救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

2-1 ホーレス・デスタルデが語る話









若のご機嫌が悪い。


「若、若ー?」

「…提督。」


「へえ、すいやせん、提督。じゃ、そろそろ穀物を積み終わった頃でしょうし、そろそろ出航…」

「ホーレス。」

「へえ。」

「オレたちの職業は、何だ?」

「海賊でさ。」

「で、今、オレたちがしてるのは何だ?」

「今、そこの交易所で穀物を買い付けたところでさ。」

俺は答えながらも、若のご機嫌がみるみる悪くなっているのが分かる。


「ホーレス…」

俺は周囲を見回す。

いくら港町で、雑多な人間がたむろしてるとは言え、こんな街路のど真ん中で海賊海賊言うのも、ちいっと外聞が悪い。


「さ、若。細けえ話は、船の中でしやしょうね。ねっ。」

「だから、提督って呼べって言ったろ!?」

俺は若の腕をひっつかむと、とっとと旗艦ガナドール号の中へと若を連れ去った。









「なんでオレが、交易なんかしなきゃなんないんだっ!!オレは交易商人じゃない、海賊だぞーっ!!」

俺は、若の何回目かのこの叫びにうんざりしながらも、噛んで含めるようにして、若に教え諭す。



「若…じゃなかった、提督、いいですかい。海賊するにも、元手ってのが要るんでさ。確かに、アルジェ海賊の会計のビゴール兄弟に元手はもらいやしたがね、あんな金貨2万枚足らずの金、水夫の補充、食料の補充、もろもろしてたらすぐ無くなっちまうんでさ。」

