救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

2-2 サルヴァドル・レイスが語る話









「どうやら、まだアル・ファシはトリポリにいるみたいだな。」

ちゃんと借金取立の相手を探し当てたって言うのに、ホーレスは渋い顔で、


「ああ、また散財だ。これで取り逃がしちまったら、今度こそあのナオ船を売り飛ばさねえと…」

とかブツブツ言いながら、金貨の入った袋を眺めて溜息をついてる。


「ホーレス、とりあえずとっ捕まえりゃいいだけだろ?」

オレが言うと、ホーレスは何度目かの溜息をついて、


「へえ、若、いいんですよ。最悪、アッシが何とかしやすから。」

って答えた。


「何だよ、オレ、信用ないな…てか、若じゃなくて…」

「すいやせん、提督。」

「うん、それでいい。とりあえず、酒場から出るぞ。」

酒場から出たら、ホーレスは気を取り直したように元気になった。


「まあ若…じゃなくて提督。ここまで金使って追い詰めたんですから、ここで逃しちゃ元も子もありやせんぜ。」

「そんなことは分かってるよ。でも、アル・ファシのヤサにしてる宿まで突き止めたんだ。後は絞め上げて、金塊を巻き上げるだけだろ?」

「口で言うのは簡単ですがね、あの手の小悪党をナメちゃぁいけやせん。」

「分かってる分かってる。」

まったく、ホーレスは口うるさくて困る。

いつまでもオレをガキ扱いするんだからよ。


「とりあえず、その格好じゃ目立ちやすぜ。裏街の宿じゃあ、もっと小汚い格好の方が目立たずに済みやす。宿に戻って、船員の服に着替えてから行きやしょう。」

「ん。」




アル・ファシが居着いてるって宿に着いた時には、ホーレスのせいでもう夜中に近くなってた。

まあいい、寝てたら叩き起こせば済むことだ。


「アル・ファシはいるかい?」

宿のばあさんに金貨を渡しながら聞いたら、ばあさんはランプに照らされて化け物みたいにも見える無表情な顔のアゴを上に向けた。

オレはランプを手にして、階段を上がる。

光が洩れてる部屋が、どうやらアル・ファシのヤサのようだ。




ガン

オレは扉を蹴り開けた。

こういうのは、下手に小細工しねえ方がはかどるってモンだ。


「あんたがアル・ファシだな?」

中にいた男は、商品の取り込みサギだのとインチキ商売重ねてきたってウワサの割にはまだ若い。

アル・ファシは、ターバンを被った頭の下の顔に、愛想笑いを浮かべた。


「こんな夜中に何かご用ですかい、兄さん?」

オレは、扉から目を離さないようにしながら、用意した台詞を言う。


「シャイロック銀行からのご用さ。」

「ああ…」

アル・ファシは、大仰に頷いた。


「はいはい、シャイロック銀行に借りてたお金の催促ですね。いやあ、そろそろ返しに伺おうと思ってたところなんですぜ。兄さんの手を煩わせちまって、こりゃあ…」

「大人しく返す気か?」

オレは拍子抜けした。

てっきり居直られると思ったんだが。


「当り前ですよ。借りた金を返すのは、当然って話でさ。さ、この箱に入ってる金塊をご覧くだせえ。」

アル・ファシが示した箱に、オレは近寄る。

ランプの光で照らした箱の中には、確かに何か光るものがあるみたいだが…


「よく見えないぞ?」

「じゃあ、もっと近いて下さいよ…そらっ!!」

「う゛っ!!」

オレは後頭部に強烈な一撃を食らった。


「誰が銀行に利子つきの金なんざ返すかよっ!!オレは敬虔なムスリムだぜっ!!あのユダヤ野郎にそう伝えなっ!!」

階段を駆け降りる大きな音がした。



「逃がすかっ!!」

オレは走ってアル・ファシを追った。




真っ暗な裏街を小半時間も追ったが、慣れないトリポリの町の、しかも裏街はオレにはさっぱりだった。

アル・ファシがどこに逃げたかも分からないし、チンピラには絡まれるし…もちろん、キッチリ返り討ちにしてやったけどな。



「クソっ!!」

オレは地面に唾を吐きかけた。

あのクソオスマン人め、次見かけたら、手足の5、6本も引き抜いてやるっ。


「…とりあえず、ホーレスを探そう。」

まだあの宿の近くにいるはずだ。

ホーレスに相談して、この後どうするか…




「おお、若、ご無事で。」

「ホーレス…と…」

アル・ファシのヤサにしてた宿に入ったオレは、ホーレスと、そして、ギチギチにロープで縛りあげられた「何か」を見た。


「おい、若にお詫び申し上げろ。」

ホーレスがそいつの猿ぐつわを取り去る。


「すっ…すいやせんでしたっ!!」

そいつはそう言って、血の混じったツバを吐きだした。

相当手酷くやられたらしい…ホーレスに。


「なんでお前がこの野郎を捕まえられたんだ?」

オレは不思議でたまらない。

確かにアル・ファシは、外に逃げたのに。


「なあに、大した事じゃありやせんよ若。外に逃げるったって、金塊はさすがに置いていけやせんからね。若の目をくらます為に外に飛び出してみただけで、すぐにこの部屋に戻るって見当がついてやしたから。あっしはこの野郎と若が外へ飛び出してから、悠々と階段を上がって、この野郎が戻ってくるのを待っていただけでさ。」

