さて、セビリヤに着いちまった。
「別にビビる必要はないだろ?」
若が俺の顔を見上げる。
「親父だって、息子に用事くらいあるさ。」
若は呟き、船の整備や食料水の手配を、ギャビン、アンソニーに命じ、積荷を売りさばくのをアル・ファシに命じる。
その命令の仕方がなかなか堂に入って来たのを見て、俺は若の成長を感じた。
出港所の男によると、オレンジの頭をした若い男が、黒髪のサルヴァドルという男を見かけたら宿屋に連絡をつけてくれと頼んでいったらしい。
呼んで来ようかという男を制し、若は自分で行くと言った。
「一体、何の用でやしょうね?」
「さあな。」
「てか、一体誰でやしょうね。」
「行けば分かるさ。」
若は口数が少なかった。
こういう時の若は、ひどく緊張してるって事を、俺は長年若を育てた経験から知っている。
宿に着き、女将に話をした途端、
「ややっ?」
素っ頓狂な声が上がった。
「いやあ、サルヴァドルさんですね。ずいぶん探しましたぜ。」
オレンジの派手な髪の色をした男が若に駆け寄る。
「まったく、このまま会えなかったらお頭にまた怒鳴られるところでしたぜ。」
妙に慣れ慣れしい色をした青緑の目が、俺の若に向けられた。
「あんたが親父の使いか。」
若は、この男の目を軽く受け流して、本題にズバリと入った。
さすが俺がお育てした若。
「実はもう、この港はあきらめてそろそろ別を当ろうかと思ってたんですよ。でも、焦ってここを出てたら、当分サルヴァドルさんとは会えなかったわけで。まあ、これも何かの巡り合わせっていうんですかね。いや、よかったよかった。」
男は、一人でべらべらと続ける。
駄目だ、俺はこの手の軽薄な男は好きになれねえんだ。
「…で、いったいオレに何の用なんだ?」
「あっ、いけねえ。あんまり嬉しくて1人でべらべらしゃべっちまった。」
男は、宮廷での貴族さまみたいに気取った仕草で一礼した。
俺はますますこの男が嫌いになれそうだ。
「申し遅れました。オレはリオーノ・アバンチュラ。ハイレディンの旦那から、あんたを補佐するように言われましてね。こうして参上した次第で。」
ハイレディンのお頭の名に、若の眉が反応した。
「オレを補佐?」
そして若はオレに目を向ける。
「どう思う?ホーレス。」
とっとと蹴りだしておやりなせえ。
そう言いたいところだったが、お頭直々の命とあれば話は別だ。
俺は、リオーノと名乗った男の面から、全身を見回す。
気障ったらしい物腰だが、隙は見せてねえ。
指にあるタコは、剣ダコだ、それなりに使うらしい。
何より、妙に馴れ馴れしい青緑色の目の奥の色が、心の中を覗かせねえ。
気を許せねえ。
俺は思った。
こいつは、「補佐役」だなんて名乗りやがったが、その実は、若と俺の「監視役」いや、「密偵」かもしれねえ。
俺が考えている顔を、若が見上げる。
さて、何と言ったものか。
とは言え、お頭の命令とありゃ、断るわけにもいかねえ。
「提督。これからますます強い相手と戦うことになりやす。仲間は多いほうがいいですぜ。」
俺は無難に答えた。
下手に若に警戒心を抱かせるのは、若にとってもよくねえ。
「その通り!」
リオーノは、飛びあがらんばかりに派手に喜んで見せた。
「おっさん、いいこと言うね。」
「何?『おっさん』だあ?」
俺は叫んでいた。
宿の客が俺たちに一斉に注目する、が知った事か。
「提督、アッシが間違ってやした。こんな奴放っときやしょう。」
「ホーレス?」
若が、
きょとん
とした目で俺を見上げる。
「まったく…若、アッシはまだ40の坂は超えてねえんですぜっ!!そりゃ若からすりゃ親も同然の年かもしれやせんが、こいつなんぞに…」
「おっと待ってくれ。『おっさん』は悪かった、謝るよ。」
リオーノは、すぐさま頭を下げた。
その大袈裟な謝罪っぷりは道化の芝居みてえで、いっそ小馬鹿にされてるみてえで余計に腹が立ったが、リオーノは続けた。
「でも人手は必要だろ?」
「…」
嫌な所を突く。
確かに、ウチの艦隊は人はそれなりに集まったが、海賊稼業に関しちゃトーシロだ。
今みてえに商船隊装って、相手の隙を突くだけなら何とかなるだろうが、この先、もっと強い敵に対抗していくには先が危ぶまれる面子だ。
「オレは何かと役に立つぜ。」
リオーノは自信満々に言い放つ。
「今まで方々渡り歩いてきたおかげで土地勘もある。何しろハイレディンの旦那のお墨つきだ。」
ったくこの野郎、要所要所でお頭の名を振りかざしやがる。
「仲間は多いほうがいいんだろ。な、ホーレスさん?」
「…」
お頭の名を出されると、逆らえねえだろうが。
若がリオーノに向けていた目を、俺に向けた。
「ホーレスの言うとおり、確かにこの先、戦力強化は必要になる。船を増やせば航海士が要る。そうだろう?」
「…」
若に頼まれちゃ、断れねえ。
「若のおっしゃる事じゃあ、仕方ありやせんね。」
俺が言うと、リオーノがもう一度飛びあがった。
「…ということは、付いて行っていいんだな?ありがとよ提督、恩に着るぜ。」
気づけば、俺の若がリオーノに両腕で抱え込まれていた。
むぎゅう。
ってぇ音の後、
むちゅぅっ!!
