銃声。
「チッ!!さっすがイスパニア無敵艦隊、手強いにも程があるぜ!」
アンソニーは、俺にじゃなく独り言として呟くと、替えの銃をイスパニア海兵にブッ離した。
アンソニーの銃が全部カラになったと見て、俺はアンソニーの盾になり、あいつの弾込めの時間を稼ぐ。
「サンキュな!エドワード!!」
「フン…」
ここで気の効いた返しのひとつも出来ない辺りが、俺の人に嫌われる故だと知っちゃいるが。
俺たちイングランドのオットー艦隊は、無敵艦隊と、あのエゼキエル司令の艦隊と互角に戦っている。
銃声
「思い知ったか、イスパニア野郎どもっ!!」
また銃声。
「ハン!!意外と大したことねえな、無敵艦隊も!」
ついさっきと真反対の言葉を吐くアンソニーだが、俺は後者の方に賛成だ。
思ったより、強くない。
いや、もちろん充分強いには違いないが、俺たちもそれに負けてねえ。
それは、オットー・スピノーラ提督の艦隊だからだと、マシューなら自信満々に言うだろが、そうとばかりも言えない。
無敵艦隊司令のエゼキエル提督の御出陣だってのに、艦隊を構成するのは、ガレオンだけではなく、キャラックにナオ。
輸送船が戦闘に紛れてるとしか思えねえ構成だ。
こりゃ、イスパニアは表面上の繁栄とは逆に、内情は相当痛んでるってぇ噂は本当だったようだ。
とはいえ、いっそ艦隊構成なら劣ってるとも見えるこの艦隊で、これだけの戦いが出来る以上、エゼキエル司令のチカラはモノホンのようだが。
「味方旗艦が、敵旗艦に突っ込んだぞ!!」
誰かが叫ぶ。
「…オットー提督が?」
「提督同士の一騎打ちのつもりだろうさ。このまま戦力の削りあいになったんじゃ、勝てたとしても船も動かねえよ。」
アンソニーに俺は答える。
「オットー提督と軍神の戦いか…これゃ見なきゃなんねえぜ!!」
「強ぇ…」
オットー提督とエゼキエル司令の一騎打ちを、アンソニーは固唾を呑んで見守り、そして呟く。
オットー提督も長身だが、さらにそれよりも大柄の司令は、その赤毛を燃え立たせるような戦いぶりで、イスパニア方だけじゃなく、ウチの海兵たちの度肝も抜いていた。
「確かにこりゃ紛うことなき『軍神』だぜ。」
生きた伝説になるくらいだから、決して若くはないのに、動きにまったく老いを感じさせねえ。さすがだこりゃ。
いやだが、オットー提督も負けちゃいねえ。だいたい、こっちの提督の方が若い…
いや、確か若かったよな、提督は。
「ヨークの若獅子」とか呼ばれてたりするから、若いんだよな。
あれ?
