救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

16-6 アフメット・グラニエが語る話









ヤコブ・ワルウェイクが、アンソニーに手紙を持たせて提督の元へと追いやりました。

アンソニーの母親が病気だということを知らせた手紙です。提督…はともかく、ホーレス副長は身内想いの方ですから、きっとアンソニーを故郷に帰すことに同意してくれることでしょう。


「これで一人だね。はあ、僕の情報網が役に立って嬉しいよ。」

ヤコブが言うと、アル・ファシさんも頷きます。


「無謀な計画で危険にさらされちまう人間が一人でも減ったんだからな。」

アル・ファシさんは、ヤケっぱち気味に笑います。

「ははは、しっかし、サルヴァドル提督の大物っぷりにも困ったもンだぜ。」




我らがサルヴァドル提督は、北極海を越えてセリカに行くとお決めになりました。

セリカです、絹の国です、ジパングのすぐ近くです!

私には無謀としか思えなかったのですが、どうやらリオーノ以外の全員も「無謀」と判断したようでした。


「でも、サルヴァドル提督が『全員来いッ』と言わなかったのだけは良かったね。」

「提督は無謀で無茶な方ですが、自殺行為に他人を巻き添えにする方ではないですよ。ちゃんと『来たい奴だけ付いて来い』とおっしゃいましたから。」

「トーゼン、オレは行かねェよ。あんなアッラーの恩寵が届かねェような場所。」

「そうだよ、アル・ファシには僕の会社にいてもらわないと。」

「あっ、そうですか。やっぱりアル・ファシさんも行かないんですか…」

私が言い淀むと、アル・ファシさんは驚いたような顔をしました。


「おいおい、アフメット?まさか行くつもりだったんじゃねェだろうな!?」

「えっ!!だって私は会計長ですし…」

「地の果てで何を値切るって言うんだよ。黄金の国ジパングで金でも買うってか!?まず言葉通じねェっての!」

「ですけど…」

アル・ファシさんは、優しい口調で応えます。


「あのなァ、アフメット。お前が大真面目なヤツであることは知ってる。だが、あんな無茶な冒険に付き合って命を危険にさらしてやる必要はねェんだ。だいたいなァ、お前にもしものことがあったら、お前のオフクロさんはどうするんだ?一人息子なんだろう?」

「…はい…」

そうでした。お金を稼いで、母をはやく安心させてあげないといけないのでした。


「とは言え、サルヴァドル提督がセリカに向かっている間、私はどうすればいいのでしょうか?」

今は船のお仕事でお給金を頂いていますが、船に乗らなければ私は無職です。


「心配すんなって。このワルウェイク商会があるじゃねェか。」

さすがアル・ファシさんは頼りになります。


「そうさ、腕のいい船乗りはいくらいても困らないしね。」

「てかショージキ、海賊稼業してるあの面々で交易した方が、よっぽどいい稼ぎになると思うんだがよ。」

「はあ…」

アル・ファシさんのご発言はもっともですが、サルヴァドル提督がそれを聞き入れる日は、この世の終わりまで決して来ることがないと思います。




「ふう、スループの改造もひと段落ついたぜ。」

ギャビンが腰を下ろして、大きくため息をつきました。


「ギャビン、いい船になったかい?」

「勿論だぜ、ヤコブ。大砲も切り込み員もナシ、暴風雨対策万全の完全冒険仕様だ。あれなら北極海だって余裕で越えられる筈だ。」

「改造費はまとめて請求してよ。」

「しっかし、あのピエトロの野郎、『雇われ冒険者じゃなくて案内だ』なァんて名目つけたが、スループ購入に改造費、食料や途中の経費はこっち持ちって、結局、しっかりと金はかかってるじゃねェか、なァ?」

「自分が冒険したいだけという気はします。でも、冒険家という人々は、結局そうなのでしょうけど。」

「未知のものをそんなに見たいんだね。僕には理解できない…」

「俺は見たいぜ。セリカやジパングには、どんな船があるんだろう。いやぁ、ワクワクするな。」

ギャビンが嬉しそうに宙を見つめます。


「…待て、ギャビン。まさかお前、行くつもりか?」

「ん?当り前だろう。」

ギャビンは、さも当然と言った口調で答えました。そして、世界各地の船を見て、いつか最高の船を造り上げるのが自分の人生の目的だから、と付け加えました。


「はァ…お前くれェのウデがありゃ、そんなヤバい目見なくても稼げるのに。アッラー、この異教徒にも恵みを垂れたまえ…いつか改宗するかもしれないんでね?」


今度は、ゲオルクが大量の荷物を抱えて入ってきました。

「何なんですか、ゲオルク?」

「道具。」

ゲオルクは軽々と担いでいるように見えましたが、それを床に置くとそれなりにズシリとした重みがありました。


「何の?」

ギャビンが中身を見てみると、斧だのノコギリだの、ガラス瓶に入った何かだのです。

聞いてみると、どうやらそれは「医療用品」であるそうでした。


「切るだろうから。」

ゲオルクは、めんどくさそうにそう言って、髪をかきあげると、


「色々。」

と、もっとめんどくさそうに付け加えました。


「何を…切るんだか。」

ヤコブが言います。


「そりゃ、木材だの、綱だの、船員だの…」

アル・ファシさんはそう言って、粉薬らしいものが入ったガラス瓶を透かしました。


「ってか、やっぱりお前も行くのかよ、ゲオルク?」

ゲオルクは、髪をかき上げ、めんどくさそうに頷きました。


「何でまた?」

「船医だから。」

ゲオルクはそう答えました。あまりにめんどくさそうな口調でしたが、どうやら彼なりの決意がこめられた発言のようでした。


「カーッ!!理解出来ねェ!!」

アル・ファシさんは何度もそう繰り返しました。




私も、あまり理解できません。

そこまでして、未知のものに遭遇したのでしょうか?

危険を冒してでも?

でも、理解出来ないと言いきるには、私にも少しは、そんな冒険心があるようなのです。





2011/12/19



セリカ(中国)に行くメンバー…サルヴァドル、ホーレス、リオーノ、ギャビン、ゲオルク。そして案内役として、ピエトロとカミーロ。

なかなか楽しそうな2と外伝の混成メンバーになりました。






ゲームではフツーに中国に行くけどね

   

目次









































ゲームでは、サルヴァドルたちはフツーに中国に行きますが、よくよく考えてみれば、当時、中国に行こうとするのって、太陽系から離れるくらいの命がけなことです。
たかだか新型大砲を開発するための火薬を探しに行ける距離ではない…とシナリオにツッコミ入れても仕方がないんですが。

なのでこの話では、一応サルヴァドルたちは「冒険者を雇って探しに行かせよう」とスポンサーの立場になろうとさせています…結局、自分たちで行くことになるけどね。

しかし若、ワガママもいい加減にしないと!!(しかし、若よりもそれをそそのかすリオーノの方が悪い気も…)

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