見渡す限りの白い大地だ。
右を見ても左を見ても白い。
「…まっ白だ。」
オレが声をだす、その色も白い。
「若、お寒くねえですかい?」
「寒くなんかないぞ。」
「ああ、またそんなに意地を張って。若はお風邪をひきやすいんですからね。あー、若の小さい頃は、何かっちゃあ熱を出して…」
ホーレスがまた昔話を始めた。
これだからホーレスはいやだ。
いつまでもオレがガキだったころの話ばかりするんだ。
「ピエトロ、で、マンモスはどこにいるんだ?」
ピエトロは、この島の原住民らしい男たちと、大げさな身ぶり手ぶりで何やら話してた。
今までの旅の中、ピエトロは、どうして言葉が通じるんだかって僻地のやつらとも、言葉を通じさせてきた。
「言葉が通じてる訳じゃあないよ。無理くり自分の言いたい事押しつけて理解させてるだけさ。」
カミーロは言う。
「よし、あっちだ。」
ピエトロは、どこを見てもどのみちまっ白な大地を指した。
「こいつのじいさまが昔、あっちでマンモスに会ったんだと。」
「そりゃまた古い話だね。そのマンモスはとうに老衰でくたばってんじゃないのかい?」
リオーノがチャチャを入れたその頭を押しやって、ホーレスが聞く。
「ピエトロの旦那。星も出てねえのに、方角は確かなんですかい?」
「確かにな。まっ白すぎて、目印なんてひとっつもないぞ。」
「俺の方向感覚を甘く見るなよ。地獄の闇の中だって、目指す方向に歩いてみせらぁ。」
「はあ…」
納得いかない顔のホーレスの肩に、カミーロが手を置く。
「ホーレス。こいつは力いっぱい無謀な大バカ野郎だが、方向感覚とカンと地形把握能力だけは絶品だ。」
「誰が大バカだ、カミーロ。」
「こんだけ無謀な冒険してて生き残ってるって事は確かだ。足りない分は俺がフォローするから、まあ信じてやってくれ。」
「お前のフォローなんか要るか。他の集落でも同じ方角で見たって聞いてるんだ。きっと、そこらにマンモスの群れがあるに違いねえ。」
「だな。生き残ってるってことは、生き残れたってことだ。ホーレス、リオーノ。ピエトロの言う方向に進むぞ。」
「じゃ、進もうぜ、提督。」
「提督が仰るなら。」
骨まで凍りつきそうな風が吹き抜ける。
寒くないぞ。
オレは寒くなんかないからな。
だってオレは今、「冒険」中なんだからなっ!
「ところでピエトロ、武器を持ってないが大丈夫なのか?」
オレはクレイモアを置いてきたので、落ち着かない。
「何と戦うんだよ。マンモスとでもガチで斬りあうつもりか?」
「原住民に襲われたらどうするんだ?」
「こんなド氷原にいるヨソ者なんて攻撃されねえよ。あいつらが襲いかかってくるんだとしたら、俺たちが襲撃者に見えるからだろ。」
ピエトロのため息が、白いかたまりになって吐き出された。
「たいがいの話、いきなり襲撃される時は、そこの集落が前に理不尽な略奪にでも遭ってる時だ。新大陸ではよくあったぜ。
『お前たち白い人間はみんな悪だ』
って、イスパニア語で罵られた日にゃ…ったく、あいつら新大陸で何しくさってんだろな。」
ピエトロは、面白くもなさそうに唾を吐き捨てたが、それもすぐに凍りついた。
「それよりよ、サルヴァドル、お前冒険は初めてだよな。」
ピエトロは、さっきの話は思い出したくないってばかりに話題を変えた。
「この北の海では、空に、虹色のカーテンがかか時があるんだ。あんときゃ、耳が凍って落ちそうなくらいの寒さだったが、船員全部で空を見上げたな。まったく、あのまま氷の柱になっちまってもいいくれえの美しさだった。」
「それはなんて言うんだ?」
「『オーロラ』だ。ギリシャじゃ、暁の女神の衣だって言うし、北欧じゃ戦乙女ワルキューレたちの美々しい甲冑のきらめきだとも言うな。ま、どっちもすげえベッピンにゃ違いねえ。ああいうモンを見たときは、冒険者冥利に尽きるって思うぜ。」
ピエトロの顔が、あんまり楽しくてたまらなさそうだったから、オレは聞いた。
「ピエトロ、なんでお前は冒険者になったんだ?」
「あ?」
ピエトロは、一瞬なんだという顔をしたが、すぐに続けた。
「この世には未知のお宝ってとびきりのベッピンが、俺に発見されないまま山ほど眠ってんだぜ。アツいキスで深くて長い眠りから起こしてやるのが男の務めだろ?」
「と、そのために山ほどの人間泣かせてきたけどな。」
カミーロが言葉を挟んだ。
「いいか、サルヴァドル。こいつだけは見習うんじゃないぞ。親の商売も継がずに、あるんだかないんだかもわからない宝なんて追い求めて、いい年こいてもフラフラしてる、七つの海きっての親不孝息子だからな。」
「フン、親の商売継いでチマチマ生きるだけが孝行じゃねえさ。死んだオヤジだって、息子が天下の大冒険家になったって知って…」
「『あいつはまだあんな夢みたいなことやってんのか』って、天国で泣いてるかもしれねえぜ。」
ピエトロは、オレの方を向く。
「男なんてデッカく生きなきゃならねえよ。な、サルヴァドル。お前のオヤジさんだって、息子にゃデッカく生きてほしいって思ってるだろ?」
「オレのオヤジ…?」
オレは、親父の。海賊王ハイレディン・レイスの顔を思い浮かべた。