「畜生、この坊やだけならラクラク出し抜けたのに、まさか保護者付きとは…オレもヤキが回ったぜ。」

「…」

とりあえずブチ殺してやろうかと思ったが、仕事を優先させなきゃな。


「金はどこだ?」

「その箱の中でさ。」

オレは金塊5個を確かに確認した。


「アタマ殴られた甲斐があったな。」

オレが言うと、ホーレスが驚く。


「何ですって、頭ブン殴られたんですかい?若っ、お怪我は…」

「痛い痛いって、ホーレス、殴られたトコを触るな。」

「あーあー、おいたわしい、タンコブなんか出来ちまって…てめえ、この野郎、アッシの大事な若に怪我なんぞさせて、覚悟は出来てんだろうな。」

ホーレスが力いっぱい指を鳴らす。


「ちょ…ちょっとお待ちよダンナっ!!もうじゅうっぶん思い知りましたからっ!!」

「確かにな。」

ランプで照らすと、顔はアザだらけだ。こりゃ、他のケガも推して知るべしってヤツか。


「もういいだろう、ホーレス。」

オレの言葉に、ホーレスは残念そうな、そしてアル・ファシかホッとした溜息をついた。


「ま、そうですね。後は船に積み込んで、適当な所で沈めちまいやしょう。」

「ま、待ったっ!!」

アル・ファシが叫んだ。


「その…何だ、ギルドで仕事なさってるってコトは、ダンナ方、金に不自由してるね?自分でいうのも何だが、オレの舌は人を騙すのが得意でね。オレと組めば、金にゃあ不自由させねえ…」

「って言ってるぞ、ホーレス。」


「なあに、ダンナ方の器量を見込んで、儲けは7:3で…」

「ここから半日も航海したあたりにゃ、いい潮流がありやしてね。そこに落ちたモノは、2度と海面に上がって来ないって話でさ。」

「う、ウソですぜ、ダンナっ!!もう、このアル・ファシ、好きなだけ無料でこき使っておくんなさいっ!!」

「って言ってるぞ、ホーレス。」

「若、まさか本気でこいつを連れて行こうって考えてんじゃあ…」

「え?だってこいつ商売には詳しいんだろう?じゃあ連れて行ったら役に立つじゃないか。何かおかしいかい?」

オレは何もおかしくはないと思ったんだが、ホーレスはすごく渋い顔になった。


「まったく、これだから若は世間知らずと言うか…」

「てかホーレス、さっきから気になってたけど、若じゃなくて提督。」


「へい提督。いいですかい?こんなサギ野郎連れ歩いたら、アッシらアルジェ海賊の品位が下がりやさ。」

「あ、アルジェ海賊っ?」

アル・ファシの顔色が変わった。


「フン…どうでもいいだろ、そんなこと。」

まったく、親父があんまり最強の海賊すぎるんで、このままじゃいつまで経ってもオレは親父の七光だ。


「ともかく、こいつは連れて行くからなっ。」

「若っ!」

「提督っ!!オレが決めたことに逆らうな。」

「…へえ、お言葉に従いやすよ、提督。」

ホーレスは渋々、アル・ファシの縄を解いた。

アル・ファシの耳元で、ボソボソ言うたびにアル・ファシの顔色が変わったので、相当キョーレツな脅しの文句を吐いたらしい。




「ったく、オレもヤキが回ったぜ…」

アル・ファシは、腫れあがりふてくされた顔で立ち上がった。


「さ、提督、そしてホーレスのダンナ、そうと決まればひと眠りして夜が開けたら、商品を買い付けやしょう。」

「気分転換の早い男だな。」

ホーレスが呆れたように言う。


「まあこれも、偉大なるアッラーの定め給うた運命でさあね。」

そしてアル・ファシは不敵にも、そのままベッドに倒れ込んだ。





2010/3/7



「トリポリ」という地名は、一般の日本人にはまず馴染のない地名…だったのですが、あれよあれよという間に、カダ○ィ大佐とかいう人のおかげ?で、メジャーになりましたね。はい、現リビアの首都です。

トリポリといえば、会計技能持ちのアル・ファシです。サルヴァドル編を開始したら、即座にここにこいつをゲットしに行って、主計長を任せるのがべにいもスタンダードです。
いや、ラウルも好きなんですけどね、使えるし。

敬愛する『小説大航海時代』の作者「楊文力」氏のお書きになったアル・ファシがカッコ良すぎて好きなんですが、自分で書いてみたらこんなんになっちゃった。不敵なトコしか似てない…けど、小物臭い…ガッカリ。




ネタバレプレイ日記(感想)

   

目次









































大航海時代2&外伝と言えば、借金取立&持ち逃げーっ!!
攻略本にも記載されている、由緒正しい犯罪です。しかし、金塊5コという、いち航海士が一生かかっても払いきれない程の金額を持ち逃げしても
「あなたを信用した私が馬鹿でした、お引き取り下さい。」
と礼儀正しく罵っただけで引き下がってくれる(まあ、名声が半分になるけど)うえに、まんまとそんな人間に再度借金取り立てを任せてくるシャイロック銀行の太っ腹なこと。おかげさまで、儲けさせて頂きました。
あまり何度も持ち逃げを繰り返すと暗殺者が送り込まれるとか、預金が封鎖されるとか、そういうシステムがあっても良かった気がするんだけどなあ…

もっとも、何度もゲームをプレイしていると、この持ち逃げはあまりにチョロく大金を入手出来過ぎて面白くないので、自然とやらなくなりますが(フツーに交易したりしてた方が楽しい)
がまあ、このゲームを代表するギルドの仕事ではあるので、今回のようなお話になりました。

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