救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

18-5 エドワード・ダンピアが語る話









銃声。

「チッ!!さっすがイスパニア無敵艦隊、手強いにも程があるぜ!」

アンソニーは、俺にじゃなく独り言として呟くと、替えの銃をイスパニア海兵にブッ離した。

アンソニーの銃が全部カラになったと見て、俺はアンソニーの盾になり、あいつの弾込めの時間を稼ぐ。


「サンキュな!エドワード!!」

「フン…」

ここで気の効いた返しのひとつも出来ない辺りが、俺の人に嫌われる故だと知っちゃいるが。


俺たちイングランドのオットー艦隊は、無敵艦隊と、あのエゼキエル司令の艦隊と互角に戦っている。


銃声

「思い知ったか、イスパニア野郎どもっ!!」


また銃声。

「ハン!!意外と大したことねえな、無敵艦隊も!」

ついさっきと真反対の言葉を吐くアンソニーだが、俺は後者の方に賛成だ。




思ったより、強くない。


いや、もちろん充分強いには違いないが、俺たちもそれに負けてねえ。

それは、オットー・スピノーラ提督の艦隊だからだと、マシューなら自信満々に言うだろが、そうとばかりも言えない。


無敵艦隊司令のエゼキエル提督の御出陣だってのに、艦隊を構成するのは、ガレオンだけではなく、キャラックにナオ。

輸送船が戦闘に紛れてるとしか思えねえ構成だ。

こりゃ、イスパニアは表面上の繁栄とは逆に、内情は相当痛んでるってぇ噂は本当だったようだ。

とはいえ、いっそ艦隊構成なら劣ってるとも見えるこの艦隊で、これだけの戦いが出来る以上、エゼキエル司令のチカラはモノホンのようだが。


「味方旗艦が、敵旗艦に突っ込んだぞ!!」

誰かが叫ぶ。


「…オットー提督が?」

「提督同士の一騎打ちのつもりだろうさ。このまま戦力の削りあいになったんじゃ、勝てたとしても船も動かねえよ。」

アンソニーに俺は答える。


「オットー提督と軍神の戦いか…これゃ見なきゃなんねえぜ!!」




「強ぇ…」

オットー提督とエゼキエル司令の一騎打ちを、アンソニーは固唾を呑んで見守り、そして呟く。


オットー提督も長身だが、さらにそれよりも大柄の司令は、その赤毛を燃え立たせるような戦いぶりで、イスパニア方だけじゃなく、ウチの海兵たちの度肝も抜いていた。

「確かにこりゃ紛うことなき『軍神』だぜ。」

生きた伝説になるくらいだから、決して若くはないのに、動きにまったく老いを感じさせねえ。さすがだこりゃ。

いやだが、オットー提督も負けちゃいねえ。だいたい、こっちの提督の方が若い…

いや、確か若かったよな、提督は。

「ヨークの若獅子」とか呼ばれてたりするから、若いんだよな。

あれ?