感情をあらわさない親父の顔。
「…親父は、オレにどう生きろとも、言ったことがない。」
ピエトロは、オレの言葉の間に、視線を前に向けていた。
「いいじゃねえか。口うるさくなくてよ。お、地形が変わった。相棒、望遠鏡だ。」
「何が見える?」
「…直進だ。」
オレは、親父に、どう生きるべきか言われたことが、
ない。
「なあピエトロ、親父ってモンは、息子にどう生きろとか言うものなのか?」
「言うもんだろ。俺のトコは、いいからそろそろ真面目に生きろってとびきりうるさかったけどよ。」
「お前さんが、いつまでもフラフラしてたからだ。」
「オレは言われたことがないぞっ。」
「若!?」
ホーレスが言う。
「親父はなんでオレに何も言わないんだ?」
カミーロが、不審な瞳で口を開いた。
「なあ、サルヴァドル。お前さんの父上のご商売は?」
「オレの親父は…」
「そりゃ提督。」
リオーノがオレの肩をつかんだ。
「提督のお父上が何もおっしゃらないのは。」
リオーノの青緑色の目が、オレを見つめた。
「提督が、何も言わなくてもいいくらい、『ご立派な後継ぎ』だからですよ。」
「…」
オレは、リオーノに何か言い返そうとした。
何か、何か違うって気持ちが、オレの胃の中ででんぐりがえる。
「見ろっ!!」
ピエトロが絶叫するなり、氷原の上を全力で駆けだした。
「…追いましょうや、提督。」
「…」
オレたちも、すぐにその後を追った。
氷の中に、毛むくじゃらで牙をはやした大きな生き物が、いた。
誰も、息を呑むばっかりで何も言わない。
もちろん、オレも、
毛むくじゃらの生き物はちっとも動かない。
「氷の中に、閉じ込められてるのか?」
ピエトロは、望遠鏡を目から離した。
「…はるか昔から、だろうな。あたりに足跡もなけりゃ、他のマンモスがいる気配もねえ。教わった位置にそのままこいつがいる。しかも教わった通り、ちっとも動かない姿で、だ。」
「ノアの洪水の前には、もう氷漬けになっていたのかもしれないな。で、そのままの姿でここに流されたとか。」
カミーロは冗談めかした口調でそう言って、でもなぜだか十字を切った。
「この寒い中、延々と一匹ぼっちか。どんな気持ちかねえ…」
リオーノはそう言って、マンモスが閉じ込められた氷の表面を撫でた。
「なんだ、思ったより興奮してねえな。お前は運がいいんだぜ、サルヴァドル。こんな大発見、俺だって人生で何度も経験してねえよ。しかも、大した危険も苦労もなしで、だ。」
「…驚いた。」
「ほう、何に?」
オレはもう一度、毛むくじゃらで牙をはやして、とんでもなく大きな、凍りついたマンモスを見つめた。
世界が始まったころから、こいつはこうしていたのかもしれないのか。
そしてオレは、そんな奴と巡り合った。
「…海には、オレが想像もしなかったことがあった。」
「ナマ言ってんじゃねえぞ。」
ピエトロは、得意顔で続けた。
「まだまだ、この世の驚異としちゃ、序の口さ。」
「…」
海は広い。
オレが慣れ親しんだ地中海より、そして北海より、もっと海は広がってて、
「オレの知らないことがたくさんあるんだな。」
「提督、知らなきゃ知ればいいんですよ。そしてあなたは、知った全てを手に入れりゃいいんです。」
リオーノがオレに笑いかける。
「あなたはそれが出来るお人ですよ。」
「知らない事は、知らないままの方がいい時だってある。」
リオーノの後ろで、ホーレスがなぜかそう小さくつぶやいた。
2011/12/30
ゲームだと集落を何回か探せば見つかる発見品ですが、実際にはこうやって、原住民とコミュニケーションしたり、探検したりしてるはずです。
みんな毛皮でモコモコの格好して、うろうろ動いてる…のだと、脳内で補足してください。
ついでに、べつに5人でなくて水夫たちも同行してるだろうことも。
北極海越え航路で見つけよう
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目次
欧州から西へ向かうと、サーベルタイガー☆、マンモス☆、テラトルニスコンドルAと、重要度高いのばかり発見できます(ついでにどいつも襲いかかってきます。サルヴァドルならともかく、ミランダで向かうと水夫が大量に殺戮されます)。
アジアへ向かわずにロシアの北岸へ向かうと、カイギュウB、オーロラAを発見できます(こいつらは襲いかかりません)。
ついでにこの航路を通りながら、地図作成技能で地形を確認しておくと、欧州に戻って報告した際に現金と冒険名声が大幅アップします。
ただ、補給港がそもそも多くないのと、まともな港(壊れた船を修理するための造船所や、水夫補充のための酒場なんかが完備されてる港)が皆無なので、お気をつけあれ。
べにいもは、ミランダシナリオで預金をほとんど全て銀行に預けて航海に出てしまい、ロシアのド真ん中あたりで補給する現金がないことに気づき、しかも途中でセーブをしてしまっていたので、涙目になったことがあります(ゴリ押しでアムステルダムあたりに滑り込んだと思う。確か水夫残り2名とか)。
冒険に出るときは、現金を忘れずに。