若は、子どもみてえに頬を膨らせた。


「だったら、船を襲って稼げばいいじゃないか。旗揚げしてすぐに船を襲ったみたいになっ!」

「だーかーらー…」










俺の若が海賊として旗揚げして、はや2か月。

戦果といやあ、まだ一勝。

そりゃまあ、仕方がない。若はまだまだ海賊としちゃあ未熟で、獲物になりそうな船団なんてそうそう転がっちゃいないもんだ。

一番最初に襲った船だって、中型船であるナオを中心とした小規模な商船隊だから勝てたのであって、いくら商船隊でもキャラックで船団を組まれるとまだ辛い。

とまあ、そんなペーペーな海賊なのが俺の若なわけだが、問題は当の若がそんな現状を認識してないことだ。




「オレは大物を狙うさ。雑魚に用はないんでね。さっさと、でかいのを仕留めて、ジョカのヤツに実力の違いを見せつけてやらないとな。」

そう言っては、無謀な戦闘を仕掛けようとする若を引き止め引き止めしてるうちに、手持ちの資金は底を尽きかけてる。

幸い、ハイレディンのお頭に頂いたガナドール号に加えて、拿捕したナオがあるからいいが、このままだとナオも売っぱらわなきゃならないかもしれん。

いや、ナオを売るので済んだらいいが、最悪、このガナドール号も…

そう考えると俺は胃が痛い。

何とか交易で急場を凌いじゃいるが、会計長もいねえこの船団だ、このままじゃジリ貧…









俺が顔を上げると、やっぱり不満そうな顔をした若がいる。

まったく、世間知らずでワガママなお人だ。

誰が育てたんだろうな…


「アッシでしたな。」

「何がだ?」

俺は溜息を一つつく。


「さ、若、四の五の言ってても始まりやせん。ささ、この穀物をマディラへ運びやしょう。で、そこで砂糖を買ってですな…」

「オレは早く戦艦隊と戦いたいっ!!」

「はいはい、もっと強くなってからにしやしょうね。」

「何だよホーレス、オレはもう十分強いんだからな。」

「はいはい、若はとってもお強いですぜ。」

「だから、『若』じゃなくて提督!」









俺は提督を宥めすかして、マディラまで穀物を運んだ。

幸い、二隻分の穀物は良い値で売れ、砂糖を仕入れることも出来た。


「ほう、これで一息つけやしたね。次はこの砂糖をどこで売るかですが…」

「…どこでもいい。」

若は完全にスネちまっていた。


俺だって商売のことは詳しくはねえ。

アルジェ海賊は大所帯だけあって、役割分業が徹底してる。

俺みてえな生粋の海賊は、船を襲って分捕るまでが仕事で、分捕った後の始末は、オズワルドの旦那みてえな数字と商売に強えお人がしてるものだからな。

マディラ含め西アフリカじゃあ食い物が高く売れて、そしてマディラじゃあ砂糖が安く買えて、さて、砂糖はどこで高く売れるんだか…




「そこの旦那。」

「…」

「そこの旦那、腕っ節の強そうな、そこの黒い肌の旦那だよ。」

「…アッシですかい?」

見れば、マディラのギルドから、親父が手招きしていた。


「何なんだ?」

スネていた若も興味を示したので、俺はギルドの中に入ってみる。


「ベネツィアのシャイロック銀行本店で借金取り立ての仕事があるんだが、旦那みてえな腕っ節の強そうな人に頼みたいんだ、どうだい?」

「へえ、借金の取り立てか…ちょっと海賊らしいよな。」

どうやら若は乗り気らしい。


「ようがす、引き受けやしょう。」

俺は、若の機嫌が直ったことにホッとしながらも、その仕事を引き受けた。









とりあえずベネツィアの交易所で砂糖を売ると、俺は若を連れてシャイロック銀行本店に行く。

ラティーナ一隻から始めて、一代で巨万の富を築き上げたって評判のユダヤ人の頭取の姿はもちろんなく、ガクのありそうな銀行員が事務的な口調で言った。


「アル・ファシさんが借金を返してくれなくて困っています。一カ月以内に金塊5個を取り立てて頂けたら、金貨5千枚の報酬をお渡ししましょう。お引き受け下さいますか?」

「ああ、引き受ける。」

「若、そんな安請け合いしちまっても…」

俺が言う前に、若は嬉々として契約書にサインをしちまっていた。




「で、ホーレス、アル・ファシって男はどこにいるんだ?」

銀行から出るなり、若は真顔で俺に聞いた。


「…それを調べるのも、仕事のうちですぜ、若…じゃなくて、提督。」

「ふうん、で、どこで調べられるんだ?」

「そうですね…まあ、船乗りが集まる所でしたら、行方を知ってるヤツがいるかもしれやせんからね…」

「よし、ホーレス、酒場だ。」

「へえ、提督っ。」




酒場へ入るなり、若はカウンターにどかりと座りこんだ。


「おいマスター、酒だ。」

「…兄さん、金は持ってるのかい?」

うさんくさそうな顔をするマスターに、若は平然と俺を示す。


「ホーレス、金貨を見せてやれ。」

「へえ、しかし何をなさるおつもりで…」

「マスター、酒を20瓶ばかし出して、みんなにおごってやれ。」

「はい、若旦那っ!!豪気なこって。おい、みんなっ、こちらの若旦那のオゴリだっ!!」

酒場はすぐに、大きな歓声に包まれた。




「ほら、アル・ファシの行方も分かったろ。」

若は大得意な表情で俺に言った。


「ま、なかなかの散財でしたがね。」

さすが海賊王の息子と言おうか、金に糸目はつけない豪気さが船乗りたちの口をいつもよりも緩めたようだった。

船乗りたちは口ぐちに、知る限りのアル・ファシの情報、居場所に止まらず、そいつの前歴だの前科だのまで喋ったのだった。


「トリポリですかい…ベネツィアからだと、ちいとばかし遠いですね。移動してる間にどっか行っちまわなきゃいいですが。」

「ま、行っちまったらまた聞けば済む話だ。」

金銭感覚の薄い若は、事もなげに言う。


「あのですねえ、若。金ってのは湧いて出てくるわけじゃなくてですねえ…」

俺は言いかけて、無駄だと思って止める。

まあ仕方ないことだ。若は若さまだからな。それに、下手にみみっちい所が無いってことは、大物の証な訳で…


「しかし、商品の取り込み詐欺だの、金の使いこみだの、なかなか極悪人だな、アル・ファシってヤツは。」

若は、書き留めたアル・ファシの前歴リストを眺めて言う。


「…まあ、こちとらも海賊稼業ですから、あんまり人さまのこと言えた義理じゃねえですがね。」

まあともかく俺は若を連れて、明日、北アフリカのトリポリへと出航することになったわけだ。





2010/2/27



サルヴァドルの魅力は、若さま気質と、魅力92だというお話。
ゲームではそれほど描かれませんが、サルヴァドルは「海賊王子」なわけですから、わりといろんな所で世間知らずなはずなんですよね。あまりアルジェからでたこともなさそうですし。

能力値と言えば、大航海時代では、なんか美女・イケメンは魅力が高い傾向にあるようです。まあ、カタリーナやエルネストの魅力が高いことはまだしも、なんでミランダの魅力が96もあるのか、未だに解せません。
そりゃ可愛いけどさあ…




ネタバレプレイ日記(感想)

   

目次









































サルヴァドルが旗揚げしてしばらくは、ホーレスが出港所に入るたびに、金はちゃんと計画的に使えだの、いきなり強い敵と戦おうとするなだの、水夫の配置はきちんとしろだの、お母さんのお小言のごとく口煩く言ってきます。初プレイ時ならともかく、2からプレイしてる人だと
「そんなん今更言われんでも、シロートじゃねーんだ、わーっとるわっ!!」
と思うわけですが…よく考えてみれば、ゲーム内では表示されてないところで、箱入り海賊王子がやいのやいのワガママ言ってるのかもしれない…と思って、今回の話になりました。

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