オレはアンソニー・ジェンソン。
「直感のアンソニー」って評判の、バツグンのカンの良さを誇るオレだが、どういうワケか、うっかり海賊船の航海士なんぞに成り果てちまった。
最初は自分の運命を呪ったオレだったが、もう吹っ切れた。
「きっとコレは、オレにとっちゃ悪い事態じゃなく、運命の転機ってヤツだったのさ。」
「へえ、お前の自分のカンにかける自信も大したモンだな。」
独り言だったってのに、ムカつくオスマン人が、ニヤリと笑う。
「うるせーんだよ、。取り込みサギ野郎が。」
アル・ファシは返事の代わりに、くしゃみを一つした。
「うう…冷える、甲板は冷えるぜ。ったく、北欧ってトコはなんて寒いんだ。今は夏だぜ。」
「トリポリみてーな北アフリカと一緒にするなよ。」
とは言え、しばらく地中海でヌクヌク暮らしてたオレにも、夜の海風はすこしばかり堪える。
「中、入るか。」
「ああ。」
そして、オレとアル・ファシは船室へと入った。
「若、北欧の夜は冷えやすから、しっかり厚着をして下せえ。ほら、アッシがアントワープで上着を買ってきやしたから…」
「ああもうっ!!ホーレス、オレは赤ん坊じゃないんだ、着たい時に着るさっ!!あと、若じゃなくて…」
「へえ提督。じゃ、寝る時はちゃんとあったかくして寝て下せえよ。風邪でもおひきになったら、アッシは守役として面目が立ちやせん。」
「…アル・ファシ、アンソニー。」
提督は、バツの悪そうな顔になった。
オレは、「なんでこんな坊やに飲み負けちまったんだ」って思いが心の奥から飛び出して来ようとするのを押さえる。
落ち付け、アンソニー。それはそれ、オレはもう、この黒髪の坊や…じゃなくてサルヴァドル提督に忠誠を誓うって決めたじゃねーか。
「なんだ、二人とも。提督に何か用か?」
ひるがえって、ホーレスのダンナは一向に悪びれた様子もねえ。
どうやらこの副長にとって、提督に「必要以上にかいがいしく世話を焼く」ってのは、ちっとも悪びれるようなコトじゃーねーらしい。
「いや…」
「ホーレスのダンナ、そんな上半身裸みてえなカッコでお寒くねえんですかい?」
アル・ファシの問いに、ホーレスのダンナは、黒光りするくれーの剥き出しの肌を、太い腕で叩いて答えた。
「このくらいで寒がってて、海賊が務まるか、馬鹿もんっ!!」
「…」
「…」
オレはアル・ファシと顔を見合わせた。
ジャア ウチノ テイトクハ ナンナンデスカイ?
多分、同じ文句が浮かんが、さすがに口に出すほどアル・ファシはバカじゃなく、オレも「悪い予感」がビンビン来たので、当然口には出さなかった。
「なはは、じゃオレはまだまだ半人前ですね。よっしゃ、じゃ半人前は半人前らしくさっさと休んで明日に備えることにしやすよ。」
「オレは…」
言いかけてオレは、何かがアタマん中を「ぴんっ」と駆け抜けた音を聞いた。
「外、出て来る…」
オレは早足で甲板に出た。
びんっ
さっきより強い予感がアタマん中を駆け抜ける。
「アンソニー?」
後ろから着いてきた提督が、不思議そうにオレに問う。
「提督、オレのアダナを信じてくれますね?」
提督にはそれだけで通じたらしい。
船室に駆け戻って望遠鏡を取ると、提督は深呼吸するくれーの間それを凝視して、
「航海士を集めろ。」
って、さっきとは打って変わった頼もしい声でオレに命じた。
「様子に変わりはねえ。さっきからピッタリ距離取ってこっちをつけてきてる。」
ホーレスのダンナの報告に、オレは頷く。
「思った通り、敵さんでしたね。オレの直感はまだまだ鈍ってねーな。」
「さぁって…と、夜が明けるまで、あと2時間ってトコか。どうしやす、提督、ダンナ?」
「どうもこうもないさ、敵は叩き潰す、それだけだ。」
提督が嬉しそうに答える。
女みてーなツラしてる割に、このお人はなかなか好戦的だ。
「ぴったりと着いて来てるトコ見ると、向こうはこっちをただの商船が何かだと思ってるらしーですね。」
「まあ事実、アントワープ特産の毛織物を山と積んでるからな。だとすると向こうさんは…」
「海賊だ。」
提督が自信満々に断言した。
「…ま、同じ臭いがしやすからね。逆に言やあ、あんな臭いプンプンさせてる時点で、それほど練達のヤツじゃあねえって事ですよ、提督。」
「手練れだろうが、そうでなかろうが、海賊は海賊だ。よしっ!!ようやく海賊艦隊と戦えるぞっ!!見てろよ、ジョカのヤツっ!!」