だが、ツラだけ見てると、司令とタメにも見え…


「おい、ボーっとしてる場合じゃねえぞエドワード!!」

「ん?」

「オットー提督が…」

提督が鋭い斬撃を入れる。

司令は見事に防いだが、反撃に移るまでのモーションが僅かに遅かった。

提督はもちろんそれを見逃さない。

隙の出来た脇に突きを入れ、体勢を崩した司令の腕に激しい一撃を加えた。


司令の剣が、床に叩き落された。




「…」

誰も、何も口にしない。

イングランド兵たちも、勝利の歓声すら上げず、あまりに激しい戦いの終わりに気を呑まれるばかりだ。


「…ふ。」

小さな吐息が、大きく聞こえた。


「君は、強いな。オットー・スピノーラ。」

司令は、それでも視線を低めずに続ける。


「私の負けだ。止めを刺し給え。」

司令の言葉に、イスパニア海兵の中から、低い悲鳴のような声が漏れる。


オットー提督はそれには答えずに、

「失礼。」

と短く言って、司令の右肩を破った。


「やはり、傷を庇われていたのですな。」

「…気付かれていたか。」

司令の右肩には、完治しない傷があった。おそらくは、プレステアでの戦いで負ったものだろう。


「だが、言い訳にはならん。武人は常にその時持った力で戦うもの。私は…」

「…いつか、『貴方の本当の全力で』戦って頂ける、その日を楽しみにしています。」

「待ち給え、オットー…」

「小船を用意せよ!!」




「お、おいおい、本当に逃がしちまうのかよ。」

「やるなあ、オットー提督。器のデカい男は違うぜ。」

アンソニーは呑気な感想を言った。




「…私の息子と歳も変わらぬ男に敗れたか…オットー、これからは君のような、若い者たちの時代なのだろうな。」

「エゼキエル司令…」

「老兵は死ぬまい。ただ、消え去る事としよう。さらばだ。」




エゼキエル司令が去ると同時に、誰からともなく、大歓声が爆発した。

「イングランド万歳!!オットー・スピノーラ万歳!!」


「すげえな。歴史が変わる瞬間に立ち会っちまったぜ。」

俺は柄にもなく興奮した。




こいつは、やみつきになりそうだ。





2013/2/20



これがオットーの話だったら、一章分かけて書くんだろうけど、何せこれはサルヴァドルのお話なので。
ちなみに、外伝の攻略本の2と外伝の歴史年表では、このエゼキエル司令との戦いは、ピエトロの聖者の杖探索前とか 大嘘書いてあります けど、大きな間違いですから。


だって、マッサワ戦の後にプレステア戦があって、そこでオットーとカタリーナは会うんだから、そんな訳ないじゃん!!
ウソかくなよ、攻略本!!

というわけで、この話での時間軸は攻略本とは色々異なっております。悪しからず。



今回の語り手:エドワード・ダンピア
…外伝ではダブリンにいる航海士。統率も航海も高く、剣技も79。この話ではやたらとアンソニーに「ピンと来た」と言っているが、実は直感は58。本気で直感で判断しているわけではなさそうだ。測量も砲術も持っているが、義理がなく、属性は悪。一体、過去に何をしたやら。
魅力41と、ハイレディン並みに低い(多分、デフォルト航海士では最下位だと思われ)ので、この話でも人に嫌われる男にしてみました。
べにいもは使いやすいのでゲームでもよく使っていましたが、他のサイトで描かれているのを見たことがないなあ。

ちなみに、2ではなぜか長崎にいる。。本当一体、過去に何をしたのやら。






無敵艦隊は何故に「弱い」か?

   

目次









































べにいもの2の初プレイはオットーシナリオなので、ラストバトルも当然、エゼキエル司令なわけです。
彼は2では唯一のラスボス(ラストバトルはジョアンやカタリーナもだけど、あの二人にはラスボスはいないし)で、当のエゼキエル司令の能力値は

統率:98 航海96 知識:97 勇気:98 直感97 剣技:90 魅力:97 戦闘レベル:44

90以下の能力値がひとつもないというハイスペックさ なのです。

だのに、エゼキエル司令戦の感想は

「弱っ!!」
でした。

だいたい。無敵艦隊の総司令官の艦隊なのに、 どうしてキャラックはまだしも、ナオ(補給船だよ)が入ってるかな!?


これについての考察は
こちら で詳しくされています。

ついでに、小説大航海時代では、エゼキエル司令はプレステアでの戦闘で負傷していた(剣技90ですら負傷中の数値)ということになっていました。

そうです。

エゼキエル司令は本気出せば、オットーなんて指一本で勝てるくらい強いのです!!

なにせ、19も下の、息子も同然の小僧っこですしっ!!(しかし見た目はどう見てもタイ…どころか、下手するとオットーの方が老けて見える)

ちなみに、ゲーム開始時、オットーは25。司令は44。確かにガチバトルでは不利かも。

とはいえ、44って「年寄り」というには若すぎる年かと思われますが…

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