「ていとくーっ!!ピンと来たぜ、あいつら、いい積荷持ってるぜ。」
アンソニーが叫ぶ。
「よし、では総員準備、襲撃にかかる。ギャビン、風はどうだ?」
「提督、風も潮加減も完璧っス。あっという間に追いつけるっス。」
ギャビンが嬉しそうに報告する。
さて、じゃオレもそろそろ準備すっかな。
「敵船、気付いた模様っス。」
「全速前進、帆を開けっ!!一気に突っ込む。アル・ファシ、ホーレスとアフメットに連絡しろ。」
「はいさ、提督。」
オレたちのサルヴァドル提督は、長い黒髪をなびかせて、船首に立つ。
そのキレーな横顔には不似合いな、獰猛さを湛えた濃紺の瞳が光る。
「命が惜しけりゃ、金と積荷を置いていきな!」
海賊の脅しが、その口から飛び出した。
「意外とチョロいな。」
サルヴァドル提督は、ワインを瓶ごと口に流し込みながら、満足そうに呟いた。
「ま、商船隊のフリしながら獲物探すってのは海賊としちゃ王道ですが、効果があるから王道ってモンですからね。」
ホーレスの旦那が答える。
「カッコ悪いと思ってたけどな。」
「まずは身すぎを考えることですよ、若、でなくて提督。」
オレはミント茶をすすりながら、ワイン1本で完全に出来上がっちまったギャビンに目をやる。
この船大工崩れは、ゴツそうなツラに似合わず酒にゃからきし弱くて、すぐ酔っぱらっちまうくせに、ツブれるまでが長い、しかも愚痴る酒だって始末の悪いヤローだ。
「ったく、俺は幸せ者だアンソニー。サルヴァドル提督に拾ってもらえて…」
船大工から転職した海賊1回目で提督の打ち合ったのが不幸の始まりだってのに、何をトチ狂ったのか、自分から進んでウチの海賊団に加入しちまったギャビンの肩を、アンソニーが叩く。
「まったく、提督ほどすげえお人はいねえよ。だいたい、俺の船大工の時の親方って奴はなあ…」
「…ああ、はいはい、大変だったな。」
意外と面倒見の良いアンソニーが、もうオレはうんざいしてゲップが出ちまうくれえ繰り返されてるギャビンの昔話を、相槌を打ちながら何度でも聞いてやってる。
「おい、聞いてるのかアル・ファシ。俺が船大工だった時はなあ…」
「はいはいはーい、聞いてるぜー。」
俺の方がギャビンより、ギャビンの人生に詳しいんじゃねェかってくれェ聞いた話だ。
腕の良い船大工だったギャビンだが、うっかり船の設計にもいい腕を発揮しちまったのが運のツキだ。
親方に嫉妬されちまって仕事を干され、食うためにお定まりの転落コースを落ちてく途中で、海賊って穴に落ち込んだ。
その第1回目でぶち当たったのが、ウチの海賊艦隊ってワケだ、ったく、運がいいんだか…とびきり悪いんだか。
ウチの提督に斬り殺されて、魚のエサになっておしまいだったところを、たまたま古馴染みが船に乗ってて助命嘆願してくれったトコだけとりゃ、運がいいんだろうし、海賊なんて稼業をこれから続けて行く運命に陥って、これ以上の悪業積み重ねてくハメになっちまったってトコを取れば、運が悪いんだろう。
まったく、異教徒ながら同情するぜ。
「でもオレは、ギャビンがオレの艦隊に来て良かったと思ってる。」
何の気まぐれか、提督が話に入ってきた。
「何せ、船大工の専門はウチにいなかったからな。やっぱり、整備の時なんかは…」
「提督にそう言って頂けるなんて、このギャビン・フィッシャー、幸せモンですっ!!ううっ…」
「…何で泣くんだ?オレ、何か泣かせるようなこと、言ったか?」
「すいやせん提督、ギャビンのヤツ、昔から酒が入ると涙腺弱くて…」
アンソニーはギャビンの肩を叩いたが、
「でもまあ、それくらい嬉しいってコトですよ。かく言うオレも、やっぱり提督に巡り合ったのは運命だったって気が…」
「…」
オレはミント茶を飲み干すと、
そっ
とその場を離れた。
ダメだ。
こいつら、提督が好きすぎて怖ェよ。
オレは、アフメット・グラニエが休んでる宿に向かった。
あの酒を呑まねえ生真面目ムスリムは、陸にいる間も品行方正だ。
もうとっくに宿屋で寝てるかもしんねェが。
まったく、アフメットには気の毒なコトしたぜ。
とうとうオレたちの艦隊が海賊艦隊だってバレバレになっちまったコトを(まあオレが最初に口説いた責任を取って)告げられた時のあいつの様子は、今でも思い出せる。
天を仰いで、
しばらく茫然として、
長々とアッラーに祈りを捧げて、
「…これもアッラーの定め給うた運命ですね。」
と、色々諦めたみてェにオレに言ったんだ。
可哀想なコトしたもんだ。
脱走するってンなら協力はしたのによ…ま、成功したかどうかは、アッラーのみがご存じだがな。
「チックショウ、ここも入れ違っちまったかな?」
宿に入ろうとすると、派手なオレンジ色の頭をした男が、大げさに頭を掻いていた。
「…」
アンソニーにゃ敵わねェが、オレだってダテに裏街道歩んできたワケじゃねェ。
この男の目に、なんか臭ェモノ感じたのさ。
だからオレは、男の死角に入り込んだ。
「どこに行ったのかねえ…サルヴァドルは。」
「!?」
サルヴァドル、ウチの提督を知ってるのか?
