リオーノ・アバンチュラという男の意図がいまいち読めねえ事に、俺は少しばかり苛立っている。
俺の若の「補佐役」だと名乗って艦隊に来たあのオレンジ頭は、人懐こい笑みでたちまち若を始め、艦隊の奴らに溶け込んだ。
確かに船を操る腕も、戦闘の腕も確かだ。方々を巡ってきたって言うだけあって、見識も広い。
舌がベラベラとよく動くのが耳触りだが、若を始め若いのは楽しそうに聞いてるのを見ると、話術も巧妙みてえだ。
が、信用ならねえ。
何故って、お頭が何のために送り込んできたのか、いまいち判然としねえからだ。
そもそも補佐役には俺がいる。独り立ちした息子の苦労を気遣って、仕送り代わりに航海士を送りこんでくれたって言うんなら、世にも美しい父の愛だが、お頭はそこまで甘ったるく出来てるお人じゃない。
とは言え、俺が考えたようにリオーノが「監視役」だとすれば、何の為に息子を監視する必要があるのか分からねえ。
「お頭は、若が『裏切る』と思っているのか?」
つい口に出しちまって、頭を振る。
いや、そんな心配は不要な筈だ。
俺は若に「あの事」を伝えてはいねえし、伝えるつもりもねえ。
俺の口の堅さはお頭だってご存じの筈だ。お頭は若の何を疑ってるんだ?
信号が上がった。
俺は望遠鏡で確認する、もうセウタだ。
航海士たちに積荷の売却や物資の補給を命じ、若と俺は、リオーノに先導されるまま酒場に向かった。
「『奇蹟の紅玉亭』か、ここなのか、その儲け話があるって酒場は。」
若の言葉に、リオーノは頷く。
「ああ、あいつの腕は確かだぜ、提督。邪魔するよっ!!」
リオーノは扉を押し開けた。
海賊にゃ馴染みの、海と酒と男と汗と、ほんのり血の臭いがする空間。
俺たちに野郎どもの視線が一瞬だけ集まり、すぐに興味を失ったように散開する。
酒場の奥のカウンターに、灯りに照らされた銀色の髪が光った。
「うーん、その情報は入ってないわね。ごめんね。」
甘い声は、その銀色の髪の奴じゃあないようだ。
「そう、残念だわ。」
答えた声の奴は、きびきびとした隙のない動作で俺たちの横を通り過ぎる。
男の恰好をしちゃいるが、女だ。
だが、女にしちゃ立派すぎる得物を、腰にぶちこんでる。
この広い世界にゃ何でもありだから、戦う女だって見た事がねえ訳じゃない。
だが大概は男装してる。何せ、海賊でもほとんど全ては男だ。女だと思われて得する事はほとんどねえ。むしろ身の危険が増すばかりだからな。
それでも女と分かる格好をしてる理由は二つだ。
駆けだしの馬鹿か、さもなきゃ、男装しなくてもなめられねえくらいの凄腕か、だ。
「ようアンナ、久しぶりだな。」
俺が銀髪の女に目をやっている間に、リオーノがカウンターに声をかけた。
俺が目をやると、カウンターにゃ見事な赤毛をした、乳の谷間も見事な色っぽい姉ちゃんがいた。
「あら、いらっしゃい、リオーノ。」
見た目に相応しい甘い声の姉ちゃんは、リオーノに親しげに声をかける。
「今日は珍しいお客さんが多いわね。それにあなたが『おトモダチ』と来るなんて。」
赤毛のアンナの視線が、俺に向いた。
「珍しい、わね。」
アンナは意味ありげにリオーノにウインクした。
リオーノは、いつもの笑いを口元に浮かべたまま、それには答えない。
「あらあ♪」
アンナの声が、より一層、甘くなった。
玄色の瞳が向いた先は…
「素敵なお方♪」
若だ。
「夜の空みたいな真っ黒な髪、わたし、黒髪ってクールに見えて好きなの。しかも、絹みたいにサラサラじゃない?ね、触ってもいい?」
若が、カウンターから半歩退いた。
「もう。でも、軽くない男はなおさら好きよ。まっ、夜の海みたいな紺色の瞳。いいわね、その深い色。ロマンチックだわ。その瞳にわたしを映してよ。」
若が、カウンターから更に一歩退いた。
アンナは負けじと、カウンターから身を乗り出す。
「素敵なお兄さん、あなた、お名前は?」
カウンターから身を乗り出したら、見事な乳がますます強調された。
男としちゃここは喜ぶべき所なのかもしれねえが、若は更に一歩後ずさった。
若の横顔は強張ってる。
「あら、どうかしたの?」
さすがに若が喜んじゃいねえと悟ったようで、アンナは若ではなくリオーノに聞いた。
「提督はあんたのこと、嫌いなんだってさ。」
リオーノは冗談めかして答えた。
「えー、ひどーい、どうしてぇ?」
アンナは冗談めかして、舌ったらずに返したが、まんざら冗談ばかりでもねえらしい口調だ。
「ね、ね、お兄さん、どうしてわたしのことキライなのぉ?会ったばかりじゃなぁい?」
「いや、そ、その…」
若は、ぎくしゃくしたまま視線を動かし、最後にその視線は縋るように俺に向いた。
「ハッハッハ、冗談だよ冗談。」
リオーノが笑うのをタテに、俺は若とアンナの間に割って入った。
「ちょっと複雑な事情があるんでさ。まあ気にしないでくだせえ。」
