救世主の名を持つ悪魔殺しの物語

3-2 アフメット・グラニエが語る話









「麻は金貨40枚だよ。」

交易所の主人の声に、私は応答する。


「もう少し負かりませんか?」

「いやあ、これでギリギリさ、兄さん。」

「いいえ、今年は麻は豊作と聞きますし、もう少し安く仕入れてらっしゃるはずですよ。」

私は得てきた情報で畳みかける。

主人の顔が少し渋くなる。


「分かった、じゃあ金貨39枚でどうだい?」

「…」

私は考える。

仕入れコストと、仕入れの手間を考えると、金貨39枚あたりが妥当と考えるべきか…


「おおっとご主人、いい男だねえ。今、チラっと店の奥に見えたのはお上さんかい?いやあ、美人の女房がいるとは幸せモンだねえ。ほら、出来るオトコは女が寄ってくるってね、おっ、まんざらでもないじゃねェか、色男、出来る男は商売も上手だってね。金貨35枚でどうだい?あ?それじゃ赤字だ?ほうら、大口の取引をたくさんこなすのが男の甲斐性だろ?ほうらほらほら、上さんも見てるよ、ここらでイッパツ、大きく決めちまおうじゃねェか、金貨36枚、これ以上はビタ一問だって出せねえな。あ?それじゃ利益がでねェ?分かった、ここは大口で400買ってやろう。気前いいだろう?ご主人が気前いいから、特別だぜ。ここでうんと言ってこそ、男ってモンだ。男だからこそ美人の上さんともイッパツできるってモンさ。やあやあ、お盛んだねえ、クーっ、羨ましいぜ、色男。よし、金貨36枚で決まりだな、さすがご主人、いい男、やるねっ!!よっし、金貨36枚で400決まりだなっ!!」

後ろからすごい勢いで駆け寄って来たアル・ファシさんが、交易所の主人に反論する隙を与えずまくしたて、あっという間に更に値切ってしまった。

主人だけでなく、私も思わず呆気に取られた。


「いくぜ、アフメット。おう野郎ども、船に積んどけ。」

私はアル・ファシさんに腕を取られて船へと向かう。


「まったく、お前さんが努力家なのは認めるが、まだまだだぜ。」

「私のどこがいけなかったのでしょうか?きちんと相場も押さえましたし、現地の状況も考慮にいれたつもりですが。」

「カーっ!!取引は勢いだぜ?今年が空前の凶作だろうが、交易所が赤字に泣こうが、こちとらが儲かるように値切りゃいいのさ。」

「しかし、交易所で赤字が出ると、今後の取引に影響が…」

「なあに、だったら次来なきゃ済む話…おいおい睨むなよ。まあ赤字はともかく、今の値段じゃほとんど利益が出ねェことは認めるがよ、それでも下手に在庫抱えるよりゃ、安くてもさばいちまった方が交易所としては助かるのさ。」

「何故ですか?」

「在庫がはけりゃ、次の仕入れが大きく出来るからな。大口で仕入れてくれる先にゃ、先サマも安い値で売ってくれる。とすると、多少買いたたかれたって、次はきちんと利益が出る。そうして商品が滑らかに流れる店にゃ、客もたくさん集まる。大繁盛、アッラーフ・アクバルさ。」

「成程…目先の一件一件の取引に視野を限定しすぎるのは危険、と。」

私は手持ちの備忘録に、アル・ファシさんの言葉を書きこんだ。


「マジメだなあ…お前さんは。」

アル・ファシさんがひねくれた笑みを浮かべる。


「アル・ファシさんの言うことは、会計の学校では教えてくれないような事がたくさんありますからね。勉強になります。」

「ま、商売はやってみなけりゃ始まんねえさ。オレも完全独学さ。」

「今、スレイマン大帝の寵臣と言われる、アル・ヴェザス・ベイ(君候)も、市場の取引に耳を傾けて商売を学んだそうですからね。」

「おっと、アル・ヴェザス・ベイ(君候)と並び称されるたあ、同じ『アル』の名として、鼻が高ェぜ。」

アル・ファシさんは、私の方を叩き、


「ったく、オレはのんびりしてっと、ホーレスのダンナに拳食らうな。」

と呟いて、小走りに出港所へと向かってしまった。




正直、自分が海賊船の航海士になってしまったと気付いた時には、世界が真っ暗に見えた。

私はただ、船の経験を積んで、いつか一人前の交易商人になりたいと思っていただけだったのに、と。


だけれど、まあ、なってしまったものは仕方ない。アッラーのご裁量なのだろう。

私はそういう覚悟を決めたのだった。




「お待たせしました。」

出港所には、もう私の艦隊の航海士たちが集まっていた。


アンソニー・ジェンソン、そしてギャビン・フィッシャー、この二人は異教徒ではあるけれど、決して悪い人ではない。

アンソニーは海兵時代に得た経験を私に話してくれるし、ギャビンは船大工として卓越した経験と知識の持ち主で、親切にいろいろ教えてくれる。

アル・ファシさんはなおさらだ。私に商売のコツを実地で見せてくれる。私は彼を師匠とも思っている。




提督とホーレスさんが、出港所に入って来た。


「だからホーレス、そろそろ戦艦隊を狙おう。」

提督が言う。

この私よりもさらに若い、というより幼く見える黒髪の提督は、見かけによらず船乗りとしては優秀で、何より、外見とはアンバランスな素晴らしい戦闘力の持ち主だ。きっと、小さい頃から戦闘訓練を受けてきたのだろう。