えらく大きい音が、宿屋の中に響いた…ような気がした。
「…ホーレス?」
若がリオーノの腕の中から飛び出して、俺を見上げる。
「て…」
俺が、沸きあがる殺意に身動き出来ねえでいる間に、
「いやあ、提督補佐なんていい響きだねえ。今からわくわくするぜ。さあて、何から始める?出航の準備かい?任しときな、今すぐ片付けるぜ!」
リオーノは、そんな俺の様子を察してか、ベラベラと早口でまくし立てると、さっさと宿から飛び出した。
「あんの野郎っ!!」
俺は追いかけて首をへし折ってやろうと思ったが、先に俺の若の手当てが先だ。
「さ、若、ハンカチです。口を拭いてくだせえ。念入りにっ!!」
「あ、ああ…ああ、びっくりした。いきなりキスされるとは思わなかった。」
「ああ、すいやせん、アッシがあんなお調子者と最初から知っていたら…」
「ら?」
「面見た瞬間、首を真反対に向けてやったんですがね。」
「首を真反対に向けたら、死ぬんじゃないのか?」
俺は若の口元を念入りに拭った。
「うーん、リオーノを仲間にするの、やめときゃよかったかもしれないなあ。」
若は、珍しく気弱な顔で言ったのだった。
2010/3/25
ゲームではホーレスはもっと呑気な感想述べてるのですが、ウチのホーレスが、サルヴァドルに勝手にキスするような奴にそんな事言うはずが無いと思ったら、こうなりました。てか、追いかけて首をへし折らなかっただけ、十分冷静かと思われます。
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目次
今回のこの部分には、ネタバレかつ腐れ会話かつ、今後の展開に関わる話がいろいろ出てくる可能性が高い話が濃密に含まれているかもしれないような気もしないでもないです。
そもそもいろいろホモくさい(出てくるのがムサ苦しい男だらけ)サルヴァドルシナリオは、
腐れ妄想するには絶好のシチュエーション
なのですが、その中でもやはり公式は「リオーノ×サルヴァドル」でしょう。
てか何!!光栄さんっ!?何、美形の提督に、チャライケメンのリオーノが、会った瞬間にキスさせてんのっ!?
おかげさまで、べにいもの脳内にもまんまと
「これが公式カプなんだ」
という刷り込みが完了してしまい、気付けばしばらくリオーノ病にかかってしまいました。
かくして一周目はリオーノ病にかかったまま進んだため、例のアレには大ショックを受けましたが…それはまた後のお話。
しかし、何周か(3周目くらいかな)するうちに、
「この話は、実はジョカ×サルヴァドルじゃないのか!?」
と思い始めました。
だって、左の人の言動がソレっぽいんだもん。てか、少年ジャ○プあたりに載ってたら、絶対、全国の腐った女の子らはみんなそう思うよ。この構い方とかさ。左の人は天然だから気付いてないけど、同人誌とかで、それはもう鬼畜な左の人の話とか…
とか、いろいろ脳内で盛り上がっていましたが、最近になってネットでファンサイトを見たら、
ハイレディン×リオーノ
とか、
アイディン×ジョカ
とか、
トーゴ×ジョカ
とか、
マジでいろいろありやがるっ!!
さすがネット世界の闇はどこまでも深い…と、改めて感心しました。
ううむ…もっといろいろあったんだろうな、読みたかったなあ…