「わたしをきらう、その『複雑な事情』ってのをぜひ知りたいわ。」
そこに食いつかれると困る。
「それよりっ!!」
俺が声を大きくすると、楽しげに俺と若とアンナのやり取りを見守っていたリオーノも本題を思い出したようだ。
「そうだった、アンナ。今日はあんたに聞きたいことがあったんだ。このあたりに最近、羽振りのいい船乗りはいないかい?」
唐突、かつ正面切った問いだったが、アンナは驚いた素振りも見せない。
「はぶりのいい船乗り?そうねえ…」
アンナは、腕組みして考え込んで見せる。
そんなポーズをとると、ますますその乳が強調されちまうんだが。
そう思いながら俺は若を見る。
若は予想通り、どこに目をやって良いか困惑した顔をして、俯いちまっていた。
「近頃、妙な海賊は出るらしいけど?」
「妙な海賊?」
俺が聞き返すと、アンナは頷いた。
「ええ、見かけが豪華な割にはびっくりするくらい弱い海賊でね。船もよく操れないらしいわ。」
「それは本当に海賊なのかね、アンナさん。」
名の知れた海賊なら、アルジェ海賊の情報網にかかってくるはずだか、そんな妙ちきりんな海賊聞いた事ねえ。
「襲撃にあった船は結構あるんだけど、誰も被害にあってないんだって。」
「…ああ…」
誰も被害に遭ってないなら、そりゃ情報もなにもねえわな。噂を集めた奴が一笑いするだけで、お頭の耳に入れるはずもねえ。
「それだ!」
リオーノが指を一つ鳴らした。
「いいこと聞いたぜ、さすがアンナ。いい女の耳は一味違うな。」
「世辞言ったって何も出ないわよ。」
リオーノの言葉をアンナは軽く流した。
「な、おっさん、オレの言ったとおりだろ?こいつはチョロいもうけ話だぜ?」
「だっ…またこいつ『おっさん』と…」
俺が胸倉掴んでやろうとした気配を察したのか、リオーノはアンナに素早く駆け寄った。
「アンナ、そのムダに豪華な海賊はどこに出没するんだ?」
「ナポリあたりでよく出るらしいわ。名前は確かヤコブだったかしら…」
俺が今度こそ胸倉つかんでやろうとした機先を制して、リオーノは今度は若に駆け寄った。
「聞いたか提督、目指すはナポリだ。」
「あ、ああ…」
若はどこまで聞いていたんだか微妙だが、リオーノは勢いで畳みかけた。
「極上の獲物が俺たちを待ってるぜ。そうと決まれば出航準備だ!」
そしてリオーノは、俺を
するり
とかわして、酒場から出ていった。
「…で、ナポリに向かう…のか?」
若が、俺をアンナとの間の衝立にするように動いてから言った。
「行かなくてもいいと思いやすがね。」
俺は若のいかないと言う返事を期待したんだが、残念ながらそうはならなかった。
「提督、アッシはいまいちあの男、信用できないんですがね。」
俺は、リオーノに対する懸念を若に言おうかと思った。
だが、アンナがすぐ側にいる。この姉ちゃんがリオーノのレコだったりしたら、ちょいと危険だ。
「なにせ、人を『おっさん』呼ばわりするんですぜっ!!」
俺は、半分冗談めかして言った。まあ、「おっさん」呼ばわりされたのは本気で腹が立っていたが。
「最初に仲間にしようって言ったのはホーレスじゃないか。」
若は、アンナの姿が視界から消えたからか、いつもの調子に戻っていた。
「信用できるかどうかは、ナポリに行けば分かるさ。」
若は冷静、に聞こえる口調で言い放つと、振り向かないように、つまりアンナの姿を見なくて済むようにして、酒場から出て行った。
「はあ。」
いまいち釈然とはしねえが、若が行くと言うなら行くまでだ。
「ねえホーレスさぁん、わたしのどこが嫌いなのか、あのお兄さんに聞いといて。」
後ろから、三割方本気のアンナの声が届いた。
2010/4/7
海賊名声4000イベント、セウタのアンナと、そして「あの人」が登場です。
ネタバレプレイ日記&感想
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目次
貧乏性なのか、空船に耐えられません。
海賊稼業やってれば自然と、使いきれない程金は溜まるんですが、それでもサルヴァドルシナリオの特に初期は、イベントで移動する時も、ついつい商品を買い込んで交易してしまいます。
交易と言えば、攻略本などには特産品交易のことばかり書いてありますが、商品エリアが違うことによる交易(穀物やオリーブ油買って西アフリカで売るとか、魚肉をイスラム地方で売るとか、麻・麻布買って北欧で売るとか)は、大した利幅はありませんが、チマチマ小金は稼げます。2&外伝では3みたいに出航や寄港に10日もかかるわけじゃないので、最初はシャイロック銀行で目一杯(つっても1000枚までしか借金出来ませんが)借金し、港ごとによって特産品や商品エリア違い交易品を売り買いすると、すぐにナオ買うくらいの金は溜まります。特に冒険者にオススメです。ついでに航海士も集めておきましょう。あと、借りた金を返すのを忘れないようにね。