「カシラっ!!あいつらはエモノじゃねえ、敵だっ!!」
って絶叫と一緒に、鉤付きフックが一斉に投げられた。
この手際の良さ、伊達じゃねえ。
「怯えてんじゃねえ、戦闘員…」
俺は叫ぶ。
叫ぶのと同時に、俺の船の水夫どもと同時に、俺が獲物だと思ってた奴等が、得物を振りかざして突っ込んで来た。
ガンっ!!
銃が火を吹く音と、そいつに当たった水夫の一人が甲板に叩きつけられる音がした。
「糞…」
俺は舌打ちして、ついでに唾を吐きつけた。
どうしてだ?
夜明けを待って、あの船を取り囲んでからじっくり料理して、積荷を頂くはずじゃなかったのか?
あの船を率いてるのは、カタギの商人じゃなかったのか?
「糞っ!!」
俺は、初陣をボロ儲けで飾るはずだったのに。
俺は少しだけ冷静になる。
敵は、だが、たったの二隻だ。
よくよく考えりゃ、フランダース・ガレーが商船ってのも妙な話だったが、もう一隻はただのナオだ。
「狼煙上げろっ!!信号、他の船を参集させろっ!!あのフランダースを大砲で沈めちまうんだっ!!」
俺の声は、戦闘中の怒号でかき消される。
仕方がねえから俺はてめえで狼煙を打ち上げた。
元々、俺の船は間隔がそんなに空いてはいねえ。
近くの船が敵のフランダースに大砲を撃ちかけた。
「野郎どもっ!!フクロにしちまえっ!!」
俺はカトラスを振りかざして、敵の水夫に叩きつける。
思ったほど敵の数は多くねえ。
そうだ、戦闘経験のある水夫が言ってた、奇襲された時は冷静になりゃ勝機はあるって。
「ギャビンのおカシラっ!!そのガキ…」
すぐ後で、悲鳴が続いた。
「誰がガキだっ!!」
そう、声でガキと分かる黒髪のガキが叫んだ。
「斬り殺せっ!!」
俺の声でそいつに突っ込んだ水夫の一人が、
ガン
って音と一緒に血反吐を吐いた。
「ホーレス、邪魔するなっ!!」
黒髪のガキは後ろを向いて叫んだ。
「へえ、ですがね、若…」
真っ黒な肌をしたデケエ男が言う。
「提督っ!!多分そいつがこの船の頭でしょうよ。」
頭にターバンを巻いたオスマン人らしい男が、血の色をした半月刀を構えて黒髪のガキの隣に立つ。
「提督…だあ?」
俺は、確かに「提督」と呼ばれた黒髪のガキをまじまじと見つめた。
長い黒髪に、整い過ぎた顔に、細い体。
男装した若い娘だと言ったって通りそうだ。
「お前がこの船の頭か、オレの名はサルヴァドル。」
サルヴァドルと名乗ったガキは、振り回してたとはとても信じられねえシミターを振り上げて、オレに突き出した。
「お前も海の男なら、男らしくオレとサシで勝負しやがれっ!!」
「はっはっは!!」
俺は、あんまり面白い申し出に、腹から声出して笑っちまった。
「何がおかしいっ!!」
サルヴァドルの白い顔が、みるみる真っ赤になる。
「お嬢ちゃん、可愛い顔に傷つけたくなかったら、そんな物騒な段平振り回してねえで、家で嫁入り道具のレースでも編んでな。」
「貴様ーっ!!」
「若っ、挑発に乗っちゃいけやせん。」
飛びかかってこようとしたサルヴァドルを、黒い太い腕が止めた。
と言うか、何なんだ、こいつらは。
結局、海賊なのか?
