「ゲオルクのドアホっ!!あんたなんか、あんたなんか大嵐に遭って、それからサメのエサになっちゃえばいいんだわっ!!」
マリーヒェンの叫び声に続いて、乱暴にドアを閉める音がした。
「…」
俺は考える。
戻って、何か気の利いたことを言って、別れのキスでもすべきだろうか。
これが最後のキスになる可能性は十分にある。
「…」
俺は考えて、止める。
どうせ俺の口から気の利いた言葉なん出てきやしないだろうし、奇蹟的に出てきたにせよマリーヒェンがそれを素直に受け取るとはもっと思えない。
ましてや、マリーヒェンから殊勝な別れの言葉が期待できる時なんて、地獄が凍りつくこの世の果てまで来ないに違いない。
「…」
俺が、マリーヒェンが漬けてくれたザワークラフトが入れられた樽を担ごうと思ったら、ギャビン・フィッシャーが立っていた。
「手伝うよ。」
俺が頷く前に、ギャビンは手を出していた。
「お前の彼女、なんて名前だ?」
「マリーヒェン。」
「見た目と合った、かわいい名前だな。」
俺は樽を持ったままなのに髪をかき上げようとした。
「前から思ってたが、お前、照れると髪かき上げるだろ?」
ギャビンの言葉に、俺は反射的に髪をかき上げかけて、まんまと樽をひっくり返しそうになった。
ギャビンが小さく悲鳴を上げ、樽を抱えなおす。
「おいおい、せっかくのザワークラウトをブチ撒ける気か?」
ギャビンはそして、付け加える。
「ま、女が待っててくれるっていいよな。」
マリーヒェンの罵声にはノーコメントで、そう言った。
「…女は?」
俺は聞いた。
基本、自覚があるほど他人には興味のない俺なのに、そう聞いていた。
ギャビンはしばらく、何の質問か理解出来なかったようだったが、ようやく合点がいったようだった。
「いない。」
ギャビンは、苦笑する。
「船と自分とどっちが大事なのかと言われて、ためらいもなく『船』と答えちまってから、全然だ。」
そしてギャビンは続けた。
「あの時はフッ飛ぶほど張り倒されたが…しかし、女ってのは怒るととんでもない力を出すもんだな。でもあの問いで俺は、どれくらい自分が船好きか分かった。まあ、分かった直後に造船所をクビになっちゃ、世話がないけどな。」
俺は、何と言っていいかわからないので、黙っていた。
「北の海で朽ち果てちまうことになるかもしれないが、俺はな、全世界の船を見に行きたいからセリカに行くんだ。ゲオルク、お前はさ。どうしてセリカに行くんだ?」
俺は、考える。
「決めた。」
「…は?」
「決めたんだ。」
危険な航海なことは知っている。
マリーヒェンを残して死ぬかもしれないことも。
別に、付いて行かなくてもいいことも知ってる。
「自由であろうと。」
「…」
ギャビンは、今度はゆっくりと頷いた。
「この艦隊は、たぶん、そういう事が好きなやつが多いんだろうさ。」
俺は俺の過去を語らない。
そして、この艦隊では誰もそれを詮索しない。
サルヴァドル提督も、ホーレス副長も言っていた。
「他人の過去を詮索しないのが、海賊の流儀」と。
だから、この艦隊は居心地がいい。
だから俺は、サルヴァドル提督に付いて行くんだろう、
多分。
「アンソニーはいない、アフメットもいない、アル・ファシの野郎もいないが…この旅もよろしくな。」
ギャビンは、手は差し出せないがと言いながら、笑って言った。
2011/12/23
ドイツ系同士の友情。
あまり国籍や宗教は気にしないサルヴァドル艦隊ですが、実際はもちろんそんなことはなかったようで、同郷人同士で同じ艦隊が普通とか。
ま、そりゃそうだろうね、海賊って意外と信心深いし。
セリカ(中国に行こう)捜索隊メンバー(加入順)
サルヴァドル・レイス…提督。階級はヴェテラーノ(猛者)のアルジェの海賊王太子…ということは、ピエトロたちには秘密。相変わらず女恐怖症だが、見た目がいいのでモテるのが困りもの。金銭感覚が皆無でワガママでやんちゃケンカっ速く、実は冒険好きなことが判明。問答無用の「男の子」だが、みんななぜかついて来る。きっとカリスマ持ちだと思われる。リオーノ曰く「未完の大器」。
ホーレス・デスタルデ…副長。サルヴァドルに甘いにも程があり、サルヴァドルのワガママには逆らえない「子煩悩なお母さん」。でも、サルヴァドル以外には強い。老練かつ人望厚い海賊。メンバー内で数少ない常識人かもしれない。
ギャビン・フィッシャー…元、腕利きの船大工。現海賊。サルヴァドルに打ち負かされて加入した。何よりも船を愛しているが、割と仲間内の仁義にも厚い。常識人。
リオーノ・アバンチュラ…アルジェ海賊。ハイレディンから「サルヴァドルの補佐役」という名目で送り込まれた、半スパイ。明るくお喋り好きで女好きな伊達男の皮を被っている。サルヴァドルに何を求めているのか今のところ不明だが、サルヴァドルの機嫌を取らせ、自分の思い通りに誘導することにかけては天下一品。
ゲオルク・シュパイヤー…船医。ただ、本当に医者の勉強をしたことがあるのかは不明。マリーヒェンというツンツンな彼女がハンブルグにあり。必要最小限以下の単語しかしゃべらない無口で無表情な男。過去に曰くあり…だが、サルヴァドル艦隊にいるのはそんな奴らばかりだからなあ。
ピエトロ・コンティー…中国に火薬探しに行くサルヴァドルたちの「案内役」として同行。天下の冒険野郎。ジェノヴァ人。ケセラセラを地で行く、超自由人。「冒険家は宵越しの銭は持たねえ」なんぞとほざく、色々危険な男。当時としては立派なオッサンだが、精神年齢はサルヴァドルとタメを張る。
カミーロ・ステファーノ…ピエトロの相棒。ピエトロの巻き添えをくって、サルヴァドルたちに同行する。会計長としても副長としても有能で常識人。ピエトロの良きツッコミ役であり、ピエトロが未知の孤島で餓死せずに済んでいるのは、ほとんど全て彼のおかげ。
北極海越え
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目次
2&外伝で、欧州から北極海を越えて東アジアに行くには、そこそこ航海レベルがあって、スループに乗っていても、まあ2か月はかかります。しかし、実際にあの時代の船で行こうと思ったら、氷の海の中、経度もよくわからんまま進まなきゃならないので、相当な危険(むしろほぼ死ぬくらい)であったことでしょう。
2&外伝では、スループに乗っていると軽く20ノットの速力が出ますが、当時の一般的なナオやキャラックでは5〜6ノットがせいぜいだったそうですし。
でも、ゲームだと開始早々のジョアン(航海レベル1)のカラベル・ラティーナでも、ちゃんと改造して、根性と地図さえあればいきなり東アジアにたどり着けます…
べにいもも、カタリーナなオットー、そしてサルヴァドルの海賊キャラで始めるときは、最初に貿易してお金をためてから、即北極海越えして東アジアに行き、例の船と例の防具たちを買い揃えてから、海賊を初めていました。