「駄目でさ、提督。まだ地道に商船隊を狙って行きやしょう。人生、コツコツ努力する事が肝心でさ。」

ホーレスさんが答える。この黒い肌の副長は、長身で筋骨逞しい「海賊」に似つかわしい外見をしているが、とても誠実で仁義を重んじる人だ。

面倒見も良い。私のような素人の船乗りに船長を任せられることに一旦は反対したものの、提督がそれと命じたなら、すぐに操船のやり方を懇切丁寧に指導してくれた。

もちろん、海賊としての腕も確かだが、私は、なんでこんな良い人が海賊なのか、不思議で仕方がない。


「まったく、ホーレスはいつまでも心配性だな。オレはもう何隻も船を沈めて、名の知れた海賊になったんだぞ。」

提督が不満そうな顔をする。

提督は自信家だが、どこか子どもじみたところがある。けれども、なぜかそれを私たちに軽く見させない不思議な魅力があるのだ。


「サルヴァドル提督、積荷の積載、完了しました。」

私が報告すると、アル・ファシさんが私の前に進み出た。


「そうそう、アフメットのヤツ、腕を上げたんですぜ。もう少し経験積みゃ、こいつも立派な会計長サマだ、な、アフメット?」

「いえ、そんな…」

アル・ファシさんに褒められて私はドギマギする。


「ほう、そいつは立派な話だ。」

「じゃ、アフメットが立派な会計長になった暁にゃ、お前は用済みで、鮫のエサにしても平気だな。」

「そりゃないぜ、ホーレスのダンナっ!!」

ホーレスさんはとても良い人だけど、何故かアル・ファシさんにだけはとても辛口だ。

どうしてだろう、アル・ファシさんは有能な会計長なのに。




「あっ、あなたがサルヴァドルさんなんですか?」

みんなが笑っているところへ、出航所の男が声をかけてきた。


「ああ、オレが『有名な海賊』のサルヴァドルだ。」

提督は、とても嬉しそうにそう宣言して、ホーレスさんを振り向き、


「ホーレス、もうここまでオレの噂が広まってるみたいだぜ?」

と、もっと嬉しそうに言った。


今のは、サルヴァドルが有名だからかけられた声なのだろうか、と私が自答しているうちに、男は続けた。


「さっき、黒髪の若い海賊を探してるって人が来ましたよ。すいぶんあわてた様子でしたが。」

提督は首をひねった。


「ん?オレにいったい、何の用だろう。」

ホーレスさんは、少し警戒したような顔になった。


「海賊ハイレディンの使いだそうで。」

その言葉に、提督やホーレスさんだけでなく、みんなの顔が緊張した。


海賊ハイレディン?

あのアルジェの海賊王の!?


「何でやしょうね。」

ホーレスさんが、みんなの緊張を和らげるように、強いて笑みを作ったような声で言う。


「そいつは今、どこにいる?」

提督は、警戒を取らない声で言う。


「次はセビリヤに行くって言ってましたよ。」

提督は、ホーレスとしばらく顔を見合わせた。


「提督、行ってみやしょうぜ。」

ホーレスさんは静かに言った。


「ああ、そうだな。総員、目的地を変更する。次の目的地はセビリヤだ。」




私は思う。

やはり、海賊艦隊に乗ったことは、大きな間違いなのではないかと。





2010/3/25



今回の語り手:アフメット・グラニエ
…アレキサンドリアにいるど素人宿屋航海士。国籍はオスマン。ムスリムのはず…なのにターバンを被っていない。黒髪ではなく、赤っぽい髪をしているため、この話では混血設定にしてみた。航海術も統率力も直感も、実は勇気も高い。元のレベルが低いのでガンガン能力血が上がるため、とても使える。けど、知識と戦闘は低い。ネックはスキル?が義理しかないこと。なので、この話では生真面目で努力家な青年にしてみた。敬語なのは外伝設定。2では10代だった気がするが、外伝だと密かにけっこう年だった…けど、気にしないで、彼は10代。
ちなみに、アル・ファシ、アフメット・グラニエ、アンソニー・ジェンソンと、東地中海は「ア」で始まる使える航海士が多い。




ネタバレプレイ日記(感想)

   

目次









































サルヴァドルには関係のない話ですが、国籍を持っている主人公は、爵位が上がるたびに交易所で値切れる金額がどんどん上がります。特にアル・ヴェザスでプレイしていると実感しますが、リューベックで銀を買っても、2桁で買えたりするのです(銀1が金貨60枚とか)
いや、安く買えるのは嬉しいんだけど…あんまり値切れると、権力を乱用してる気がして、怖い時が…

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