「…そうだな、『戦いでは火のように凶暴に、そして氷のように冷静に』…叔父貴が言ってたな。」
サルヴァドルは、独り言みてえに呟いた。
俺に
ぴたり
と向けられたシミターは、小揺るぎもしねえ。
俺の水夫たちが、俺の顔を見詰める。
俺の顔が、自然と固くなった。
「そこまで言うなら…このギャビン・フッシャー、勝負を受けてやるっ。」
俺はカトラスを構えた。
「…ギャビン?」
小さな驚きの声が、俺とサルヴァドルをぐるりと囲む中から聞こえた。
聞き覚えがあるような気もした。
「冗談じゃねえ…」
俺は荒い息をついた。
その瞬間を見逃さず、サルヴァドルの一撃が飛びこむ。
避けられたのは俺の腕じゃない、相手が遊んでるからだ。
強い。
この黒髪のガキの強さは並みじゃない。
身のこなしも、仕込まれた剣技も、そこらの若様剣法じゃねえ、もっと残忍な…
「提督ー、さっさとトドメ刺しちまえー。」
呑気で残酷な声が、ターバンの男から発せられた。
「そうだな。」
サルヴァドルの瞳が、俺を射竦める
黒に見えていた瞳が、荒く青く光る。
「…」
俺もここまでか…
糞、船大工としても、そして海賊としても、俺は結局何もかも中途半端なままで、ここで…
「待ってくれ、提督っ!!」
その声と一緒に、金髪の男が俺たちを取り囲む輪の中から飛び出した。
「アンソニー、どういうつもりだ?」
「…アンソニー?」
俺は、そいつの声にやはり聞き覚えがあった。
そして、アンソニーって名前にも、そしてそいつの顔にも。
「アンソニー・ジェンソンか?イングランド海兵の。」
俺が言うと、サルヴァドルが不思議そうな顔をした。
「アンソニー、知り合いか?」
アンソニーは、少しばかりホッとしたような顔になった。
「覚えててくれて嬉しいぜ、ギャビン。ええ、このギャビン・フィッシャーは元は腕っこきの船大工でね。オレが海兵だった時に砲撃でボコにされちまった船でも、新品同様修理してくれたモンさ。おかげでオレたちの艦隊が命拾いしたこともある。」
「腕利きの船大工が、またなんで海賊風情なんぞに落ちぶれたんだ?」
ターバンのオスマン野郎がちゃかすと、黒い大男が一睨みした。
アンソニーは、俺とサルヴァドルの前に立ちはだかる。
「提督、オレに免じて、命だけは助けてやっちゃくれねーか?」
サルヴァドルは、一瞬、黒い大男に目をやった。
そしてアンソニーを見てから、俺に目を落とした。
「アル・ファシ、積荷はどこで売りさばくんだったか?」
ターバンの男、アル・ファシは、わざとらしくターバンを叩いた。
「ええと、たっしか毛織物はハンブルグで高く売れたはずですぜ。」
「ほう、そうか。」
サルヴァドルは、濃紺の瞳でオレを睨みつけた。
荒々しいくらいの強い瞳だった。
「じゃ、ハンブルグで積荷を下ろすついでに降ろしてやるんだな。」
サルヴァドルはシミターを下げると、思い切り良く無警戒にオレに背を向けた。
「ありがとよ、提督。良かったな、ギャビン…」
俺はもう、駄目だった。
「サルヴァドルさんっ…いや、提督っ!!」
自分でも驚くくれえの大声に、提督が驚いた顔をして振り向いた。
「参ったっスっ!!心から参りやしたっス!!どうか、どうかサルヴァドル提督、俺もこの船に乗せて下せえっ!!」
俺は、我知らず土下座していた。
「ああ、いいぜ。」
わずかにうろたえたような顔にも見えたが、俺には十分だった。
「あーあー、犠牲者がまた一人増えちまった。アッラー、この哀れな異教徒にも恵みを垂れたまえ。」
アル・ファシが、ひねくれた笑みを浮かべながらそう言った。
2010/3/21
今回の語り手:ギャビン・フィッシャー
…ハンブルグにいる酒場航海士。砲術持ちで義理がたい上にレベルがとても低いので、どんなシロート主人公でも仲間になってくれるナイスガイ、しかもとても有能。国籍は海賊…なので、仲間にしないでほっとくと、海賊艦隊としてこちらに襲い掛かってくる…弱いからいいカモだけど。
長州力に似てる気がする。
あ、サルヴァドルの目の色なんですが、本当は何色なんでしょうね?
ゲームだと黒髪に黒い瞳に見えますが、SS版説明書では青い目です。設定資料だと良く分からず…
というわけで、ウチでは「一見黒に見える濃紺」という設定にしました。
サルヴァドルに限らず、大航海時代2&外伝のキャラの髪と目の色設定はいろいろいい加減です。特にピエトロとエルネストっ!!
ネタバレプレイ日記(感想)
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目次
サルヴァドルは、ものっすごい美形、しかも女顔&童顔だと思うのですが、航海の途中で特に誰もそれを指摘しないのが気になります。
「素敵な方」とは言われるし、アンナには言い寄られ、賞金稼ぎのあの子にも「もっといい男」とは言われますが、どうして誰も女顔&童顔をからかわない?(海賊という商売は、顔で恫喝が効くというのも才能の一つだと思うのですが。)
特に、サルヴァドルをからかうことにかけては人後に落ちないジョカが何も言わないのが不満です。
なので、このシリーズでは
存分にサルヴァドルの顔をからかいのネタにしてやろう
と思ってます。