房の雇われ冒険家だぜ?ああいうヤツらは二重契約はしないそうだ。」

「なんだそうか…」

オレは、視線を感じた。


あえて無視していると、視線、というより圧迫感が大きくなる。


「アル・ファシ。」

ホーレスの旦那の太い声が、オレの名を呼んだ。




ったく、なんでいつもオレばっか面倒を押し付けられやがんだよ。

オレは、イスタンブールの酒場でミント茶をすすりながら小さく毒づいた。

リューベックで、まんまと「腕利きの冒険者を探して来い」なんて無理難題を押し付けられたオレは、


「腕利きの冒険者を探してきます」

という名目で、銀を積んで出航した。


交易は順調に進んだが、冒険者の方はなかなか見つからねェ。

結局、イスタンブールまで来ちまったのは、最後の手段を使うためだ。


「アル・ファシ、アル・ベイを連れてきたわよ。」

満月のみてェな美人がそう言った。


「おお、麗しの銀の月!アッラーの創り給うた全ての星の光よりなお輝かしいラディアよ!貴女の美しさと、そしてその美しさに全く劣らぬ優しい心を与えたもうた、アッラーに讃えあれ!!」

オレは大げさに両手を上げて、ラディアを褒めちぎると、すぐ側に憮然とした顔で立ってる男に向き直った。


「そして、この世界の花とも言うべき美女を手に入れ給うた、スルタンの懐刀!!英知の結晶のような方、世に名高きアル・ベイも、アッラーよ、嘉し給え!!」

「で、今度はオレに何の無理難題だ?」

アル・ベイ(君候)は、オレの世辞を一瞬で耳から流して、自分もラディアの淹れたミント茶を口にした。


「無理難題とはとんでもない。アル・ベイのお顔の広さをもってすれば、一瞬で片づくことですぜ。」

そもそもオレだって無理難題言われた側なんだよ、という言葉をオレは呑み込んだ。


「腕利きの冒険者を探してるんでさ。」

「腕利きの冒険者?」

オウム返しになったアル・ベイに、オレはセリカに辿りつけるくらいの腕の冒険者を探していることを告げた。


「報酬は弾むんですがね。」

「だったら、あの人が引き受けるんじゃない、アル?」

オレが言うと、ラディアがすかさず言葉を挟んだ。


「おお、麗しのラディア!貴女は美しさだけでなく、聡明さも兼ね備えていらっしゃる!…ちなみに、そいつは腕は立ちますか?」

「ええ、とびっきりよ。何せあのジェ…」

「おいおいラディア、まさかあいつの話か?」

「いけない?セリカに火薬を探しに行くだけでしょう?」

「おお、偉大なるアル・ベイ!!そいつは有り難い!!じゃ、さっそくご紹介下さいませませ♪何、当方はあやしいもんじゃござんせん♪善良な商会でございやすよ。」

出資金の出所が海賊なだけの、な。

オレは、ワルウェイク商会の名刺をアル・ベイに渡す…というより、ムリに押し付けた。


「おいおいラディア…ジョアンが聞いたら何て言うか。」

アル・ベイが言った。

ジョアン?





2011/12/18



ホーレスに弱いアル・ファシと、アル・ファシに弱いアル・ベイことアル・ヴェザス。
ちなみにアルは、ラディアにも弱いです。

アムステルダムのメルカトール地図工房の雇われ冒険家

   

目次









































2の主人公の一人、エルネスト・ロペスのこと。彼自身だけはそう思っていないが、世間一般はそういう認識。

エルネストでプレイしていると、シナリオ上強制的にメルカトール地図工房と契約させられるが、無理やり別の工房と契約してそれがメルカトールにバレると、

「二度とこんなことをしないで下さい。友情と信頼を失う事になりますよ。」
と脅されてムリにもう一度契約させられた上に、冒険名声が半分になる。とはいえ、外伝をプレイしてからこの台詞を聞くと、

「てめえが友情だの信頼だの言えた義理かよ!」

と毒づきたくなる。エルネストがセリカに永住して、一番ホッと安心したのはかくいうメルカトールに違いない。

ところで、メルカトール工房以外と契約しても、メルカトールに会いにさえ行かなければそれがバレることはない。つまり、最終イベントフラグが立ってから、別の工房と契約すれば、メルカトールと契約していない状態でクリア出来るのではないか…と思うんだけど、どうなんだろう?

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