海賊なんて稼業してると、名前知られてるってだけで要注意ってコトだ。
「ったく…お頭も用心深いこった。」
オレンジ頭の男の声が低くなる。
オレは耳を澄ます。
「息子を監視かよ…どこまで誰も信じねえんだか、海賊王ハイレディン・レイスは。」
「!!」
オレは思わず口を押さえた。
オイオイ冗談じゃねェぜ。
まさか、あの泣く子も黙る…というか、悪魔だって恐怖で黙りこむ、“あの”ハイレディン・レイスの息子なのかよ、ウチの提督は。
そして、「息子」を監視?
一体、アルジェ海賊はどういうことになってんだ?
「まっ、いいさ。」
オレンジ頭の男は軽く言った後、再び低い声で呟いた。
「オレはオレのシゴトを全うするだけさ。」
そしてそいつは、港へと向かって行った。
宿に戻ると、アフメットは灯りの元で帳簿を開いてた。
「勉強か、アフメット。」
アフメットは、赤色の強い髪をこちらへ向けた。
「早く会計技能を身につけたいので。」
「生真面目だな、アフメット。ところで、どうしてそんなに船乗りになりてェんだ?」
「船乗りになりたいと言うより、早く一人前の交易商人になりたいんですよ。」
「そうか、我らが預言者もキャラバンを率いた立派な交易商人でいらしたしな。乗るのがラクダじゃなくて、船だがよ。」
「揺れることでは一緒ですよ。」
オレは、アフメットの大真面目な顔を見返した。
冗談だったのか、本気なのか。
「所帯持ちたい女でもいるのか?」
アフメットは、首を心持ち傾げた。
「ところで浮かない顔ですが、何か悪いことでもあったんですか?」
話を逸らしたところが臭いが、まあ詮索されたくないことだってあるだろう。
「オレは、そんな『悪いことでもあった』カオしてるか?」
「ええ。ですが、勧められて乗った船が海賊船だった、という以上の『悪いこと』ではないと思います。」
「…」
オレは、アフメットから目を逸らした。
さて、海賊船の乗組員に気付いたらなっちまっていたが、その海賊船の提督が、泣く子も黙る海賊の御曹司だったってのは、不幸なのか、そうでないのか。
一つだけ確実なのは、「関わらねェにこしたことはねェ」ってコトだけだ。
「関わっちまったな。」
「は…」
「アフメット、数式、違うぜ。」
オレは、アフメットの帳簿を指さした。
生真面目な勉強家は、さっそく大真面目な顔で、指摘された計算間違いを直し始めた。
2010/3/25
海賊名声2000イベント開始です。
ゲームやってて思うんですが、プレイヤーには当り前すぎることとはいえ、登場人物は意外とサルヴァドルの素性(アルジェ海賊で、海賊王ハイレディンの息子)って知らないはずなんですよね。てか、そもそもサルヴァドルが海賊であることすら、言わなきゃ分からんような気もします(けど、それは割とみんな知ってる)。
ところで、会計技能って「知識」90ないと習得できませんが、その「知識」って、やっぱり数学とかのスキルも込みなんですかね?
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べにいもは海賊キャラ(オットー、カタリーナ、そしてサルヴァドル)プレイする時には、まず仲間を10人集め、金塊100程溜めて、日本で鉄甲船作って、ついでに妖刀村正(正宗よりこっちのが好き、特にサルヴァドルは妖刀のほうが似合うとと思う。「今宵の村正は血に飢えてるぜ」とかゆって欲しい)を買って、戻って聖騎士の鎧を買ってから、海賊稼業を始めてました。おかげで、海賊名声溜まり始めるのが遅い遅い(開始から2年はかかる)
始めてしまえばあっと言う間に上がるんですが。
いやあ、東アジアで良く言われたなあ
「おや、あなたは
有名な冒険家
サルヴァドル・レイスですね?」
って。(時には「有名な交易商人」の時もあった。)
…オレ、地中海一の海賊を目指してるのにな。