「ヒマだ…」
甲板にひっくり返りながらオレが言うと、アンソニー・ジェンソンがそれを聞きつけた。
「ならカードしませんか?」
オレが答えるより先に、アンソニーはカードを切る。
「カードはいい。」
「ならダイスにしましょうや。」
すこし離れた所から、アル・ファシが言った。
「オレはダイスの方が好きなんでさ。アンソニーもいますし…」
「やんねーよ。」
アンソニーがオレより先に答える。
「付き合い悪ィな、アンソニー。」
「付き合いの良し悪し言う前に、その鉛入りのイカサマダイスを見せてみな。」
アル・ファシは、心外だ、と言いたげな顔をして、
「偉大なるアッラーもご照覧あれ、このダイスの中に鉛など仕込まれているはずがない!!」
オレの傍まで歩み寄ってきたリオーノ・アバンチュラが、アル・ファシを
チラ
と見る。
「おっと、鉛じゃなくて水銀だね、そのイカサマダイス。」
「…」
アル・ファシが黙る。
「水銀?」
アンソニーの問いに、リオーノは答えた。
「ああ、鉛じゃ誰が使っても同じ目が出ちまうからね。少し気の利いた詐欺師は、水銀を中に入れたダイスでイカサマやるのさ。思いのままの目を出すのに練習が必要だが、完璧とまではいかなくても、8割はいけるって聞くぜ。」
「アル・ファシーっ!!」
アンソニーがアル・ファシに突進した。
こいつら仲がいい。
「で提督、カードでもダイスでもないなら、何がいいんだい?」
「海賊したい。」
「今でも、てかこれまでずっと、海賊だったじゃないですか。」
オレは甲板から体を起こす。
「オレは戦いたいんだよっ!!強い敵とっ!!」
リオーノが仲間になった頃から、オレたちの艦隊は一つの「定石」を身に付けた。
商船隊のフリして敵の油断を誘い、スキを見て攻撃。
ギャビンの艦隊を撃滅した時のやり方が思いのほか巧く言ったからしばらく続けてたが…
「もう飽きたっ!!相手が商船隊じゃ手応えがなさすぎるっ!!オレは戦艦隊と戦いたいんだ、ジョカみたいにっ!!なのに、ホーレスが…」
「ははは、おっさんは心配性だからなあ。」
リオーノは笑って、ホーレスの口真似を始めた。
「『若、じゃなかった提督、海賊業は遊びじゃないんですぜ。』
『いいですか提督、海賊稼業は一度の敗北が死につながるんです。それを考えたら、危険の少ない稼ぎが一番です。』
『提督、いつまでもワガママばっかり言ってちゃいけやせんっ!!』」
オレが笑うと、いつの間にかリオーノの周りに集まってきてた航海士たちも、口々に似てると言いながら大笑いした。
「いや、別にホーレスのダンナを笑った訳じゃあないですぜ。」
笑った後で、とってつけたようにアル・ファシが言う。
鼻にうっすらと血の痕があるのは、やっぱり、アンソニーに殴られたみたいだ。
「しかし、ホーレスさんの心配ももっともですぜ、提督。」
アンソニーが言う。
「確かに船こそ3隻に増えやしたけどよ、フランダースに、ナオに、キャラック、種類もバラバラだ。これで戦艦隊に挑もうってのは、虫がいいとオレは思いますね。」
「いっそ、商売替えして商売一本で行きやせんか?オレの才覚がありゃ、5年後には酒池肉林出来るんですがね。」
アル・ファシが言ったので、オレは睨んでやった。
「オレは交易商人になる気はない。」
「そいつは残念。」
アル・ファシは、思ったよりあっさりと引き下がった。
ホーレスに無理やり連れてこられたこの男だけど、もしかしたら、そろそろ海賊稼業が馴染んできたのかもしれない。
「確かにね、アンソニーの言うことも一理あると思うよ、オレは。てかさ、中型船をバラバラ持ってるよりは、大型船一隻で海賊稼業に特化した方が、大物を狙えるかもしれないね。」
リオーノの言葉に、オレは胸が躍った。
大型船!
大物っ!!
