救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

18-2 アイディンの情婦エリーゼが語る話









「そのスジのオトコに囲われたオンナが逃げたら、どんな目に遭うか知ってるかい?」

マンタリナ姉さんは、相変わらず散らかった部屋のど真ん中で、いきなりそう言った。


「マンタリナ姉さん、それより、部屋片付けないと、マンサナのママさんに怒られ…」

マンタリナ姉さんは、ふてくされたようにベッドのど真ん中に寝転んだ。


「あたしもさ、この『黄金の双つ林檎楼』に来る前はいろいろあったワケよ。山賊だの海賊だのオンナになったこともあるしね。」


あんたと一緒。

マンタリナ姉さんはそう言って、寝転びながらこっちを見る。


「ま、エリーゼ、あんたの黒髭の旦那ほど大物はいなかったケド。」

「姉さん、その昔の男から逃げてきたの?」

マンタリナ姉さんは、あたいから視線を外す。


「…昔のトモダチがさあ…あんたみたいに、オオモノと付き合ってたワケでさあ…」

「その、姉さんのお友達が、男から逃げたの?」

あたいが聞くと、姉さんは首を振る。


「『逃げようとした』の。」

「なんで?ぶたれたの?客とって来いって売られかけたの?それとも…えっと、で、逃げられたの?」

「あのコ、死んじゃった。カワイソーに、港に浮いてたの。スリムなコだったのに、ぶよぶよにふくらんでさ。」

「…」

あたいは、身震いする。

マンタリナ姉さんは、

にやり

と笑った。


「てかさ、あんたも気ぃつけなよ。中年オトコは、若い女が大好きなくせに、すぐに邪推すっからね。」


「おう、邪推が好きな中年男が来たぜ、年増女!」

塩辛声に、マンタリナ姉さんが慌てて起き上った。


「アイディン♪」

「黒髭の旦那っ…」

アイディンは、あたいを片手で抱くと、マンタリナ姉さんを一睨みする。


「いや、あの…」

「まあったく!!あんたはまた、部屋も片付けずに!!」

ママさんのデカい声が響き渡った。


「女将さん…」

「オトコにフラれただの、バクチで負けただの、言い訳してるヒマがあったら、とっとと掃除でもしな!!ほらっ!!雑巾だよ!!」

ぶん

雑巾が、マンタリナ姉さんの顔に叩きつけられた。


「黒髭の坊や、マンタリナは掃除をすんのさ。手伝わねえなら、とっとと行きな。それとも、あんたが雑巾がけするかい?」

「ったく、この黒髭アイディン・レイスを下男扱いかよ、敵わねえな。」

アイディンは肩をすくめると、あたいを部屋まで連れて行った。




「ねえ、アイディン。あたいは逃げたりなんかしないよ!」

あたいが言うと、アイディンは不思議そうな顔をした。


「だから、ジャスイなんかしないでね!」

アイディンは、今度は笑う。


「よしよし、いい子だ。じゃ、俺から逃げようとすんじゃねえぞ。」

「しないよ。だってアイディンは、あたいをぶたないし、売り飛ばそうともしないし…」

あたいは、ちょっと怖くなる。


「ねえ、アイディンは、『逃げた女を酷い目に遭わせた』こととかあるの?」

アイディンの笑いが強張った。


「…誰から聞いた?」


アイディンの手が、あたいの肩を乱暴に掴む。


「誰からだ?」

「あ、あるの!?本当に?」

「…」

アイディンは、大きく息を吸った。


「…知るはず、ねえな。」

「ねえ…」

アイディンは、あたいの肩から手を離す。


「したことはねえよ。」

「本当?」

アイディンは、



とあたいから目を逸らした。


「『俺の女』にゃ、な。」

そして、あたいをベッドの上に押し伏せた。




「俺たちみてえな稼業の野郎にゃ、メンツってモンがある。」

アイディンは呟く。


「逃げた女を、はいそうですかとはそのままに出来やしねえんだ。なのに、あいつめ、馬鹿な事を…」

アイディンの目は閉じたまんま。

顔の上で手を振ってみたけど、反応しない。

寝言かな?


「なんで、逃げたの?」

あたいも、

そっ

と、呟く。


「そもそも、俺は言ったんだ。あいつは災いを招く女だって。俺は言ったじゃねえか…だのに、兄貴も、マホメッドも、まんまと…」

ぎり

アイディンは強く歯をかみしめる。


「あの女さえいなきゃ、今だって、俺たちは!!」

あたいは、ふとんの中に身をもぐらせた。

アイディンは、荒い息をふうふうとついて、あたいの肩をゆすぶった。


「おい、エリーゼ…」

「…もう、びっくりしたよ、アイディン。目が覚めちゃったよ。」

「…寝てたか。」

「…」

あたい、ウソついた。

神さま、ごめんなさい。


「起こして、悪かったな。」

アイディンの大きな手が、後ろからあたいの頭をなでた。


「…お前は、逃げるなよ。」

「逃げないよ。」

付け加える。


「アイディンのこと、好きだから。」


「お前は、可愛いなあ。」

アイディンの手が、あたいの頭をぐりぐりと撫でた。


「俺は、お前に惚れて良かったよ。」




災いを招く女とか、知らない。

マホメッドってだれか、知らない。


あたいはアイディンが好きだから、

それで、

満足





2012/4/24



「あの女」

「マホメッド」

まあ…伏線♪




頭グリグリについて

   

目次









































どうでもいいことですが、べにいもは「頭グリグリ」に、萌え萌えします。
なんつーか、アイディンとか、ペルソナの堂島さんみたいな男らしい男にされると想像するだけで キュン死 しそうです。

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