だが、ツラだけ見てると、司令とタメにも見え…
「おい、ボーっとしてる場合じゃねえぞエドワード!!」
「ん?」
「オットー提督が…」
提督が鋭い斬撃を入れる。
司令は見事に防いだが、反撃に移るまでのモーションが僅かに遅かった。
提督はもちろんそれを見逃さない。
隙の出来た脇に突きを入れ、体勢を崩した司令の腕に激しい一撃を加えた。
司令の剣が、床に叩き落された。
「…」
誰も、何も口にしない。
イングランド兵たちも、勝利の歓声すら上げず、あまりに激しい戦いの終わりに気を呑まれるばかりだ。
「…ふ。」
小さな吐息が、大きく聞こえた。
「君は、強いな。オットー・スピノーラ。」
司令は、それでも視線を低めずに続ける。
「私の負けだ。止めを刺し給え。」
司令の言葉に、イスパニア海兵の中から、低い悲鳴のような声が漏れる。
オットー提督はそれには答えずに、
「失礼。」
と短く言って、司令の右肩を破った。
「やはり、傷を庇われていたのですな。」
「…気付かれていたか。」
司令の右肩には、完治しない傷があった。おそらくは、プレステアでの戦いで負ったものだろう。
「だが、言い訳にはならん。武人は常にその時持った力で戦うもの。私は…」
「…いつか、『貴方の本当の全力で』戦って頂ける、その日を楽しみにしています。」
「待ち給え、オットー…」
「小船を用意せよ!!」
「お、おいおい、本当に逃がしちまうのかよ。」
「やるなあ、オットー提督。器のデカい男は違うぜ。」
アンソニーは呑気な感想を言った。
「…私の息子と歳も変わらぬ男に敗れたか…オットー、これからは君のような、若い者たちの時代なのだろうな。」
「エゼキエル司令…」
「老兵は死ぬまい。ただ、消え去る事としよう。さらばだ。」
エゼキエル司令が去ると同時に、誰からともなく、大歓声が爆発した。
「イングランド万歳!!オットー・スピノーラ万歳!!」
「すげえな。歴史が変わる瞬間に立ち会っちまったぜ。」
俺は柄にもなく興奮した。
こいつは、やみつきになりそうだ。
2013/2/20
これがオットーの話だったら、一章分かけて書くんだろうけど、何せこれはサルヴァドルのお話なので。
ちなみに、外伝の攻略本の2と外伝の歴史年表では、このエゼキエル司令との戦いは、ピエトロの聖者の杖探索前とか
大嘘書いてあります
けど、大きな間違いですから。
だって、マッサワ戦の後にプレステア戦があって、そこでオットーとカタリーナは会うんだから、そんな訳ないじゃん!!
ウソかくなよ、攻略本!!
というわけで、この話での時間軸は攻略本とは色々異なっております。悪しからず。
今回の語り手:エドワード・ダンピア
…外伝ではダブリンにいる航海士。統率も航海も高く、剣技も79。この話ではやたらとアンソニーに「ピンと来た」と言っているが、実は直感は58。本気で直感で判断しているわけではなさそうだ。測量も砲術も持っているが、義理がなく、属性は悪。一体、過去に何をしたやら。
魅力41と、ハイレディン並みに低い(多分、デフォルト航海士では最下位だと思われ)ので、この話でも人に嫌われる男にしてみました。
べにいもは使いやすいのでゲームでもよく使っていましたが、他のサイトで描かれているのを見たことがないなあ。
ちなみに、2ではなぜか長崎にいる。。本当一体、過去に何をしたのやら。
無敵艦隊は何故に「弱い」か?
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目次
べにいもの2の初プレイはオットーシナリオなので、ラストバトルも当然、エゼキエル司令なわけです。
彼は2では唯一のラスボス(ラストバトルはジョアンやカタリーナもだけど、あの二人にはラスボスはいないし)で、当のエゼキエル司令の能力値は
統率:98 航海96 知識:97 勇気:98 直感97 剣技:90 魅力:97 戦闘レベル:44
と90以下の能力値がひとつもないというハイスペックさ
なのです。
だのに、エゼキエル司令戦の感想は
「弱っ!!」
でした。
だいたい。無敵艦隊の総司令官の艦隊なのに、
どうしてキャラックはまだしも、ナオ(補給船だよ)が入ってるかな!?
これについての考察はこちら
で詳しくされています。
ついでに、小説大航海時代では、エゼキエル司令はプレステアでの戦闘で負傷していた(剣技90ですら負傷中の数値)ということになっていました。
そうです。
エゼキエル司令は本気出せば、オットーなんて指一本で勝てるくらい強いのです!!
なにせ、19も下の、息子も同然の小僧っこですしっ!!(しかし見た目はどう見てもタイ…どころか、下手するとオットーの方が老けて見える)
ちなみに、ゲーム開始時、オットーは25。司令は44。確かにガチバトルでは不利かも。
とはいえ、44って「年寄り」というには若すぎる年かと思われますが…