提督が嬉しくってたまんねーってカオしてるからには、戦闘で決定だろう。
「各員、持ち場用意!!船員達にも連絡しろ…但し、こちらが戦闘準備をしてると敵さんに悟られないようにな。」
「夜明けと共に…」
「こっちから突っ込むっ!!いいか野郎ども、戦闘だっ!!」
夜明けまでの間2時間。
オレたちは戦闘準備に追われた。
オレは元は海軍だし、アル・ファシだって戦闘経験がある。提督に、ホーレスのダンナは言うも及ばずだ。
一人だけ修羅場に立ち会ったことのねーアフメットが怯えて錯乱しねーように、あいつの船は戦闘と共に後方に下がるように指示を出すことにした。
「へっ、懐かしい感触だぜ。」
オレはフリントロック式の銃の手入れをしながら、血が騒ぐのを感じる。
ホントは大砲をブッ飛ばてートコだが。
「まったく、海兵さんはコレだから物騒だ。」
アル・ファシもそう言いながら、手にした半月刀を操る手付きも慣れたモンだ。
ただの元悪徳商人じゃねーらしー。
うっすらと日が昇ってきた。
「敵船は…6隻か、面白いっ!!」
提督は目聡く旗艦を見つけ出したようだった。
「面白くはねえですぜ、提督。数で負けてるってのはそもそも不利で…」
「旗艦を奪えば勝ちだろ、ホーレス?」
「…主舵いっぱーいっ!!」
ホーレスのダンナは、相手の海賊の旗艦に向けて、舵を切った。
「帆を全開にしろっ!!全速前進っ!!一気に突っ込むっ!!」
帆はいい風を孕んで、気持ち良さそうに滑り出す。
そろそろ敵さんもこっちがただの「エモノ」じゃねーコトに気付いただろ。
オレは、提督の放りだした望遠鏡を手に取った。
ほうら、見張りが慌てて駆け出してく。
そして、黒髪らしい男が飛び出して来て、何か叫んだように見えた。
2010/3/13
今回の語り手:アンソニー・ジェンソン
…アテネにいる酒場航海士。測量に砲術持ちなので、副長にも、戦闘用の船長を任せるにもオススメかつ、レベルも低いので雇いやすいという、一粒で三度おいしい、いや、イケメンなので四度くらい美味しいお兄さん。国籍はイギリス、てかイングランド(この当時、まだイギリスは連合王国として成立してないし)。
彼が有名なのは、やはり「直感」の高さでしょう。少し成長すると、嵐や霧を予知しまくるエスパーになれるので重宝します。
現時点でのサルヴァドル艦隊メンバー(加入順)
サルヴァドル・レイス…提督。アルジェの海賊王子。
ホーレス・デスタルデ…副長。サルヴァドルの守役、というよりお守、もっというとお母さん。でも老練かつ人望厚い海賊。今の時点では、サルヴァドルよりよっぽど艦隊の運営に適している。
アル・ファシ…会計長。トリポリで借金を取り立てられたついでに強制加入させられた。商品の強制値切りが得意。ホーレスには頭が上がらない。自称:敬虔なムスリム。オスマン人。
アフメット・グラニエ…ナオ船長。話には書かれていないが、アレキサンドリアで「船と商売の勉強をするには実地訓練が一番」とアル・ファシに説き伏せら(騙さ)れ、加入。生真面目な性格。敬虔なムスリム。オスマン人だが、どうやら東欧との混血であるらしい。
アンソニー・ジェンソン…首席航海士。通称「直感のアンソニー」で、悪い事態の予知が得意。アテネでサルヴァドルに飲み負けて加入。元イングランド海軍下級士官。
ネタバレプレイ日記(感想)
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目次
大航海時代2&外伝と言えば、海賊は基本、カタギを装って航海しています(バレバレですが)。ハイレディンやアイディンのように戦艦隊偽ってる人はいいんですが、商船隊装っている人(なのにガレオンとか率いてる)は、バレないとでも思ってるんでしょうか!?
とはいえ、史実の海賊でも基本は「騙して奇襲」らしいので、そんなに間違ってないのかもしれません。何せ史実では、
女装して
敵船を欺いたって話もゴロゴロしてますからね。
というわけで今回の話は、商船隊を装うためにちゃんと積荷まで積んでいるフランチャ・ロロノア(かの『ONE PIECE』のロロノア・ゾロのモデルとなって、極悪非道の実在海賊…をモデルとした、このゲームの海賊)氏に範を取って、こういう話になりました。