「ガレアスだよな、ガレアスっ!!海の海上要塞、ベネツィアン・ガレアス!!」
「いや。」
「提督。」
「それは…」
「ムリ。」
オレの発言は、チームワーク良く却下された。
「…ガレアス乗りたいのに…」
「提督、ソレはいきなり無謀すぎるってもんですぜ。」
「ガレアスは無理なら、ガレオンでもガマンする…」
オレが言いかけると、
「ガレオンは砲撃戦用ですからね。一隻だと心もとないですし、何より提督、砲術習得してないじゃないですか。」
アンソニーが一言で否定した。
これだから、イングランド野郎は嫌いだ。
オズワルドもそうだけど、人の夢を理屈で粉砕しやがるし。
「ないかねえ…一隻で大型船を相手に出来る船…」
「提督ーっ!!サルヴァドルの提督ー、そろそろ交代の時間っス!!」
ギャビンが大声を上げた。
「おっと、次はオレの番でやしたね。じゃ提督。」
アンソニーとギャビンが代わった。
「ギャビンは元船大工だったな。海賊稼業、しかも白兵戦向きで、いい船って、どれだい?」
リオーノが聞くと、ギャビンは大まじめな顔をして、数分間、悩んだ。
オレたちがしびれを切らし掛けるほど悩んだ後で、ギャビンは答えた。
「そうっスねえ…汎用性の高さならジーベックっスけど、あえて海賊稼業向きって言うんなら、機動力の高さで…ラ・レアルっス。」
「ラ・レアル?」
オレの問いに、ギャビンは説明した。
ラ・レアルは橈漕船、つまりフランダースと同じくオールで漕ぐ力で進む船だが、フランダースよりも進めるのに必要な水夫数が少なく、何より魅力的なのがその推進力と、旋回力の高さだと言うことだ。
「でもギャビン、今の話だと、積載量と耐久力はフランダースに劣るみてェだな。積載量は大して違いはしねェけど、耐久力が遥かに劣るのは海賊として問題じゃねェのか?」
「いいや、そいつは問題にゃならないね。大砲の撃ち合いするなら話は別だが、ウチの艦隊みたいに旗艦に船ぶつけて白兵戦一撃でカタつけるなら、耐久力なんて低くて構わないさ。むしろ、小回りがきいた方がいい…」
リオーノの言葉に、オレも納得する。
確かに、相手の艦隊の間を縫って、敵の提督撃破する方がはるかに効率は良さそうだ。
「よしっ!!ラ・レアルを買おうっ!!そして戦艦隊と戦うんだ、見てろよ、ジョカっ!!」
オレは、ジョカの悔しがる顔が目に浮かびそうになった。
アルジェ海賊若手ナンバー1、サルヴァドル…
「はーい、提督。」
アル・ファシが手を上げた。
「なんだ、アル・ファシ。」
「主計長として発言してよろしいですか?」
「なんなんだ?」
アル・ファシは、唇の端を曲げた独特の笑いを浮かべた。
「船を買うには莫大な金が要りやすけど。」
「…」
「提督、港が見えてきやしたぜ。上陸準備をして下せーっ!!」
アンソニーの大声が、船内に響いた。
「アッシらの稼業も軌道に乗ってきやしたね。」
積荷が高く売れたからか、ホーレスの機嫌がいい。
オレの機嫌は、悪い。
「提督、何があったか知りやせんが、そうスネないで下せえ。いいですか、一攫千金なんてそうそう転がっちゃいねえんです、小さなことからコツコツと…」
ホーレスの長いお説教が始まりそうになったところで、リオーノが口を挟んだ。
「ところで提督。どうせ船を襲うなら効率よくいきましょうぜ。」
ホーレスの表情が一気に険しくなった。
なぜか、ホーレスはリオーノが嫌いらしい。
「何かいい方法があるのか?」
だがまあ、オレとしてはホーレスの説教よりリオーノの話の方がいい。
「やみくもに狙うんじゃなくて、カモを探すってことですよ。」
リオーノがそっとウインクした。
さっきの話の続きだ、って合図だった。
「ほう。」
ホーレスの声が、いつもより2オクターブくらい低い。
「そのカモはいったい、どこにいるんだ?簡単に見つかるなら苦労はねえ。だれでもすぐに海賊になれちまうぜ。」
ホーレスの声の不愉快さに気付かないような明るい声で、リオーノは言った。
「まずは情報を仕入れてからだな。船の行き来が盛んなセウタの港に行ってみましょう。あそこの酒場なら何か話が聞けるかもしれない。そう、『新しい船が買えちまうくらいの儲け話』とかね。」
リオーノがもう一度ウインクしたので、オレは大きく頷いた。
「そうだな、リオーノ。よしっ、明日、夜明けと同時に出航だ。目指すはセウタっ!!」
「…へえ、分かりやした。」
ホーレスが、あまり乗り気じゃない声で、そう答えた。
2010/4/4
海賊名声4000イベント開始です。
サルヴァドル編では珍しく、明るくて楽しいイベントですね、これ。
ネタバレプレイ日記&感想
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目次
みんな大好きラ・レアルっ!!
大航海時代の攻略本ではほとんど取り上げられていませんが、そして、普通にプレイしていると気付かないかもしれませんが、大航海時代のツウなら、みんな知ってる、みんな乗ってる、ラ・レアルです。
どこがオススメかは駄文中に書いてしまっていますが(ほとんど宣伝ドラマ並みに宣伝したなあ)、海賊に良し、交易に良し、そして、冒険にも良しと、汎用性高いし、コストパフォーマンス高いし、何よりとっても速い!!スバラな船です。
まあべにいもは、冒険にはスループを、交易にはジーベックを使用するんで、鉄甲船の前に乗るくらいですが、この速さは病みつきになります(鉄甲船が遅く感じるくらい)。
というわけで、大航海時代2&外伝を始め、そろそろゲームにも慣れ、お金もボチボチたまって、ラティーナから乗り換えてやろうという方に、このラ・レアルをお勧めする次第です。
こんなに便利な船なのに、他のキャラクターはほとんど乗ってません(ジョアン編のカタリーナが途中で乗ってる程度)勿体ない。